鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
これって泡「それ以上いけない」
『4、怪人について相対した結果、
魔法使いが戦闘をした傷付いた個体ならば最低でも戦闘不能状態まで追い詰める事が出来る。
※ヘッショかまして頭部を半分吹き飛ばしたとしても即死ではないから注意。
身体能力はやはり別格と言うべきかどう考えても勝てるものではない。
象と人間くらいの力の差はありそうだ。
近距離攻撃は様々、だが遠距離攻撃は今のところ何故か共通して投石を──
「そう言えば何でだ?」
「どうかしたのかい、ムーヴ君」
あの後、やっと行動が出来るようになったヘクスの助力も有り、俺達はどうにかあの場所を離れる事に成功した。
逃げた先で一時の潜伏をするために俺は二人を連れ、一番最初に巻き戻しをする前に引きこもっていたあの地下へ行くことにした。
少なくとも二週間俺はあそこで何をするでもなく、何もされずに生き残ることができたのだ。
状況が違うとはいえ一日二日くらいなら大丈夫じゃないか?
という考えで他に行く当ても無かったので向かうことにした。
ヘクスは支えてくれている間、終始無言だったが、俺も精神的に疲労感を感じていたので一切の会話無くこの場所に来たのだった。
お互い喋り始めたのは俺が目的の場所に着いた時。
『……なぁ、ムーヴ君』
『…………何だよ』
『これって──』
『言うな』
『──風俗じゃね? しかも泡『それ以上いけない』……』
そりゃ怪人も軍人も調べに来ないだろうという場所に、俺の潜んでいた地下への入り口がある。
俺一人の時は何にも感じなかったが、何で俺は女子供を連れてここに来ているんだろうか……
萎えて折れそうな心を押さえ付けてヘクスと、その背中に背負われているハクを連れて中に入る。
当然ながら中には誰も居ない。
気まずい空気に耐えながら無言でずんずんと進んでいき、従業員用のスペースの更に奥にある部屋まで行く。
その部屋の動くようになっている棚の後ろに地下への入り口がある。
もう顔も名前も知らない、他人が教えてくれた夢のある秘密基地だそうだ。
言っていた本人はどこに行ったのか定かではない。
だがそれを有効活用する。
今繋がりが有ろうが無かろうが、場所が良かろうがヤバかろうが使えるものは使うしかないのだ。
と言うわけでその地下に俺達は今居る。
それほど広くはないし、一つしかないベッドは今『空』の魔法使いであるハクが占拠している。
そして俺が今、二人掛けの割には少し小さい位の大きさのソファーに腰掛けながら小さなテーブルに置いたこの書いている手帳だが、ヘクスが手渡してくれた新しい物だ。
つまり一から書き直している。
巻き戻しの際毎度のごとく投げ捨てていたのでどこかで取って来ようか、とこの地下で考えていた時ヘクスが手渡してくれた。
ヘクスが言うには特殊な力があるらしいが今のところそれを感じたことはない。
なので普通の手帳として使っているのだが……何故怪人の遠距離武器が石なんだろうと疑問に思ったのだ。
「怪人はあの二体とも遠くの俺に対して石を投げてきただろう? 綿密には違うものかも知れないが何か原始的で物理的過ぎないか?」
「あぁ、その事か」
「知ってるのか?」
ならば是非教えてほしい。
対策は立てられないかも知れないが知っているのと知らないのでは大違いだからだ。
「人は昔から批難したり、悪いことをしていると思った相手に石を投げるだろう? それは比喩でも物理でも同じく。それを呪術として形にしたのがあの投石だ。言うなれば恨みを持った相手に威力が上がる比例術式と言ったところか」
──受ける側の心持ちで威力が落ちる事を考えると片手落ちだよね──とはヘクスの弁。
「成る程な、じゃあ最後のあの投石を被害ゼロで防げたあの魔法はかなり凄いんだな」
「うん? 『空』の魔法が凄いのはそうだが、あの程度の防御では砕けてもろとも死んでいただろうね……あれは狙ってやった訳ではないかな」
「何の事だ?」
「最後、あのゴァという怪人が投石呪術を使おうとした時君が撃たれる前に撃ち殺しただろう。あれのお陰で呪術が切れ、ただの身体能力だけで投石が放たれたんだ。怨念だけで体を動かすゴァも異常と言えば異常だね。まぁ、ともかくそれがあって威力が大幅に押さえられていたから、もし直撃したとしても……全身複雑骨折で済んだんじゃないかな?」
「駄目じゃねぇか」
という事は……
「もし、あの時の銃撃で殺しきれてなかったら?」
「そりゃあ万全の威力で──魔法の防御をぶち破った上で君は跡形もなく消し飛んでたんじゃないかな? 何しろ死に際の投石呪術だ、恨みも怒りも最高潮だろう」
あの行動は結果的に見ては大成功だったのか……だが外していれば即死。
やはり自殺が安牌だったのは間違いないようだ。
改めて危険な橋を渡ったという震えを感じながらそれも含めて手帳に書き込んでいく。
大体が書き終わり、手帳を閉じて今度は装備の点検を始める。
先の戦闘でかなり損耗したからな。
どこかにガタが来てもおかしくはない。
本気の生命線だ、慎重にもなる。
先ずはボアダムから、マガジンから一つ一つ弾丸を取り出してチェックする。
それをじっと見ていたヘクスだったが遂に暇すぎたのか、ふわりと浮く事すらやめてソファーの空いているスペースに腰を下ろす。
狭い。
素材が何で出来ているかすら予想も付かないその柔らかでぶかぶかなローブを無造作に下敷きにしている。
……皺にならないのだろうか。
そう思いちらりと視線をやるとじっと俺の事を見ていた。
なんだ、何なんだ……集中が出来ないのでやめて欲しいんだが……
「なぁ、暇なんだが」
「ここには何もないぞ」
「では暇潰しに一つ、私が気になっていた事を聞くとしよう」
気になっていたこと?
