蒼の帝王   作:鈴見悠晴

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ハーフタイム

『U-20日本代表VS.青い監獄11傑、衝撃的な2-0というスコアで蒼い監獄11傑リードで前半終了です。どうですかこの試合は夏木さん?』

『いやー、すごい試合だよね!! 両方ともアンダー世代だって言うのが信じられないよね!! それにしてもすごいね、ブルーロック。これまでの日本人選手のイメージとは違うよね』

 両者とも興奮気味に放すその様子からもいかにこの試合が白熱していたのかが読み取れる。

『そうですね、ここからの後半の展開どういった所に注目となりそうですか?』

『そうだね、やっぱり糸師冴じゃないかな。点差ほどの差を両チームからは感じないから、後半での逆転も全然あると思うよ!!』

『そうですね後半の展開がより注目となりそうです。なお、この試合は90分経過時点で同点の場合、延長・PKなしの引き分けとなる規定となっております』

 

 テレビの映像はこの言葉とともにCMに突入したが、その頃には実況や解説の言葉などに視聴者は興味を失っており、テレビの前、コンビニの駐車場でスマホを見ながら、この試合のすごさを周りに伝えようと動き出していた。

 

 液晶越しの衝撃でこれだ。現地で見ていた人間達にとって興奮と熱狂は当たり前の物だった。

「やべぇって、糸師冴。速くA代表に呼ぶべきだろ!!」

「それより糸師凛だよ。どこのチームに所属してるんだよ?」

「あの潔世一ってやつも誰だよ、うちのチームに来てくれねぇかな」

 どこかのチームのサポーターと思われる連中の興奮した声が示すとおり、多くの選手が無名だったブルーロック側に注目が集まっていた。

 

 観客に勢い同様にブルーロック側のロッカールームは騒がしい物になっていた。

「潔ナイスシュート」

 凪から水筒を受け取った潔は、全身にびっしりとかいた汗を拭った。

「おう、サンキュー」

 ベンチに座った潔もそうだが、雪宮、千切の両ウイングバックに、前半ゲームメイクを司っていた氷織はほかの選手と比べても汗の量が多く、疲労していることが凪の目にもついた。

 

 ハイタッチや喜びの声の中でも、落ち着いて戦ってきた選手の姿を観察し自分たちが出たときのことを考える選手達の姿もあった。そんな選手達の姿をしっかりと確認してから絵心は声をかけた。

 

「静まれ才能の原石ども、ハーフタイムのミーティングだ」

「前半の総括と後半の戦術について、絵心さんから説明があります。皆さん楽にして聞いてください」

 監督の絵心とマネージャーとしてこれまでブルーロックを運営してきたアンリの二人が入ってきたことで、ロッカールームの浮ついた雰囲気は消滅した。

 

「うん、まずは実際にピッチに立ってる連中は理解してるようだ。はっきり言ってこの2チームの間にそこまでの差は無い。あらかじめ練られた作戦とお前達の青い牢獄での経験の差だ。この試合うちはツートップを封じられている。……がそのおかげで中盤を支配していたとも言える。下がれば、また違った展開もあっただろう、なぜ前線に残る決断をした?」

 

「……そこが一番得点の匂いがした。癪だが俺がボールを持つよりも、俺の得点の可能性があるように感じただけだ」

「なるほど……自分の得点のために自分が試合から消えることを許容する。自分のゴールのために、中盤の選手の引き立て役になることを選択したわけだ」

 眼鏡をクイと挙げると、真剣なまなざしで一度全員を見渡した。

「それでいい、どんな状況でもタスクでも自分が主役だと自分を信じ抜くエゴイズム。自分を試合の主役にできる実力、それをお前達は青い牢獄で身につけたはずだ。ならば圧倒しろ、後半からの戦術も授けてある。勘違いするな、お前達はまだ何も成し遂げていない。記憶に残るのは勝者だけ、己の存在を刻み込んでこい」

 この試合は未だに絵心甚八の描いたゲームプランから抜け出ていない。もしも王馬が投入されてもしっかりと対応策を講じている。唯一の不安点はこの試合直前の期間で一体どこまで成長したのか? 糸師冴は一体何をあのストライカーに与えたのか? ナニカが起こるとすれば、王馬翔と糸師冴の化学反応にある。それは間違いが無かった。

