蒼の帝王   作:鈴見悠晴

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VS チームW ワニマ兄弟惨殺事件

ラコステ実業高校という高校がある。全国常連の強豪校だったが、まだ全国制覇を経験していないこのチームは毎年名前は聞くけど……っているぐらいの知名度の高校だった。

 

そしてそんなチームでダブルエースとして活躍し、一躍期待の星になりながら次の年には完全に脇役に成り下がった双子がいた。

それがチームWのエースストライカー鰐間兄弟だった。

 

絶妙の連携、まるで思考を共有しているかのようなそのプレーは、ほかの選手の連携や守備陣の連携を置き去りにして完結させる。

その以心伝心は止めようがないが、悪いところに目をつければその連携ができるのは二人でだけなので、この二人は自分たちだけで攻撃を完結させてしまうというわかりやすい弱点もあった。

 

王馬はこのチームWの二試合分の映像を見て大きなあくびと一緒にため息を吐いた。

なんとも面白くない。はっきり言って馬狼や二子は自分だけの武器や、今チームの出せる最大値を考えてベストで挑んできていた。それがこのチームWは自己満足の連携で崩した気分になっているだけ、はっきり言ってやる気を感じられなかった。

 

このぐらいの連携なら誰でもできる。相手を見て、理解して、考える。

何をしたいのか?どうしてほしいのか?その程度のことを何故できないのかと王馬は本気で考えていた。

 

実際の所彼らのような連携をとるのは簡単ではない。人生のほとんどの時間を一緒に過した双子だからこその、深い理解が必要だった。短期間で身につくものでは決してない。何度も繰り返して、話し合ってそこにたどり着く、なのに王馬はそれを僅か数日でやってのける。

一緒にプレーしたことのある人間は大体2パターンに分かれる。1つ目が王馬という選手を理解できずに恐れる。2つ目は憧れる、自分の最大値を引き出してくれる王馬という存在に憧れる。

 

王馬は凡庸なストライカーを秀才に変える。秀才を天才に、天才を怪物に、彼は自分を理解してくれる人間を探している。それは敵であれ、味方であれ構わない。馬狼や二子はそこまで悪くなかった、だがこの二人には全く興味を持てなかった。

 

 

試合開始前、ここまでの2試合で分析してきたのか王馬はやけに粘り着くような視線を感じる。

(ここまで敵意むき出しで……ああ、こいつらもう後がないのか)

もう既にほとんど全員での突破の可能性がなくなっている彼らは一体どうするつもりなのだろう?

 

試合開始と同時にチームWのキックオフで試合が始まる。彼らのフォーメーションは4-4-2、それもボランチを横に2枚並べることでトップ下の王馬の横のスペースを使って攻めていき、守備時にはこの2人が王馬を封じ込める。単純だがよく考えられた対策だった。

王馬は確実にその網にかかっており、主導権を握ったのはチームWだった。しかし彼らの連携も確実に機能不全を起こしていた。

 

前線のツートップにサイドアタッカー、彼ら4人と中盤、ディフェンダーをつなげる役割を持つ二人が王馬から離れられないので攻撃が繋がらないのだ。

前線が完全に孤立してしまった状態にワニマ兄が苛立ちを表情でわかりやすく表す。

 

この試合チームZのゲームメイクを行なっていた潔と雷市は互いにやりにくさを感じていた。スペースにパスを求めている潔と足下にほしい雷市がうまくかみ合っておらず、序盤はあまり動きのない静かな立ち上がりになって居た。

練習なんかではこう言った場面では降りてきたり裏側へ抜けようとする王馬があまりにも動かず、ついに雷市の堪忍袋の緒が切れた。

 

同じボランチの国神からパスを受け取ると、そのまま一気に前線に切り込んでいく。ドリブルのコースを制限しようとするディフェンスを強引に突破する。ユニフォームを多少引っ張られようが、体をぶつけられようが関係ない。腕でしっかりとブロックしてパスコースを作り出して無理矢理、王馬にパスを通す。

 

そこから雷市は更にスピードを上げてトップスピード近くまで持って行く。

王馬がパスをトラップする瞬間にターンして、前を向くことを警戒するチームWのディフェンダーを欺くかのように、自分の体でボールを隠しながらのフリックで雷市にパスを返す。

 

一瞬ボールを見失ったディフェンダーの足が止まり、しっかりとボールの行方を確認していた守備陣と齟齬が生じる。

 

「ハッハァ」

 

トップスピードに乗っている雷市はその勢いそのままにピッチを駆ける。最後の砦として立ち塞がろうとする相手をぶち抜こうとしたとき蜂楽がサポートに入っているのを確認して、ワンツーでゴール前に抜けようとボールを預けるが、リターンパスは返ってこずにボールは後ろに行っているのを横目に確認した。

 

背後でフリーになって居る王馬の足下に行ったボールが、ダイレクトで低弾道のほぼシュートの弾丸パスで雷市の足下に届いた。

ワンツーなら片腕で守備を押さえながら、狭いシュートコースしか存在しなかっただろう。

それが蜂楽と王馬の手が入ることで完全ドフリーでゴール前、自分の理想であるセクシーフットボールを自分の想像以上の物にされてしまった。

 

