鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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二章『魔法』
再開


 俺は死んだ。

 

 その筈なんだ。

 

 全身くまなく痛めつけられ、腹を貫かれ、腕を切り落とされて死んだ。

 

 体が冷たくなって、意識が失われていく感覚を今も鮮明に覚えている。

 

 なのに、あの氷の世界が頭を過ぎる。

 目の前にいたあの怪人がなすすべもなく凍結していく光景が目に焼きついている。

 

 光が見えた。

 

 眩しくて、優しくて、温かい光。

 

 あぁ、分かっているよ。

 俺は死んでいない。

 

 起きるべきだ。

 

 あの後何が起きたのか、今どうなっているのか。

 

 確かめて、次の行動を起こすべきだ。

 

 なのに、そうするべきなのに……

 体が、動かない。

 

 熱が通わない。

 

 目を開けたくない。

 

 もう充分頑張ったんじゃないか? 

 俺ができることはやり遂げたんじゃないか? 

 未来は、運命は変わったんじゃないか? 

 

「……そう、だよ゛な……ヘクス」

 

 無意識に言葉が漏れていた。

 

「ヘクス某は存じ上げないけど……少なくとも何の同意を求められているのかを伝える必要があると思うわ」

 

 知らない女の声。

 

 反射的。

 経験が体を動かす。

 

 体を起こし、転がって今の位置から移動。

 ベッドの上にいたのだろう、段差から落ちて即座に右手を腰に回しナイフを差し込んだベルトへと……

 

「ぐ、ギぃっ!?」

 

 着地の衝撃。

 目が眩むような激痛。

 

 右腕が動かない。

 

 続いて腹が爆発したかのような灼熱に襲われた。

 

 意識が飛びそうだ。

 

「打撲性胸部外傷に内臓損傷、筋繊維断裂……これだけでも息するのも辛いはずだけど」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「骨折箇所は小さな物を合わせて十を越え、ヒビが入っているものも含めれば無事な骨の方が珍しい」

 

 だからどうした、骨なんて所詮は支えだ。

 真っ二つに折れていなければ動かせる。

 

「極めつけは腹部の刺し傷。()()()()()()()()()()()()()()が出血がひどかったし。全身の傷からも血が出ていたしショック死寸前だった」

 

 呼吸を整える。

 

 大丈夫だ。

 

 精神を落ち着かせ、横目で声の主を見た。

 

「ここは病院よ。ほらベッドに戻してあげる」

 

 白衣を着た背の高い女性。

 死んだ様な……深い隈が刻まれた目元から相応の疲労と健康状態が伺える。

 

 恐らく医者である彼女に問題ないと伝えるべく右腕を上げ……? 

 

 何で俺に右腕がある? 

 

 首から布で釣られているし、動かないが……指先に感触がある。

 

 ジョイとかいう怪人に骨ごと真っ二つにされた筈だ。

 

「困惑するのも無理はないね」

 

 脇に手を差し込まれ再びベッドの上に転がされる。

 

「あの子に感謝するといい。あの子の魔法がなければ腕どころか命も無かったから」

 

 あの子……? 

 

 ……あの『氷』の魔法使いか! 

 

「……どこ゛に゛?」

 

「驚いた、まだ喋れるのか。あぁ、あの子はすぐに戻ってくるだろう。随分と君にご熱心だったようだからね」

 

「お゛れに?」

 

 なぜだ? 

 紫髪で氷の魔法使いなんてこの周回で会っていない。

 

 分からない。

 

 直接聞くしかない。

 

「水、ゆっくりと飲んで。食事はないから、そもそも食料に余裕がないのもあるけど……その胃で固形物は少々懸念が残る。点滴はしたからそれで我慢して」

 

 医者はそう言い、手元のバインダーに何かを書き込んでいく。

 

 俺の状態を記録しているのか。

 

「おれ、の……武器、は?」

 

「荷物ではなく武器と来たか。残念ながら何も無いよ。君の来ていた服は使い物にならないし、マガジンとナイフくらいはあったけどね」

 

「……」

 

 腕を切られた時に落としたか? 

 

 使える道具は全部使い切っていた。

 あの時使わなかったものは贄沼に全部くれてやった。

 

 俺にはもう、何も無い。

 

「今は休息。君が手術を受けてからまだ6時間程度だから、目覚めたこと自体が奇跡的……狂気的よ」

 

 医者はそう言って立ち上がる。

 

「一週間は絶対安静。()()()()()()()()()()

 

「……な゛に゛?」

 

 俺じゃない誰かに伝える言葉。

 

 周りを見渡してみる。

 やはり誰もいない。

 

 随分と大きく、綺麗な個室。

 

 真っ白な壁紙に薄水色のカーテンが窓を塞いでいる。

 

 こういうのって普通相部屋になるものではないのか? 

 

 水を一口含む。

 

 温い。

 

 さて……武器になりそうなものは無い。

 自殺に使えそうなものは全部取り上げられている。

 

 流石病院の病室か。

 周囲の物を利用しようにも強度が足りない。

 

 カーテンで首でも絞めるか? 

 

 そもそも俺は、今自殺して巻き戻せるのか? 

