トーカイテイオーは療養所の外でベンチに座っていた。
「あ。ライス、おかえりー」
「ただいま、テイオーさん」
ライスシャワーはトーカイテイオーの目をじっと見つめる。
「ん? どうしたの?」
トーカイテイオーは首をかしげた。でも、まっすぐに見返してくる。ライスシャワーはその視線を正面から受け止める。目をそらさないようにする。
口を開き、はっきりとした声で言葉を紡ぐ。
「あのね、テイオーさん。ライス、がんばるから」
「いきなりどうしたの? ライスががんばってるのは知ってるよ?」
「ううん。そうじゃなくて、えっと、なんて言えばいいのかな、もっとがんばる、みたいな……?」
気持ちをうまく伝えられない。意を決してトーカイテイオーと話をしにきたのに、しどろもどろになってしまった。
「そっか、ライス。そうなんだね」
トーカイテイオーが微笑んだ。
ライスシャワーの様子がおかしくて笑ったという感じでではなかった。優しく、柔らかく、温かく、微笑んだ。
なにかをわかってくれたらしい。
でも、今のセリフだけで?
「えっと、あのね、ライスね、テイオーさんに謝らないといけないの。今までライス、テイオーさんに、ううん、みんなに」
「あーストーップ!」
嘘をついていた、と打ち明けようとしたけど、トーカイテイオーが途中で声を上げた。
「実はさ、ボクなんとなく気付いてたんだよねー」
軽い口調だった。
「え……?」
「だって、ライス明るすぎるんだもん。大ケガしたっていうのに、平気そうな顔してるなんておかしいなーって思ってたんだ」
嘘をつかれていたというのに、トーカイテイオーの声音には怒気とかそういったものはなかった。
「みんなは気付いてなかったみたいだけど、ボクの目はごまかせないよー? なんたって、ボクはライスよりもたくさんケガしてるんだからね。挫折することにかけて、ボクの右に出る者はいないよ」
トーカイテイオーは胸を張って、得意げに言った。
それがなんだかおかしくて、少し笑ってしまった。
「そんなに威張って言うことじゃないよね……?」
トーカイテイオーも笑った。
「だからさ、挫折がつらいのも知ってるし、ライスを責めるつもりはないよ。心配かけさせたくないんだろうなーって思ってたし」
「うう、そこまでバレてたんだね……」
うまく嘘をつけてると思ってたのに、全然だった。
「でも、何もしてあげられなかったけどね。ここについてくることくらいしかできなかった。なんだか、ライス一人で行かせたらそのままどっかに消えてっちゃいそうな気がしたんだよね。だから、迷惑がられても絶対についていく、って思ったんだ」
「テイオーさん……」
トーカイテイオーへの感謝の気持ちを言葉にしたいのに、その気持ちを表現しきれるようなセリフが思い浮かばない。
結局、シンプルな言葉が口から出た。
「ありがとう」
顔が笑みの形になった。心が笑みを形作った。
トーカイテイオーも笑顔になって、嬉しそうに言う。
「よかった。ライスの本当の笑顔がまた見られてよかったよ」
ライスシャワーは胸の前に右手を持ってきて、拳を握りしめる。
「ライス、がんばるね。奇蹟を起こせるかはわからない。起こせないかもしれない。ライスは不幸だから。でも、それでも、ライスはがんばるから。見ててね、テイオーさん」
「あ」
トーカイテイオーは何かに気付いたみたいに声を上げた。
「そっか、ライス。違うんだよ」
「違う……?」
「奇蹟は、それを信じ、奮起する者に訪れる。マックイーンがボクに言ってくれたんだ。ボクはね、ライスに奇蹟を起こしてほしいわけじゃないんだよ。奮起してほしいだけだったんだよ。ライスにがんばってほしいだけだったんだよ」
「あ、そうだったんだ……」
自分のとんでもない勘違いに気付いてしまった。
恥ずかしくなった。とても、とても恥ずかしくなった。
トーカイテイオーから目をそらす。
耳がこれ以上ないほどに垂れる。
顔が急激に熱を帯びる。
「ぷっ、あははは、顔めちゃくちゃ真っ赤だよー?」
「だめぇ、見ないでぇ……」
顔の前に両手を持ってきて、隠そうとする。
しばらく、顔の熱がひかなかった。