飛び出してくるキーパーを嘲笑うようなループシュート。この一連の流れには自分の技術の全てが込められていた。このゴールにより雷市のエンジンがフル回転を始める。

 

中盤の幅広いエリアを完全にダイナモとして支配し始めていた。あたり負けしない強靱なフィジカルと幅広いプレーエリアにそれを続けても問題を生じさせない圧倒的なスタミナによる攻撃参加。更にゲームメイクまでこなす完璧な中盤として覚醒し始めていた。

 

潔がボールを保持しているタイミングに合わせて雷市が凄まじい勢いで駆け上がっていく。そこにつられるように引っ張られた守備陣が空けたスペースに蜂楽が侵入していき。潔からパスをもらう。

 

パスを受けられなかった雷市だったが、ここで気落ちすることなくパスを引き出そうと守備の裏をつこうと脚を止めることはない。蜂楽のドリブルにずるずると下がりきってしまうディフェンスラインにもう一人のボランチが顔を出した。

国神のミドルシュートがネットを揺らし、リードを広げたチームZはダブルボランチを中心に一気に攻撃がかみ合っていく。それに対してチームWは完全にアタッカーとディフェンダーが分断されており、中途半端なロングパスは久遠がはじき返し、地上はダイナモ雷市が完全に制圧したことで沈黙していた。

 

完全に露呈しているチームとしての戦術の問題をチームWは修正することもできずに前半を過すことになる。

前半30分ほどが経過したとき、唯一のチームWのチャンスがやってくる。守備にも奔走する雷市と五十嵐が完全にお見合いしてしまう。

 

所在なさげに転がるボールを拾ったワニマ弟は雷市のプレスを浴びながらも必至にパスを出した。

 

「お兄!!」

 

走り込んでいたコース、パスの精度それら全てが完璧な連携だったが、それを完全に読み切っている男がいた。

 

「だと思ったよ」

 

同じラコステ工業に所属していた千切はそのパスを完全に読み切っており、完璧なインターセプトから強烈なサイドチェンジをお見舞いする。蜂楽を囮にしてフリーなポジショニングをとっていた成早がライン際でボールをキープする。

 

縦に抜けてパスを受けようとする蜂楽を囮に成早がカットインしていく。

 

「おろ」

 

パスが来ると思っていた蜂楽が予想外と言わんばかりに成早の方に振り向くともう成早はアーリークロスを大外に振っていった。

 

その行き先を見て自分にパスが来なかったことに蜂楽は納得するとともに、こんなにすごい奴らとやれていることにわくわくを感じていた。

 

逆サイドを凄まじい突風が駆け抜けた。それはまさしく一陣の風。背後からやってくるクロスボールを確認してスピードを落としてもなお誰も追いつけない。ただ合わせただけのボレーシュートだったが、キーパーが止められずにゴールを陥れる。

サイドバックからサイドバックへ、現代サッカーを象徴するようなゴールが完全な個人技から生まれた。

 

結局前半これ以上に点が入ることはなかったが、それでもこの勢いは止まらずに試合は一方的な物になっていた。

 

ブルーロックは1チーム11人ぴったりしかいない。監督もコーチもいない状態ではチームとしてのプレー中の戦術の修正やフォーメーションの変更は不可能に近い。個人レベルでの修正は裏目に出ることも多いため、しっかりとチームでの対処が求められ、それを行えるのはルール上ハーフタイムにしか存在しない。

 

この時間を有効活用することも非常に難しい、客観的で全体を見渡した意見がないと正しい対処はできない。

チームWは完全にこの悪循環に陥っていた。崩壊してしまっている守備陣はその修正をするべきだと主張し、チャンスが全くなかった攻撃陣は勝つために得点チャンスを増やそうと互いに正しいことを声高に言い続ける。バランスをとる人間も居らず、結局ハーフタイムが終わる。

 

チームWはこのハーフタイムにチームとしての機能を失った。

後半だけで4点を失ってその上結局一点も奪えなかった。7-0の圧巻の勝利で一次選考突破を決めたチームZのメンバーは喜びを爆発させており、中でもこの中で一際実力に劣る五十嵐は泣きながら王馬に飛びついていた。

 

王馬がうっとうしそうにその顔を無理矢理引き剥がそうとするが、予想以上の抵抗にあい、引き剥がせないでいた。そうしている間にテンションが上がったのか、成早や千切も飛びついてきた。彼らはこの試合後半で初ゴールを上げており、ほかのメンバーよりもずっと興奮しており、その重量に耐えきれずに王馬が崩れ落ちた。

 

 

 




鰐間兄弟に活躍するイメージが湧かなかったので、結局こういう形で後半はナレ死のような形になりました。
鰐間兄弟との試合では一切満足できずに消化不良の王馬が凪との試合でどのような勝負をするのか楽しんでいただければ幸いです。
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