もぅマヂ無理……鶴折ろ……   作:一億年間ソロプレイ

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なんとか休載明ける前には投稿できました
五月に発売されるSQでようやく青エクが休載から復活します!
みんなも、買って、読もう!


夏の日の肝試し

 

 

 中学生。

 

 まだまだ人生の半分すら生きていない人間の卵たちは、初めて外国人系美少女の破壊力を実感していた。

 正十字騎士團が経営している町では珍しくもないことだが、他の町よりも外国人が多い。

 しかしながら、己たちの同年代の――しかも美少女という属性を持った少女を相手するのは、彼らの関心と興味を買い、そして畏怖をもたらした。

 

「初めまして。中学三年生からという微妙な時期ではありますが、少ない時間でも皆さんと共に学業へと励み、思い出を作りたいと思っていますわ! どうぞこれからよろしくお願いしますわ!」

 

 天然の発色であるストロベリーブロンドの髪と、若干発色が強い黄緑の目。

 活発としながら、清らかな声がほんのりと桜色の唇から発せられている。

 佇まいや発言から、少しいい所のお嬢様感がある転入生。

 黒板に書かれた白字は「前山エミリー」。苗字は至ってどこにでもあるようなものだが、後ろにエミリーと外国人名が付くだけで何か不思議な響きを感じさせる。

 

「見ての通り、前山さんは外国の方です。こっちに来て日が浅いようだから、皆さん仲良くしてくださいね」

 

 生徒から評判のいい女性教師、夏川がそう言い、教室は興奮としながらも静かに前山エミリーに視線が集まっていた。

 

 これが四月のことだった。

 

 最初、クラスメイトたちはおずおずとしながらも彼女に話しかけ……、それから彼女はクラスメイトとして馴染んでいった。他のクラスから噂の転入生を見にこようとするぐらい、彼女は人当たりも評判も良かった。

 淑やかに微笑む姿に何人の男子が心臓を撃ち抜かれたことか。

 立ち振る舞いはお嬢様さながらの気品を感じさせ、同性からの評判もいい。

 休み時間は常に人に囲まれ、笑顔と会話の絶えないクラスがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――こんな超絶可憐な美少女誰かって?

 

 俺だよ俺。元実験体のアルです。

 俺がメッフィーに戸籍をお願いし、『前山エミリー』となってからの生活は実に順調だった。

 

 いやぁ、入る前までに女らしい仕草の勉強とか、仮にもお嬢様系キャラならマナーを身に着けろとか、ついでに教養もつけろとか。若干容姿プレゼンツにメッフィーの趣味が入ってる気がしないでもないが、まぁ女性らしく見えるならいい。

 色々とすし詰めの日々で大変だったけれど、無事クラスの美少女外国人枠として馴染めたようで嬉しい。なんかけん玉とか、懐かしき折り鶴とか、色々教えてくれる人がいて退屈しないぜ。

 

 まぁ、社会教育以外にもメッフィーの元で他にも色々とやって、中学はここ北十字区にある公立学校の三年生に編入、高校からは正十字学園に通ってアサイラムからリニューアルして後ろ暗いことが何も無くなった(普通にあるだろ)祓魔塾に通う――という将来設計になった。

 メッフィーとの契約でもあるしね。しゃーなし、しゃーなし。

 それから、左腕の肘下からの義手を早々に手配してもらえたのは良かった。義手が故障したら制作者である三角さんにアポ取らなきゃなんないのが面倒だけど。たまに痛むのも辛いがそこは気合で乗り切るとも。

 

 あの青い夜の事件後、被験体は俺を含めて十三人だけが生き残った。

 原作で生き残りがアーサーだけだったのを考えれば良い結果なんだとは思うけど、それでも消えた命はたくさんある。

 生き残りの内、アーサー、アルジャーノン、そしてノット俺なアルくんがウザイ家に引き取られたと聞いた。ウザイ家というのはエレミヤの家のことで……、やっぱ偽造しておいて正解だったじゃないか!

 すまんなアルくん、エレミヤの相手は任せるぜ。身に覚えが無いことばかり言われるだろうけど頑張って。

 大丈夫だって、なんでか兄弟たちは俺を除いて十三號セクションの記憶がないから、なんとかなる(多分)。

 

 とまぁ、その三人以外は北・東・西の各修道院に三名ずつ(俺は含めない)預けられることになった。

 俺のいる北の修道院ではルシフェル群のクリス、アザゼル群の鷲郎と鹿郎。

 東の修道院にはルシフェル群のヴィクターとアラスター、サマエル群のフランク。

 西の修道院にはサマエル群のアルノーとディートリヒとフェリクス。

 といった感じに分散。南の方は万が一を兼ねて配置しなかったらしい。なんたって現パラディンがサタンの子を育ててるもんな! ガハハ!

