鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
ムーヴというこの顔に全く似合わない名前を付けられた俺はヘクスと共にこの基地の武器庫に向かっている。
途中誰かとすれ違う事くらいはするだろうか。
その場合後ろでふわふわ浮いているヘクスをどう説明すれば良いのだろうか。
前提として俺の存在が消えた今、俺はこの基地の不法侵入者、不審者となっているんじゃないか?
走っている途中そんな疑問が湧いたのでヘクスへと問い掛けてみる。
「まぁ、そうなるだろうね。私に関しては一般人相手なら認識すらさせないことは可能だがムーヴ君にそれをすることは不可能。つまりは自力で対処して貰うことになるね」
なるほど、たまたま基地に残っていたやつと鉢合わせに成った時点で地獄の始まりということらしい。
それにしても一般人相手なら認識すらさせない……か、もしかしたら最初に会ったときあんな近くにいたのに気が付けなかったのはその魔法のせいだったのかもしれないな。
武器庫へと繋がる曲がり角を慎重に伺い……いや、そんなことしなくてもヘクスに頼めば良いのか。
「ヘクス、この先に人が居ないか見てきてくれないか」
「良いよ、お安いご用さ」
ヘクスは快く受けてくれ、すぅっと曲がり角の先へと消えていく。
なるほど、本人に直接言えはしないがこれは便利すぎる。
一方的な偵察ができるのは素晴らしい事だ。
俺がされると思えばゾッとする思いでもある。
そして、1分もたたずにヘクスが帰ってくる。
「問題ないね、この基地の人員はほぼほぼ出払っているみたいだ。怪人の術がよく効いているという証拠だね」
「ほぼ出払っている? あり得ないだろ警備は何処へ行った? いや待て怪人の術? 何の話だ」
「良いだろう、答えよう。だがそれは移動しながらにしよう」
そう言って今度は先導するヘクスに付いていく。
「ムーヴ君は、『人は何をすれば良いかわからない時、前にいる人間のする事を真似る』というのは知ってるかい?」
「何処かで聞いた覚えはあるが詳しくは知らないな」
「この怪人が使っている術がそれさ」
「……いや意味が分からないんだが」
「認識を弄られてるんだ。目の前にいる人間が何かをし始めればそれを真似せずにはいられない。それをすることが今一番正しいことだと考える。自分には他の使命が有ったとしても……その衝動に抗えず、一度それをしてしまえば今度はそれに違和感すら覚える事ができない」
「何だよそれ、だから出動する隊員に他の人間も付いていってしまいこの基地から人が消えたって言うのか? そうだとしても、俺は何で無事なんだ?」
冗談のような話だ。
そんなダンスの振り付けが分からなくなってしまった、だから目の前の人の踊りを真似ようとかそう言うノリで命が関わる仕事すら放棄してこの基地を飛び出したというのだ。
「それは私のお陰だよ」
また一つ曲がり角を曲がりながらヘクスが自慢げに言う。
「君は自死すれば世界を巻き戻せるという力を持つが、逆に言うとそれ以外の力を一切持っていない。なのであの時私と一緒にいた君は怪人の術の効果範囲にいたにも関わらず何もしなかったのは、私が何もしなかったからに他ならない。私の魔法では君を怪人からの術の干渉を防ぐことはできないのでね」
――あぁ、もうここは術の範囲外だから安心すると良い。
そう言うヘクスを横目に俺は冷や汗が止まらない。
何という反則能力。
条件に当てはまった瞬間にほぼ終わりだと考えて良いだろう。
ヘクスの言い方的に俺から何をしても問題はないだろうが、ヘクスの方から何か明確な目的を持った行動をされた時点で俺はそれに追従することになっていた。
そう言う事なのだろう。
それこそ何の疑問も持たずに、前の世界で俺が何の疑問も持たずに隊列も組まずただ列を成しただけの状態で怪物と接敵したように。
「それ、もしかかってしまったら対処法は無いのか」
「有るにはあるが難しいだろうね……と、着いたんじゃないか?」
