鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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『空』の魔法使い3

 誰も居ない道路を颯爽とバイクで駆ける。

 

 ビルからの飛び降りに成功した俺は手帳を返して貰ってから、一先ず隠れていたのがバレたビルからの逃走を図っていた。

 

 ガタンと振動が起きる度に体の節々に鈍い痛みが走る。

 

 いくら最新の戦闘服といえど、度重なる無茶苦茶な動きに耐えきれず所々綻びが出てきてしまっている。

 

 それでもまだまだ使えるので無論酷使する心づもりだ。

 

「今の内に聞いておきたいんだけど」

 

「何かな?」

 

「どこまで予想してたんだ?」

 

「何が、とは言わないよ。だが、そうだね……私としては君があの時、あの瞬間に手を出すとは思ってなかった。あの後ビルから飛び降りたのもね」

 

 となると、一応はヘクスの想定外の行動が出来たことになる。

 

 それはつまり、運命から抜け出す第一歩を踏み出したと言うことだと俺は考える。

 

 だからこのままで良い筈なんだ。これで良いように進んでいる筈なんだ。

 

 だが、この程度の干渉で運命とやらがどうにか出来るのなら既に誰かがやってるだろう。

 

 だから俺は向かう、あの『空』の魔法使いの元へ。

 

 それすらも杞憂で、あの少女はあの怪人に勝利しているかもしれない。

 

 いや、普通に考えれば勝っているだろう。相性からして『空』の魔法使いハクは最高と言っても良かった。

 

 無駄でも良い、無意味でも良い。

 

 だが足を引っ張るような真似だけはしない。

 そのために基地から持ってきたコンカッション式の手榴弾に糸をくくりつけたものをバイクに設置してある。

 

 安全ピンはまだ抜いていないがいざとなれば躊躇わないつもりだ。

 

「ムーヴ君、私が観測して知っているのはここだけだ。私にはここすら越えられなかった」

 

「ヘクス?」

 

「ここさえ無事越えてくれれば私はおそらく、運命の縛りからほぼほぼ解放される。君が自主的に動かないと行けないことには違いはないがそれでも私は君に隠し事をすることも力を出し渋ることもせずにサポートすることが出来るようになる」

 

「それはまさに死ぬ程助かるんだけど……その話を今した意味って?」

 

「今回の周、さっきの飛び降りで手を貸してしまった故にこれ以上の直接的な手助けが出来そうにない。言葉すらもこれから起きることを一言だけ伝えることが限界だろう」

 

 何故そう断言できる?

 

 その疑問が浮かぶが、本当に心苦しそうな彼女の表情からは嘘や俺を騙そうとする意思を感じられない。

 

 つまり、今は俺が持っている情報から推理するしかない。

 

 ヘクスが何故、俺なんていうただの人間を使うだけで世界を巻き戻すなんていう芸当が出来るのか、何故運命に絡め取られる一線を感じ取っているのか。

 

「あれだけ大口を叩いて助力すると言っておきながら本当にすまない」

 

 いや、そんなことはどうでも良い。

 

 俺はヘクスのもたらしてくれた情報がなければ何十回と訳も分からず死んでいたか分からないし、何よりもヘクスに全てを預けているのだ。

 

 俺はただヘクスが伝えてくれるであろう後一言を待った。

 

「伝える。『ここから先、何があっても心だけは折れないでくれ』」

 

「……分かった。心に留めておこう」

 

「…………それじゃあ私は君の近くで漂っている。何も出来なくて、本当にすまない」

 

 その言葉を聞いた俺は速度を緩めること無く、返事を返そうとして……一つのお願いをすることにした。

 

「なら祈っててくれよ。魔女である君の祈りなら気持ちだけでも効果がありそうだ。まだ終わってないんだしそれくらいは良いだろ?」

 

 ヘクスが近づく気配、ヘルメット越しに俺の額に何かをした。

 

 そうして姿が消える。

 

 この数時間、何があっても傍にいた存在が消える。

 

 近くには居るのだろう、だが俺には見えないし感じない。

 