 

 とはいえ修道院というか児童養護施設の大方の決まりとして、高校卒業以降は出て行かなきゃならない。それは元検体である兄弟たちも例外ではない。

 兄弟たちは……しかもある程度育った奴には特に頑張ってほしい。学習レベルや生活態度とかは本人がどうにかしないといけないけど、そこら辺のサポートも積極的に修道院に配備された十三號スタッゲフンゲフン……神父・シスターたちがやってくれるようだ。

 

 ――だが、兄弟たちは普通に頭が良かった。ちなみに社交性もあった。今や小学校に友達がいて毎日門限ギリギリまで帰ってこないレベル。

 弟たちのコミュ力高すぎ問題。今じゃ情動みたいなのも育って立派なクソガキ族に育ったヤツもいる。ちょっぴり涙が出たのは内緒だ。

 

 青い夜のあった12月27日からもう半年が経つ。

 湿気でじめっとした空気だが、あの部屋ではまったく吸えなかった空気なのだ。時折四季を感じてしんみりとした気分になってしまう。

 俺はもうアルではないから、その時得意だった折り鶴も一般人並のレベルに抑えないといけないし、万が一アルの頃の知り合いに会ったとしても、知らない振りをして接しなければならない。

 まるでアルという俺だけが取り残されたようで―――――なんて考えるか。

 

 思考を切る。それ以上余計なことは考えないようにする。暗い感情を持てば持つ程、空気を漂う魍魎(コールタール)が群がり、暗闇の中に潜んでいる悪魔たちに目を付けられる。

 十三號セクションに悪魔(一部除く)は来なかったのは、それこそ悪魔の候王たちがあの施設の重要性を知らせて襲撃させないようにしていたから、というのをメッフィーから聞いた。

 何が言いたいかっていうと、俺も……兄弟たちも、悪魔からちょっかいを掛けられる可能性が高いってこと。

 

 俺はいいんだ。いつも聖水とか、投げる為の十字架とか持ってるから。問題は兄弟たち。

 いくらメッフィーに安全を約束させたとして、彼らの四六時中を監視している悪魔某がいるという訳ではない。だからこそ、高速で突っ込んでくる車の様に悪魔と出会ってしまったら危ない。かーなーり、危ない。

 検体こと兄弟たちは、ルシフェルやらサマエルやらの因子を断片的に持っている。それ即ち、悪魔にとって上質な憑依体となる適性が高いということ。候王レベルは無理でも、それより下位の悪魔の体としてならいい獲物になる。

 ――攻撃してくるんならまだしも、憑依してくるような奴等が一番危険。

 

 なので、俺は常に聖書を持ちあるいて致死節を覚えようとしているが、今の所一ページ目で終わっている。

 無理。こんなん覚えられへん。

 大量の致死節とか覚えてる(ぼん)ヤバイですって、と某ピンクスパイダーの言葉を実感した。

 詠唱騎士(アリア)向いてないかもしれん、と俺の低能ぶりはいいんだけど、ちょっと反応に困ることが。

 

 この修道院、霧隠シュラとジェニがいるんだよね。

 

 修道院で働く神父・シスターというのが、十三號セクションで兄弟たちの面倒を見ていたスタッフたちが混ざっている。十三號セクションで起きた青い夜によって死亡者はそこそこいるが、生き残りたちは修道院で働くことになったらしい。勿論モリナスの契約書を書かされてだ。

 結構な人数がいる中、ピンポイントでジェニがいる修道院に配属されたのは明らかにメッフィーの作為を感じて腹が立った。あいつ絶対知っててここに配属させたでしょ。

 原作から性格は全然よろしくないことは分かっていたが、実際この性格の悪さを目の当たりにするとまた違う。分かっていても不快感というのは拭えないものなんだなぁ……と。

 でもFカップおっぱ……こと、シュラさんは多分偶然……なんだろうか? なんとなくこれも作為ではないか? メッフィーにはループしてる説が出てるからなぁ……。

 そうだな、拠点が同じってことは必然的に顔を合わせることも多い。意味を汲み取るのならば、ある程度仲が良くなってほしいってことなのか?

 

 ……ふぅむ。シュラさんと仲良くなることに何ら異議は無い。もしかしてだけど、メッフィーが青森編で俺のことも参戦してくれるかもしんないしな。そこでシュラさんの過去と因縁深い八郎太郎大神を……どうしたいんだろうな。あそこで回収しなきゃ二重スパイのシッマくんの功績にならんしなぁ。

 でも、俺個人としてはあのまま碌でもない薬の糧にされるくらいならこっちで保護したい気持ちはある。だってさぁ……、あれを受ける被験体もだけど、材料にされる悪魔だって嫌だろ。

 やっぱイルミナティは悪、早く潰さないと(使命感)

 

 駄菓子菓子、まだその時ではないというのは分かる。

 

 ――だから、イルミナティ関連で起きる悲劇を見過ごさないといけない。

 

 そういう契約だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤児院でも前山エミリーは人気者だぞ。

 なにせよく子供の相手をする、割り振られた当番ではなくても手伝いをする、シスターたちへの挨拶を忘れない。

 もうそれだけで株はウハウハよ。もう上がりまくってる。困った時のエミリーなんて言われるしな。

 

 修道院での生活というのは共同生活だ。エブリデイで合宿しているようなものと言えば分かりやすいだろうか。厨房に立って料理を作る係や清掃係などに分かれて、各々割り振られた仕事をするのだが、シュラさんは頻繁に仕事をサボりやがりましてよ。その埋め合わせに俺がよく入る。まぁまぁ手際が良いし、文句言わずに手伝う優等生だからな。

 

「おかえりエミリー!」

「ただいまですわ~!」

 

 シスターたちや子供たちからの挨拶を返す。

 今日は雨が降っているので、家に帰ってインドアの遊びをしている子の方が多かったようだ。

 いやー、雨だとウィッグが蒸れますねぇ。一旦外して換気させないとお手伝いいけないぐらい不快感ある。

 毎日コスプレして過ごしてるようなもんよ俺。レイヤーたちの苦労が今なら分かるわ。

 

 今週の俺の当番は……お休みだぁ!

