鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
俺の腹を真っ黒な怪人の腕が貫いている。
その目かどうかすらも分からない真っ赤な光が二つ。
興味なさげに死に逝く俺の様子をぼんやりと眺めている。
傍に居る剣を持った鎧の怪人などこちらに見向きもしない。
呆気なく、どうしようもなく俺は死にかけていた。
さて、どうして俺がこんなことになっているのかを簡単に説明する。
最初、効かないまでも怯めば良いなという頼みの狙撃は外れ、こちらの位置がバレた。
それに黒の怪人が即座に反応。
その異常な速度に接近を許す。
二発目を放つ。
命中、否防がれた。
弾丸が見えているのかそれともアタリをつけていたのか、腕の甲殻に阻まれて銃弾が弾かれる。
当然至近距離で放った狙撃弾の威力で大きく、腕は弾かれたようだ。
だが、こちらの再射撃の前に体勢を立て直され距離を詰められる。
この時点で俺は一回目の死を覚悟した。
ボアダムを投げ捨てる。
駆け出しながら拳銃を取り出し、二階の窓際から家の奥へと飛び移る。
次の瞬間に元居た場所に怪人が飛び掛かり、轟音が鳴り響いて衝撃波を撒き散らす。
当たってないし、何なら掠めてもない。
その癖に馬鹿みたいな威力だと吹き飛ばされながらぼんやりと思い、拳銃を速射する。
撃った弾丸は三発。
当然弾かれてしまいだろうと想像していたのだが……少し様子がおかしかった。
怪人がまた防御したのだ。
腕で丁寧に、と言えば良いのか。
撃ち放った弾丸を全て叩き落としてきた。
三発もの弾丸を叩き落とせるその身体能力と動体視力に目眩がする。
だが同時に感じるこの違和感。
「メンドクセェッ!」
そして怪人が放った俺にも理解出来る言葉に驚いてしまい……次の瞬間腹が貫かれていた。
しかもそのまま壁に運ばれて叩き付けられるというおまけ付き。
意識を失わなかったのが奇跡に等しい。
「ゲホッゲホッ! オェッッ!」
大量の吐血を撒き散らして二回目となる死の感覚を思い出す。
こうして俺の死に体が完成したというわけだ。
「おい、どうする気だ?」
いつの間にか合流していた鎧の怪人は目線を『空』の魔法使いが居る場所から逸らしもしない。
そして黒の怪人は俺を貫いていない方の指を目の前に持ってくると、指を鳴らして何かを唱えた。
「『
だが何も起きない。
というか俺も痛みで正気を失いそうで限界だ。
その前に隙を見て自殺をしなければならない。
じっと、その機会を伺う……ん?
何だ、これ?
「どうした」
「こいつ、ここまでされて俺に恐怖を抱いていやがらねぇ……ちゲェな、それよりも何か違うことを思ってやがる」
拳銃は既に地面に転がっている。
腹を手で貫かれた時に離してしまった。
だがまだ武器はある。
右手をゆっくりと後ろ腰へ回し
コイツに対しては玩具そのものだろうが、少しでも手の感覚が残っている内に作戦を決行する。
「し……」
「アン?」
「死ね、化け物」
「コイツ……ッ!」
潜ませていたナイフを黒の怪人に向けて突っ込ませる。
黒の怪人の胴体のある部分に向かって。
それと同時に俺の右腕から重力が消えた。
宙を舞う拳を握り締める俺の腕が見える。
腕1本で済むのなら最高の結果だ。
この瞬間が欲しかった。
既にピンは抜いている。
そして力が抜けた拍子にそれがごとりと音を立てて地面に落ちた。
「ォ? ……ォオオオ!!??」
「ゴァ! いや、コイツ自爆する気か! 離れろ!」
腹から手が抜かれ、出来の悪いスプラッター映画にありそうな、信じられない程の大量の血が地面に流れ落ちる。
黒の怪人は逃げようとしたみたいだがもう遅い。
光が全身を包み、腹から出血らしきものをしている黒の怪人が目の前に見える。
そして、轟音と共に全てが消え失せた。
▲▼▲▼▲▼▲
以上が俺の最初の自殺で二度目の巻き戻しである。
いやほんとに成功して良かった。
あそこでナイフで刺した時、腕ではなく首を飛ばされていたら終わっていた。
とは言え、ピンを抜く隙を作らなければ自殺が失敗に終わっていた可能性が高いのであれしか手はなかったと思える。
まぁ、そんな幸運を噛み締めながら俺は現在
そう、あの基地ではなく町中。
それもヘクスが居ないことからあの時よりも後になっていると思われる。
初めて巻き戻ったときなど驚きすぎて操縦をミスり転倒、足と腕を片方ずつ折ってしまいそのまま拳銃で自殺することになってしまう凡ミス。
聞こえない筈のヘクスの思わず漏れてしまったような悲鳴が聞こえた気がして思わず笑いそうになってしまった。
いや笑い事ではないが。
だが、収穫はあった。
最後のあの瞬間、あの黒の怪人の腹から出血の様なものをしていた。
つまり、何らかの要因でナイフ程度の攻撃が通じたという事である。
思えば最初からあの怪人は執拗な防御をしていたように感じる。
そして最後のあの時に見付けた、
胸から頭部にかけて砕けていると表現して良いそれは、一抹の希望。
『空』の魔法使いがつけてくれたやつの甲殻の破壊痕で、ナイフで傷をつけられた最大の理由である。
最初は偶然だと片付けられたそれが、確信に至ったのは俺が
最初に撃った狙撃があいつの胸に当たってそのまま撃沈した。
