大変なことになってしまった……。
パンドラズ・アクター様の去った部屋で、ラナーは頭を抱えていた。訓練とはいえ自分がアルベド様の代理を行うなど、それこそ一挙手一投足の失態すら許されぬ。今のラナーには荷が重すぎる職責。
〝魔導国宰相〟ならまだしも、〝全領域守護者並びに階層守護者統括〟という、初めて聞いた時は疑問符を浮かべた地位がナザリックにおいてどれほど意味のある肩書であるか、この地に来るまで正しく把握できていなかった。
直属の上司がそんな魔導王陛下の右腕とも言える御立場というだけでも厄介だというのに、その代理など自分に務まるはずがない。
(下手を打てば、わたしもクライムもまとめてエサか玩具かモルモットね……。)
自分は既にナザリックへ首輪を差し出している。ラナーの想像する最悪の事態など遥かに凌駕する地獄の所業が、自分だけならまだしも、クライムに行われるなど考えるだけで悪寒が止まらない。歯をガタガタと震わせながらも、ラナーは状況を整理する。
(避難訓練と仰っていたけれど……。つまりは急事に際しての事前演習。今回は万全でなかろうと、せめて失望はされず、改善点を魔導王陛下やアルベド様にご納得いただける内容まで考察できること。何が起こるか解らない事だらけだわ。魔導王陛下は情報収集の重要性を説かれている御方。まずはアルベド様とパンドラズ・アクター様より集められるだけ情報を集めなければ。しかし、魔導王陛下がわたしに何を求めているのか解らない。行える全力を尽くし、天命を待ち、天命がわたしに味方するのを祈るしかないわね。)
ノックの音が鳴り、ラナーは平静を演じる。乾いたノックの音色が今のラナーには神より賜る福音にさえ思えた。そして普段ならばクライムが入るのを待つところだが、思わず扉に向かって駆け出してしまう。
「クライム!お帰りなさい!」
「ら、ラナー様!どうされたのですか!?あの、その……」
クライムの手を引っ張り抱擁する。何度も何度も頬に唇を落とし、赤面しながら困惑しているクライムに癒される。
(大丈夫よクライム。あなただけはわたしが守ってあげるから。)
クライムを抱きしめその純粋な瞳を見据えると、今までの震えも悪寒も嘔気も嘘のように消えていく。ラナーはクライムの身体に痣が出来るほどに抱きしめる。
覚悟を決めるしかない。全ては【幸せに暮らし続ける】ために。
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大変なことになってしまった……。
アインズは癖になりかけている溜息の真似事をしかけ、寸前で留める。以前ローブル聖王国で自分の無能な行動を正当化するため用いた方便である【避難訓練】だが、この度アルベドとデミウルゴス、パンドラズ・アクターの3人が知恵を合わせ、本格的に実施されることと相成った。
今回の想定は【ナザリックにアインズもアルベドもおらず、帰還時期は不明。連絡しかとれない状態】というもので、魔導国的には【王も宰相もいない】ナザリック的には【絶対支配者も守護者統括も居ない】という本格的な緊急事態だ。
(本当はそんな状態作らないのが一番なんだけれど、俺も結構行動が身勝手だし、アルベドだって暇じゃないからなぁ。それにシャルティアを洗脳した存在といい、〝リク〟といい、この世界は未だ未知に溢れている。考えたくないがアルベドにもしものことがあれば、復活までの時間は不在であるし、そうなればみんなは俺を安全な場所に幽閉するだろう。国家運営では相手を
この訓練がおこなえるようになった理由としては
(シャルティアをドワーフの国に連れて行くとき〝様々な可能性を〟なんてご高説垂れたのは俺だ。)
だからこその訓練なのだともわかる。
(それはわかるよ、でもさ……)
「本来であれば引継ぎなど万全を期すべきか迷ったのですが、緊急事態を想定しこのような形をとらせていただきました。これはパンドラズ・アクターにも知らせていません。二人は一切の情報を0から構築し、自ら動くこととなります。アインズ様へ最善の報告が出来ない愚かな我々を御赦しください。」
(避難訓練で本当に家に火をつけてどうする!!)
アインズは今、護衛の