鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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『空』の魔法使い2

 片目でスコープを覗き込み、視線を外さないまま片手で今起きている事柄を手帳に書き込んでいく。

 

 『空』の魔法使い。

 ヘクスがそう言ったあの少女は何もない空間から突如として現れた。

 

 だが、これは隣にいるヘクスにも同じ芸当が出来る故に納得し理解出来る。

 

 今の目に見える風という摩訶不思議な存在が俺に新たな疑念を植え付けようとしていた。

 

 それはつまり、魔法使いはそれぞれ特色のある力を持っていると言うこと。

 

 それは当然だろうという考えもあるかもしれない。

 

 だが俺は何となく、こうも思っていた。

 

 ゲームでいう『職業:魔法使い』と言うものがあり、それを言うなればレベルアップさせることで新たな魔法を手に入れる。使えるようになる。そういうシステムだと。

 

 つまり、向き不向きはあるが魔法使い全員が最低限同じ魔法を使えると考えていた。

 

 それならば納得できる。

 この訳が分からない状況でそういう種族が元から居たのだと納得できる。

 

 だがそれにしてはあの魔法使い、名前を確か空成ハクと言ったか、彼女が使っている魔法が一辺倒過ぎる。

 

 風しか使っていないのだ。現在怪人と対峙している今でさえ。

 

 確かに便利で利便性や自由度が高いものなのだろうが、怪人を攻撃するにはもっと攻撃力の高いモノがあるのではないかと考えてしまう。

 

 だが風しか、それに類するものしか使えないのだとしたら納得できる動きなのだ。

 

 そうなのだとしたらあの突如として現れた方法も何となく推測できる。

 

 風を操り光の反射を制御して透明化していたのだろう。

 バカみたいな話だが理論上は出来ると聞いたことがある。

 

 とにもかくにも情報だ、情報が欲しい。

 今立てた推測でさえ全くの的外れだという可能性も充分に高い。

 

 所詮は素人の考えだ。

 

 どうせ撃っても当たらないだろう、何なら怪人には効かないのでスコープから目を離し双眼鏡で観察を優先することにした。

 

 声は聞こえないが戦況は優勢であるように見える。

 

 常に距離を取って戦う『空』の魔法使いハクに近距離攻撃しか持たないあの怪人は手を出せないようだし負ける要素が見当たらない。

 

 だがヘクスが言ったのだ。

 

 ハクは最初の犠牲者になるのだと。

 彼女こそが最初の脱落者になるのだと。

 

 だから見逃さないように丁寧に、怪人を、ハクを、その周囲をしっかりと丁寧に観て、調べ上げていく。

 

 怪人の隠し球が何か、見極める為にじっくりと。

 

 そして――

 

「おかしい……あいつら、何してるんだ?」

 

「…………」

 

「ヘクス、言えないのなら良い。だから相談くらいなら良いだろ? 話を聞いてくれ」

 

「なんだい?」

 

「あいつら、あの助けられた奴ら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それが俺にはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだが」

 

「あぁ、そうだね。そう見えるのなら、つまり、そう言うことじゃないか」

 

「……ッ! あぁそう言うことかよクソッタレが!」

 

 それが事実ならこの戦いは茶番だ。

 

 そしてあの『空』の魔法使いが負けた理由も何となく察する事が出来る。

 

「何となく分かってきたぜ! 魔法使いが負ける理由も! あの怪人達の戦いの手法も!」

 

 何て嫌らしく狡猾な力を持ってやがる。

 

「詳しい条件は不明だがあいつの術はおそらく! 『条件を満たした者を己の指揮下に置く』と言う術だ! さっきヘクスが言った『目の前で行動した人物にならって行動したくなる』という術があるんだから有ってもおかしくない」

 

 疑問が、違和感が繋がり、解消されて行く。 

 

「だからあいつらは次自分が殺されると分かっていても無様に抵抗したりしなかった。断末魔は上げたがそれくらいだ、それ以外にもあいつに掴まれたときに泣きわめいて悲鳴を上げてなきゃおかしい!」

 

 間違ってても良いから今出来た考察を手帳に書きなぐっていく。

 

「なら、どうしたら良いと思う?」

 

「……わからないっ」

 

 条件が分からないことには迂闊に近づけないし手を出せない。

 

 ヘクスから意見を聞いても良いが、あくまでも俺が主体に行動しなければ意味が無いと言う。

 

 だが、こうやって考えている間にも操られていると思しき彼らは『空』に気付かれないように背後から少しずつ距離を詰めている。

 

 時間がない、考える時間が……なら仕方なくないか?

