滅国の魔女、御身の前に。   作:セパさん

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倒錯的なお茶会

 〝食べたら効くはずの無い毒に当たりそう〟

 

 それがソリュシャンの目の前にいる元人間に対する印象だった。

 

 アインズ様より賜った大商人の我儘な令嬢を装っての情報収集で、至高の主が目を付けたのがこの女。てっきり計画の一部に利用して切り捨てるのかと思いきや、のうのうと栄えあるナザリックに……それも〝領域守護者〟なんていう肩書を引っ提げて入ってきた。

 

 あのセバス様の拾ってきた下等種は【慈悲】と【幸運】でナザリックにて〝メイド〟という地位を手にしたが、この女は【生まれ持った能力】と【実力】で〝領域守護者〟という地位と不老不死の異形種という2つを自ら掴み取った。

 

 自分ならここまで上手く立ち回れただろうか?……答えは当然〝(いな)〟だ。

 

 だからこそ〝一度会って化けの皮を剥ぎ立場を明確にしてやろう〟と、この場をセッティングしたはずなのだが……。

 

「まぁ!こんなに香り高い紅茶、王室でも飲んだことがありませんわ。」

 

「当然でありんす。下賤な人間界と比較しようなど、それ自体が不敬。とはいえ、これほど上手く紅茶を入れる能力を有する者はわらわの眷属か副料理長くらいでありんしょうが。」

 

「是非わたくしにもご教授頂きたいものです。」

 

「お前のペットにでも振舞うんでありんすか?わらわには理解できんせん。」

 

 共同発案者でありこの部屋の主であるシャルティア様は、最初こそ(いぶか)し気に目の前の女と接していたのだが、いつの間にか話が〝アインズ様の正妃は誰になるのだろうか?〟という内容に誘導された。

 

 そしてあの女がシャルティア様に何か耳打ちしたかと思ったら(てのひら)を返したように態度が変わり、ソリュシャンが来室しても中々出てこない最高級の茶葉をあの女へ振舞っている有様だ。――あの女はアルベド様の部下なのだから、シャルティア様の肩を持つ立場はマズいだろうに、何を話したのだろう?

 

(……精神の異形種、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。山の天気よりも機嫌の変わりやすいシャルティア様とこうも早く打ち解けるなんて。)

 

 ソリュシャンはカップを傾けながらハイライトの消えた瞳で、目の前の小悪魔(インプ)の形をした化け物を見据える。

 

「<魅了>の効果がある下着でありんすか?」

 

「そうです。位階魔法の<魅了(チャーム)>が掛かっているという意味ではなく、シャルティア様の素晴らしい魅力をより上げるという意味も含めた<魅了>です。」

 

「下着のような形の装備ならばぺロロンチーノ様が遺された中に沢山ありんすが……。」

 

「椅子として魔導王陛下がシャルティア様に御掛けになった際、シャルティア様はどの下着を纏っておりましたか?きっとそこにヒントがあるはずです。」

 

「あの時は……。なるほど!そういう事でありんすか!」

 

 二人の会話は留まることが無い。むしろ自分が部外者になったのではないかと錯覚してしまうほどだ。これでは本来の目的がどこかへ行ってしまう。ソリュシャンは話の流れを戻せないか思索に(ふけ)る中……。

 

「……それでソリュシャン様は、魔導王陛下からどのような寵愛を賜りたいのでしょう?やはり受け身となるでなく、至高の御方へ尽くして差し上げたいですよね?」

 

 急に話題を振られ、動揺が悟られないよう装いつつ、2人の話を聞き流していた自分を心の中で叱咤する。そしてこの女の問いにどう答えるべきか頭をフル回転させた。

 

 質問の意味を咀嚼したと同時に、なんて悪辣な質問であるかと歯噛みする。ソリュシャンには暴走した前科がある以上〝いいえ、そんな大層なことは考えていません〟と言う訳にもいかず、〝はい、その通りです〟と言う訳にもいかない。

 

「ソリュシャン、わらわは側室を認めないほど狭量ではありんせん。素直に認めなんし。」

 

 友軍に背後から刺された……。そんな錯覚がソリュシャンを襲う。

 

「も、もちろん至高の御方々の頂点に立たれていた方!もし、万に一つでも寵愛の一欠片を賜れましたら、アインズ様へ尽くしたいのは当然の事です!」

 

 その言葉を聞いたシャルティア様とあの女がお互い見合って笑顔を浮かべる。片やニヤリと、片や宝石のような笑みだが、本質は同じだろうと直感が告げていた。

 

