鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
「オイ! 何処に行くんだ? いい加減に教えろ」
ヘルメット越しにバイクのハンドルを握る贄沼の声が耳に届く。
俺は片方の手を贄沼の腰に回し、もう片方でもう体の一部にしか思えない拳銃を握り締める。
そう、俺は運転していない。バイクに股がろうとしたところで傷口に激痛が走り、まともに運転できるような体調じゃなかった。
胴体に穴が空いてたら当然か。
ともかく贄沼に運転をして貰い、今はこうして後ろから向かう先の指示を出している。
「次、左だ……そうだ、そこで、止まれ」
「ここで良いのか?」
「あぁ、間に合ったようで良かった」
拳銃を自分に使わないで済む。
「時間が、ちょっとはありそうだ。説明をする」
「おせぇよ」
目的地、そのビルを見上げる。
何回も何回も来て、その都度命の危険にさらされた場所。
二人の魔法使いが敵の手に堕ちた場所。
怪人の仕掛けたトラップがある場所。
脳裏に幾つもの光景がフラッシュバックする。
どの光景も俺は無力で、そこに居るだけの無意味な存在だった。
「この場所には、ジョイという怪人の仕掛けた呪術……トラップがある」
「トラップ?」
「あぁ、それ自体は俺らただの人間にはどうしようもない」
贄沼は訝しげな顔をしながらバイクから降り装備を整えていく。
血が脳に回っていないのが分かる。言葉を上手く紡げているかどうか、伝わるかどうか少しの不安を帯びながら口に出していくしかない。
「ジョイの考えそうな事は分かる。その
「……」
「何故分かるのか、そう聞きたいのだろう。簡単だ」
贄沼は喋るのにも一苦労な俺の言葉を遮らず、一先ず最後まで話を聞いてくれるようだ。
やはり人が良い。だからこそ任せられる。
「怪人は俺達が思っているより、ずっと人間臭いんだよ」
「はぁ?」
「はは、ゲホッ……おかしな話だと思うだろう? でも実際にそうなんだよ。奴らの判断基準は理解できない場所にはない。快楽、実利、義務、興味……怪人によってそこら辺は変わるが、それは俺達人間も一緒だろう。だから予想できる、次の動きが、そして実際に誘導出来た」
数えられないくらいに繰り返していた間、ずっと俺は怪人の事だけを考えていた。
そして、幾つもの共通点を見出だした、見出だせてしまった。
だから間違いない。
少なくとも今、ずっと観察してきたジョイとギアの追い詰められた時の動きは八割の精度で予測出来ている。
外した場合は……また巻き戻すしか無いだろう。
次に俺が上手くやれる保証はない。
俺は自分の程度を知っている。
毎回あの綱渡りを100%で潜り抜けられないのは分かっている。僅かな、自分でも気が付けない綻びから全て崩壊してしまう。
そして失敗した時は……本当に取り返しが付かない事になる。
「今回もそうだ、ジョイは必ずここに来る」
「あー……何でだ?」
「ジョイの目的は、実利と自らの快楽の両立。空成ハクを洗脳して手駒にし、その力を使って他の魔法使いを迎え撃つ、もしくは逃亡の手助けにするつもりだ」
魔法使い同士ならばその敵意も薄れ、戸惑いが生まれることも計算にいれて。
「本来なら何処でも呪術で魔方陣を展開出来るだろう。だが……今は追われている、例え呪術を使う程の体力が残っていたとしても奴の呪術は発動までに時間が掛かる上、この夜には酷く目立つ。それで気付かれてしまった場合今度こそ逃げ切れない、と考えている筈だ。だがこのビルの屋上に設置された呪術の魔方陣ならばその上に連れてくるだけで済む。誰にも知られていないのだから逃走ルートで一時的にでも魔法使いを巻ければ追い付くのに時間が掛かるからな」
ハクを人質に取るという手段に出るかもしれないが……実際には最後の最後まで殺すことはしない、と思われる。ギアを殺した時にハクが捕まっていたが、殺すのは魔核を抜いてからという話があったからな。
「……一先ず、話は分かった。何でここに来たのかも急いでいた理由もな」
贄沼は幾つか納得いっていなさげだったが、怪人に関しては俺の方が詳しいと思っているようで疑問を飲み込んでくれたように見える。
