蒼の帝王   作:鈴見悠晴

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交わる王道 

追い上げようと一点を返したところで入ったダメ押し点は時として、チームの心を折ってしまうことも少なくない。“やっぱり逆転なんてできない”そんな思考が頭の中を支配した時点で何かが絡みついたように足が止まる。現実を自分の頭の中の常識に当てはめたその瞬間に、人間の思考は止まる。

 

3-1、点差は2点。こんな状況は何度も経験してきている。多くの選手が自分にそう言い聞かせていたが、全くもって的外れだった。自分の人生をかけた戦いにおける敗北の気配は確実に迫ってきていた。

 

自分の夢の終わり、反論の余地がない実力差を見せつけられるチームXだがどんな状況であれ、自分の勝利を疑わない連中もいる。

サッカーの歴史の中には神様の導きにしか思えないような大逆転を起こしてきたチームがいくつもある。時にはキャプテンの劇的なゴールが火をつけることもあれば、歴史的なホームスタジアムでファンの後押しを受けることもある。だがそう言った劇的な逆転には必ずチームの中心に絶対的な存在があった。

そんな存在になれるかどうか、選手としての岐路に立っていると本能で察していた馬狼にとって残されていた時間は再開後の僅か数分だった。

柄にもなく緊張しているのか、冷えてきた指先の感覚をかき消すかのように強く両手を強く握ると、一つ息を吐いた。そこに不要な物全てを乗せるように。

 

リスタートで蹴られたボールを受ける馬狼はここまでの展開とは違い、ボールを持ってすぐさまターンし切り込むようなことをしなかった。ゆっくりとボールを保持しながら上がっていく馬狼だったが、この選択は王馬が考える最も厄介な展開だった。馬狼のテクニックとフィジカルを生かしたキープによりチームXの守備ラインはずるずると下げられていた。

 

ワントップのような形からスリートップのようにサイドの選手がこれまでよりも高い位置をとったことで、チームXはより深く、広くピッチを使ったサッカーができていた。その中心でボールを回しながら押し上げていく馬狼にボールが回ってきたタイミングで、ここまで一度もこの試合中にプレスのそぶりを見せていなかった王馬がチャージにいった。

 

「なんだぁ、さっきまでみたいにのんびりしてろよ!!」

 

「チッ、この脳筋が」

 

激しいディフェンスだったが、体格差から馬狼がうまく体を入れてボール奪取を塞いでいた。だが、この一瞬の攻防の間に馬狼のシュートエリアからボールが流れてしまう。シュートチャンスを逃した馬狼だったが、そのボールをサイドに振った。

 

ディフェンスの注意がサイドに行き、馬狼が一瞬意識の外側に置かれる。

この瞬間王馬は足を止めた。

このシーンでディフェンスに参加したことは判断としては間違っていなかっただろう。もしチャージしていなかったら間違いなく失点していた。シュートを打たせなかったという段階で王馬は仕事を果したと考えていた。

 

確実に守備陣の意識から自分が外れたその瞬間を、馬狼は決して逃がさなかった。大回りをしてディフェンダーの視界から消えるようにゴール前に走って行く。

 

一度スイッチが入れば手数をかけずに仕留めるというお手本のような攻撃、シンプルに上げられたクロスにニアサイドで反応する馬狼。先ほどまでマッチアップしていた王馬は見守っており、馬狼は守備としてマークに入っていた五十嵐を吹き飛ばしながらヘディングシュートを叩き込んでいた、

 

「おい!!、なんでついて行かなかった!!」

 

国神が王馬の胸ぐらを掴んで問い詰めるが、王馬は国神の腕を掴むとしっかりと正面から向かい合った。

 

「あの場面はフリーのサイドに散らされた時点で終わりなんだよ。それより何だお前は?中途半端なポジションを取りやがって、攻めるなら攻める、守るなら守る。はっきり決めろよ、ふらふらと周りに合わせやがって」

 

「はぁ? 何言ってんだ俺はバランスを考えてんだよ」

 

「中途半端なんだよ、お前良い格好がしたいだけだろ。適当なサイドのケアなんかしやがって、あの場面はお前がインターセプトさえできてたら1点だったんだよ」

決して大きな声ではなかったが、そこにはしっかりとした力が込められていた。

 

「お前……何言ってんだ?」

 

「後で映像確認でもしてろ」

 

王馬に振り払われたその腕も気にならないほどに、国神は目の前に男が何か恐ろしい物に感じた。一体何を言っているのか分からなかった。

 

 

馬狼はチームに浮かびはじめていた“本当にこの男に俺たちの運命を託して良いのか?”という不安感をゴールで払拭した。息を吹き返してくるチームX、得点が入った直後のチーム特有のハイプレスをリスタート直後から仕掛けてくる。

 

二点差から詰められて減ってしまったこの一点の貯金をどうするのか、追い上げられているチームが逆転負けする瞬間はこういった意識がチーム間で分かれた時だ。チームZの選手にもそう言ったギャップが生まれようとしていたが、そんなことは王馬が許さなかった。

 

「こい!!」

 

マークマンを二人連れながらのパス要求に雷市が額に青筋を浮かべながら強いパスを出した。

そのボールをトラップする際に一人マークを外す。トラップ際を狩りに来たタイミングに合わせて、一切減速しないトラップでマークを引き剥がすとスピードを上げ一気に深く切り込んでいきそのままシュートを放つ。