 

 この試合の鍵を握る王馬にサッカーを教えた、京都ユース年代の総監督である黒峰は眉をひそめ、肩を組みながらピッチを見つめながら試合展開を思い返していた。

(烏と氷織の成長は著しい。これなら何とかトップに押し込めるだろうし、予算の増額を狙える。問題は王馬か……まぁベンチで座っていてもいい表情をするようになった。ただ……やっぱり法一監督は王馬を使いこなせないだろうに。それに正直、絵心君がどんな指示を送るのかが見たかったんだが)

 彼の職場にあるデスクの上にはいくつもの書類が積まれているが、その中でも処理を誤れば大変なことになりかねない爆弾が2つほど置かれていた。どちらも王馬の海外移籍に関する問い合わせ、それもとんでもないビッククラブからの物。そのため黒峰監督はここに王馬を確認しに来ていた。それが前半全く見れなかったことに言葉にしにくいハラハラ感に襲われていた。

 

 この試合に絡む多くの人間が重要人物だと感じる王馬だが、彼は遅れてロッカールームに入ってきた。彼は試合をベンチから見ていたが、ベンチから見て感じる物とピッチに立って感じる物は違う。そのズレをしっかりとすりあわせるために細かい感覚を中心に話ながら帰ってきていた。その姿はまだ告げられていない交代を確信している物だった。

 

 そんな彼らがロッカールームに入ったとき、日本代表ロッカールームはかなり紛糾していた。何故ここまで失点したのか? 守備システムを変えるべきじゃないのか? そんな言葉が飛び交う中、入ってきた二人を確認してオリヴァ愛空が話を振った。

「王馬、システムとかフォーメーション。何か要望あるか?」

「いらねぇだろ。後ろで回させることはないから、ボールとったら当ててくれれば良い。後は走り負けなきゃ文句ねぇよ」

 来ていたジャージを自分のスペースに放り込んで準備を進める王馬に、仁王は水筒を差し出した。

「おい、ちゃんと水分とっとけよ」

「うん、悪いけど君には走ってもらうことになるから、これも食べな蜂蜜レモン」

 偉そうに上から目線で話す王馬だが、年齢で言えば彼はまだ17歳。U20日本代表のメンバーである彼らの大半が19歳から20歳。守備陣からすればちょっと生意気なかわいい後輩ぐらいの感覚なのだ。最もその態度が攻撃陣や監督からは不評だったのだが……

 

 そんな彼の交代にとどまらず招集にも反対していたのが閃堂。しかし彼は現在自分のシュートミスを含んだパフォーマンスに前を向くことができなかった。

 そんな彼を置いて、ほかのアタッカー超健人と狐里輝が王馬と糸師冴との話し合いに参加していく。自分は呼ばれない。中盤の選手から話しかけられることもない。今までこんなことは無かった。閃堂は常にこの世代のエースで、攻撃の中心で、こんな惨めな思いをしたのはある試合以来だった。

 

 3年前、U-17ワールドカップ。当時育成年代で凄まじい強さを誇ったフランス代表と準決勝であたり、一切通用しなかった。抜け出しもテクニックも、得点に結びつかなかった。点差が3に広がったとき、ベンチから送り出されてきた王馬を最初に見たとき、若手に経験を積ませるのか、試合を捨てたかと思ったが、そんな彼が唯一アタッカー陣でフランス代表に通用していた。いや、圧倒していた。僅か20分ほどで圧巻の2得点。あの日から今いる自分の地位をあの男に奪われる日を恐れていたのかもしれない。そしてその日がついに来た、そう思うと閃堂はすっと楽になった気がした。

 

 後半開始に向けて選手達が出てきたとき、エースの閃堂がいないことに動揺の声が上がっていた。しかし、育成年代のサッカーに詳しい人間は皆、王馬翔の凄さを知っていた。この試合を見ているファンにとってみれば、どちらが勝っても嬉しいこの試合を純粋に楽しみながら見ていた。一部の関係者は緊張感を高めていることなど知るよしもなく。

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