滅国の魔女、御身の前に。   作:セパさん

11 / 36
避難訓練 ② 権力の委託

「魔導王陛下もアルベド様も、既にいらっしゃらないのですか……。」

 

 ラナーは避難訓練に際し最善を尽くすため情報収集や引継ぎを行おうと考えたが、早速出鼻を挫かれた。既に【訓練】は始まっているらしい。幸いパンドラズ・アクター様とは連絡が取れ、会議室で話す事は叶ったのだが……。

 

「はい。わたくしも一杯食わされてしまいました。わたしたちはこれから我が神の与え給う試練に挑まねばなりません。」

 

 どうやらパンドラズ・アクター様にとっても事前予告無く魔導王陛下とアルベド様が雲隠れしたことは予想外であるらしく、声に緊張を宿している。自分を試す演技の可能性も捨てきれないが、今考える優先順位はそこではない。

 

「魔導王陛下へ<伝言(メッセージ)>を送り、陛下のご決断をナザリックの者へ周知致しましょうか?」

 

 ラナーはこのナザリックにおいて一番に抑えるべきポイントを具申する。ナザリック最大の異様性は多様な強者が揃っていることでも、莫大な財を持っていることでも、人外の知者が多数いることでもない。

 

【魔導王陛下を頂点とした、上意下達の一糸乱れぬ組織であること。】

 

 それがナザリック最大の長所であり、最大の弱点だ。

 

 普通組織と言うのはどれだけ名君が治めていようと、部下の忠義が厚かろうと、軽口や陰口のひとつはこぼれるのが当たり前。しかし、この地は誰しも魔導王陛下のため働くことを自身の存在意義と考えており、命令は絶対。裏切り者の存在など心配する時間が無駄なほどだ。【個】の集合体とはそれだけで脅威だというのに、これだけの化け物たちが一つの目的に邁進しているなど恐怖でしかない。

 

 だが、権力がひとつに集中しすぎているのは大きな危険を孕む。あの智謀の怪物たる魔導王陛下は、その危険性が解っているので、今回のような訓練を徹底しているのだろう。もし本当に魔導王陛下と一切の連絡がとれず姿も見えない……崩御なされた可能性まであるとなると、ナザリックがどのように暴走するか、ラナーの頭脳を以ってしても見当が付かない。

 

「ええ、最優先事項ですね。もし通信すら繋がらなければ別の手を打たなければなりません。」

 

「では僭越(せんえつ)ながらわたくしが……。」

 

 ラナーはそういって<伝言(メッセージ)>を宿した巻物(スクロール)を起動させようと考え……

 

 今回の訓練は確実に自分の能力を重点的に見られているだろう事を思い出す、ならば積極的に動くだけではダメだ、慎重性こそ重視すべきだと判断する。

 

「パンドラズ・アクター様。〝確実に魔導王陛下へ繋がり、防諜が万全〟なマジックアイテムは御座いますでしょうか。」

 

「はい、用意しておりますよ。予想外の事態でも……いやだからこそ軽率な行動は控えるべきですからね。」

 

 〝危ないところだった……。〟そう思いながらラナーは簡素なペンダントを受け取り、改めて<伝言(メッセージ)>を送る。

 

 <伝言(メッセージ)>が繋がるまでの数秒で幾多もの可能性を奔走させ、意思の力だけで震える身体を支える。

 

 そして……。

 

《どうしたかな?》

 

 繋がった!とりあえず〝魔導王陛下と一切連絡がとれない〟という最悪の事態だけは避けられそうだとラナーは一瞬安堵しかけ、今の場面もおそらく魔導王陛下はご覧になっていると自らを律する。

 

「魔導王陛下、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフで御座います。」

 

《ご苦労。時間が無いので今後はラナーでいい。わたしとアルベドだが、急務によりしばらくナザリックへ帰還出来なくなりそうだ。未知の敵が監視している可能性もある<伝言(メッセージ)>も最小限に抑えてくれ。》

 

「畏まりました。魔導国の王城を訪れた者やナザリックで謁見を希望する者に対しては、陛下が不在であるとお伝えいたしましょうか?」

 

