ライスシャワーは祝福の名前だから   作:あえすたーす

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京都記念①

 とはいえ、自分らしい走り方。

 考えてみても、全然わからない。どういうふうに走ればいいのかな。

 ミホノブルボンとメジロマックイーンはどんなふうに走っていただろうか、と思い出そうとしてみても、全然思い出せない。覚えているのは、その背中ばかりだ。前をひた走る背中。何を考えて、どんなふうに走っていたのか、全くわからない。

 ライスは追いかける事しか考えていなかったんだ、と改めて認識した。

 トレーニング場から寮に帰る道で、そんな事を考えながらうつむいて歩いていると、何かにぶつかった。

 白くてフワフワした大きなものだった。

 それは顔にからみついてきた。

「わっわっ」

 後ずさって逃れる。

「おや、ライスシャワーじゃないか」

 顔を上げると、ビワハヤヒデが振り向いていた。ぶつかったのは、ビワハヤヒデのボリュームたっぷりな髪の毛だった。

「ひぇっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「何か考え事でもしていたのか?」

「え、う、うん……」

「ふむ、そうか。これも何かの縁だ。少し話をしないか?」

「ライスと……?」

 ビワハヤヒデと面識はあったけれど、じっくりと話すような機会はなかった。

「ああ、少し話をしておくのも必要なのではないかと思ってな」

 なんの話かな。

 道の脇にあるベンチに並んで座る。

「どうにも気になってしまってな。その、なんて言えばいいだろうか。ライスシャワーは最近、調子が悪いだろう?」

 ビワハヤヒデはすごく言葉を選ぶようにして言った。

 調子が悪い。つまり、レースで勝てていないことを言っているのだとわかった。

「うん、そうなんだよね……」

 ライスシャワーの耳が垂れる。

 ビワハヤヒデは慌てるように早口で言う。

「ああ、待て待て。落ちこませたいとかそういうわけじゃないんだ。しかし、現状についての話から始めなければ、その先の話をできないだろうからな。他意はないんだ」

 気をつかってくれているらしい。

 ビワハヤヒデさんってけっこう優しいのかな。そう思った。

「うん、大丈夫だよ。勝てないことを気にしてはいるけど、それはビワハヤヒデさんに言われたせいじゃないから」

「そうか。それならいいんだが」

 ビワハヤヒデはほっとしたように息をついた。

「どうにもな、ライスシャワーの調子が悪いことが気になってしまってな」

「どうしてビワハヤヒデさんが……?」

 仲が良いというわけでもない。話したこともほとんど、いや、全くと言っていいほどない。気にかけてくれる理由が全くわからない。

「それは、ライスシャワーは強いウマ娘だと思っているから、という感じだな。もっと走れるはずなのに、最近の走りを見ていて、歯がゆい気持ちになってしまったんだ」

「ライスを強いと思ってくれているの……?」

 それもなんだか不思議な話だ。たぶん、ライスシャワーよりもビワハヤヒデの方が強いウマ娘だ。デビューしてから一年とちょっと、十戦くらいしてビワハヤヒデは一着か二着のみを獲り続けている。故障することもなく、安定して強い走りを続けている。間違いなくライスよりも強い。そう思わされるほどの戦績だ。

「天皇賞春の走りはすごかったぞ。思わず、すごいと口にしてしまうほどだった。本当に、素晴らしい走りだった。あれほどの走りができるライスシャワーが弱いわけがないと、私は思っている。実際に、ライスシャワーは強いウマ娘なのだろう?」

 そう質問してきた。

 買い被りすぎだ、とは言えなかった。最近はレースに勝てていない。自信も失いかけている。だからといって、ライスはそんなに強いウマ娘ではない、とは言えなかった。

 それは謙遜ではなく、侮辱になってしまうからだ。メジロマックイーンへの。

 弱いウマ娘に負けたのだとしたら、メジロマックイーンはとても弱いウマ娘になってしまう。メジロマックイーンは強いウマ娘なのだ。すぐ後ろで、すぐ近くで、あの背中を見たのだ。力強く走るメジロマックイーンの背中を。そう、メジロマックイーンは強いウマ娘なのだ。

 ライスシャワーは言い返す。

 力強い口調で。

「ライスは、強いウマ娘でありたい」

 ビワハヤヒデの瞳を見返す。強い意志をこめて。

 それは、睨みつけるような目だった

 ビワハヤヒデは面食らったように目を軽く見開いた。

 そして、微笑んだ。

「ふっ。強いウマ娘でありたい、か。いい返事だ。強いウマ娘だ、と答えるよりもよほどいい。そして、とてもいい目だ」

 満足そうにうなずいた。

「あ。ごめんなさい。こんな睨んじゃったりして……」

 ライスシャワーは慌てて目をそらす。

「いや、見惚れてしまいそうないい目だったぞ。それでこそ、私がすごいと思ったウマ娘だ」

 ド直球だ。

「ふぇぇ。そんなにほめられるとなんだか恥ずかしいよぉ」

 頬が熱くなる。

「む。すまない。ついつい、正直な気持ちを口にしてしまっていた」

「正直な気持ちって、謝ってるようで全然謝ってないよぉ」

「はっはっは、その通りだな」

「ビワハヤヒデさんは謝りたいの。どっちなの」

「ライスシャワーの反応が良いものだから、つい、な」

「むー」

 ライスシャワーは軽くむくれる。

「すまんすまん。ところで、考え事をしていたらしいが、やはりレースのことか?」

「え、うん。そうだけど……」

「やはりそうか。ウマ娘が考え、悩むことといえば、大概が走ることだからな。どうだろうか? よければ、私に相談してみないか? 何か力になれるかもしれないぞ」

「え、でも……迷惑じゃないかな?」

「迷惑なものか。私はライスシャワーにもっと強くなってもらいたい。強いライスシャワーとレースで一緒に走りたいと思っているんだ」

 ビワハヤヒデは割とストレートに感情をぶつけてくる。なんだか意外だった。ちょっと怖そう、なんて思っていてごめんなさい。

 ライスシャワーはグラスワンダーとの会話をビワハヤヒデに話した。

「ふむ、なるほど。慧眼だな。課題は二つ、ということか。メンタル、そして、ライスシャワーらしい走り方。確かに、強い相手をマークすることは戦法として有効だろう。しかし、そればかりでは勝てないレースもあるだろうからな」

 ビワハヤヒデは眼鏡のフレームに手を当てて、位置を直した。

「ふむ、そうだな。ライスシャワーは京都記念に出走するな?」

「うん」

 今年は京都記念から始動する予定だ。

「私も京都記念に出走する。そこで私の走りを見てくれないか? 言葉で語るよりも、走りで語った方が感じ取れることもあるかもしれないからな」

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