 基本的に手伝いはするが、お休みの週はちょーっと部屋に籠らせてもらっている。

 何故かって?

 

 受験対策だよ。

 

 

 

『君が正十字学園に受験失敗した場合、――君の兄弟たちの扱いはナシにしましょう☆』

 

 

 

 クソピエロめ。たったの数か月で中三までの学校教育詰め込んだ上に、受験特有の激ムズ試験問題を解かなければならない応用力を求められるとか。おかげで毎日、休みの合間に正十字学園の赤本漬けなんだよチクショウ。

 

 え? 前世の知識で受験勉強ヨユーだろって?

 ……それ、名門の正十字学園でも同じこと言える?

 

 正直あんな受験問題出す方がおかしいだろって学園長に殴り込みかけたくなるくらいに引っ掛け問題とイヤらしい問題ばっかりだ。理事長の性根の悪さが目に浮かぶな! ガハハ!

 

 

 

 

 六月、所に寄りけりではあるが、そろそろ――水泳教育の始まる時期だ。

 普通の学生諸君にとっては一大イベントであろう。水に濡れた――後の女子が見られるからな。共に泳げるのは小学生までだが、塩素の香りに満ちた教室、濡れた髪の男子女子という、非常に夏の日常らしい景色を体感できる素晴らしいイベントである。

 俺は勿論見学ですがなにか? 女子とも共同で着替えずトイレでしているとも。

 

 こんなことが許されているのは、義手の件があるからだ。

 俺はフリじゃなくとも、極力義手であることは知られたくないので常に手袋を着けて長袖を着用している。

 このことから学校側が俺に配慮してくれて水泳教育の免除と、夏でも制服・体操服などの長袖着用を認めてもらっている。これは正十字学園……、メッフィーのお膝元に行っても通用してもらうことだ。

 

 色々と蒸れるし、暑い+熱い(義手が)しで、最悪ではあるがそこは最大限色々と対策をしている。一応制汗剤とか持ってきていいことになってるしね。暑さ対策もしっかりしないと熱中症になっちゃうし。学校側の対策不備で熱中症者が激増! なんて報道されたらたまんないしね。

 と、余計なことはそこそこに。俺はもう校舎から出てプールに続く扉まで来ていた。

 

 ――さぁいざ行かん! 女子が集まるプールへと!

 

 意気揚々と扉を開けてプールへ向かったが、人は少ない。まだ休み時間が始まって三分程度なので致し方無い。先生もまだ来てない。

 さーて、早々に来ているのは同じクラスの佐川さん、榎さん。あの二人は二人グループで、成績が共に良いっていう感じだ。頭も良いけど社交性もある、うーんカースト上位。

 他にも残っている見慣れない顔の子が二人いる。一年三組との合同授業なので一年の子……。

 

 いやめっちゃ見覚えある人いるわ。

 

 鮮やかな赤い髪と教師を恐れぬ不遜な態度から不良として恐れられる。

 だがしかし、男子諸君の目は不良であっても、ふくよかな部位に視線がいく。

 Dカップ、と本人が言っていたことを思い出す。これが将来的にFカップになるのだ。ヤバイな。

 ていうかその、契約紋入れたまま入れるの? 凄いなプール……。

 

 ここまでもったいぶったが、プールの片隅ではダルそーにしながら巨乳美少女霧隠シュラちゃんがいたのであった。びっくり。

 

「霧隠さん、貴方三組でしたのね……」

「ん? おー、エミリーじゃん。アンタこそ合同クラスだったなんてシュラちゃんびっくりだにゃぁ」

 

 一応知らない仲では無いので挨拶代わりに話しかけた。飄々な態度はこの頃からだったらしい。

 

「いつも学校を休みがちとは聞いていたのですが……」

「んなもんプールになったら別よ別ぅ。無料で遊べて涼めるんだぜぇ? 入らなきゃ損ってもんでしょ」

「まぁ! 水難事故に遭った場合の防衛術としての授業と聞いておりましたのに、遊べるですって?」

「そーそー。一応泳ぎ方の型とか教えるけど、終わったら遊んで過ごしてるにゃぁ」

「はわー……、また一つお勉強になりましたわ……」

 

 ――無論、演技である。

 だが一応、『外国で両親が不慮の事故で亡くなり、親戚筋を頼って日本に来て間もない外国人美少女』という設定は守っておかないといけない。二、三年……、高校辺りからは俗っぽいことに精通してても『慣れてきたんだな』で済ませられるか?