目の前に有る鉄の扉、この先に様々な武器が保管されてある。
俺はさっきの会話の対処法というやつを後で聞くことにして切り上げ、セキュリティロックを外すためのカードキーを取り出す。
「いや、それじゃ開かないよ。もう忘れたのかい? 君の名前は消滅した、つまり君の名前で登録した物全て、白紙に戻っているという事だ」
「何? じゃあ、どうするんだ」
物理で開けようにも拳銃程度では何発撃っても開けられる気がしない。
だがヘクスが連れてきたのだから考えがあるのだろう、彼女を見つめて見守る。
「こうするのさ」
ヘクスが指先でドアを軽くなぞる。
ただそれだけでガシャン、という音と共にゆっくりと扉が開いていった。
「それも、魔法か?」
「あぁ、私はこういうのが得意でね。逆に荒事に関するものはからっきしなんだが……いや、早く入ろうか」
唖然とする俺を差し置いて中に入っていくヘクスを慌てて追いかける。
中は流石と言うべきか。
この基地の人員の武器が全てあるのだから当然と言うべきか部屋の隅々まで銃火器が揃っており、端の方にそれを運搬する荷台のような物も見える。
「さて、今周から動こうとするのなら余り時間はない。必要な武器を選びながら話を聞いててくれ」
俺は頷いてすぐに武器の物色に取りかかる。
「ムーヴ君は、運命……というものを信じるかい?」
「運命? 運命か……魔法や何やらがあるんだしあってもおかしくはないとは思うが」
「では、運命とは何だと思う?」
ヘクスの言う運命について、作業を止めずに考える。
これはフラッシュバンか……
効くのか?
怪人に?
……一応持っていこう。
「よく見る映画の話なら……こうなる運命だった。この二人は死ぬ運命だった。とかの定められた結末に向かう強制力みたいなものだと思ってるが」
「ほぉ……驚いた。ムーヴ君、その考えは正しい」
心底感心したような声色でヘクスが溜め息を吐く。
うん?
この箱は……アタリだお目当てのスナイパーライフル。
何度も使用した物と同型のものだ。
後は弾が欲しい所だが。
「その通り、運命というのは実在し強制力を以て実現させてくる。それは力の強い存在ならば誰しもが持っているもので自覚すら出来ずどうすることもできない、例え気付けて違う
弾は見付かった。
無駄だとは思うがスナイパーライフル用と拳銃用でそれぞれ二箱ずつ持っていこう。
それにしても、ヘクスの言う運命が確かなら一つ疑問がある。
「じゃあ俺が何をしてもあの娘が死んでしまう、という
「あぁ――」
ふと、影が射す。
何事かと振り向く前に、柔らかいローブを纏った腕が首にまわされる。
これがヘクスのものだ。
分かった時には彼女の顔が息のかかるようなすぐ近く、俺の顔のすぐ横にあった。
「そう、私もそう思っていた」
「それはどういう……」
「いや、大丈夫さ。ムーヴ君ならできる、それは信じてくれ。ただ一つ、私には君への助言と助力それが精一杯だということを伝えたかったんだ。私も運命の一部に紐付けられているからね」
「……俺なら大丈夫、という理由は分からないがとりあえずそういうことで納得しておく。ヘクスが自分で助けにいかない理由も」
「助かるよ」
準備は終わった。
俺は立ち上がって荷物を担ぐ。
ヘクスはそのままふわりと離れてまた、いつもの定位置へと居場所を移す。
しかし、今話された話に一つ疑問というか不安な箇所が出てきた。
「ヘクス、君がその運命っていうのに紐付けられてるというのなら……あんまり君に話を聞かない方が良いのか?」
その質問にヘクスは目を閉じて少し沈黙する。
「いや、問題ない。私の言葉を聞いてそれでムーヴ君がどうするかムーヴ君自身で決めて行動すれば問題はない。それすらもできないのなら私はただ君の回りをふよふよと漂うだけの存在となってしまう」
なるほど、なら安心だ。
助言がなく、全くの手探りからの開始になると何度
問題がないと言うのなら遠慮無く聞くとしよう。
あの娘を助けるために、まずは何をすれば良い?
「ではこのヘクスが助言しよう。かの魔法使いを助けるために……今日死ぬ