「ソリュシャンには人間が与えられていんす。溶かして食べているあれらを使って実験をして欲しいんでありんすが。」

 

「実験……でございますか?」

 

「ソリュシャン様は不定形の粘液(ショゴス)の能力を使って、苦痛ではなく、全身を隈なく精査し〝快楽〟の実験をしてほしいのです。」

 

「……しかし、下等種風情とアインズ様を同じにするのはあまりに不敬で愚かの極みです。」

 

「この地にナザリックが転移した際、最初に魔導王陛下が行ったことはアルベド様の胸を揉まれたというお話でしたよね?」

 

 その話は知っている。何しろアルベド様自身が恍惚とした表情で何度も自慢していることだ。

 

「魔導王陛下の深淵なる御考えはわたくし如きが理解出来るほど自惚れておりません。しかし仮説を立てることは出来ます。魔導王陛下がみなさまを〝至高の御方々の結晶〟と認識されている以上、みなさまから正妃や側室をとることを良しとされない可能性がございます。」

 

 シャルティア様の顔が驚愕に彩られている。そして、おそらくは自分も……。

 

「しかし至高の御方々の結晶であらせられるみなさまはとてもお美しく、高潔であられます。その狭間で、魔導王陛下は孤高の葛藤をされているのではないでしょうか?」

 

 〝何故アルベド様だけ最初寵愛を賜ったのか〟

 

 これはナザリック女性陣が何度も話し合ったことだが、あの完璧を形にした主の心の内までは考察していなかった。……いや、出来なかったというべきだろう。アインズ様は至高の御方々のまとめ役であらせられた。当然自分たちにとって神であるぺロロンチーノ様やヘロヘロ様の統率をとる御立場であった。

 

 であれば、自分たちに手を出すことは、アインズ様の御立場からすれば神々で交わされた契約の悖戻(はいれい)となってしまう可能性がある。

 

「では……。わたしたちは永遠に……。」

 

「いいえ。その絶望は、アルベド様の例が解消してくださいます。魔導王陛下は〝自分で考える事〟〝練習の重要性〟を常々説かれておられる。つまり、みなさまの努力は必ず魔導王陛下が見ておられ、そのお心を変化させることが出来るかもしれないのです。」

 

 その瞬間、シャルティア様の目つきが変わった。おそらく自分もだろう。アインズ様は常に数手先を読まれ、一手一手に幾つもの考えを持たせる智謀の王。最初、アルベド様の胸を揉まれた行動も、アインズ様なりに自分の御立場を配慮した上で、自分たちにも正妃や側室となる素質があることを暗に示して下さったのかもしれない。

 

 他の重大な――それこそ極秘裏に必要な実験であれば、あれほど口が軽いアルベド様の胸を揉む必要などなかったし、他言無用の命令を下したはずだ。

 

「なるほど、ラナー様。いえ、ラナー。アインズ様の寵愛を受ける際初心(うぶ)な娘でいるなど不敬の極みだわ。あなたの提案、乗ってみましょう。」

 

 ソリュシャンは〝敬語を廃して接して欲しい〟というラナーの言葉に反発していた。〝領域守護者〟と〝戦闘メイド〟だからという理由をつけていたが、心を許していない証拠としてだ。しかし、ここにきてその考えを覆す。――この女は利用できる。自分の夢を叶えるためにも。

 

 〝下等種を使った実験兼練習〟は有効な手段だ。ソリュシャンならラナーが言ったように【文字通り隈なく】実験出来るだろう。……おそらくラナーはその実験結果をペットとの逢瀬に使うつもりだ。

 

 だからこそ信用できる。この女の頭脳ならば、下等種に行った実験と練習の結果をアインズ様へ献上出来るレベルまで高められるかもしれない。

 

「あらいけない、お話に夢中になりすぎたわね。紅茶が冷めてしまいますわ。それでシャルティア様、下着や道具をいくつかお借りしても本当によろしいのですか?」

 

「もちろんでありんす!さぁ、ソリュシャン。ぬしも選ぶのを手伝いなんし。」

 

「畏まりました。……ラナー、よろしくね。」

 

「ええ、こちらこそ。」

 

 先ほどまでの宝石の様な笑みはどこへやら……。この笑みがこの女の本質なのだろう。ソリュシャンはアインズ様のお認めになった【現地人領域守護者】に薄ら寒い感情と同時に頼もしい感情を覚えた。

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