 

「ま、それから学校でアタシに話しかけない方がいいんじゃにゃい? 折角出来たお友達が怖がっちゃってるよ?」

 

 くい、とシュラさんが目線で指した先には心配そうにこちらを見ているクラスメイトたちだった。

 シュラさん不良ってことで知られてるからなぁ。同性からしてみれば良い気はしないよね。

 ここでシュラさんを放ってクラスメイトの元に戻る方が印象としては良くなる。清楚系外国人美少女として築き上げた俺の立ち位置は確固たるものになるだろう。

 

 ――だが断る。

 

 アルとしても、前山エミリーとしても、シュラさんと話せる絶好のチャンスを逃す訳にはいかんのだ。

 だってこの子、いっつも修道院にいないんだもの……。話しかけるチャンスが見当たらなさ過ぎた時に、このチャンス! 生かさなきゃそれこそ損だ。

 

「ふふ、クラスメイトたちも大事ですが、私は同じ修道院のよしみとして、貴方にも興味があってよ。だから今は少しだけお付き合いくださいな」

 

 クラスメイトとは教室でいつでも話せる。でも、シュラさんと話せる機会は少ない。

 恋愛ゲーム*1をでもそうだ。出会う機会の少ない攻略対象には積極的に話しかけて好感度を蓄積させるものだ――。

 

「……妙なヤツ」

「妙ではありませんわ。人と仲良くなりたいだけですもの」

 

 俺渾身のスマイルを貴方にお届け。なんつって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっづぅ……」

「プールが恋しい。戻りたいよ~」

「エミリー暑くない? いつも長袖だよね」

「ご心配なさらずとも大丈夫ですわ!」

 

 めっちゃ暑い(熱い)。早くエアコン導入してくれよ。

 プールが終わった後、生徒のテンションはだだ下がり。カースト関係なく冷たい水にいた頃を恋しく思うのだ。

 なにせ、今エアコンは調節中だということで使えない。窓を開けっぱにしても雨上がり独特の少し湿った空気が入ってくるだけだ。でも閉めると更に蒸暑い。二重苦か、ここは……。

 涼しかったプールの空気が一気に恋しくなる。いやぁ、無邪気に遊んでる女子の姿はいいね。目の保養と活力になる。それから動作とかも勉強になる。ありがとう女子生徒たち。ありがとうシュラパ……、シュラさん。

 

「えー、で、ここの文は……」

 

 ちなみに今は六限。そして古典。古典の先生は睡眠魔法の持ち主なので、プールで疲れた学生たちは抗えずに大体寝る。おぉ勇者よ、寝てしまうとは情けない。

 授業はつつがなく終わる。チャイムが鳴る頃には皆自然と起きるから不思議だよな。

 

「はー、暑い。なんかもっと涼みたいんだけど……」

「あっ、だったら時期的には早めだけど肝試ししてみない?」

「いいねー。肝試し! ……でもどこですんの?」

「最近噂になってる場所があって、雰囲気も凄い怖かったって!」

 

 ――肝試し。

 これが前世であれば普通に聞き流したけど、ここは青エク世界。

 普通に悪魔がいて、二千年前から世界を脅かしている。

 ……こういう話、意外と馬鹿には出来ないのだ。

 取り出した教材を整えながら、以前メッフィーと話したことを思い出す。

 

 

 

『死体を食べる男……ですか?』

『えぇ。最近北十字区の方で()()()になっているものでして』

『確か、都市伝説も、そういった話も馬鹿には出来ないってことでしたわね』

『ご名答☆ メッフィーは教育の成果が見えて嬉しいです……ヨヨヨ……。ですので、あまり危険な場所には――』

『行けってことですわね!』

『……んまぁ、そうですけど……。どーにもやりづらいですねぇ……。えぇはい、いずれは行ってください……』

 

 

 

 メッフィーが危険避けろとか言う訳www。

 だって将来手駒になれって目を掛けてる奴を甘やかす訳ないじゃん。

 

「きもだめし……。あまり聞き慣れませんわね?」

 

 さりげなーく話の聞こえた集団に話しかける。

 

「あっ、エミリー! エミリーも肝試し行く?」

「具体的には何をするのですか?」

「うーん、何をするっていうと難しいけど、なんか怖い所に行ってひやってするのを楽しむ、みたいな?」

「なるほど……?」

「まぁやってみようよ!」

「えぇ、お誘いいだいているのなら遠慮なく参加させてもらいますわ!」

 

 よし、約束を取り付けられたぞ。十中八九、その肝試しスポットってメッフィーが行けって言った場所だろうし。

 

「エミリーも行く……だと……?」

「じゃあ俺も行くわ。その場所知ってるし」

「はー? 男子入ってこないでよー」

 

 ということで、女子同士……とはいかず、結構な大人数で肝試しスポットに行くことになった!

 

 

 

 

 決行は土曜日の夜、ちょっと心配されながらも肝試しに行ってくると元十三號スタッフシスターに伝えたので万が一、帰りが遅れれば彼女が祓魔師を連れて対応してくれることだろう。

 俺もいつものセット(聖水+十字架+聖書)に懐中電灯を二つ加えてレッツゴー。

 

 場所は集合住宅から離れた場所にある……ちょっと奥まった場所に屋敷がある森。その屋敷こそ、現在肝試しスポットとして有名かつメッフィーが行ってこい( ´艸`)と言った場所に違いない。

 

「クラスの半分いるんじゃね?」

 

 そうして、森の前に集まった人数は結構多い。我が三年一組の人数は計三十六人、その半数なので十八人。多いわ。

 内訳として、女子十三人(俺含む)、男子は五人。はー、こんな人数守れるか?

 

「ひぃふぅ……、全部で十八人いるならペアになって行く?」

「いいね! じゃあジャンケンして勝った人から好きにペア決めよっか

 

 ――この一言が、男子を奮わせたのに違いない。

 健全な男子中学生たちには、気になる女子の二人や三人くらいいる。

 これは二人っきりになれるかつ、男らしさを見せる絶好の機会。発案者である根島さんは現にニヨニヨしている。悪い笑顔だ……。

 

ジャンケンッポイッ!