 

 俺も自殺すれば巻き戻せるというだけで殺されたら死ぬ、だろう。多分。

 

 なら安全策を取って、今回は情報を取るだけ取ってから次回に対して策を講じるべきだ。

 今、自棄になる必要性は無い、無駄だ。

 

 彼女の名前は分かってるんだから戦闘前に近づいて、彼女に助言するだけで良い。

 そうすればあの万能な風の力だ、操られているとはいえ一般人など寄せ付ける事すらしない事も可能だろう。

 

 だから、見守る。

 

 万が一勝つかもしれない、ヘクスのいう運命も打破してくれるかもしれない。

 

 だから待とう。あの時のように、誰かが解決してくれる事を祈りながら地下で震えて怯えて待とう。

 

「駄目だ駄目だ駄目だそれだけは許容出来ない」

 

 それを胸の奥から込み上げる熱が否定し、身体を突き動かせと衝動を送り込む。

 

 そうだ、前回待っているだけだったからあの娘に何も出来なかった。

 何もしなかった自分を悔やんで心臓を貫いたんだ。

 

「また同じ事を繰り返すのか? 有り得ない有り得ない有り得ないっ、無駄でも良い、無意味でも良い、俺が、俺が納得できる終わり方を求めてるんだッッ」

 

 チラリとヘクスを見る。

 

 目が合った。

 

 ヘクスは何も言わなかったが、自分勝手にそれを俺は俺を肯定してくれている様に感じた。

 

 体は動いた。

 

 双眼鏡を投げ捨てて手帳をヘクスの方へと投げる。

 

「持っててくれ」

 

「構わないよ」

 

 心地良い肯定。

 

 それを聴きながらスナイパーライフル、『エンドオブボアダム(退屈の終わり)20』を手に取りスコープを覗き込む。

 

「奥のを狙うならその調整だと上に3ミリ右に2ミリだ。手前のだと上に2ミリ右に2ミリで良いだろう。銃弾の道筋に今、風は無いよ」

 

 最高のアドバイスを聞き入れて俺は照準を合わせる。

 

 そして、引き金を引いた。

 

 鳴り響く銃声。

 

 撃ち出された銃弾は飛距離による重力の落下の影響を僅かに受けながらしっかりと飛翔し――目標の頭蓋骨をぶち抜いた。

 

 人を殺した。

 

 前のあの時のような獣ではなく、自意識が無い人を殺した。

 

 手の震えはない。

 

 直ぐに次弾が装填される音がして次の標的を定める。

 

 チラリとスコープを覗いている方の目と逆の目で見てみるが、怪人と『空』は未だ何が起こっているのか分かってはいない。

 

 だからその隙をありがたく使わせて貰い、二人目を撃ち抜いた。

 

「───ッ!」

 

「──、───!?」

 

 怪人はやはり視力も聴力も普通の人間とは段違いなのだろうか、たった二発撃っただけで怪人とスコープ越しに目があった。

 

 だが恐怖はない。直ぐに三発目を撃ち出す、頭蓋骨が弾け飛ぶ。

 

 後一人。

 

 左目に怪人が何か大きく振りかぶっている姿が小さく写る。

 

 構わず最後の一人を撃ち殺す。

 

 簡単だった。

 調整はヘクスのおかげで済まされ最後の微調整もヘクスのおかげ。

 

 あいつらは目の前で人が撃たれているのにも関わらず特に反応も起こさずゆっくりと前に進むだけだった。

 

 簡単に人を殺したのだ。

 

 だからこれは報いだろう。

 

 強烈な破壊音と俺の体を襲う幾つもの瓦礫の破片。

 それらは全てあの怪人が投擲してきた何かが巻き起こした惨状だと理解出来る。

 

