鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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空く間

 暗い、暗くて何も見えない。

 

 暗黒にしか思えない空間、上下左右の認識すら曖昧なこの空間を、水の中を漂っているかのように浮かんでいる。

 闇が光を全て吸収でもしているのか自分の手すら、目に近付けても何も見えない。

 

 ここは何処だ? 何でこんなことになっている? 

 俺は一体何をしていたんだっけか? 

 

 思い出す、おぼろげで頼りない意識を酷使し必死に思い出す。

 何かしなければ行けなかった筈だ。

 こんなところでぼぅっとしている暇なんて無い筈なんだという焦燥感が少しずつ、少しずつ閉じた記憶の何かを掬い出す。

 

 化け物、世界、無力、崩壊、銃、地下、無意味、抵抗、無駄、食料

 

 違う、その後だ

 

 外、無人、魔法使い、焦燥、殺し、無力、無意味

 

 魔法使い? 

 魔法、魔法……魔、魔女───ヘクス

 

 巻き戻し、戦い、怪人、無力、魔法、無意味、呪術、脅し、ビル、悪魔、剣、勝利……

 

 そうか、思い出した。

 そうだとすればこんな場所に居る理由も何となくわかる。

 

 俺は……死んだのか。

 

「『死んでないぜ?』」

 

 意外な程に無抵抗にストンと納得できた死を、誰かが否定する。

 不思議な声だ。声として認識しているのに音で聞こえたのではなく直接頭の中に響いたような感じだった。

 声のする方に顔を向ける。いや、元より何処が正面か分からない様な有り様なので、その表現が正しいかは分からないがとにかくその声の主を探す。

 死んでいない? あり得ないだろう、俺は腹をぶっ刺されたんだ。即死はしないだろうが助からないし、巻き戻しもあの場面では絶対に使わない。

 

「『そうだ、お前は腹をあの怪人とかいう奴にぶっ刺されたな。だが即死じゃなかった……その様子だとまだ全部は思い出せないか』」

 

 全部? 全部だと? その続きがまだある? 

 

「『お前ほど生き汚いのは早々いないと感じさせられたね、頭では諦めても体が、魂が勝手に動くレベルだ』」

 

 思い出そうと振り絞る。

 刺されて……刺されてどうなった? 

 確か、あの後は……ギアを蹴った? 

 

「『そう、お前はあろうことか刺された直後にあの怪人? を蹴って切り裂かれる前に刃を腹から抜いた。笑えるくらいに大量に出血し、もう直に死ぬって感じだ』」

 

 やっぱもう助からないじゃないか。

 

「『そこは置いておけ、そのお陰でこうして話す時間が生まれたんだからな』」

 

 死ぬ直前に話す時間? 

 そうこうしている内に俺が死にそうなもんなんだが……まだ死んでないってことは時間でも止まっているのか? 

 

「『惜しい、正確には時間が止まっているのではなく時間の流れが違う、だ。ここは精神世界、肉体の持たない魂だけが来ることのできる場所だ』」

 

 は? 

 

「『本来この場所に意識を持ったまま人間ごときが来ることは出来ない。()()()()()を持つものか()()()()()()()()()()()だけ。それに加え前者ですら自由に来ることは許されない』」

 

 ……笑えないことに納得できる要素が幾つかあった。幾ら探しても声の主が見付からないどころかどこから喋っているのかすら特定出来なかった事、俺は体を動かしているつもりで手や足等が存在していなかった事。

 そして、間違っていなければ決定的な物がもう一つ。

 魂だけの存在。彼、もしくは彼女がそうなのであれば疑う余地は無い。

 それと同時にそれを確かめに行くほど気力が残っている訳じゃない。

 

「『時間が惜しいなぁ、時間が止まっている訳じゃなくて流れが違うだけだからなぁ……今も緩やかに死にゆく君に一言二言言いたいから呼んだんだよ』」

 

 何だ? どうせ死ぬのは避けられないんだ、さっさと言ってスパッと死なせてくれ。

 

「『───君さぁ、死にたがってるけど……あのハクって子まだ助かってないよ?』」

 

 全身()が発狂し、精神()が逆上する。

 

 血が勢い良く全身を流れる様な錯覚と共に意識が勢い良く浮上する。

 

「『あぁ、素晴らしい。面倒をしてまで声をかけて良かった』」

 

 誰かの声が聞こえる。

 何だ、お前は。俺に何をさせたいんだ。

 

「『クフフ』」

 

 さっきまで何も見えない暗黒だった空間が少しずつ何処からともなく射し込む燃えるような激しい光に塗りつぶされていく。

 光を浴び、体が形成されていく……? 

