ここはちょっと人数の関係でオリキャラを使わせてもらいました。
三人一組になって向かった先にはロビーのような空間が広がっており、何組もの選手たちがそこには待っていた。
「今度は何をさせられるんだ」
特に説明もなされずに次に進んできた王馬は、少し離れたところに座っていた氷織を見つけた。
「これどういう状況だ?」
「チーム対抗のミニゲーム、勝ったら負けたほうから一人選手を選べて、最終的に五人組を目指すんやて」
「負けると奪われる、ってことだな。選ばれなかった連中はどうなる」
「残されたもん同士で戦って、それでもし負けた上に選ばれへんかったら、最後の一人になってしもたら脱落や」
「成程ね」
そういって黙りこくった王馬を見て、横で話を盗み聞きしていた二子と伊右衛門は顔を見合わせた。
「どうしますか?どうやら僕らの部屋も用意されているようですし、いったん休憩するのもありだと思いますけど」
「そうだな、時間はあるみたいだし、それでもいいんじゃないか王馬」
二人の意見を聞いて、王馬も二人のほうをようやく向く。
「試合は明日だ。今日はいったん休んで、チームとしての方針を固める。そして相手だが、やろうか氷織」
だが、最後には視線だけは後ろで座っている氷織のほうを向いていた。
「ええよ、やろか。僕あのドリブラーコンビと組んでるから、話は通しとく」
「あのハゲ二人連れて、俺に勝てると思ってんのか」
「逆に自分一人であの二人止められると思うてるん?」
僅かな静寂の後に二人は黙って別れた。
与えられた部屋のベッドに座り込んだ王馬はふたりに、30分後に練習所集合。と言い残し一人風呂場に向かった。
30分後
シャワーを浴びたもの、飯を食ってきたもの、仮眠をとったもの、それぞれがそれぞれの時間の過ごし方で英気を養った彼らは、練習場に集まると王馬がどこからか持ってきたホワイトボードの前に集まった。
「まずは敵の確認から始めようか。二子は慣れないかもしれないが、まぁとりあえず話を最後まで聞いてくれ」
そういった王馬はホワイトボードに対戦相手の名前や特徴を書き始めた。チームZとして一緒にプレイしていた伊右衛門は慣れた様子だったが、初めて同じチームになったニ子は戸惑いの様子を見せる。そんな彼に伊右衛門が王馬の書いている時間を使って説明し始めた。
「一次選考の時からやってることなんだ、お前らも俺らの対策しただろ。王馬はできる準備はしておくスタンスなんだと」
「そうなんですね、なんというか……対策とかされることはあってもしない方だと思ってました」
「分析に対策、試合の準備をしない奴はただの間抜けだ。サッカーなんてのは相手がいて初めて成り立つスポーツだからな。じゃあ始めるか」
相手と自分たち6人の名前と、二つのフォーメーションを前に王馬が解説を始めた。
「まず相手チームの三人は利平、六平、氷織の三人。全員関西のジュニアユースなんかで対戦経験がある連中だから、互いの手の内はよく知ってるだろうし、連携面では確実に上をいかれてるだろうな」
「利平と六平って、今年の全国に出場予定の大阪代表でダブルエース張ってる二人じゃねぇかよ」
「確かにユース昇格こそできなかったこのドリブルバカコンビは厄介だが、一番やばいのは氷織だ。キックの技術とパスセンスで一撃で局面を打破できる」
アンカーの位置に名前が書かれた氷織から前の二人に伸びる線にバツ印を上書きする。
「理想はここでシャットアウトする。ドリブルで抜かれたとしてフォローできない状態に陥るようなパスだけは通さない」
「無理ですよね、3on3なんだからパスは通りますよ」
「その通り、だから基本的にはパスを通されることは許容する。大事なのはフォローできない状況を作られないようにすること。ゴールが狙える位置にこない限りは守備にあたらない」
二子と王馬が中心になって進んでいく話に今まで黙って聞いていた伊右衛門が自分の疑問を口にする。