 それならば、俺は実質的に一人に違いない。

 

「けどなんでだろうな、寂しいとか、心細い、とかいう感情よりも大きな……頼られているという自負みたいなのが湧いてきやがる。これも魔女の策略通りなら一種の魔法だな」

 

 返事はない、だからこそ自分へと語りかける。

 

 魔女の保護は無くなった。

 

 しかし代わりに祈りがある。

 

 ならばこそ気張るとしよう。

 

 男は見た目綺麗な女性に応援されて、可愛い女の子を助けるというシチュエーションになら無限に頑張れるのだから。

 

「あそこか」

 

 それほど距離の離れていない所から大きな破壊音。

 

 戦闘が続いており、まだこの一件は終わっていないのだと確信させる音。

 

 その音源に向けてバイクの速度を上げた。

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 バイクを途中で乗り捨ててボアダム(スナイパーライフル)を手に持って走る。

 

 怪人のスペックは人間のそれを遥かに超えていると推測できる。

 これ以上のバイクでの接近は自分の位置をばらしているものだと思ったからだ。

 

 もう手遅れかもしれない、だがそこから足で移動して少しでも自分の正確な位置を隠したい。

 

 もし予想以上に怪人の基礎スペックが高く、走る程度の足音で完全な位置バレをするならばまた考え直さないといけない。

 

 とにかく出来るだけ気配を消して急いで向かっている訳なのだが、一つ問題がある。

 

 音が止んでいるのだ。

 それまで断続的に聞こえていた音が少し前から完全に止んだ。

 

 嫌な予感はする。

 だがどうしようもなくこれ以上は急げない。

 そして、音が止んでから2分程か、それを見つけた。そして息を呑む。

 

「怪人が……二体」

 

 増えていたのだ怪人の数が。

 

 先程の黒い甲殻を持つ怪人と手に剣を持つ鎧を纏った怪人。

 

 二体ともこちらには気付いていないのかどちらも一点を見詰めこちらに背を向けている。

 

「あの子は……?」

 

 そして探し始めて直ぐに見つかる。

 

 二体の怪人の視線の先。

 

 空中で力無く、魔方陣の様なもので固定されている様に見える。

 

 それだけでは無い。

 肩から胸にかけて真っ赤な傷跡があり、スコープから観察できる範囲では息はあるようだが……力が使えないのか目だけが怪人に向かっている。

 

 撃つか?

 何をだ?

 怪人を?

 

 効くわけがない

 

 では魔方陣か?

 

 もし破壊できたとしてもあの子が動けないようならば意味がない。

 焼き直しになる。

 

 分かりやすい詰み。

 

 現状の把握できる範囲では何も方程式が立てることが出来ない。

 

 手帳を取り出す。

 

 何を悠長にと思われるかもしれないが、現状分かっていることを書き示していく。

 

 今からやることは、絶対に必要で、確実に助からない方法だ。

 

 だから万が一自殺に失敗した時の為に、これを残さないといけない。

 

「次のあなたへ……っと。すまないヘクス。返事は要らないし出てこなくても良いから……ここに、俺が記した手帳があるということを次の誰かに伝えて欲しい」

 

 手帳を近くの茂みに投げる。

 

「自殺に失敗した時、どうなるか分からないからな……最低限、次に繋がるように努力したんだ。だから、よろしく頼む」

 

 空気が揺れたような気がした。

 

 やるしかない。

 

 武器を確認する。

 

 ボアダムの予備マガジンは三つ。

 弾はまだあるがそれを詰めている余裕はないだろう。

 

 拳銃の方は予備マガジンが四つ。

 そんでもって装填数は八発。

 

 手榴弾は二つにフラッシュバンが二つ、直ぐに取り出せるように配置を整えていく。

 

 こういう時にバイクが無いのが悔やまれる。

 しかし有れば有ったでこちらの位置に気付かれていただろうから結局どっちも立たずなのだ。

 

 悔しいが今回は試走だ。

 俺の命をチップに情報を集めていく。

 

 本来なら最初の『空』の魔法使いと黒い甲殻を持つ怪人の場面でしなければ行けなかった事。

 

