鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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それぞれの正しさ

 目が覚める。

 

 柔らかなクッション。

 清潔なシーツ。

 

 俺はいつの間にかベッドの上に寝かされていた。

 

 頭がぼうっとする。

 

「今何時……ゲホッ」

 

 喉が痛い。

 

 飲み物が欲しい。

 

 そう思い周囲を見渡す。

 すると目の前に水の入ったコップが差し出された。

 

 堪らずそれを掴み、喉へと流し込む。

 

 よく冷えた水。

 

 突然冷やされた内臓が僅かに軋みを上げるが無視して飲み干す。

 

 美味い。

 

 やっと人心地がついた。

 

 そこでようやく水を差し出してくれた人物がいるのだと思い当たり、コップが差し出された方を向いた。

 

「目が覚めたかしら軍人さん、でもまだ寝ていた方がいいわ」

 

 フードに隠れた紫がかった髪色の少女。

 

『氷』の魔法使いがそこに立っていた。

 

「ぅ゙っ……」

 

「動かないで。繋げてもらったけど開くかもしれないわ」

 

 強い静止。

 

 ()()()()()()()()()()()()俺の体を優しく押さえつけ、動かないように固定された。

 

 というか何かされたのか、体のコントロールがさっき起きた時よりも悪い。

 

 いや、何かはされたな。

 

「わかった、うごかない、から」

 

 どういう意図があるのかはわからないが、逆らえない。

 

 理由もない。

 

 少なくとも今は。

 

 そして言葉を発してはいけないとは言われてない。

 

「なまえ、は」

 

「……私の?」

 

「あ、あぁ」

 

 名前が聞きたい。

 

 それは大きな本心で。

 

 ずっと寂しそうな顔をしている彼女の名前を呼んであげたい。

 

 困惑している彼女の顔をじっと見つめる。

 

 すこし迷っていたようだが……根負けしてくれたのか、少ししてから口を開く。

 

「ひ……」

 

「ひ?」

 

氷室(ひむろ)、れいら……氷室(ひむろ)れいら」

 

「氷室れいら、れいら、ね」

 

 氷室れいら、そうか。

 

 それが俺の原典(プロローグ)

 俺を俺として始めさせてくれた魔法使いの名前か。

 

「あなたは……」

 

「……?」

 

「……なんでもないわ、軍人さん。痛たかったり、違和感のあるところはないかしら」

 

「あぁ、喉の調子が、わるい、くらい、かな」

 

「右腕は、どうかしら? あの時()()()()()()筈だから繋げる分には問題無いと聞いてるけれど」

 

 ふむ。

 

 ()()、と? 

 

「問題、ないよ。痛みも、ないし、指は、少し動く」

 

「そう、良かったわ……違和感があるのは喉なのね? 少し、触らせてもらっても、いいかしら」

 

 肯定の意味を込めて顎を上げ、喉を突き出す。

 

「ありがとう」

 

 れいらの小さな手が、手袋越しに俺の喉に触れる。

 

 気の所為ではない。

 触れられた場所がひんやりしている。

 

 ……この手袋(革手袋)越しで? 

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 突然謝るれいら。

 

 何故? 

 

「なにか、してくれるんじゃ、無いのか?」

 

「……冷たかったでしょう」

 

 確かに。

 ただ今の熱を持った体には丁度よい。

 

「あぁ、ひんやりして、気持ちいいな。冷え性、なのか」

 

「冷え性……ふふ、そうとも、言えるかもしれないわね」

 

 少しだけ笑った? 

 

「もう一度、喉を出して」

 

 言われたとおりに喉を差し出す。

 

 もう一度、今度はしっかりと手で触れられた感触があった。

 

 と言っても鞣した皮の感触だが。

 

「ごめんなさい。ちょっとだけ我慢して……『ヒョウイ』」

 

 息が詰まるほどの冷気。

 

 だが同時に喉の痛みが、違和感が引いていく。

 

 何をどうしたんだ? 

 『氷』で冷やした? 

 

 それにしては喉の感覚がおかしい。

 

 アイシング(炎症の冷却)なんていうものではない。

 何もかもが止まった。

 

 そう錯覚してしまいそうだ。

 

「……終わったわ。これで良くなっているといいのだけれど」

 

 ゆっくりと手が離れていく。

 

 名残りを惜しむように最後まで指先が触れていたのは何故だろう。

 

 つい追いかけて捕まえたくなり、指先を摘んでみた。

 

「ひゃぅっ!?」

 

「ひゃう?」

 

 どういう悲鳴だそれは。

 

 いや、こんな男に急に触れられたらびっくりもするか。

 

 ハクは近づくのすら過剰反応だと思えてしまうくらいの避けっぷりだったからな。

 

 むしろ距離を近づけてくれている方だろう。

 

 ……何か近すぎる気もするが、理由がわからない。

 

 いくら考えても思い当たる節がない。

 

「あ、あああああの! ……い、いつまで手を……?」

 

「あっ! すまない。気を悪くしたか?」

 

 ずっと掴んでしまっていた。

 

 駄目だな、どうにもブレーキがかからない。

 思考より先に行動してしまっている。

 

「だ、大丈夫だけど、その、喉の調子はどうかしら」

 

「喉はもう無問題だ。凄いな、君の魔法は」

 

「そんな事ない、ただ凍らせることしかできないわ」

 

「凍らせる、ね」

 

 それにしてはやっていることが意識を奪ったり、喉を治したりと多彩過ぎる気もするな。

 

 ハクとかうみとかちことかも大概理不尽だったしそんなものか? 