ジャンケンッポイッ! アイコでショッ! アイコでショッ!

 

イェーイ!

 

「「ヴワアアアァァ……!」」

 

「まったくもう、男子ってば必死になっちゃって……」

「ごめーん、エミリー負けちゃった~……」

「また別の所で御一緒しましょうね……」

 

 俺は早々に負けたので白熱しているジャンケンを見ていた。中々俺に好意的な態度を示してくれている伊東さんが泣きながら抱き着いてきたので右腕でよしよしと背を撫でる。微妙に左腕は引っ込ませている。

 

 ジャンケン勝負の結果、俺は誇らしげにパーを夜空に掲げる小川に指名された。

 ちなみに順番もジャンケンで決めたが、結果は四番目。出来るなら最初が良かったけれど、致し方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初のペアである根島さん、根島さんと仲のいい鈴木さんが行った。

 遅れて、伊東さん戸嶋さんの女子ペア。男子の寺田とおっとり系女子田中さんが行った後、俺達も入っていった。

 小川は残りの男子に羨ましそうな視線を向けられながらも煽り返していた。

 

「な、なかなか雰囲気ある屋敷だな……」

「それに広そうですわ。確か、一階、二階、三階と回って来れば良い……ですのよね?」

 

 小川が頷く。緊張してるな……。俺としても君を守れるかが心配で仕方ないよ。

 

「では回っていきましょう、小川さん」

「お、おうよ!」

 

 屋敷、というか洋館と言った方がいい。西洋基準から見ればoh馬小屋? みたいな小ささだが、日本では結構な大きさを誇る。よくもこんな、森の奥に肝試しスポット洋館とかいう某青鬼みたいなシチュエーションを揃えれたな。

 室内は掃除もされていないので埃が溜まっているし、隅には蜘蛛の巣が張っている。使われている床材もぎしぎしと不安な音を立てる。大広間、キッチン、お手洗い、と回ってみたが、最初の威勢はどこにいったのか小川はすごく顔を青ざめさせていた。

 

「……なぁ、エミリー。俺達、先に帰らないか? さ、三階を回ったってことにして……」

 

 小川鋭いな。この屋敷、どっかから異臭がするんだよ。それも日常では滅多に嗅がないような……、そう、非日常でならよく嗅ぐような臭い。

 

「? まだ一階しか見てませんわ! このまま二階も行きましょう小川さん!」

 

 ちょっぴり引け腰になっている小川を連れて行くのは気が引けるが、だからといって洋館の外で一人待たせておいても本人も気が晴れないし、不安だろう。俺としては荷物が減って万々歳なのだが、そうはいかない。

 俺は小川の手を右手で握って、階段を上がった。若干青くなった顔が赤くなったのを見逃さなかったぞ俺は。流石美少女フェイス。人の怯えも和らげさせる威力。

 

 二階は……、家族が住んでいた部屋という感じだ。夫妻の部屋、少女らしい趣味で固められた部屋二つ。間取りも広いが、特に気になる物は無かった。

 小川? あぁ、俺の隣でぷるぷる震えてるよ。

 

 三階は……書斎と、執務室って感じだ。これも特に、めぼしいものはない。

 全部見終わったことで小川が急速的に帰りたがったので、降りようとはしたが……。

 

 一階の方、なにか引き摺るような音が聞こえてる。決して、人の足音ではない。

 

「おい、どうしたエミリー。なんか忘れ物……」

「……そう、ですわね。二階に携帯を落としてしまったみたいですわ」

「マジかよっ!」

 

 おい大声出すな小川ァ!

 

 俺は半ば無理矢理引っ張って二階の、夫婦の部屋に入った。ああほら、足音がすごい近い。気付かれてる。

 

「……足音? もうペアの奴等が来たのか?」

「……」

 

 足音は人よりも、()()()()()()らしい。……駄目だ、足音だけじゃ分からない。

 ……でも、死体を喰らう、ってメッフィー言ってなかったか?

 だとすると、嫌な悪魔の予想が沸いたんだが。おい、本当に止めろよ……。なんで野放しに……って、あぁ試験会場かよクソったれ。

 

 足音は、俺たちのいる部屋の前で止まった。

 

 その頃には小川も何かを感じ取ったのか、顔は最初に来た時よりも青く、手から心臓の鼓動が伝わってきた。

 

「小川さん、大丈夫です。目を閉じていてくれれば、すぐに終わります」

「目を閉じれば……? い、いや何言ってんだえ、エミリー……」

 

 

 ドン!

 

 ドンドンッ!

 

 

 ひっ、と小川は声を上げた。

 扉が激しく叩かれる。もう相手はこちらにいることを知っている。

 ざっと室内の中で隠れられそうな場所といえば、ダブルベッドの下、クローゼット……。いや、それよりも外へ逃がした方がいいかもしれない。

 

「小川さん、あの窓から外へ降りられまして?」

「はっ? いや、出来る訳……」

「……できませんの?」

 

 きゅるっと上目遣いで相手の目を見つめ、右手で彼の手を優しく握る。

 かぁっと顔が赤くなった。……忙しい奴だな小川ァ!

