滅国の魔女、御身の前に。   作:セパさん

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避難訓練 ③ 多事多難

「この度魔導王陛下より〝魔導国宰相並びに全領域守護者統括代理〟の大役を(おお)せつかりました、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフに御座います。改めてご説明させていただきますが、現在ナザリックには魔導王陛下とアルベド様は居ない……ということになっております。魔導王陛下のご帰還まで、皆様と意見を交換したくわたくしはこの場に立っております。」

 

 ナザリック十階層玉座の間。ラナーは【あまりにも畏れ多いから】と玉座の前に立っている魔導王陛下に変身したパンドラズ・アクター様の横に立ち、階層守護者やセバス様、七姉妹(プレイアデス)の方々や、化け物たちを前にしていた。

 

 とはいえ偽物の魔導王陛下に跪く者は一人としておらず――ラナーには全く見分けが付かないが――椅子を用意して各々(おのおの)腰掛けてもらっている。

 

 正直に言ってしまおう、視線が痛い。このナザリックにおいて自分の命がどれだけ軽いかは自覚している。そんな存在がいきなり〝あなたたちの上司です〟なんて言われれば誰だって納得できないだろう。このままでは議論さえ始まらない。そう判断したラナーは覚悟を決めて一拍置き、大きく深呼吸を行い……

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下のご勅命に従えぬ、信念なき者は速やかに去りなさい!信念ありし者は留まって議論に参加しなさい!」

 

 ラナーの覇気を孕んだ渾身の一言で、敵意にも似た視線が一気に薄れる。

 

 自分如きが魔導王陛下の聖名を口にした事で反感を買う恐れのある賭けだったが、流石に階層守護者ともなると勅命の重さは弁えているようだ。ラナーは安堵と同時に、改めて魔導王陛下の力に畏怖を覚える。

 

 そう、普段ならクライムと一部屋さえあれば他は何も望まない、自分を侮蔑しようが差別しようが好きにすればいい。しかし、今だけは自分の言葉に従ってもらわなければ困る。

 

「へぇ、思ったより度胸があるではありんせんか。この程度の殺気で気を失うようならなぶってやろうと思っていんしたが。」

 

「お姉ちゃん、なんだか思っていた感じと違うね。元人間だからもっと弱いのかと……。」

 

「なんか生意気~~。でもまぁアインズ様がお決めになったならしょうがないよね。」

 

「アインズ様ノゴ命令ニヨリ守護者統括代理ノ地位ヲ任サレタダケアル。タダ知恵ガ回ルダケデハ無イヨウダ。」

 

 ……何とか第一関門は突破と言ったところだろうか。デミウルゴス様を見ると、小さく頷いている。

 

「では改めまして、皆様に意見を求めます。お話はまず魔導王陛下よりお願いします。」

 

 パンドラ様は黄金に輝く荘厳な杖をカツンと鳴らす。

 

「皆に話す事の1つ目であるが……ナザリック防衛の原則に基づき、ナザリックの警戒レベルを本来であれば最大限まで引き上げるところ。しかしそうなると各自の仕事に支障が出るだけでなく、魔導国そのものが機能不全となる。故に、プランJ……防衛の一番槍であるシャルティアと階層守護者3名を必ずナザリックに残し、各自連絡を密にしつつ業務に従事する方向を取りたいと考える。」

 

「ふむ、妥当でしょう。わたくしは賛成です。」

 

「どう思う、お姉ちゃん?」

 

「え?う~ん。ナザリックさえ無事なら何とでもなるんだから一番防衛するべきとは思うけれど……。アインズ様の御計画に支障が出ることは不敬だよね。パンドラやデミウルゴスが考えたならちゃんと回るだろうしとりあえず賛成かなぁ。」

 

「此度ノ想定ハ、アインズ様ガ無事デ連絡ガ取レル前提ナノダロウ?ナラバ賛成ダ。」

 

「わらわはお留守番でありんすか……。まぁ言いたいことはありんすが、反対する理由はありんせん。」

 

「では決定だ。二つ目、わたしはわたしの役目をそのまま遂行する。ラナー。」

 

「はい、魔導王陛下。本日のご予定としてカルネ村の薬師ンフィーレア・バレアレ、同じくカルネ村よりルーン工匠ゴンド・ファイアビアド、エ・ランテル冒険者組合長アインザックとの謁見を予定しております。この予定を崩さない方向で考えておりますが、ご意見を願います。」

 

「わらわ達ならまだしも、下賤な人間やドワーフ如きがパンドラの変身を見抜けるとは思いんせん。」

 

「えっと……。ぼくもそう思います。」

 

「イヤ、ソレハ早計ダ。イズレノ3人モ、アインズ様ガ御自ラ御計画ヲ立テ目ヲ掛ケテイタ者達。本来デアレバ褒美ガ必要ナ発明ヤ発見ノ報告デアッタラドウスル?」

 