 なるほど、市民に襲われて動きを止めた『空』をそれで殺す気だったか。

 

 そんな納得も束の間、俺が地面を転がっている間に済まされた意味の無い思考。

 

 何という奇跡か、俺の体はまだ動くようで痛烈な痛みが俺の生存を知らせてくれている。

 

 ならばと起き上がるために体を起こそうとして……差し伸ばされた手があった。

 

「生きてるかい? あんなギリギリまで粘って……私は君に死んで貰ったら困るんだがね」

 

「生きてるよ。死ぬかもとは思ったが死にたいとは思わないから安心してくれ」

 

 その手を掴むと俺の体が軽くなったように感じ、ふわりと起き上がれる。

 

 まるで体の体重がほとんど消えたような感覚に一つのアイデアが思い浮かぶ。

 

 どうやってここから逃げたものかと思案していたが、これならば行けるかもしれない。

 

「ヘクス、この状態を続けることは出来るか?」

 

「うん? 出来るけど……それよりも早くここから逃げ出した方が良くないかい? 狙われてるぜ?」

 

「それを一挙両得出来る方法がある」

 

「えっ? え──っ!?」

 

 俺は返事を待たずしてヘクスを背中に背負い、バッグとエンドオブボアダム20を掴んで怪人がいる方角とは逆の方の面からビルの柵を乗り越えて落下を始めた。

 

「おっ、おおおおおおお!?」

 

「ぬぅっっっ!」

 

 自由落下を始めた俺達は、魔法で軽くなったとはいえかなりの速度で落下していく。

 

 いつも宙に浮かんでいるヘクスも思わずと言ったように声を出してしまっている。

 落下するのは苦手なのだろうか。

 

 まぁ、このままでは落下スピードがかなり緩まっているとはいえ地面への着地と共にミンチになる。

 

 果たしてこれは自殺になるのだろうか?

 思考が頭をよぎるが今世界を巻き戻させる気はないので全力で抵抗するべく、落下しながらボアダムのマガジンを交換していく。

 

「今離されたら死ぬから絶対に離さないでくれよな!」

 

「くぅっ分かった掴んでれば良いんだろう!?」

 

「助かるよ!」

 

 リロードし、素早く薬室(チャンバー)に弾薬を送り込む。

 

 それを僅かな時間で成し遂げ銃口をビルとは真逆の方角に向けて射撃。

 

 強烈な反動が体を襲う。

 軽くなった体重にてそれを余さず受け止め、空中を移動し足をビルの側面につけることが出来た。

 

 当然踏ん張ることなんて出来ない。

 ビルとの摩擦で引きちぎれそうな足を動かして、装填が完了したボアダムを今度は真下……よりも少し角度をつけて撃ち放つ。

 

 反動、衝撃、それを受けて落ちる速度が緩まりその稼いだ時間でまたもう一発。

 

 それを繰り返してマガジンにあった五発全てを撃ち尽くす。

 

 だが……

 

「おいおいおい! まだ速度が殺しきれてないぞ!」

 

 流石に無茶だったか未だに速度は死にはしないだろうが足くらいは折れそうな程度にしか落ちなかった。

 

 再装填する時間は、無い。

 

 ならばと背中に背負っていたヘクスを前に移して、覚悟を決めギリギリのタイミングでビルの側面から飛ぶ。

 

 目指すは植木。僅かながらでもクッションになってくれればという思いと共に片手で腰から拳銃を抜き出して腹で固定して乱射する。

 

 三発、四発と撃ったところで時間切れ俺は植木越しに地面と感動の再会を果たし、全身をミンチに──すること無く無事着地できた。

 

 背中と足が痛烈に痛むが骨をやったような違和感はない。

 何とか成功したという実感だけを胸に何とか起き上がりヘクスを見る。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 魔女でさえ死を覚悟させてしまうくらいの無茶をしてしまったらしい。

 

「こっちは死ぬ程助かった。労いたいが時間がないんだバイクの所まで走るぞ!」

 

 悪いとは思いながら、この稼いだ時間を無駄にしないためにバイクの停めている場所へ急いで走った。

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