 力も無い知恵も無い魔法も使えないただの一般人モブが運命なんてたいそれたモノを変えようというのだからそれくらいしなくては釣り合わない。

 しても釣り合わない様なものだろう。

 

 ヘクスの残した言葉の真意はまだ分からない、おそらくは敵の怪人の術のキーに関わる事だろう。

 

 良し、万が一の自殺の準備も出来た。

 

 …………始めるとしよう。

 無能()の戦いを。

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

「手こずらせやがって、人間風情が……」

 

 黒い甲殻を持つ怪人。

 ゴァは傷付き割れた甲殻を撫でながら目の前の捕らえた魔法使いに怒りの視線を向ける。

 

 ギチギチと人間でいう歯軋りを繰り返すその行為を見かねたもう一人の怪人、ギアがそれを注意する。

 

「やめろゴァ、元はと言えばお前が一人で充分だと言うからおれは遠く離れた場所で別の事をしていたんだ」

 

「うるセェっ! チクショウ……オレの『Fear is a stronger emotion than love(恐怖は愛より強き感情なり)』を使った作戦は完璧だったんだよ! それを訳の分からんやつに邪魔をされて……糞ガァ!」

 

「何でも良いが貴様が死にかけていたのは事実だ。おれが()()こっちに廻ってきていなかったら貴様は負けていたのだぞ。アフォルズムから一人欠員が出るところだった。こんな序盤からな」

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛!! 糞糞糞糞ガァッ!」

 

 ギアから小言を受け、更に苛立ちを深めたゴァは目の前の無抵抗な魔法使いを見て笑みを深くする。

 

「オイ」

 

「何だ」

 

「あの方が言うには……魔核を取り出す為に生かす必要はあるが、その後は何をしても良いって話だったよなァ?」

 

「……貴様が、何を考えているかは想像が付く。個人的にはさっさと殺してしまえと思うが……好きにしろ」

 

「ヒヒッ! 楽しみだなァ?」

 

「…………」

 

 声をかけられた『空』の魔法使い ハク は目の前の怪人二体の話を聴きながら魔法が使えず、どうすることも出来ない現状に何とか隙を見て逃げ出せないかを考えていた。

 

 しかし段々とそれが不可能なのが理解できてしまい、じわじわと恐怖に体を支配されてしまっていた。

 体から大事な何かが抜かれていく、そんな実感もあったので更に身近に感じてしまう。

 

「別に、死ぬのは怖くない。怖く、ない」

 

 誰に向けてでもない、ただ口をついて出てしまっただけの言葉。

 

 何も思い残す事もない。

 

 親も家族もいない彼女にとってそれらは真実であり、建前でもある。

 

 ただ終わりを迎えるのに心の準備が欲しいだけ、そう自分を納得させるように何度も怖くないと呟く。

 

(そういえば……さっき私を助けてくれたあの銃を撃った人は何だったのだろう)

 

 彼女にとって現実逃避か、それとも希望にすがりたいのか。

 

 既に捕まった時にあのお喋りなゴァと名乗る怪人から話は聞いていた。

 

 失敗したがハク自身が助けた人間を使って罠にはめるつもりであったと。

 

 始めに銃声が響いて助けた筈の人々の頭が弾け飛んでしまった時、その相手に殺意と自分への不甲斐なさを感じた。

 

 だがそれはゴァの怒りと共に直ぐに誤解であったと理解した。

 

 あの狙撃主は私を助けてくれたのだと。

 

 その狙撃主は呆けてしまっていた私を放置して、ナニかを投擲したゴァの手によってやられてしまった。

 

 なのに、どうしてかすがってしまったのだ。

 

 もう助からないと分かっているのに。

 

 そして彼女の耳に……先程も聞いた銃声、その更に大きい音が聞こえた。

 

 驚愕に頭を上げる。

 

 目の前にはあのゴァの頭部の半分が消し飛ぶ様子と――僅か五十メートルよりも近い距離で狙撃銃を構えるボロボロの男の姿があった。




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