《ふむ……。一国の王が期間も定めず不在であるというのは不味いな。パンドラズ・アクターと貴女で魔導国の混乱を招かず現状維持に努めることは可能か?》

 

「陛下のご命令であれば最善を尽くします。」

 

《わかった、ではわたしの影武者をパンドラズ・アクターに、貴女にはアルベドの代理を行ってもらおう。》

 

「それはご勅命ということでよろしいでしょうか?」

 

《そうだな……。ではアインズ・ウール・ゴウンの名において勅命を下す。今この時を以ってパンドラズ・アクターをナザリック地下大墳墓統治者並びに魔導国魔導王代理、ラナーを魔導国宰相並びに全領域守護者統括代理とする。デミウルゴスには二人の補佐を最優先とするようわたしから言っておこう。》

 

 ……やはり魔導国だけでなくナザリック(化け物の巣窟)の管理もしなければならないのか。ラナーは手に汗を握る。

 

「ご勅命承りました。……アルベド様がお近くにいらっしゃるのでしたら、簡単でも引継ぎを頂きたいのですが。」

 

《少し待て……。…………。〝わたしに恥をかかせるな〟とのことだ。では幸運を祈る。》

 

 そういって<伝言(メッセージ)>は途切れた。ラナーの背中に冷や汗と脂汗がブワっと吹き出す。明るい展望がまるで見えない最悪の任務と言っていい。地位や王位・爵位に執着していたリ・エスティーゼ王国の貴族たちの気持ちなど全く理解できなかったが、自ら責任ある立場に就きたいなど、今となれば彼らは狂人だったのではないかとさえ思う。

 

「パンドラズ・アクター様、魔導王陛下からご勅命を賜りました。」

 

「…………。」

 

「パンドラ様?」

 

 ラナーから見ても、パンドラズ・アクター様の身体が震えているのがわかる。一体どうしたというのだろう?

 

「お、お、お、OHOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!わたくしが!?父上の!?だ、だ、だ、代理!?そんな大役、役者に過ぎないわたくしがあああああああああああああ!!」

 

「ぱ、パンドラ様!落ち着いて下さい!」

 

 この方も自分を試す首脳側(バンカー)にいるのではないのか?何故こんなに取り乱しているのだろう?ラナーはこの世の終わりを告げられたような慟哭とも思える絶叫に困惑しつつ、腹筋が千切れるのではないかというほど後ろに仰け反っているパンドラ様から恐る恐る距離を取る。

 

ラナー嬢(フロイライン・ラナー)!父上……じゃない、アインズ様はわたくしに影武者ではなく〝ナザリック地下大墳墓統治者並びに魔導国魔導王代理〟とご命令されたのですよ!!貴女でしたらその意味がわかるでしょう!?」

 

 ラナーは即座にパンドラ様の絶叫の意味を理解した。〝影武者〟と〝代理〟の大きな違いは決定権の有無。つまり先ほどの勅命でパンドラ様は、あの智謀の怪物を本当の意味で演じなければならなくなったのだ。ナザリックにおいてこれほどの重責はない。

 

 自分に対するテストだけと自惚れていた己がどれだけ自意識過剰だったかと恥ずかしくなる。魔導王陛下は自分の創造した息子に対してもテストを行うつもりだ、そして失態に慈悲をかけるような真似はしないだろう。無能ならば自らが創造した息子だろうと切り捨てることを厭わない本物の怪物だ。

 

「パンドラ様、お気持ちお察し致します。まずは皆に状況を説明しなければなりません。まず各守護者、そしてセバス様、七姉妹(プレイアデス)の皆さまには早急にお伝えする必要があるかと具申いたします。」

 

「そうですね……。その仕事はラナー嬢(フロイライン・ラナー)にお任せしても?」

 

「畏まりました。〝魔導王陛下〟」

 

 ラナーは一礼して、パンドラ様に現状を把握してもらう一言を発する。ラナーの一礼に、パンドラ様は卒倒しそうに(おのの)いている。……こうなれば二人に上下関係などあってないようなものだ。ラナーとパンドラ様は、〝どちらかでも失態を犯せばお互い最悪の事態に陥る〟という運命共同体となってしまったのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。