 

(視界に入ってきたディフェンダーを意識しちまった。)

 

結果だけ見ればボールは枠を捉えていないふかしたシュートだったが、この一本でチームとしての意思を固めさせた。

 

 

キーパーのゴールキックから始まったのは中盤での激しい主導権争い。身長180センチ以上の選手が全力で体をぶつけ合う中、クリアボールを王馬が拾った。

一気に相手選手が奪い返そうと押し寄せてくる中、強引に逆サイドにサイドチェンジをした。上がっていなかったサイドバックが追いつくのは難しいボールだった。

 

「チッ」

 

大きく蹴り出されたボールはラインを割るかと思われたが、千切が舌打ちを撃ちながらも追いついて一気に攻撃のチャンスになった。

 

一気に動き出す選手達だが、今回は王馬についているマークは外れなかった。千切が上げたクロスに多くの選手が反応するが、ボールは跳ね返されて逆サイドに流れていく。

 

「良いポジショニングだ」

 

それをマークマンを引き連れながら王馬がワンタッチでクロスを上げた。

ファーサイド、マイナス気味完全にフリーになって居た潔がダイレクトに蹴り抜いたそのゴールがこの試合を決定づけた。

 

壮絶な打ち合いを演じたチームZとチームXだったが、勝利の天秤は周りを生かしながら自分が輝くことを選択した王馬に傾いた。

 

 

試合後のベンチ、絵心のストライカー論を聞いてチームZの雰囲気はまだら模様だった。自分の夢が続いたことに喜ぶ連中、今日の自分のプレーに不満をあらわにする連中、逆に満足げに評価している連中、そんな彼らの中で今日全く結果が出せなかった久遠渡が最初に声を出した。

 

「俺たちはこの一戦で勝ってほかのチームよりも余裕ができたんだ。次は全員がFWとしてプレイできるように考えないか?」

 

「バカなのかお前は、それぞれの強みがFWで最も輝く訳でもない。安心して今のポジションでやれば良い、俺がお前らを0から1に変えてやるから心配するな」

 

一足早くシャワーを浴びてきてタオルで髪の毛から大量の水滴をこぼしながらやってきた王馬がそれを切って捨てて、着替え始めた。

 

「何でそんなことが分かるんだよ、チームYは負けてるんだし、俺たちのアドバンテージは大きい。これを生かさない手はないだろう」

 

「ならそのアドバンテージで今のやり方を突き詰めるべきだ。いじれるのはCBとGK、あとCFぐらいだろうな……そこをローテーションで回せば良い。問題解決だ」

 

「ふざけるなよ!!お前は俺たちの何を知ってるって言うんだよ。もっと良い形があるかもしれ」

 

久遠の言葉をより大きな声で遮って王馬が話し始めた。

 

「久遠渡、身長185センチで武器はそのジャンプ力と判断の速さ。弱点は足下の技術とスピード、ポストプレーなんかを中心にやってきたから指摘されたこともないんじゃないか?ああ、後は実はスポドリ苦手だろ、次の試合からはただの水も用意しておくべきだな。……別にお前だけが分かってるわけじゃない。ほかの連中でも答えてやるよ」

 

すらすらと出てくる情報にぽかんとした表情をみんなが浮かべる中、本人だけが衝撃を受けた驚愕の表情を浮かべていた。そんな彼らを見て着替え終えた王馬は全員の方を見渡した。

 

「そういうことだ。とりあえず今日は寝させろ、話がしたけりゃ聞いてやる。ちゃんと俺を説得できるだけの理論を作ってこい」

 

そう言い捨てた王馬は目をこすりながら部屋に戻ろうとする王馬に、千切が慌てた様子で追いかけていった。

 

「おい待て、お前そのまま寝るつもりじゃないだろうな。髪の毛を乾かせ、隣の布団で寝る俺の事を考えろ」

 

 

それから数日、チームZは今の形を磨いていこうと練習を重ねていた。そんな中で潔世一は悩みに陥ってその日眠ることができていなかった。布団から這い出て食堂でなんとなく夜食を食べようとしていた。

「こんな時間に飯はやめとけ」

寝室から出てきた王馬がスポドリを渡すと大きくあくびをしながら隣の椅子に座った。

 

「……起こしたとか考えなくて良いぞ。元々睡眠が浅いんだ」

 

「ごめん」

 

「何度も言わせるなよ、大して変わらない」

 

大きなあくびをする王馬の姿に申し訳なさを感じていた世一はそれ以上謝ることもできず黙り込んでしまった。

 

「ほら、何を悩んでる?練習でも気の抜けたプレーを続けてただろう」

 

「いや……俺の強みって何なのかなって。ほかの連中みたいに身長もないし、別にうまいわけでもないだろ……」

 

意を決して話し始めたその話題を王馬は鼻で笑った。

 

「だったら最初から聞きに来い。まずお前は器用だ、この数日戦術練習でもお前は多くの注文をこなしてる。次にポジショニングが良い、特にセカンドボールを回収したときなんかに顕著に表れてる。そして何より、サッカー勘って言うのかね、見えてる物が俺に近い。でも弱点も大きい、そのポジショニングをどう生かすかは……自分で考えろ。期待してる」

 

そう言って王馬は先に部屋に戻っていった。

 

第二試合、チームY戦まで残り10時間

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