 

「『違うなぁ、君が形作っていなかっただけだ。君が生きるために体が必要だから魂が体の形をかたどったんだ……しかし、俺の予想通り君の()は酷い有り様だな』」

 

 自らの()を見下ろす。

 これは酷い、無事な場所を探す方が難しいくらいに亀裂が走り、胸の部位に至っては空洞すら出来ている。

 

 手を伸ばす、遥か上へ。ヒビ割れて欠け砕けてもなお原型を留めるその手を伸ばし続ける。

 

「『さぁ、態々俺があのお嬢ちゃんに呼び出されてやったんだ! もっと! もっとお前の見世物(シナリオ)を楽しませてくれ!』」

 

 光が遂に声の主を照らし出す。

 後少しでこの場から自分が消えるという確信があった。

 最後に声の主を見るために視線を落とす。

 

「『案ずるな、お前なら出来るさ!』」

 

 その姿は、闇を纏い光を寄せ付けず辛うじて人型であることが分かるその姿は、脳裏に堕落の文字を彷彿とさせた。

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

「カハッッァッ!?」

 

「うぉっ!?」

 

 真っ暗な夜の帳、足元すら覚束ない暗闇で目を覚ました。

 同時に、喉元から込み上げる不快な感覚に抗わないまま口から何かを吐き散らかす。

 暗くて何も見えないが口に残る酸っぱい味と鼻をつく臭いから血ではないと判断する。

 

「お、おい大丈夫か? 動くなよ? 何とか死んでないだけでやベえ事には変わらないんだ」

 

「い゛い゛がら、こごは、どごだ」

 

 胸の辺りだけが熱く燃え上がるように熱を持ち、それ以外の部位である手や足が真逆、凍り付いたように冷たい。

 お陰で声が出しにくくて仕方無い。

 呼吸をするだけで激痛が走る。

 

「お前が戦っていた場所から少し離れた場所にある薬局だ。無いよりマシ程度の薬だが出血を止めるくらいは出来るだろうと思ってな」

 

 成る程、ここは何処かは分かった。なぜ俺が生きているのかその要因の一つとして理解した。

 だがこれは要因の一つ程度であり、俺が死ぬのは避けられない筈だ。

 

「どう、なっ、た」

 

「今はいいから黙って寝とけよ、本当に死ぬぞ? ただでさえお前が持っていた包帯で応急処置出来なかったら死んでた臭いんだ」

 

「と゛う゛な゛った゛っ!」

 

「……チッ」

 

 贄沼は何かをしていた手を止めて話し出す。

 俺が刺された時何も出来ずに遠くで見ていることしか出来なかった事、その後俺が反射的に怪人を蹴ってその剣を体から引き抜いた事。

 その後トドメを刺されそうになった直前にギアが何事かを察知し意識の無い俺を放置し魔法使い達が居るであろう方向に向かった事。

 そして、もう一発花火が打ち上がったこと。

 

 俺は贄沼から渡された水と多分痛み止めの薬を受け取り一気に飲み干す。

 気分的にだろうが、痛みがほんの少しマシになった気がする。

 

「はなび……」

 

 ヘクスと取り決めた連絡手段である打ち上げ花火。

 魔法を使わず、壊れる可能性の高い携帯電話を使わずに遠距離で、ほぼ確実に連絡できるというこの方法だが細かい情報を送り合うことは出来ない。

 だから成功か失敗かだけを伝える。

 

 一発、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なら成功。

 二発連続で上がったのなら失敗。

 

 ならそれでいこうと決まりかけた時、嫌な予感した。

 敵が、怪人達がそんな簡単にやられるのだろうか。

 最悪の事も考えた方が良いのではないか? 

 

 確かにジョイの居る場所には最大限の仕掛けを施した。

 ブービートラップによるフラッシュバンの確定直撃。

 運が良ければ糸に絡まって動きが遅くなるだろうが……無理だろう。気に触り集中力を削げれば充分か。

 油を撒き火をつける事も考えたが他に引火するリスクを考え止めた。火に関してはどれ程やり直しても不確定要素が有る限り使うのには躊躇する。

 

 そして、魔法使いが到着する。

 とはいっても何人の魔法使いが到着するかは分からない。最低一人、釣り出しやすいあの魔法使いは到着するのは分かっていた。

 

 だが何処から崩壊するかは分からない。

 何処で手遅れになるかは分からない。

 打ち上げ花火の内三つは成功と失敗を伝える花火。これらは色が幾つか混じっている花火。

 

「ゲホッ……うっ! はぁ、ふぅ……色は?」

 

「色?」

 

 そして残り三つ。それぞれ一色で構成された花火。

 その色で、その組み合わせで緊急性を決めていた。

 

「確か……」

 

 赤、これは取り返しの付かない事態。魔法使いの死、呪術で敵の手に堕ちる等。この場合どのような状況でも巻き戻しをする手筈になる。

 黄、まだなんとかなる、リカバリーが効くと判断できる事態。考えられるのは負傷や戦闘位置の変化等様々なパターンだが、この場合直ぐ様巻き戻しは使わずにある程度状況を把握してからになる。

 そして……

 