「ドリブラーにボールを持たせて、抜かれても二人がかりで仕留めるってことか」
「そういうことだ。もし氷織が上がってきたらその時は守備陣形を変える」
彼らの作戦会議はこの後かなり長い時間続き、その後自分たちの攻め方を考えて、実際に試して修正するまで彼らの練習は終わらなかった。
翌日、しっかりと休んで試合に向かった6人はチームメイトともほとんど話すことなく、緊張の面持ちを浮かべるものもいれば、ポーカーフェイスのやつも、自信ありげに笑う男もそれぞれがひりついた緊張感をもって試合開始を迎えた。
キックオフでボールを握った氷織のチームは、王馬の予想通りにアンカーの位置に氷織を置いて、彼が試合を作り始めた。右サイドライン際に張っている六平はほとんどボールに触ることなく、マークについている二子を剥がそうと試みている。逆に左サイドの利平は内側に入ってきながら確実にリズムを作っていく。
守備のプレスがほとんどかかっていない氷織は一度利平にボールを預けると、スピードを上げて一気に前線に上がっていく。
細かいタッチと幅の大きな切り返しを得意にする利平が対面する伊右衛門との1対1を制し、一気に攻撃の勢いを強めるかと思われたが、その勝負に勝った瞬間を狙っていた王馬がボールを奪い取る。
ここまで完全に計算された守備でボールを奪った王馬は一気に攻撃のスイッチを入れる。アンカーだった氷織が高い位置をとったことで空いたスペースを使った速攻に、守備に急いで戻った六平がその俊足を生かして何とか追いつくが、彼では止めることはできなかった。腕一本で抑えられて、そこから先に進ませてももらえない。
その間に何とかほかのメンバーも追いついてくるが、敵も一緒に上がってきているためなかなか仕掛けることができていなかった。しかし氷織はこのまま行かせる方が危険だと判断し二子のマークを外して止めるためにスライディングを行なったが、王馬はボールをワンタッチで前に送ると自身は飛び上がってスライディングを躱すと、ユニフォームを掴んででも止めようとしていた六平を引き剥がし、そのままゴールを叩き込んだ。
決して倒れないその体幹の強さと、奪われない巧さでまずは先制点を挙げた王馬はこの試合の主導権を握った、
リスクを冒してでも先制点をとるために上がってきた氷織の逆手をとったカウンター、ここまではまさに王馬の作戦勝ちだった。
五点先制マッチであるこのルールにおいて、先制点が持つ意味合いは大きい。そのことを理解していた氷織は試合を締め直すためにも速攻を選択。
あえて左サイドの利平のサイドに流れていく。パスを求めて一気に仕掛けた利平に引っ張られて伊右衛門がパスコースを開けた。しかし、その伊右衛門が開けたパスコースを王馬が塞いでいた。
それでも氷織はそのパスを通した。
凄まじい回転がかかったそのパスは王馬の頭の上をギリギリで越えて、二子の裏側に抜けた六平の目の前のスペースに出された。かかっていた回転の影響で急減速しギリギリでラインを割ることはなかったボールに追いつくと、その俊足を生かして一気に加速した六平はゴール前まで一直線に入っていった。
そのままシュートフォームに入った六平のシュートコースを塞ぐように飛び込んだ二子だったが、完璧なシュートフェイクで切り返され、完全に引き剥がされる。左利きで右足でのシュートをほとんど打たないという前情報があったにも関わらずに、うかつにも飛び込んでしまった自分に二子がしまったという表情を浮かべていた。
躱されてシュートを撃たれるのを見るしかなかった二子の前で、王馬が続けて飛び込んだことでシュートの軌道が上がり、ふらふらと上に上がったボールをブルーロックマンが掴んだ。
「やっぱり切り返したな、進歩がねぇ。ただまぁ縦に抜けていったことは褒めてやる」
「くっそぉ、次は決めるぞ。まだ試合は始まったばっかだからな」