 

 近くにヘクスがいない。

 いるのなら誰もいなくなった今出てくるはずだ。

 

 もし監視されているとしても、彼女は他に気づかれないように俺に存在を伝えることができる。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺は『空』の魔法使いであるハクを助けるために多くの博打を立てた。

 

 その結果、ほぼ必ず俺は死ぬ。

 

 成功する時は必ず死んでいる。

 

 そういう作戦だった。

 

 と言うか途中で一度死んでいるはずだ。

 剣で腹刺されて長く生きれるわけ無いだろ。

 

 まぁ、あの臨死体験のお陰で()()()()()()()()()()()()()()()()を得られたわけだ。

 

 薄々感じていたが、魔女の契約ってやつは一方的に有利なものだ。

 

 それは契約を作る立場だからか。

 それとも存在としての()が違うのか。

 

 命の共有。

 それに関し、ヘクスが死ぬと俺が死ぬと言った。

 

 だが、俺が死んでもヘクスが死ぬとは()()()()()()

 

 多少のフィードバックはあるのだろうが……死ぬことはない。

 

 他にも細かな理由はあるが、その予測のおかげで俺は命を投げ捨てるような真似ができたのだ。

 

 だからこそ再度疑問に思う。

 

()()()()()()()()()()()

 

 ヘクスが側にいない。

 

 隠れているだけか? 

 ――あり得ない、理由がない。

 

 俺を見失った? 

 ――いや、追跡できる術を必ず持っている。

 

 ついに愛想が尽きたか? 

 ――もう動けない俺を見て契約を解除した、それが一番納得できる。

 

 俺はもう巻き戻せない(ループできない)

 

 そう考えた方がいい。

 

 ――――本当に? 

 

 水を飲み干して雑念を払う。

 

 契約は解除された。

 そう考える。

 

 次、体はどこまで動く? 

 

 右手、首から布でつられていて当然のように動かない。

 指先がわずかに震える程度。

 

 左手、薬指が固定されているが問題ない。

 肘の内側に点滴を入れた時に刺したであろう針がテープで固定されている。

 

 右足、包帯だらけ。

 問題なし。

 

 左足、固定具がつけられているがサポーターのようなもの。

 問題なし。

 

 胴体、呼吸がキツイ。

 傷口は縫われている。

 だが燃えているように熱い。

 

 ……麻酔とか、されてらっしゃらない?? 

 

 その割には切り落とされた右腕に痛みはない。

 

 よく分からないな。

 

 取り敢えず立ち上がってみ……動かない。

 

 足が、腕がピタリと止められる。

 

 なぜ? 

 

 俺の感覚は問題無いと判断してる。

 

 なのに動こうとすると体の動きが止められる。

 

 何回も体験したからわかる。

 

 これは()()だ。

 

 骨が折れて支えがなくなった。

 肉が千切れて力が入らなくなった。

 体が疲労して上手く動かせなくなった。

 

 俺が動けない状態は大まかにこの三つ。

 

()()()()()()()

 

 不意に関節が固まる。

 動かしていた筋肉が止まる。

 コントロールが働かない。

 

 体の内側からブレーキが掛けられているかのようだ。

 

 でもまぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 腕の振り。

 腰のひねり。

 

 遠心力で体を回転させる。

 

 床に足をつこうと伸ばしたら固まったので左手で体を動かして角度を調整。

 固まった足をつっかえとして支えにし、もう片方の足をつく。

 

 いけるいける。

 

 右手が使えないのでこけたら怖いがその程度だ。

 階段だけ注意すればなんとかなるだろう。

 

 相変わらず言うことを聞かない体を引きずって、部屋を物色する。

 

「持ち物は取り上げられたか」

 

 引き出しの中に望みをかけたが無駄だった。

 

 切り替えて病室の外に出るため、取っ手に指を引っ掛ける。

 

 不意に指から力が抜ける。

 いや、固まっていたのが解けたのか。

 

 何度か握り直し今度こそ扉を開け――

 

「う゛ぉっ」

 

 扉を開けたすぐ目の前に、少女が居た。

 

「戻って」

 

 フードを目深にかぶっており、身長が俺の胸辺りまでしかない関係もあってその顔は伺えない。

 

 だがその声を忘れるわけもない。

 

 その姿を、忘れるわけがない。

 

「君は――」

 

「まだ喋っちゃだめ」

 

「――ん゛っ!?」

 

 突然全身が硬直した。

 

 う、動けん……流石に全身は予想外だ。

 

「寝て、休んで」

 

 彼女は小さな手で俺の胸に手を当てた。

 

 随分とひんやりしている手。

 服越しで感じるのだから相当なものだ。

 

 しかし何を? 

 

 そう疑問に思い眺めていた目が、ぼやけた。

 

「もう大丈夫」

 

 頭も、ぼやけてくる。

 

 地面が近い。

 

 ……俺はいつ膝をついた? 

 

「全部倒すわ。危険なもの、全部」

 なにを、言っているんだ? 

 

 分からない。

 

 音は聞こえているのに。

 

 思考が。

 

「私があなたを護るから」

 

 大事な事を。

 

 言っているはず。

 

 意識。

 

 が。

 

「――、―――」

 

 音。

 

 さ。

 

 え。

 

「―――――?」

 

 め。

 

 を。

 

 ――なんでそんなに寂しそうなんだ。

 

 距離が近づく。

 

 驚いた表情。

 

 冷たい。

 

 柔らかい感触。

 

 撫でる。

 

 伝えたい言葉。

 

 声は出ない。

 

 意識も。

 

 眠。

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