「理解したところでだ、次の話をしよう……ここにあの怪人が来るんだろう? 正確にはその同類か」
「ああ」
「で、作戦は? 無策で来た……訳じゃないよな?」
贄沼の少し心配した用な声に大丈夫だと片手を上げて返し、二本の指を立てた。
これは何度かここで何か出来ないか、戦えないかを考えていた時に立てた策をアレンジした物。
「俺が出せる策は二通り、成功率が低いが危険度も低いもの、もう一つが成功率は高いがリスクも高いもの」
これをとある条件を満たすために贄沼に選んで貰う。
ヘクスの言っていた
俺の力でも、贄沼の力でも足りないのなら、世界の後押しを受ければ良い。
出来るかは半々と言ったところだが……散々苦しめられた運命、それに定められた良いとこだけを切り取ってやる。
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暗闇、月明かりだけが世界を照らす夜の中をハクは担がれながら空を跳ぶ。
(全身に力が入らない。魔力が足りていない。振動を受ける度に、魂と肉体が分離してしまうかのような錯覚を覚えてしまう)
ダンッ、という音と共にハクはまた体が浮遊感に包まれる。
ハクを担ぎながらもビルの屋上から屋上を跳び移る怪人ジョイ。ジョイは救援に来た二人の魔法使いの攻撃を耐え凌ぎながら後ろに控えていたハクら三人の元まで接近し、攻撃する構えを取ってハクの防御魔法を引き出した。
それが失敗だった。罠だった。
魔法使いに何度か見せた石を投げる術を使うふりをしてハクの最後の魔法を防御に誘発、使わせるのが目的だった。
うみとちこの二人はまさか手傷を追いながらも突破してくるとは思わず、動きが硬直してしまい簡易魔法もまともに使えずハクは攫われてしまった。
ハクの目尻から悔しさからか涙が溢れそうになる。
(折角あの人が助けてくれたのに、あの子達とも会わせてくれて、これから何が起きるか、どうすれば良いかを教えてくれていたのに……)
ハクは詳しくは聞けなかったもののあの二人の魔法使いがハク達を助けに来たのは決して偶然じゃないのだろうと推測していた。
あの『夏』の魔法使いである彼女、
ハクと彼女はたった一度、名前も知らない場所で会っただけの関係だ。言葉遣いは荒いが正義感が強く、仲間意識の強い人だった、とハクは記憶している。
ハクは何となく、寝ている所の写真を撮って彼女に送りつけたのではないかという考えが頭に過ったが、それだけで彼女がここまで駆け付けてくれる理由にはならないだろうと考えを打ち止めた。
そのタイミングでジョイは足を止める。目的地に着いたからだ。
足を止め、とあるビルの屋上へと繋がる階段がある小さな建物の上に立っている。
「……魔法の気配は無し、さっさと始めるとしよう」
怪人ジョイがハクを担いだまま屋上へと降り立つ。
(嫌な、予感がする)
根拠もなく、ハクはこの屋上には気持ち悪い気配が漂っていると感じ取っていた。
(でも、もう何も出来ない。今の私は糸の切れた操り人形そのもの)
辛うじて動かせた顔だけでハクはジョイを見る。
目が合った。
「……ひっ!」
ハクの口から思わずと言ったように悲鳴が漏れる。
ジョイがハクを見ていた。
全身にひび割れが走り、無事な場所を探す方が難しい状態だと言うのに。
その異形の表情は笑みを形作るかのように歪んでいた。
「最初は双子を……と思っていたのだがな、手こずるかと懸念していたが今の貴様なら簡単に済みそうだ」
「なに、を」
「苦痛を捨て、快楽に身を委ねろ。そうすれば早く楽になる」
ジョイがハクを床へと投げ捨てる。
一瞬の浮遊感を感じる中、希望を失いつつある空成ハクは既視感を覚えていた。
絶体絶命の中、怪人の手に囚われて、何か理解の出来ないことをされている。
(そして……、そして……あの銃声が鳴り響く)
だが最後の事象は起きる筈がない、その時銃を撃った彼が何処にいるのか、何故消えたのか空成ハクには分からない。
だから諦めて、ダメ元で、一抹以下の希望を込めて。
呟いた。
「助けて……」
そして、