蒼の帝王   作:鈴見悠晴

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点の取り方

チームAとチームBの試合から6時間後、第二試合のチームA対チームCの試合が始まろうとしており、既に第一試合に出場していた選手達と絵心が試合を観戦していた。

 

チームCのペアである乙夜と雪宮は二次選考で王馬に負けた経験を持っており、雪宮に至ってはその後同じチームで戦っていた。だからこそ王馬のすごさは身にしみて分かっている。

 

この二人は普段動揺など見せるタイプではないが、少し落ち着かないような様子を見せていた。

特に雪宮は試合開始前の時間をずっと落ち着くことなく座っては立ち上がり、また少し歩いては座るという行動を繰り返していた。

 

そんなチームCに参加するメンバーは雷市と玲王、利平の三人が抽選された。彼らが入ってきたことで一気に試合のピリピリとした雰囲気が作られた。その1番の理由は雷市の闘争心だった。「勝つぞ」「やるぞ」といった力強い言葉に、冷静なタイプが多かったチームCに熱を与えていく。

試合の準備を終わらせて、ピッチで待ち受けていたチームCの元にチームAのメンバーが入ってきた。

 

先頭は糸師凛、その後に王馬翔。この青い監獄のトップ2の後ろにブルーロックランキング7位の凪、更に二次選考で凪とチームメイトだった馬狼。二次選考で凪に糸師凛とどちらとも組んだ蜂楽が入ってきた。

両チーム、それぞれ自分のポジションについて行く中、玲王が凪に二次選考の時のアンサーを突きつけた。

「よく見てろ、今度は俺が選んでやる」

「うん、ちゃんと見てるよ。……でも今は俺も選ぶ立場に戻らないと駄目なんだよ」

挑戦状を叩き付けた玲王、叩き付けられた凪、彼らは二人ともトップシックスになれなかった立場の選手で、二人ともチームメイトに認められるところから始めなければいけなかった。

 

二人だけではない、この場にいる全員の思惑を乗せて、試合は始まった。

 

キックオフされたボールを受け取った糸師凛は玲王にマークにつかれて、蜂楽にパスを出した。パスを受け取った蜂楽はドリブルで前線に上がっていくと、そこに利平が進路を塞いぐ形で立ち塞がった。

互いにドリブラーである彼らは似たような匂いを感じ取っていた。狙いの形を作ろうとする蜂楽に、利平は深く腰を落とし待ち構えた。

 

完全にドリブルを警戒した利平を見抜いて、裏を突く形で蜂楽は鋭いパスを前線に供給した。

 

前線でそのボールを待ち受けている凪は、そのボールにかかっている回転を見て蜂楽の意思を正確に理解した。その勢いを殺すことなく、反転して守備陣を抜け出すことを試みる。しかし、その凪の進路を完全に体を入れることで雷市が封鎖した。

「お前の武器はよく知ってるぜ、前は向かせねぇよ!!」

雷市の素晴らしい守備が凪の進路を防いだことで、ボールだけがゴール前に転がっていく。

 

ゴールキーパーが前に出てそのボールをとろうとするが、そこに糸師凛が走り込んでおりゴールを決めた。

前に出ていたゴールキーパーを躱しての素晴らしいシュートだったが、機械音声によるストップが入る。素晴らしいシュートだったが、その動き出しのタイミングが蜂楽からのパスを狙っていたため、凪のトラップの際には既にディフェンスラインの裏側に出てしまっていた。

そのため先ほどのゴールはオフサイドになり、取り消されてチームCにフリーキックが与えられた。

 

結果としてゴールにはならなかったが、ここの能力の高さを見せた蜂楽と曲芸的なトラップを見せた凪。ハイレベルな個人技を持つメンバーが多く集まった今回のチームAは前回と比べても強力な攻撃陣を擁していた。

ただし、その攻撃力の代償とも言えるように明確な弱点も抱えていた。

 