「「あぁ……。」」

 

「わたしもコキュートスの意見に一部賛同だ。信賞必罰の常を誤るなど不敬の極み。しかしアインズ様のご帰還が何時になるか解らない以上、あまり長引かせてはあらぬ風評が立ち、他国に邪推されてしまう。ルーン工匠は秘匿の存在なのでいくら長引かせても問題ないが、少なくとも薬師と冒険者組合長の謁見は行うべきだろう。しかしコキュートスの懸念に対策は必要だね。アインザックから画期的な発明の話が出る可能性はほぼ無いが、あの薬師は別だ。手に負えない発明を見せられた場合は、アインズ様へ<伝言(メッセージ)>で即座に報告することを忘れないように。」

 

「では予定を変更し、カルネ村の薬師ンフィーレア・バレアレ、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックとの謁見を行いますが異論のある方はおりますか?」

 

「……ぼく、なんだか難しくてよくわからないや。でもデミウルゴスさんが良いって言うなら、大丈夫なのかな。」

 

「こらマーレ!ちゃんと自分で考えなさい!ナザリックが他の国如きにご機嫌伺いなんて癪だけれど、わたしは賛成。」

 

「ウム。デミウルゴスノ案デアルナラバ異論ハ無イ。」

 

「わ、わらわもありんせん。」

 

「では3つ目、モモンの不在についてだが……」

 

 

 ●

 

 

 玉座の間で都合4時間かけた会議の議事録を一言一句不備無く纏め終えたラナーは、9階層の会議室ではしたなくも椅子の背もたれに思いっきり寄りかかっていた。早くクライムに会いたい。流石に【守護者統括代理】がペットを連れて歩く訳にもいかないので、無理とは解っているが横に置いておかないと自分の精神が摩耗し、やがては喪失してしまいそうだ。

 

「……なんとかまとまったでしょうか、〝魔導王陛下〟。」

 

「ええ、玉座の間での一喝は見事でしたよ。あれが無ければ誰もあそこまで真剣に話をしてくれなかったでしょう。」

 

 文字通り命懸けの行動はどうやら当たりを引いたようだ。恐らくあのまま手を(こまね)いていたとしてもデミウルゴス様が議題が回るよう誘導して下さっただろうが、そうなれば自分は本当の御飾人形になってしまう。その先に待っているのは〝用済み〟と言う緩慢な破滅だ。

 

「大切なものを守りたいならば命だって賭けの道具にしなければなりませんから。手段が剣か魔法か……わたくしの場合、脳みそと演技であるというだけです。」

 

「なるほど、演技を道具とする気に食わない女と思っていたのですが、少しばかり貴女の評価を改めなければなりませんね。自分が心の底から憎い人間だろうと目的のためならば利用する精神はとても大切です。」

 

「やはり隠し通せないものですね。」

 

「先ほどの一喝に用いた言葉、ローブル聖王国の〝顔なし〟ネイア・バラハ嬢が演説で用いた言葉の引用ですよね。報告にあがっておりましたので、わたくしも目を通しております。」

 

「デミウルゴス様以外知識に無かった事は幸いでした。」

 

 〝魔導王陛下〟が「さて」と呟き、弛緩していた雰囲気が一変する。

 

「ではそろそろ謁見の時間だ。わたしを失望させるなよ。」

 

「もちろんで御座います。〝魔導王陛下〟。」

 

 

 ●

 

 

 エ・ランテルにある玉座の間、謁見はナザリックではなく魔導国内で行うこととなった。……パンドラ様はナザリックの玉座には最後まで座られなかったが、こちらには躊躇せず腰を下ろした。やはりナザリックの玉座とは特別なのだろう。

 

「アインズ様、エ・ランテル冒険者組合長アインザック様がお見えになりました。」

 

 ……曰く〝アインズ様当番〟なるメイドが(たお)やかに扉から入ってきて用件を伝える。彼女たちにも〝今玉座に座る魔導王陛下〟の正体は魔導王陛下から事前に知らせているが、ラナーの観察眼を以ってしても言動に変わりはない。

 

 影武者と言うのは本来最側近以外味方であろうと誰にも知らせないものなのだが、〝尽くす〟ことそのものに喜びを感じているのだろうか。

 

「ご苦労。通せ。」

 

 冒険者組合長プルトン・アインザック……直接面識はないが、かつては名をはせた冒険者であり、「未知を発見する冒険者」という魔導国の構想に共感を覚え、魔導王陛下と懇意にしている男だ。ラナーには面識がなくても、向こうは自分を見たことがあるかもしれない。

 

 そのためラナーは艶やかな金髪を結い、伊達メガネを掛けている。小悪魔(インプ)となっているなど向こうも想像外であろうし、変装としては十分だろう。

 