死んでいたかどうかその後直ぐに自殺したので確認できなかったが…。…ダメージが通るという確信が得られた。
だがやはりそれはあの黒の怪人だけ、鎧の怪人は何というかそれ以前の話だった。
奇襲狙撃した筈の弾がガードされるのだ、左手部分にある分厚そうな装甲で。
鎧の怪人の姿はパッと見で中世の騎士にも見える鎧を纏ったような外見をしている。
全身が固そうでまともな攻撃が通じなさそうなのは勿論だが、顔に当たる部分のバイザーと呼ばれる所にある視界を確保する穴、そこにもし撃ち込めたらと希望を持っていたのだがあれは無理だ。
やはり怪人を倒すのは魔法使いの手で、ということなのだろうか。
そういう決まりは無くても俺の現在武装であの鎧の怪人を殺すことは不可能だと結論付けた。
ということであの鎧の怪人はどうにかしてやり過ごす事にして方針を決定したのが大体二十を越えたくらいからだろう。
その頃くらいから一つミスる度に自殺するを繰り返した。
自分でも自分の命の価値がすり減っている事が自覚できた。
けれど終われない。
終わってはいけないのだと自分に言い聞かせ、自らに向けた拳銃の引き金を引き続けた。
最初のギリギリ自殺できたあの状況が脳裏にこびり付いている。
次は無理だと、次は失敗すると己の何かが声を上げている。
最初の正気への懸念はどこへ行ったのか。
今の俺は果たして正気なのか。
自殺という詰みを積み重ねている俺は正しいのか。
そんな意味の無い考えが何度も頭を過るようになってしまった。
だが辞めてしまいたい、と思った事はない。
何故ならば俺は今、見られているからだ。
ヘクスに。
そして伝えられたからだ、折れないでくれと。
だから戦って、戦って、死んで、戦って来た。
数える回数も億劫になってきたが、それでも全くもって辞める気にはならないし何なら必ず成し遂げるという気持ちは更に強くなっている。
果たして、これは正気か狂気か。
いや、だからどうでも良いんだそんなことは。
バイクを走らせて、また魔法使いの元へと向かった。
▲▼▲▼▲▼▲
死んだ。
自らが足元に落とした爆弾で自殺した。
死んだ。
巻き戻しの影響か、バイクの操縦をしくじって手足を折ってしまいやむ無く自害した。
死んだ。
狙撃に失敗して、襲い掛かられる前に撃つ前に足元に落としていた爆弾で死んだ。
死んだ。
今回は狙撃に成功したが、前と同じく足元に落としていた爆弾で死んだ。
死んだ。
ルートを変えて遅くなってしまい、既に魔法使いから魔核を抜かれた後で、それに気付いた彼は手遅れだと理解して死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ死んだ死んだ死んだ死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んだ。
十を越えるまではまだ必死さがあった。
二十を越えたくらいからそれが消えた。
五十を越えたぐらいから感情が消えた。
七十を越え、言葉が消えた。
そして───
そして、百を超えても彼は死に続けた。
それくらいになると彼はまるで機械のように精密な射撃でゴァを殺せるようになっていて、腰から取り出した拳銃の速射も一発も外さないようになっていた。
だけど死んだ。
ただの人間には絶対に勝てないようになっている怪人相手では、達人の様な銃の腕でも、銃自体が怪人を殺せるように出来ていない。
守りを壊された怪人相手には通じても、未だ万全な
彼に対しての懺悔をしよう。
私は彼に対して、ほんの少しの期待しか寄せていなかった。
彼に目を付けたのはただ単に、
彼女の結末は必ずそれであり、誰一人として変えることが出来ない筈だった。
そう、その筈だった。
そこに彼が現れた、彼女の結末をほんの少し……救いようの無い終わりから『最後に助けて貰え、自分のために泣いてくれる人に看取って貰える』という
私の知らない終わり方だった。
だから私は希望を見てしまった。
ほんの少しだけ光っていたその明かりに。
彼と話してその人間性に興味を持った。
彼の行動は滅茶苦茶だが、その行動原理に好意が持てた。
だけど私が干渉した、してしまった。
ここだけは私は存在するだけでその運命に彼ごと引きずり込んでしまう。
だから見守ることしか出来ない。
そして、遂に彼の足が止まってしまった。
何事かをぶつぶつと呟いて、私はこう思ってしまった。
あぁ、壊れてしまった。と
むしろ良く持った方なのだ、良くやってくれたものなのだ。
だから、終わりにしよう。
夢を見る時間はこれで終わり。
厳しく、鬱になる程の地獄の世界をまた進んでいこう。
そう決意して、私は
その瞳に宿る、真っ黒な焔を。
粘りっこく、泥々とした、決して燃え尽きないどす黒い光を。
私はそれを見て動けなくなってしまった。
姿を表して、終わりにしよう。と声を掛けるつもりだったのにそれすら出来ずその光に囚われる。
そしてどれ程時間が経っただろうか、おもむろに顔を上げた彼の瞳には既にあの光はなく、ずっと見てきた疲れ果てたような表情が浮かんでいた。
自然に、いくら繰り返したか分からないほど当たり前に、簡単に、彼は自らの頭に向けて拳銃を撃ち放った。
私は動けない。
世界の巻き戻りが始まった今もまだ動けないでいた。
そして、世界は幾度目かすら定かではない巻き戻しを始めた。