それが組織的なディフェンスだ。馬狼、糸師凛、王馬翔、彼らは攻撃だけに限らずに守備でも大きな役割をこれまで果たしていた。圧倒的な1対1の強さは守備でも発揮される。しかし彼らはあくまで個人としての強さであり、組織的な守備などやらない。なんとなく危険な部分に立っている。乗せたくない選手を潰す。彼らの守備はそれぐらいの意識で動いていることが多い。

 

組織がない守備に対して最も効果的な攻め方、その一つである展開力を生かしたワイドな攻撃。それをこなせる人間がこのチームCには二人いる。雷市に玲王はその運動量とプレーの幅広さでチームに違いを作れるプレーメイカーだ。雷市からパスを受け取った怜王はターンすると、一気に逆サイドにロングパスを展開した。

 

逆サイドに張っていた利平はそのボールを受け取ると一気に縦に仕掛けると、相対する馬狼と静かな、しかし激しい間合い争いを続ける。互いに決め手に欠ける状況から一気に天秤を傾けるべく、利平が勝負に打って出た。あえて警戒されていた中へのカットインを利平は見せる。

「馬鹿が」

すぐさまボールを奪い取ろうとする馬狼の前で一気に切り返し、体半分抜け出す。

「せっかちだな、足りないのはカルシウムか?それとも冷静さか?」

生まれた余裕を活かしてピッチ上を確認すると逆サイドへのロングパスを送った。

 

利平はよく同じように考えられる六平や雪宮とは違い、純粋なドリブラーと言うよりはパサーとしての側面を持ち合わせている。ブルーロックのメンバーで言うと蜂楽に近い。そんな彼の良さはその突破力と利他的な行為をいとわない献身性だ。

利平は馬狼をほとんど完全にやり込められる状況を作りながら、逆サイドに展開した。

 

そのボールを受け取った雪宮は対面する糸師凛を見ながら、ゆっくりと仕掛けていく。雪宮は糸師凛をその視界に捕らえながら、周囲の状況を見ていた。中央から右サイドに、更に左サイドと二度左右に振られたことで守備陣形は完全に崩壊していた。この1対1に勝てば、そのままビッグチャンスになることを確認して、雪宮は笑った。

自分の武器を使う絶好の展開に雪宮は一気に仕掛けた。その瞬間にその状況を大きく揺るがす変化が起こった。

 

雷市の運動量を生かしたオフザボールで、守備陣形を真っ二つに切り裂きながら前線に駆け上がっていく。その上、パスの受け手としての保険的なポジションを怜王がとっている。多数の選択肢が糸師凛から余裕を奪っていく。そんな状況で戦えるほど、雪宮との1対1は簡単ではない。

 

一瞬の遅れが命取りになる。ゆっくりと重心をずらすための駆け引きの最中での横やりに、糸師凛は数歩遅れた。その僅かな隙を見逃すことなく雪宮は爆発的な加速力で凛を置き去って行った。

糸師凛も内側には切り込ませないように内側をきることで対応するが、ゴール前を確認した雪宮はいたずらが成功したかのような笑顔を浮かべた。

「いいね、面白いよ」

高速クロスがゴール前に出されたのを確認した蜂楽は、自分が見ていたはずの乙夜が消えているのに気づいた。

自分の裏側から抜けてきた乙夜が完璧に抜け出して、雪宮のクロスをゴールに叩き込んだ。

 

先制点を叩き込んだチームC彼らは自分たちの武器を本当に正しく理解していた。かみ合った歯車はロス無く最高の結果をたたき出す。彼らのゴールはそれぞれの武器が完全に生きた形だった。

組織としての強さを見せたチームCはとても日本的とも言えるだろう。そして日本がワールドカップで敗亡してきたチームの多くには、そういった組織を一人で壊滅させられる傑物がいた。チームAに集まっていたのは、偶然にもそういった傑物や天才の類いだった。

 