 

「で、できます!」

 

 チョッロ。

 

「では、先に逃げて他の皆さんに逃げて、……そうですわね、祓魔師(エクソシスト)の方を呼ぶようにと、お願いしますわ」

「でもエミリーは……」

「ご安心くださいな。私、微弱ながら悪魔との対応は心得ておりますの」

 

 服の下に隠した十字架のネックレスを見せつければ、小川は暫く悩んだ末に、窓へ向かった。

 この屋敷、窓に立派な装飾と屋根の付いた雨戸がある。小川は身体能力も高いからなんとかそこを駆使して降りてくれる筈だ。それに二階だし、なんとかなる。

 

 そうこうしている間、脆いのによくここまで頑張ったのかと思う程、扉は壊れかけながらも完全には破壊されていなかった。その扉の割れた隙間から偶蹄類の様な足と、人の頭髪のようなものが見えた。顔らしき場所は下顎が異様に発達していた。

 みっちりとメッフィーたちに教わった悪魔の特徴の中でぴったり当てはまるものがある。

 

食屍鬼(ネクロファージャー)ッ……!」

 

 人間の死体を好んで食べ、更には生きた人間すらも襲う悪魔。

 ……レベルは確か下級か中級。どちらにしろ、肝試しでやってきた一般人が襲われて対応できる悪魔ではない。

 

 俺の声に反応するようにして目の前の食屍鬼(ネクロファージャー)は暴れ始める。そんな悪魔に俺は迷わず聖水を吹っ掛けた。

 うめき声を上げながら、もうすっかり穴ぼこだらけの扉から二歩三歩離れ、後ろにあった階段に転んで落ちていった。これはチャンス……!

 持ってきたバッグから聖書を急いで取り出す。一応、どの悪魔の致死節があるのかは付箋を付けて分かりやすくしてある。

 この致死節を詠唱するには、しっかりと大きな声、はっきりとした滑舌でなければ効果を発揮しない。

 女らしい声を出しながら詠唱させる、という訓練も行ったがキツかった。

 

 でも、キツくてもやるしかない。なんたって、悪魔はすぐ目の前にいるのだから。

 片手に聖書を持って、片手の懐中電灯で聖書の文面を照らす。そうして現れた文字を目に入れた。

 

……主はいわれたっ

 

主の定めたる掟に従うのならば全ての作物の豊作を与え、安らかに生きる平和を与え、脅かす敵を打ち倒す力を与え、我らが種の繁栄を約束し、加護を与えるとぉっ!

 

 食屍鬼(ネクロファージャー)は階段を駆け上がり、その勢いのまま扉をタックルしてきた。その様子を確認した俺は飛び込んでくる食屍鬼(ネクロファージャー)へと渾身の蹴りを繰り出した。

 蹴りはなんとか人間の上体部分と偶蹄類の下半身の合間に入った。苦しそうに声を上げる。

 

しかし、主の定めたる掟に逆らうのならば、与える全てを取り返すだろう。作物は枯れ、平和は去り、敵に侵略され、繁栄すること能わず、加護を我らから奪うと

 

 食屍鬼(ネクロファージャー)は起き上がると息を荒くして突っ込んでくる。

 読みながら位置を確認ってのは辛いもんがあるなっ……!

 一応戦闘訓練みたいなのも受けているから、それなりに動けるがそれだけ。だから、今は動きを避けつつ、致死節を唱えることが重要だ。

 

汝、主の定めたる掟に逆らいしものっ、どもよ……!

 

 食屍鬼(ネクロファージャー)の攻撃を難無く躱せていたが、俺の動きを学習したらしい食屍鬼(ネクロファージャー)は俺に向かってきて、疲れ始めて動きが遅れた足を掴んでいた。乾いた血が付いた手と尋常じゃない握力が伝わった。

 苦悶の表情を浮かべながらも、やっと獲物を捕まえたとにったりと笑っている。

 

 ――ヤバい。

 

 でも、でもだ。次の一節を言えば終わりだ。

 

 ……だから口、動けよ。なんで止まってんだよ。

 動けって。なに、怖がってんだよ。言わなきゃ食われるんだぞ。食われる。足が食われる。

 動かない方が危険なんだよっ!

 焦る気持ちとは裏腹に、体が動かない。目が食屍鬼(ネクロファージャー)の手から離れない。いつの間にか手から聖書や懐中電灯が落ちていて、取り戻すのは難しい場所へと転がっていた。

 

 ――こんなんで兄弟を守れるのか?

 ――こんな、八候王(バール)以下の雑魚相手に怖気ているようで……?

 

 タイツ越しからでも、近付く食屍鬼(ネクロファージャー)の生暖かい息を感じ取ってしまって、もう駄目だった。

 なんで怖いのか分からない。どうしてだ。ソイツよりも恐ろしいヤツなんているのに、一体?