そう言った六平は飛び込んだ王馬に手を貸して起こすと、嬉しそうとも悔しそうとも言える表情を浮かべていた。
左右のウイングが完全に対策されたことにより、氷織のチームは勢いを失ってしまい、逆に王馬のチームはここで勢い任せにならずしっかりと流れを物にするためにペースを落とした。
基本の組み立ては二子がボールを握って、伊右衛門のポストプレーで前に進んでいく。相手を背負っても決してボールを失わずにキープしている伊右衛門が止められない。ゆっくりとだが確実にそのままゴールまで迫っていく。
氷織のチームがドリブラー2枚、パサー1枚の展開力重視の例えるならば騎兵隊だとすれば、王馬のチームはパサーにポストプレイヤー、万能ストライカーの三人による戦車のようなものだ。
しっかりと前線で体を張ってボールをキープして運んでいき、万能ストライカーという主砲の一撃で仕留める。
ここまでの守備を背負ったプレーから一転、伊右衛門が裏に抜けていく動きを見せると、二子が迷わずにふわりと浮いた縦パスを送る。
伊右衛門と利平のスピード勝負は利平が優勢、利平はボールを奪いきることはできないが、シュートコースは消すことには成功する。切り返しを警戒している様子の利平を前に伊右衛門はマイナスのグラウンダー性のクロスを上げた。
そのスペースを狙って走り込んでくる王馬はぴったりとついてくる六平と、このクロスを狙って狩りに来ている氷織の二人挟まれる。
完全にフリーの状態になった二子は自分にパスが来ると思いゴールが狙えるポジションを取ったが、この場にいた人間全員の予想は裏切られた。
マークをつれたまま加速して、ボールを捕まえると視線と体の向き、二つのフェイントで六平の逆をつくと一気にゴール前に躍り出た。
体を入れ替えるように抜いたことでディフェンダー同士が互いの邪魔をしてしまい、王馬を追いかけることもできずに2ゴール目を見つめることしかできなかった。
スコアは一気に2-0。完全に不利な状況になっても戦い方を変えることはお互いにしなかった。
ドリブル突破とパスによる展開力で仕掛ける氷織達と、じりじりとフィジカル有利と決定力を生かして攻めていく王馬達。互いにゴールに迫るもゴールが奪えない状況が続く中、チームの中心人物が決定的な仕事を成し遂げる。
最初に決めたのは王馬、組み立てに珍しく自ら関わる形で、伊右衛門のポストプレーからサイドチェンジで二子を抜け出させると、真ん中でクロスに合わせた。
しかし、そのクロスが思っていたよりも後方に流れてしまい、合わせられなかった王馬は状態は勢いのまま流しながら、上げた右足のヒールにあてた。
自分の体の後ろでボールにミートさせるという曲芸的なスコーピオンショットだったが、ボールが体の影に隠れたことで、ブルーロックマンの反応が明らかに遅れる。ゆったりとしたボールだったがゴールネットを揺らした。
この3点目で試合が決まるかと思われたが、すぐさま反撃を喰らった。
左サイドの利平と氷織がパス交換を行ないながら進んでいき、ワンツーで抜け出した利平が逆サイドにロングパスを出す。俊足の左利きという特徴を生かしてそのボールに追いつくとマッチアップの二子に得意な形で勝負を挑む。狙う形はカットインからのミドルシュート、しかし縦の突破を警戒しないわけにはいかない。
一瞬の駆け引き。一度、二度ボールをまたいで重心をずらしてくる。最後の一瞬、一気に動き出した六平のボールを氷織が引き取って一気に抜け出した。クロスした瞬間にボールをもらう“スイッチ”という戦術で完全にフリーの状態になった氷織がその脚を振り抜いてゴールを決めた。完璧なミドルシュートがキーパーの手の届かないそこしかないというコースでゴールに吸い込まれた。
3-0の状況からしっかりとゴールを氷織が決めたことによりまだ試合の行方は分からなくなった。乗せてはいけない爆発力がある選手が両軍合わせて3人。彼らの存在が更に勝負の行方を分からなくさせていた。