ライスシャワーは祝福の名前だから   作:あえすたーす

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春から秋③

 トレセン学園はケガをしたウマ娘たちのために療養所を所有している。トレセン学園の生徒ならば誰でも利用することができる。

 六月、ライスシャワーはトーカイテイオーと一緒にその療養所にやってきた。

 二人ともギプスはとれている。走るのはまだ無理だけど、日常生活で歩くくらいならできるようにはなった。

「ここ、温泉があるんだって! 楽しみだねー!」

 トーカイテイオーのテンションは相変わらず高い。

「うん。楽しみだね」

 ライスシャワーはなるべく感情を表に出さないように努めて、笑顔で返事をした。

 本当は一人になりたかったのに。

 ここに来る前、療養所を利用する手続きのために駿川たづなの部屋を訪ねると、ドアの前でトーカイテイオーとばったり出くわした。

「ライスもたづなさんに用事?」

「うん。テイオーさんも?」

「療養所使ってみようかと思って。今まで使ったことなかったんだけど、一回くらい行ってみるのもいいかなーって」

「そ、そうなんだ。ライスも療養所を使おうと思って……」

「じゃあさ、一緒に行こうよ。一人より、二人の方が楽しいよ」

 そう笑顔で言うトーカイテイオーを拒否することができなかった。

 一人にはなりたいけど、誰とも絶対に会いたくない、というわけでもない。誰かと一緒にいるのは嫌だ、というほどの強い感情ではない。なるべくなら一人でいたい、くらいの感情だった。ミホノブルボンにはあんなふうに言ってしまったけど、他のみんなにはあれほど強い感情を持っているわけではない。

 ライスシャワーと違って、トーカイテイオーは短期間の滞在だから、長く一緒にいるわけじゃない。

 それまで付き合えばいいだけだ。

 与えられた部屋は個室だった。さすがにホッとした。

 トーカイテイオーは明るく接してくれる。それは美点なのだとわかっている。普段なら好ましいと思える。でも、今はそれが疎ましい。そんなふうに思うべきでないのはわかっている。でも、どうしてもそう感じてしまう。

 初日の夜、食堂でトーカイテイオーと一緒に夕食をとる。

 地元の新鮮な食材を使用しているという料理は美味しい。トーカイテイオーは美味しい美味しいと嬉しそうに食べている。

 美味しいけど、でも、ライスシャワーはそれになんらかの感動を覚えることができなかった。美味しいとは感じているはずなのに、心がまるで動かされない。

 機械的に口を動かして、料理をお腹に入れていく。

 二人が座るテーブルに一人のウマ娘が近づいてきた。

「ねえ、あなた。ライスシャワーだよね?」

 テーブルの横に立つ彼女を見上げる。鹿毛の髪の彼女は腕組みをして、青い瞳でこちらを見下ろしている。

「う、うん。そうだよ」

「で、そっちはトーカイテイオー」

「そうだよー」

 トーカイテイオーはうなずく。

「なんで、トーカイテイオーなんかと一緒にいるの?」

 棘があった。不満を隠すことなく言葉に乗せてきた。

「え、えっと……」

 どう反応していいのかわからない。

 トーカイテイオーなんか、とはどういう意味なのだろう。

 トーカイテイオーは苦笑いを浮かべている。対応に困っている、と書かれているような顔をしている。

「ちょっとー。なんか、ってどういうことー?」

「あんたとは話してないんだけど」

 彼女はトーカイテイオーの方には目も向けず、突き放すように言った。

「む。キミさ、いきなり来てなんなの?」

 臨戦態勢をとるようにトーカイテイオーの声が低くなった。

 彼女は返事をしなかった。明らかな無視だった。

 険悪な空気が二人の間に流れ始めた。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしたらいいのか、いい考えが全く浮かばない。

 とりあえず口を開く。

「え、えっと……テイオーさんは友達で……だから、一緒に来てて……」

 彼女は目を細めた。

「なにそれ」

 低い声。

「ふざけんなよ」

 声が震えていた。両方の拳を強く握りしめている。

 トーカイテイオーは我慢できなくなったみたいに、強い口調でまくしたてる。

「ふざけてるのはキミの方でしょ。ボクとライスが友達だからふざけてるってなんなのさ。いい加減にしなよ」

「もういい」

 それだけ言うと、彼女は体をひるがえして歩き出した。

「ちょっと待ちなよ」

 感情が収まらないのか、トーカイテイオーはイスから腰を浮かせた。

 でも、座り直した。

 彼女はドアを乱暴に開けて、食堂から出て行った。

「ほんとに何あれ。いきなりきてさー」

 トーカイテイオーはプリプリと怒っている。

「テイオーさんの知り合い、じゃないよね……?」

「あんな子、知らないよー」

「そ、そうだよね」

 ライスシャワーは彼女のことが気になった。

 彼女はどうして自分たちにあんな態度をとって、あんな言葉を投げかけて来たのか。

 その行動の奥になんらかの感情があるように感じた。それはおそらく、負の感情だ。

 なんだか、それがとても気になった。

 とても、心が惹かれた。

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