 

「軍人さん?」

 

 まぁ、考察は後にしよう。

 れいらの事をもっと知る必要がある。

 

「何でもないよ。それよりもれいらはずっとここに居るのか?」

 

「ここ……病院のこと? そうよ、始まりの日からここを拠点にしてるわ」

 

「他に仲間は?」

 

「御門先生……あなたを診ていてくれたあの医者だけ」

 

「……」

 

 それはつまり、魔法使いはおろか……俺らのような一般人にも信用できるのはいないってことか。

 

 あの御門? という人物は別のようだが。

 

 となると別の疑問が湧いてくる。

 

「なら、どうしてここに留まる。御門が居るからか?」

 

「それもあるけれど……」

 

「あるけど?」

 

「ここに私が居ないと、あの人達が死んでしまうでしょう?」

 

 れいらは当たり前のように言い放つ。

 

 それはつまり、ただの義務感だけでここにいるということだ。

 

 そこに感情はない。

 

 そうするべきだからそうしている。

 

 それだけの結論。

 

「けど、今は違うわ」

 

 冷気が衣服のすき間から流れ込む。

 

 見ればれいらの着ている衣服の端が凍り付いている。

 

「軍人さんがいるもの」

 

 それは強い感情を持った時に無意識に溢れ出てしまう魔法現象。

 

 ハクの時もそうだった。

 彼女の場合は風を纏っていたが、れいらは冷気を放つらしい。

 

「知りたいわ、軍人さん。あなたの事を」

 

「……」

 

 部屋の温度が下がり、指先が冷たくなってきた。

 

「何が知りたいんだ? 特に面白いことはないぞ」

 

「なんでもよ」

 

 だけどその程度。

 

 会話を続けたかったのだが……

 

「時間だよ、氷室」

 

「御門先生」

 

 御門と呼ばれた女医者が病室の扉を開いて立っていた。

 

 少し前から様子を見ていたのだろう。

 

 れいらから冷気が漏れ出たあたりでタイミングよく扉を開けたのだから。

 

「そろそろ()()が来る」

 

「……面倒ね」

 

「悪いけど、今回も頼めないかな?」

 

 御門医師は不健康そうな顔色を歪ませ、頭をかいて目を閉じる。

 

 ()()とはなんだ? 

 

 れいら(魔法使い)にしか出来ないこと? 

 

「問題無い。準備するわ……軍人さんのことお願いね」

 

「はいはい、頼まれなくても私の患者。安心して行ってらっしゃい」

 

 御門医師とれいらが入れ替わり、今度は御門医師がカートを押しながら俺のすぐ横に立つ。

 

 別に俺の側にいる必要性はない。

 そう思っていたのだが、どうやら御門医師は医者としての本分を全うしに来ていたようだ。

 

 カートに置かれたトレーの上には透明な液体の入ったパックと複数の器具があった。

 

 今、れいらもそれらを目で確認していた。

 だからあれほど強い感情を見せたのにも関わらずあっさりと引いたのだろう。

 

「『レイジョウ』」

 

 れいらが扉を閉める寸前、何かを唱えた? 

 

 目を凝らす。

 

 僅か、扉の縁が凍り付いている。

 

 だが何事もないようにれいらは扉をスライドさせ、閉じ切ったのだが、

 同時に氷が扉から広がり、接着、固定されていくように見える。

 

 これ、閉じ込められたのか? 

 

 人間の監視に魔法による扉の施錠、随分と厳重にしてくれるものだ。

 

 おかげでますます首をかしげることになったのだが、同じくこの病室に閉じ込められた御門医師は何をするでもなく椅子へ腰掛けた。

 

「少し寒いね。暖房をつけようか」

 

 本当に何もしない。

 ただ手に持ったバインダーと俺の事を交互に見比べている。

 

「点滴をしにきたのでは?」

 

「……これは使わないわ。さっき起きた時に話したでしょ、点滴は終わらせてるって」

 

 じゃあ何でこれがここにある? 