「黄色、だったか?」

 

 当然のように、やはりそう上手くはいかないらしい。

 残りの緑色だったならばほぼ問題は無し、続行可能という意味だったのだが。

 贄沼の様子から更なる花火は上がっていないだろう、つまりはまだ間に合う、筈だ。

 

「何分、たった?」

 

 贄沼は俺の問いに自らの腕時計を見る。

 殆ど気絶みたいなものだったから時間が分からない、流石に一時間とは経っていない筈だが……もし経っていたのならば手遅れの可能性が高い。

 

「お前をここに運んで……治療して直ぐに目を覚ましたから大体十五分くらいか? 本当によく目を覚ましたな?」

 

 十五分、追加の花火はまだ上がっていない。

 他の情報が欲しい。もうあの夢のような出来事が本当だったとして考える。あれが本当にただの夢だったとしてもやるべき事は変わらないのだから。

 まず最初の一手を打つとしよう。

 仕込みの数はもう残り少ないけれど無い訳ではない。

 

「贄沼」

 

「何だよ」

 

「今から言う番号に電話を掛けろ」

 

「……何でだ?」

 

「状況を、確認したい。向こうが、どうなっているか、の」

 

「それならちことうみに……」

 

 そう言われると思っていた。いや、もしかしたらもう試しているのかもしれないとも予想していたが違ったようだ。

 どちらにせよあの双子が電話に出ることは無い、筈だ。

 

「彼女達の電話は既に破壊してある。そういう、手筈だ」

 

「……はぁ?」

 

「試してみても、良いが時間がない。早くしろ。電話を掛け、相手が出たらちことうみの名前、そして自分の名前を言え」

 

「何が何なんだよ全くよぉ!」

 

 贄沼が頭を抱えながらスマホを取り出して操作し始める。

 俺も自らの体力の回復に勤めながら全身の状態、装備をチェックする。

 拳銃は、腰にはない。贄沼が拾ってくれていることを祈る。ナイフはある。爆弾類は殆ど消費した。

 もうこの程度か。

 肉体は……無理をすれば動いてくれるだろう。

 長くは持たないだろう、だけれどそれで良い。数時間持てば良い。

 

 コールし始めた贄沼を横目にし、そういえばと注意事項を口にする。

 

「俺の事は絶対に、口にするな、よ」

 

「何故?」

 

「詳しいことは省くが、通話先の相手からしたら、俺は、存在してない、混乱を呼ぶだけ、だからだ」

 

「お前一体何を───」

 

 贄沼がそう問いただそうとして止まる。

 どうやら相手側が通話に出たらしい。

 

『切るぞ! 誰か知らないが忙しいんだよ! あぁあの糞カス野郎どこ行きやがっ───』

 

 そんな声がスピーカーでもないのに俺のところまで聞こえ、贄沼は耳を押さえている。

 しかも悪いことに……

 

「き、切りやがった……」

 

 通話が切られた。

 余りにも予想外で俺と贄沼は、お互いに目を合わせる事しか出来なかった。

 

「もう一回掛け直すぞ」

 

「待て」

 

 ピースは足りた。

 まさか即切りされるとは思わなかったがしっかりと情報は落としてくれていた。

 これはあの魔法使いの迂闊とも取れるが、今はそれに感謝しよう。

 

 激しい感情の噴出、黄色の花火、手遅れではないというところから誰かが殺られた? そこまで行かなくても負傷した? 負傷程度ならば緑だろう。対処が必要と言うものではないし、治療が間に合わないレベルならば赤が打ち上がっていないとおかしい。

 あの言葉の中にジョイが逃げたと合った。つまり仕留めきれなかったが、逃亡させる程度には追い詰めていたということ。

 逃亡の際に何かあった? 

 ……ハクが助かっていない、その言葉を信じるならば。

 

「良いのか?」

 

「あぁ、大体、何が起きたかは、分かった」

 

 ハクが連れ去れた、大外れでは無い筈だ。その線で行く。

 問題はどこに行った、だ。

 ジョイの思考をトレースする。

 今までやってきたあいつの行動、事象から想像する。

 奴なら何をする? 

 殺す? ならその場でやっている筈だ。

 人質? 違う、奴ならもっと有効的に使う。後が無い行動はしない。

 

 ならば、ならば……そうか、あそこか。

 

「贄沼」

 

「今度は何だ……オイオイオイ!」

 

 贄沼が目を見開く。

 それもそうだろう、さっきまで死にかけていた俺が体を起こすどころか立ち上がっているのだから。

 どう考えても自殺志願者にしか見えないだろう。

 

「行かないといけない場所がある。俺の銃は、バイクは何処だ?」

 

 それでもやる、やらなければならない。

 違う、やらなければならないという義務ではない。俺がやりたいからやる。

 たとえ魂が砕けたとしても。

これは俺は彼女達を救いたいというただの我が儘なのだから。

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