山の木々の間を縫うように進んでいる二つの人影。
天狗の少女射命丸文と白狼天狗の犬走椛である。
彼女たちは天狗たちの大御所である『大天狗』から妖怪の山で暴れている侵入者を追い出すように指令を受けたのだ。
「いや~、ちょうどいいタイミングにこの仕事。今日の私は付いてる!これで次の号外こそ……!」
「また新聞ですか。念を押しときますけど、これは天狗としての仕事なんですから、取材は二の次にしてください」
「わかってるって♪」
「あと、その号外。私、手伝いませんから」
「え~、もみちゃんの意地悪。少しぐらい手伝ってよ~」
「絶対嫌です。人のことを散々小バカにする癖に自分が困ってる時だけ頼るんですから」
「ふ~んそうですか……じゃあ、いいよ。また、クロに手伝ってもらうから」
「ああ、少し前から新聞作りを手伝ってもらってるっていう人ですか。何者なんです、その人」
その言葉を聞いて、文の眼が怪しく光った。
「知りたいですか?……なら、この新聞をどうぞ!主にクロさんの仕事について記載されています!今なら御安くしますよ?」
「文さん、新聞が関わると途端に敬語になりますよね」
「ええ、癖です!で、どうします?買います?買います!?」
「適当にかいつまんで話してくださいよ」
「それだと私に利益がないじゃない」
「今さらですよ、それ」
「あややや、痛いこと言いますね。わかりした、今回は特別ですよ。え~と、ですね……彼は魔法の森にある家に住んでいて、そこで仕事を行っています。仕事内容は『便利屋』、金さえ払えばなんでもやってくれる店です」
「なるほど」
「椛も見張りの仕事を代わってもらったらどうです?遊びに行けますよ?」
「結構です。私はこの仕事に誇りを持ってますから。そろそろ無駄話はやめましょう。速度上げます、着いてこれますか?」
「それを私に言う?」
会話を終えた二人は速度を上げて目的地へと急いだ。
森の中を突風を思わせる勢いで駆けている文と椛は、あるものを上空に見つけた。
「あれは……確か神社の」
視界に捉えた人影。それは東風谷早苗その人で間違いなかった。
「どうしたんでしょうか、あれ」
「さあ?なんか心なしか顔色が絶望に染まってるわね」
「……彼女、私たちと同じところに向かっていませんか?」
「それはそれは!今回の仕事は大事件になりそうな予感がしますよー!」
「……真面目にお願いしますよ」
二人は早苗の後を追うように移動し始めた。
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「やっほークロ!お菓子持ってきたぁ……よ……?」
守矢神社のとある畳張りの一室に元気一杯の声で入ってきた諏訪子。やることもなく、暇を持て余していたのでクロとお菓子でも食べて談笑でもしようと思っていたのだが……
「クロがいない……逃げられた?」
部屋には人一人として居なかった。残されているのは、引きちぎられた跡がある縄とそれを結び付けてある御柱のみだった。
しかし、この縄は神である二人、諏訪子と神奈子が力を合わせて作った物。力付くで、ましてや能力が使えない人間が自力で切れるはずがない。
「どんな手を使ったんだろね~」
切れた縄を観察しながら一人呟く。
次の瞬間、諏訪子はその場から横に跳ぶ。すると、先程諏訪子がいた場所に扇形の黒い刃が突き刺さった。
「クロォ、いきなり後ろからなんて女の子にすることじゃないよ?」
そう言って見つめる先は部屋の隅。そこの影から黒い煙が立ち、人の形を成していく。
煙が空気に混ざり消えていくと中からクロが現れた。
「後ろからが好きな人だっているかもしれませんよ?」
「うわぁ、なに?下ネタ?男の子はこれだから」
「諏訪子からのふりだと思ったんですけどねぇ」
クロが話終えると諏訪子を囲むように黒針が現れ、放たれる。
「だから、いきなりはダメだって!」
諏訪子は両手にチャクラムを出現させると、黒針を全て弾きおとして攻撃を防ぐ。
「やっぱり強いな」
「なに?甘く見てた?」
「だって見た目ちっこいし」
「なっ!今のは傷付いた!寛大な心を持つ私でも傷付いた!」
叫びながら地団駄踏む諏訪子。
中身も見た目相応か、とクロは心で呟く。
「絶対にしばき倒してやる!」
怒りに燃える諏訪子がチャクラムでクロに切りかかる。右左、フェイントも入れての連続攻撃。クロは黒く染まった両手で一撃一撃を確実に防ぐ。
接近攻撃は部が悪い思い一旦離れ、弾幕を展開。
クロは壁を出現させそれを防ぐ。
「その黒いのズルくない?」
「全然ズルくない」
「君は平然と嘘をつくね。その能力、普通じゃないよ」
「やっぱり神様なんだね。まあ、ネタばらしはす──」
突如、クロの左右から巨大な六角柱が飛び出して挟み潰す。
「諏訪子、大丈夫か?」
「神奈子、ナイスタイミング!」
騒ぎを聞き付けた神奈子が現れた。飛び出した柱は彼女の力によるものである。
「なにがあった?」
「ん~とね、なんでかは知らないけどクロが逃げ出していた。その後は自然と戦闘になっちゃった」
「なるほどな」
「神奈子、まだ油断しちゃダメだよ?」
「油断もなにも、あの状態じゃ──ッ!」
神奈子は何かを感じ、柱を見る。すると、ミシミシと音を立てながら柱に亀裂が入る。そのうち、くっつけた所に近い場所にある亀裂から黒い液体が決壊寸前のダムのように溢れでる。
「これ、洒落にならんだろ!」
「言ってないで逃げるよ!」
逃走を試みようと神奈子の手を引っ張って逃げようとする諏訪子。
しかし、一歩と進む前に柱は破裂。木の破片と黒い液体が辺りを無差別に襲った。
「チィッ!間に合え!」
神奈子は舌打ちをすると、地面を思いっきり踏みつける。すると、部屋一面にあった畳が全て弾き上がり、飛び散ってきた物を防ぐ。
「どんなもんよ?」
神奈子は自慢気に鼻を鳴らす。
「神奈子!まだくるって!」
諏訪子の言葉通り、終わりではなかった。
二人の周りに飛び散った黒い液体から触肢を生え、鋭利な先端で突き刺しにかかった。同時に、二人を守った畳に付着していた液体も畳を貫通して二人に突き刺しにかかった。
「「スペル!」」
二人は手に出現させた切り札を発動した。
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「いやぁああああああ!!ごめんなさいごめんなさい!」
「今さら謝っても、もう遅いわよ!にしてもあんた……あんな風に喧嘩吹っ掛けておいて堂々と現れるなんてねえ!」
守矢神社から少し離れたところで目標を殲滅せんと超火力をぶっぱなす霊夢と地面ギリギリを飛んで被弾しないように逃げている早苗の姿があった。
「いやー酷いことなってますね~」
「文さん、なんで記者モードなんですか?」
「嫌々、あれ見てわかるでしょ?今の彼女に近付いたら私達も無事ではすまないわ。だ・か・ら、こうやってタイミングを図ってるんじゃない。序でに新聞に乗せる写真も撮っとこうと思ってね」
「とかいって、本当はサボる気なんですよね?」
「あ、お二人が行っちゃいますよ!さあ、追いかけましょう!」
「はぁ……怒られて知りませんからね」
被害にあわない距離から二人の様子を窺う文と椛。
二人は現段階で行動を起こす気はないようだ。