この何でも知っていそうなヘクスが何を聞きたいのだというのか。
逆に気になって手が止まってしまう。
仕方無く手に持っていたマガジンを小さなテーブルの上に置いてヘクスの方に目線をやる。
「別に手を止めなくても良かったのだが……」
「いや、気になって作業が進まないからな」
「それは問題だ。手早く済ますとしよう」
そしてヘクスはゆっくりと人差し指を俺の胴体に向ける。
「ムーヴ、君……ずっとそのボロボロの服を着ているつもりなのかい? 全身汗もかいていただろうにシャワーも浴びないし」
「えっ」
「いやこの際はっきり言うと……ちょっと匂うよ」
「なん、だと……」
うそじゃん……
そんな馬鹿みたいな事を呟いてしまうくらい動揺してしまっている俺。
ていうかマジか。
そこそこ汗かいたとは思ってたけど俺、臭っていたのか?
「君が気にならないというのならこのままでも良いが」
「いや、速攻でシャワーを浴びてきます」
「そうか」
クスクスと笑いながら慌てて立ち上がり準備を始める俺の様子を伺うヘクス。
いや、完全に気にしていなかった。
正直、指摘されなければこのまま寝てしまうくらいにはもうどうでも良いかなとか考えてた。
俺はシャワーを浴びるため、拳銃を片手に持ち、荷物から着替えを取り出してから階段を上がっていく。
……というかこの場合離れられないと言っていたヘクスはどうなるのだろうか。
まさかシャワールームの中にまで付いて来てしまうのだろうか。
そんな疑問を他所にヘクスは一人占めとなったソファーに寝転がっていた。
えぇ……
「ん、どうしたんだい?」
「いや、何でもない。すぐに戻る」
特に問題はなさそうなので、俺は手短に済ませるために急いでシャワールームに向かった。
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「いやぁ、彼……完っ全に自分の事どうでも良いとか思ってるんだろうねぇ……」
ヘクスは一人になったソファーで天井を見詰めながら一人で呟いた。
「私が指摘しなければあのままずっと装備の点検とこれからの事について考えていただろうし」
ヘクスが思うのは、異常な程の集中でずっと装備の点検と手帳への記入をしていた名前を失った彼について。
「信じられるかい? あんな事があったのに彼、今だに何も飲んでないし食べてないんだぜ? 緊張で喉を通らないとかお腹が空いてないとかじゃない、ただ単に優先順位が低いんだろう」
ヘクスは名残惜しそうにゆっくりとソファーから立ち上がる。
「君を助けるまではまだもうちょっと人間味が有ったんだぜ……?」
そしてゆっくりと、ソファーを回り込んで一人の魔法使いが眠るベッドへと近寄る。
「起きてるんだろう? 『空』の魔法使いの空成ハク」
瞬間、ヘクスのローブが舞い上がる程の風が完全な密室で舞い上がり、テーブルの上に立ててあったマガジンが倒れる。
そして、空成ハクがベッドの上で起き上がり、腰を落とした体勢でヘクスを鋭い視線で睨み付けていた。
ヘクスは余裕綽々の表情で、ふざけた声色で言う。
「そんなに怖い顔をしないでおくれよ、私は戦う力なんて無いただの美女なんだ」
ハクの警戒は解けない。
ハクは片手を前に付き出し、それをヘクスに向けながら小さな声で絞り出すように言った。
「貴女は何? そして彼は誰? なんで私の名前を知ってるの」
「私はヘクス、彼は名前を失った今はムーヴと呼ばれるだけの存在。今はもう、それ以上もそれ以下も無いよ。魔法使いさん」