キックオフで試合が再開すると王馬は普段、凛に出しているボールをあえて馬狼に出した。

ドリブルで進んでいく馬狼から、リターンのパスは返ってこないが、その爆発的な推進力で一気に進んでいく。ちまちまとしたパスワークではなく、完全な個人技で進んでいく馬狼に対応して、マークに突いていた利平のフォローに雷市が来ることでそのドリブルが止まる。

進んでいくためのドリブルからキープするためのドリブルに切り替わり、背中を相手に預けた瞬間にバックパスを受け取れるポジショニングに凛が立つ。そちらに視界が引っ張られたタイミングを狙って馬狼が仕掛けたが、それは雷市に読まれていた。そしてその展開を予想していた選手がもう一人。

 

「やっぱりね」

 

二次選考をチームメイトとしてすごした凪はこのタイミングでのボールロストを予想していた。そのため奪われたボールを取り戻すべく、しっかりとプレッシャーをかけてボールを取り戻した。

 

「返せ!! それは俺のボールだ」

 

「やだね」

 

自分のボールを返せと主張する馬狼を完全に無視して、凪は糸師凛にパスを出した。ゴール前にエグいのちょうだいとリクエストを出そうとした凪だが、そのリクエストが届く前にダイレクトでえげつないスピードのパスが王馬につけられた。

 

凪のトラップとは少し違うが、高い完成度を誇る王馬のトラップ。凪のトラップが相手を抜く、ゴールを決めるという特定の行動を前提とした最適解なのに対して、王馬のトラップはどの行動にも移れる総合的に見た最適解のトラップ。型のない凪のトラップとは対照的にお手本のようなトラップ。

凪が初めて見たときに見とれてしまうほど上手いと思ったトラップだった。

 

完璧なトラップはそれだけで相手の脚を止めてしまう。乙夜は王馬のテリトリーに完全に捕らわれてしまい、詰めることも離れることもできない位置に貼り付けられてしまった。

ゴール前に既に入っていたのは蜂楽のみ。サイドから追い越す動きを見せている馬狼や凪、凛も上がってきているが、その上がりを待つ気配は一切無かった。

 

その場にいた全員の意表を突くパスが蜂楽に出されたが、当の本人以外誰も反応できなかった。

 

守備の間を突いたスルーパスだが、蜂楽がゴールめがけて斜めに入っていく動き、それを一切の減速もなかった場合にキーパーの前でワンタッチギリギリできるレベルの超ピンポイントパス。蜂楽が反応できたのもほとんど偶然だった。

 

自分の中の怪物が叫んだ。そんなことは初めてだった。

そして自分のイメージ以上に鋭く、本当にギリギリのパスに蜂楽の口角は自然と上がってしまう。

 

ギリギリでのシュートにバランスを完全に崩してしまい、その勢いのまま二回転ほどしてゴールの中を確認した。ずっとやりたいと思っていたようなスーパーゴールを決めて、蜂楽は王馬に飛びついた。

 

蜂楽を負ぶった王馬はナイスシュートと言いながらその手を離し、無理矢理落とした。

 

「ぶへっ」

情けない声を上げて落ちた蜂楽を見下ろしながら、王馬はその頭頂部にチョップを落とした。

「俺をよく見てろ」

 

このチームは間違いなく王馬翔を中心に回っていた。

蜂楽にとって潔世一は間違いなく、これまで待ち望んだ怪物だ。そしてその潔の前に立ちふさがった糸師凛もまた同じように怪物だった。彼らは自分がこれまで頭の中にあった理想を体現してくれる、そしてそれを超えてくれる優れた選手だ。じゃあ王馬はどういう選手なのか?怪物であることは間違いないことだが、他の二人と違うところは一緒にやっていて理解できないことが多いということだろう。

 

なぜそのドリブルを選択するのか?パスなのか、どこに出したいのかどんな理論でその行動をとったのかがわからない。いったいどんな施行でその答えにたどり着いたのかが全く読めない。だからこそ一緒にやっていて面白いと蜂楽は思う。

 

スコアは1-1振り出しに戻されながら、雪宮と乙夜は勝機を見出していた。ポイントはサイドの突破力と展開力。そこに関しては現時点ですでにチームCはチームAを上回っていた。