 扉が開くと年の割にガッチリとした体躯の屈強な男が礼服を着込んで歩き、臣下の礼を取る。そこそこ様になっている見事な動作だ。〝魔導王陛下〟は顎をしゃくりラナーに合図を送る。

 

「許可が出ました。拝顔の栄に浴しなさい。」

 

 晴れ晴れとした、それでいて決意に固められた顔立ちをしている。

 

「魔導王陛下、この度は貴重なお時間を頂戴し、感謝申し上げます。」

 

「うむ、久方ぶりであるな、息災であったか?」

 

「はい、この通り元気にやらせていただいております!登録冒険者も1000の大台までもう間もなく。閑古鳥が鳴いていた組合にも活気が戻り、わたくしの後任も育っております。」

 

「それは何よりだ。モモンのように強く高潔な存在が我が国から芽生えてくれれば、これほどの喜びはない。それにしても決意を固めた者特有の飄逸(ひょういつ)な顔立ちではないか。」

 

「いやはや、陛下にはバレてしまいますか。……実はアゼルリシア山脈周辺の遺跡にアダマンタイトの鉱脈と思われる特徴がみられたのです。更には200年以上前の遺跡であることから歴史的価値は計り知れません。」

 

 ……その情報はラナーも知っている。しかしアダマンタイト如きの弱い鉱石に時間を費やすのは無駄というのがナザリックの方針だ。そしてこの男のやけに晴れ晴れとした表情の理由を理解する。理由が理解出来ただけで、行動心理はサッパリ理解できないが。

 

「ああ、霜の竜(フロスト・ドラゴン・ロード)の……オラサーダルク=ヘイリリアルの縄張りであった場所のことか? 彼の竜はわたしが滅ぼしたが、あの地には未だ霜の巨人(フロスト・ジャイアント)といった脅威が存在する。なるほど、それがお前の選択であるならば、わたしは貴殿の意思を尊重しよう。」

 

「全てお見通しですか。ええ、わたしの過去の仲間たちと赴く予定です。出立の前に魔導王陛下へご報告できればと。」

 

「わたしが貴殿を復活させる……。なんて事を期待しているわけでも無いようだな。ふむ、冒険者組合が機能するよう引継ぎは万全に行い、未知へ赴くとよい。〝真なる冒険者〟よ。」

 

 アインザックは〝魔導王陛下〟の一言に感銘を受けたようで、深々と頭を垂れる。

 

「では良い旅を。武運を祈る。」

 

「魔導王陛下が退室いたします。」

 

(全て魔導王陛下の手のひらの上……か。)

 

 ラナーはそのまま〝魔導王陛下〟の退出を確認し、頭を垂れ続け感極まっている様子のアインザックをモルモットを眺めるような目で見ていた。

 

 

 ●

 

 

「なるほど、あの人間を〝運営者〟から〝指導者〟へ立場を変えさせ、最高責任者の成功体験から未知へ赴かせるカナリアを量産させる御計画だったのですね。霜の巨人(フロスト・ジャイアント)とて霧の竜を滅ぼしたアインズ様の御力を理解できないほど愚かではありません。アインズ様の下賜された短剣を見れば魔導国の人間であることは一目でわかる。あの人間は強かさも持ち合わせております、引き際を弁え、余程愚かな行為をしない限り目的を達成し帰還出来るでしょう。」

 

「う、うむ。しかし時に人間は他人どころか自分ですら予想外の行動をとる。少し賭けの要素は強いがな。」

 

「お戯れを。アインズ様が愚者の行動さえ完璧に読まれることはリ・エスティーゼ王国の一件で我々一同感服した次第に御座います。」

 

(いや!何考えてんだアインザック!短剣渡したのは何となく似合いそうだからであって、冒険に行けって意味じゃないよ!いや、今のアルベドの話を聞くと死ぬ可能性は低いのか?俺の頓珍漢な意見を鵜呑みにせず否定してくれる貴重な存在だ、バハルス帝国では顔つなぎもしてくれたし、魔物のエサっていうのはあまりいい気分じゃないからな。)

 

「それにしても先ほどの会議は見事な滑稽劇でしたね。わたくしの部下が暴走した時は肝を冷やしましたが、寛大な采配に感謝いたします。」

 

「なに、アルベドの代理を任せているのだ。あれくらい想定の範囲内だ。」

 

(んな訳ないじゃん!本当何考えているのか解らない女だ。守護者全員の前で一喝なんて俺でも出来ないぞ!?やっぱ生まれながらの王族って能力が違うんだなぁ。……ジルクニフと違って勉強になる点は全くないけれど。それと今更だけど……。)

 

「次は何が起こるのか。楽しみですね、アインズ様。」

 

(アルベドの距離がどんどん近くなってくるんだけれど!!なんかもたれて来てるし!!)

 

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