 

 考えられるとしたら……

 

「れいらの視線……名目づくり?」

 

 御門医師の目が少しだけ大きく開かれる。

 

 当たりか。

 

 その前提でなら、考えられる目的はかなり絞られる。

 

「俺に何か用事がある? ……違うな、俺とれいらを引き剥がしたかった」

 

 御門医師がバインダーから視線を外す。

 

 そして、バインダーを()()でカートへ置いた。

 

 ()()()()()()()()()に少しの安心感のようなものを覚えながらも意識を研ぎ澄ましていく。

 

「俺をずっと観察していたんだろ。もしかしたら監視もしていたか」

 

 御門医師は何も喋らず、右手をバインダーを置いたまま固定し、半身を隠すような姿勢(左手を隠すための姿勢)になったまま俺から目を離さない。

 

「御門医師、あなたから見れば俺は不気味な変数だ。氷室れいらという存在に大きな影響を与えるのにも関わらず、何も分からない不審人物」

 

 体の調子は悪い。

 思い通りに動く気はしない。

 

「御門医師、俺は──」

 

 瞬間、御門医師が動いた。

 

 言葉の始め、呼吸の動き出し。

 意識が散漫にならざるを得ない良いタイミングだ。

 心理学でも少し齧っていたのだろうか。

 

 でもやっぱり、動きは素人過ぎる。

 

 御門医師は()()()()()()()()()()()()()を俺に向け──る前に身を乗り出してその銃身を上に向ける前に掴んで固定する。

 

 ナイフとも思ったが、やっぱ持ってたか。

 

「っ!」

 

「動かないでくれ、暴発したらどこに飛ぶかわからない」

 

 体重をかけ、御門医師の握力が弱まった瞬間に奪えるように。

 

 男一人分、全体重ではないとはいえかなり負荷をかけている。

 それなのに険しい顔のまま拳銃を離そうとしない。

 

「あの子、氷室れいらを……私はずっと前から知っている」

 

 拳銃を両手で掴み直し、力を込めながら御門医師は言う。

 

「理知的で、正義感の強い子。どんな時でも他人を優先し、自分を後回しにする。それはこんな非常識な状況でも変わらなかった……そんな損な性格をしている子」

 

 力負けしている。

 

 拳銃の角度がどんどんと上がっていく。

 

 成る程、これは。

 

「そんなあの子が初めて我儘を言った。ある人を助けてほしい。その人と二人になれる様に便宜を図ってほしいって」

 

「……」

 

「私は嬉しかった。だから無理やりになってもこの部屋を用意させたし……君の治療に多くの資材を消費した」

 

 拳銃を押し上げている力が弱まる。

 スタミナ切れか、それでも完全に抑え込めはしない。

 

 御門医師は息を切らしながらも、その強い意志を感じさせる目で俺を射抜く。

 

「だが、今の氷室はおかしい! 君に対して執着し過ぎている! 過程があれば私も理解する! 納得できる! だがそれもないのにも関わらず氷室が()()なってしまっている、この事から私は一つの推測しかできなかった」

 

 あぁ、これは……

 

 御門医師、彼女はアイツ(贄沼宮護)と一緒だ。

 

「お前が魔法とやらか何かで氷室に干渉している」

 

 彼女(御門医師)は信頼できる人だ。

 

「だから答えてもらう──っ!?」

 

 左手で押さえつけていた力を緩め、逆にその銃口を俺の頭へ向ける。

 

 これは彼女への敬意だ。

 

 この人は俺が人知の及ばない存在(怪人)である可能性も考慮し、自分が死ぬかもしれない、そうでなくとも氷室と同じ様に精神を、思考をおかしくされてしまうかもしれない。

 

 その恐怖を受けてここにいる。

 

「何のつもり」

 

「特に意味はない。質問の返答を返そう、俺にもわからない」

 

「ふざけているの?」

 

「ふざけているように見えるか」

 

 御門医師の目をじっと見つめる。

 

 偽らざる本音だ。

 

「……」

 

「……」

 

 何十秒向かい合っていただろうか。

 

 ついに俺の頭に向けていた拳銃から御門医師の手が離れる。

 

 それを確認し、セーフティをかけてから拳銃を地面に置いた。

 

「君を完全に信じたわけじゃないから」

 

「構わない。俺もどうしてあそこまで気にかけられているのか、それに彼女の現状についてを知りたい。よければ協力してほしい」

 

「……あなたマトモじゃないわね」

 

「随分な物言いだな」

 

「否定はしないんだ?」

 

 そもそもマトモの基準がわからないからな。

 

「あなたの名前は?」

 

「俺はムーヴと呼ばれている」

 

「ムーヴね。いい? 話は出来るだけ共有、隠し事は極力しないこと。私はあなたの主治医だから定期的に会いに来る。要望があれば言ってくれれば通してあげる」

 

「助かる、が大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ。この病院、今は私が発言力強いから。殆どの裁量は私にある」

 

 それは随分と不味い状態では? 

 

「私がムーヴに頼みたいことは──」

 

 御門医師が言葉を紡いでいた瞬間、地面が揺れた。

 

 地震か? 

 

「Boooooo!!」

 

 そう思考すると同時、即座それを否定する大音量の雄叫びが鼓膜を揺らした。

 

 それは今はもう古い記憶。

 

 されど鮮明で、魂にすら刻まれたトラウマ。

 

()()だ」

 

 この場所に怪物が(終わりの始まりが)顕現した。

 

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