 

 

 

「なにやってんだっ!」

 

 

 

 食屍鬼(ネクロファージャー)の手が斬り落とされていた。

 妙に特徴的な、刀身に蛇の目のような穴のある刀によって。

 

 自然と斬った相手を見る。

 暗い室内からでも分かる、鮮やかな赤髪をポニーテールにした影が。

 

「ああもうんでこんなとこにいるんだか……!」

 

 動けない俺の前で刀を構え、食屍鬼(ネクロファージャー)を見据える女子。

 霧隠シュラだった。

 

「さっさと逃げな! コレはアタシが相手しとくから! お仲間も先に帰ってんぜ!」

 

 体はもう、動けるようになっていた。

 なんだかもう、助かって嬉しいとか、かっこいいとか、そう感じたけれど。

 

 一番強く感じたのは、情けなさと悔しさ。

 

 ……そうだな。俺より年下の、女の子に庇われて、逃げろとか言われてたら――兄失格、だもんな。

 怯えた俺にぶちかます為、俺は一回自分の頬を叩いた。

 

「おい、逃げろって!」

 

 目先では食屍鬼(ネクロファージャー)と狭い室内で戦っているシュラさんがいる。

 俺は、震えて落としてしまった聖書を持って、食屍鬼(ネクロファージャー)に向かって放つ。

 一回消えてしまった、確実に食屍鬼を殺す意思を再度持ち直す。

 詠唱に必要なのは致死節、そして相手を明確に殺すイメージ……、即ち殺意!

 

――主の恵みを思い起こせよ!

 

 瞬間、俺の脳裏にルシフェルと共に爆発四散する食屍鬼(ネクロファージャー)の姿が浮かぶ!

 

「ッギャァアアアァアッ!」

 

 その通りとはいかないが、食屍鬼は絶叫を上げながら黒い煙となって消えていった。

 

 

 

 

「……みっともない姿をお見せしましたわ!」

 

 今更だけどウィッグとか乱れてない? って思って確認したら大丈夫だった。髪を振り乱した美少女には見えるだろうけど。

 ぬーん、と刀を体の紋に入れているシュラさんが「いいって」と返してきた。

 

「というか、エミリーは悪魔見えるんだな」

「えぇ。悪魔によって私の両親は殺されましてよ」

「ふーん」

 

 興味なさげの反応である。まぁそれはそうだな。

 

「……所で、どうしてシュ……霧隠さんはここへ?」

「散歩だよ散歩。そしたら大勢で屋敷に入っていくアンタらを見かけたら……ってな感じだ」

「皆さんもう帰られたと聞きましたが、本当ですか?」

「そうだよ? このつよーいシュラちゃんに恐れをなして帰っていったぜ」

 

 にっひひ、と笑うシュラさんは可愛いが、いまいち本当かは分からんな。

 

「ふぅ、ともかくはお礼を申しますわ霧隠さん! 貴方がいなければ、私あのまま食べられていてよ!」

「ふっふーん、じゃあ一つ貸しにしといてやるよ」

 

 にやぁ、と悪そうな笑顔を浮かべた。……貸し、だと? しまった、シュラさんは貸しを盾に奢らされ――……。

 

「貸し……ですか?」

「そ、今回助けたから、その分アタシを助けてってことかにゃぁ~」

「なるほどですわ」

「てな訳で、明日近くのパン屋にあるシェフスペシャル日替わりパンを五つ買ってきてくれよぉ~?」

 

 近付いてきたシュラさんが俺の肩を組む。……地味にヤバいな。硬いとか言われたら肩パッド入れてるからとでもいっとこ……。

 

「パン屋というと……三崎某が経営されている、ミサキベーカリーのことでしょうか」

「そうそこ! 分かってんじゃん」

 

 恐らくあそこら辺で知らない人はいないぐらいに有名だ。だってミサキベーカリー印のパン美味いもん。

 で、そこの――……パン屋の主人の息子さんがどっかのレストランでシェフやってて、その息子がチョイスした具材を使ったパン……ってのが、あの店の売りだ。傍目から見ても親子仲良い感じ。

 

 そんなシェフスペシャル日替わりパンは有名かつ目玉商品 = 人気商品 = 早朝に無くなる

 

 はい、早く起きて行けってことかな? 鬼畜だにゃぁ……。

 

「……分かりましたわ。命の代わりがパンに変わるとは思えませんが、きっちりかっちり五つ! お届けいたしますわ~!」

「おう! よろしく!」

 

 バンバンと背を叩いてシュラさんは窓から出ていった。……窓ェ。

 

 そうして帰ってきた俺はお叱りを受けた。要約すると、一人で悪魔に立ち向かうなんて無謀なことを! でもあの様子だとシュラさんも頻繁に出かけて悪魔退治してるのでは? という疑問は、シスターたちの「う゛っうん……。まぁ、あの子は……」と濁された。行動範囲とか制御できないんですね、把握。

 一通りお叱りされた後、シスターたちは騎士團に連絡してその屋敷の調査を行わせるという話になっていた。一応、先行していた同級生六名も地下室で発見されたとあるけど……。魔障を受けていないといいなぁ、とだけ。

 

 色々終わった後、俺は入浴後、すぐに寝て明日に備えたのだった……。

 一応貸しは貸しだかんな……。前山エミリーは約束を違えることはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、買いはしたものの、シュラさんはどこにいらっしゃるのかしら」

 

 学校にもそんな行ってないという話だが、どうやって受け渡せばいいのか。

 そんな疑問に答える様に、背後から気配がっ!

 

「ここだにゃぁ~」

「おっと危ないですわ」

 

 一歩前に飛ぶと、背後からスカッという音がした。

 赤い髪がプリチーできょ……な女子中学生シュラさんだ。肩を組もうとしたが見事失敗に終わったようだ。

 あっぶね。嫌いじゃないけど、ボディタッチをされるのは困るんだ。

 万が一、万が一! 俺が女装をした男だなんて看破してくるヤツを出さないためにもだな!

 特に某ライトニング! アイツ、危険、マジで!