その中心を担っていたのがアンカーのポジションに入っていた玲王、そしてフィールドを所狭しと駆け回る雷市の二人は完全にチーム活性化しており、特に雷市が細かく入れ替わる形でポジションを入れ替えることで利平と雪宮が自由に動き、その影響でチームAの守備組織は機能していなかった。

 

サイドを幅広く使われ生じた隙をついて乙夜が完全に抜け出し、玲王からスルーパスが出る。ボールを受け取った乙夜だが最終ラインのカバーに外に押し出される。

凛の守備で外に押し出された乙夜だが、そこにはしっかりと雷市がフォローに入っていた。ボールを受け取って中を見た雷市だが、後ろから上がってくる玲王の姿を確認した。

 

玲王がニアサイドに来ることで状況は大きく動いている。その状況で雷市はファーサイドの利平を狙った。マークについている蜂楽との慎重さという明らかなアドバンテージを狙った。その判断は正しく、利平は上手く中央に折り返した。

 

中央に陣取っていた雪宮がそのボールを仕留めようとボレーシュートを試みるが、そこは馬狼が潰した。

「おらぁ!! やらせねぇよ」

「闘牛かよ、ペナルティエリアだぞ‼」

PKの可能性があるのにもかかわらず、ファールを取られてしまう可能性もあった積極的な守備を行った馬狼に雪宮も大きな声を上げる。

 

はじかれたセカンドボールを王馬の足元に転がった。

 

まだ守備に囲まれている状況、近くにいた雷市が猛プレスを仕掛ける。やばさを理解しているからこそ、余裕を与えないプレスだったが、そのプレスで空いたスペースを使える選手がチームAにはいた。

ボールが来ることを信じて動いていた糸師凛、さらに凛と王馬の間に凪がボールを受けようと入ってくる。

 

凛と凪の二人が一直線に並んだタイミングで、鋭いパスが出された。雷市の守備はこの展開における最適解の一つで、ボールを落ち着かせずにプレスをしかけた選択は間違いではなかった。この場面では王馬が完全に一枚上手だった。

 

鋭いボールが出されたとともに、そのボールを受けようとする凪と、そんな凪を止めようと追いかける玲王の二人がマッチアップの形になった。凪のトラップに集中して、そこで逆を取られないように意識を張り詰めた。

 

その瞬間、凛の声が響いた。

「スルー‼」

 

ワンタッチでどんなパスでも状況でも変えてしまう凪だからこそのスルー。あえてボールに触らないというその選択はそのトラップのやばさを一番よく知っている玲王に刺さった。

 

ボールに触ることなく反転して、ゴール前に走っていく凪。雷市に追いかけさせながら前線に走る王馬、ボールホルダーの糸師凛の三人が攻撃側、凛についている乙夜、凪についている玲王、王馬についている雷市、三人が守備陣の数的同数の展開。

 

凛のドリブル突破を何とかして防ぎ、遅らせていた乙夜だが、凪のペナルティエリアへの侵入をきっかけにそのパスコースも気にしなければならなくなった。そこからさらに凪が一気に外に開いていったことで、追えば中に無視すれば縦の深いところにパスを通されるという二択を迫られる。

乙夜の迷いを見逃さず、糸師凛は一気に中に切り込んでいった。

 

右足のシュートコースをできるだけ制限しようと体を投げ出した乙夜だが、完全に読まれていた。切り返してフリーになった凛を止めようと王馬についていた雷市がマークを捨ててシュートブロックに入るが、そこまで読み切っていた凛はシュートを打たずにパスを選択した。

 

フリーになっている王馬はそのパスを受け取ると、キーパーの逆を突いたシュートをゴールに流し込んだ。冷静で正確なプレーを続ける二人を中心に、個人でも組織でも点を取って見せたチームA。

そんな中不満をため込む王様が一人、じっと屈辱の中で耐え忍んでいた。

その喉元に自らの研ぎ澄まされた牙を突き立てるために……

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