 

「あら何時からいましたの? いたのなら一緒に店へ入ってくださればいいのに……」

「エミリーがちゃーんとお使い出来てるのか確認してたんだよ」

「まぁ、使いくらいいくらでも出来ますわよ私」

 

 じっとシュラさんがパンを入れた袋を見ていると、いきなりガサゴソと漁り始めた。

 

「あっいけません! パンは出しますから、一言言ってくださいな!」

「おっ、卵パンもあんじゃん! これもらっとこ」

「それは皆さん用の物ですわシュラさん! お待ちなさいシュラさん!」

 

 パンをかっさらっていったシュラさんが逃げた。即座に追いかける。

 シスターたちやちびっこたちにも買っておいたパンも取られているんだ。

 くやしいのうくやしいのう……!

 

「追いつけるか……」

「かけっこでしたら負けなくってよ!」

 

 シュラさんが追い付いた俺を見てギョッと目を見開かせた。

 ははは、セクション内でのかけっこでも負け無しの俺の力はここでも通用するぞ。

 

「はっ……!?」

祓魔師(エクソシスト)になるには基礎体力も必要でしてよ!」

 

 祓魔師(エクソシスト)、という言葉を聞いてシュラさんが止まる。

 なんか変なこと言ったか? と思いつつ俺も止まって近付く。

 

「……エミリーは祓魔師(エクソシスト)になんのが夢なのか?」

「そうですわ。その為には正十字学園にある祓魔塾に通う必要がありますの。日本(ここ)では、それこそが祓魔師(エクソシスト)への近道でしょう?」

 

 クソピエ……メッフィーに課せられた試験もあることだし。俺も早く悪魔と対峙出来る祓魔師(エクソシスト)になっといて、兄弟たちに忍び寄る魔の手あの手この手を撃ち落とし滅ぼさなければならない。

 ……敵は悪魔だけじゃなくて、イルミナティも入るからな。検体が生きていることは伏せられているが、当然のことながらイルミナティのスパイ(暫定)であるエレミヤは知っているだろうし、だからこそアーサーたちを引き取ったものだと思われる。

 正直、聖座庁(グレゴルセデス)までは手が伸びるかは分からんが……、また人体実験をされていないことを祈ろう。

 

「んじゃ、将来的に仕事場で会うことになるのか?」

「……その口ぶりですとシュラさんも?」

「まーいずれはなー」

 

 シュラさんは軽く笑ったが、なんだか寂しそうな笑顔だった。

 

 ……。

 

「隙ありですわ」

「にゃっ」

 

 奪われたちびっこたちの分のパンを取り返した。

 数を数えて……、ぴったり戻せた。シュラさんの方には、元々の注文であるシェフスペシャル日替わりパンが五つ残った。

 

「ちぇーっ、少しくらいいいじゃん」

「駄目ですわ。それ以上欲しいのなら、ご自分でお店に行って買ってきてくださいな」

エミリーのけち

「けち……? 流石にけち、という言葉は知っていましてよシュラさん……?」

「やっべ」

 

 逃げろ逃げろ~、と揶揄ってくる頃にはその寂しい笑顔は消えていた。

 

 

 

 

 泡風呂に入って入浴を楽しんでいたメフィストは、ベリアルから報告を受けた。

 

「無事に試験は合格、といったところか」

「はい、ですが恐らく……」

「困ったものだな。騎士團に入るまでには矯正してもらいたくはあるが……」

 

 メフィストは北十字区を整備する際、わざと残した場所と悪魔がある。

 スラム街が蔓延っていた時より有名である森の洋館と、そこに住む主……の体に憑依した悪魔を。

 そこは元々、子供や人を攫っていくという噂で有名で、屋敷の主にも悪評が絶えなかった。

 彼に宿った悪魔が食屍鬼(ネクロファージャー)ということである程度察しはつくだろうが、屋敷の主人は人肉を好んで食べる嗜好があった。このことから祖国にはいられなくなり、急遽逃亡先として島国の日本へ移住した。

 主人の人肉嗜好は彼の家族も容認しており、何より二人いる娘の内、長姉は父に倣って人肉を好んだとか。

 だが、悪魔に憑依された父によって家族は食い尽くされた。その事件が起きた際、メフィストは少々手放せない用事があったので屋敷の地下に封じるように指令を出していた。

 ――青い夜以降まではスッカリとどうでもいいので忘れていたが、手に入れた手駒候補の試験に向いてるなと引き出してきたのだった。

 

「此方からは何も言うまい。ベリアルも口を滑らすなよ」

「はっ」

 

 自室への出入りも許可した手駒など例外にも程がある。ベリアルに指導を任せ、ある程度は己も口出しをしてまでも――この手駒を制御しなければと感じた。

 ――将来、確実に必要となる駒。望む未来への決め手。

 一目見ただけでメフィストには分かった。己が辿ろうとする結末には、コイツが不可欠であると。

 

 ベリアルが浴室から退場した後、メフィストは自らの手に泡を乗せてふーっと息を吐く。

 浴室の天井へと小さな泡が舞い上がっていく。

 

「さぁて、早く使い物になって私を嗤い転げさせてくださいよ? クローン体のアルくん☆」

 

 

*1
メッフィーとプレイさせられた




ちなみに致死節はオリジナルで作りました。どこにも食屍鬼(ネクロファージャー)の致死節なかったからね……、お恥ずかしい……。
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