もぅマヂ無理……鶴折ろ……   作:一億年間ソロプレイ

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お待たせしましたわ~~~~!!!!
前話でベリアルさんとサマエルを間違えておりましたわ~!
誤字修正いつもありがとうございますの~~~!!!!


これも四葉のクローバーの賜物だな……

 

 朝食が終わった後、小学生たちは一目散に学校へ登校していく。

 

「おいクリスー! 学校行こうぜー!」

「オッケー!」

 

 クリス。十三號セクションでいた頃とは段違いに情動が育ち、今ではクソガキとなった兄弟である。

 「やんちゃな男子と一緒に悪だくみとかしてるけど、顔がかっこいいからそんな悪戯も許せちゃうの」って、クリスと同い年の女子が言っていた。順調にモテモテ小学生道を歩んでいるようで何より。

 あ、クリスと目が合った。奴は一瞬わるぅい顔をした後、俺の隣を走り――スカートを捲ろうとした癖の悪い手を止めた。

 

「なぬっ」

「もう、女性のスカートを捲ろうだなんてはしたなくってよ」

「今日も無理か、ちぇっ!」

「明日も無理ですわ~」

 

 盛大な舌打ちをしやがったクリスは颯爽と修道院を出ていった。

 まぁ、俺ものんびりしてる場合じゃなくて早く行かないとな。残っていたコップのコーヒーを飲んだらウィッグやら身だしなみやらを確認して中学校へゴー。

 

 

 

 

 

 純粋な恒星たる太陽の見える青空、コンクリートで舗装された道。家の庭木に柿が生っているのを見て、ああもう秋なんだ……と、絶望やら嬉しいやらの気持ちが溢れてくる。

 一応学校で行われた学力を測るテストでは上位にいて、学校で行われた模試の結果も返ってきたが問題なしの判定A。孤児院のシスター交えた三者面談でも特に苦言を呈されることなく、俺は正十字学園への道を歩んでいる。

 むしろそうでなくては困る。じゃないと兄弟たちがあばばばば……。

 

「おはようございます、皆さん!」

「「おはよ~!」」「「「おっはー!」」」

 

 もう教室に来ていたので元気に挨拶挨拶。しかし、やたらとこちらを睨んでくるのが一名。

 確か、めちゃくちゃ秀才な平方(ひらかた)さんだ。いつも授業中でも休み時間中でもお昼時間でも赤本を開いて勉強してる。クラス内に一人入るガリ勉ってイメージ。

 

 もうこの時期になると、夏頃みたいに遊ぼうという空気は消えていた。

 皆が皆、将来が懸かっているのだからそりゃ真剣にもなる。

 幸いにも、あの肝試しで俺達より先行していた組は食屍鬼(ネクロファージャー)が潜伏していた地下で気絶していただけで、魔障は受けていないという。

 

 良かった良かった。こんな時期、教室に魍魎(コールタール)が漂う景色なんて見たら嫌だよ普通。

 ……あ、しかも魍魎(コールタール)がたかっているの、平方さんだ。これは危険の合図。

 魍魎(コールタール)が集まっている人物、というのは悪魔にとってオイシー負の気配を宿らせているということ。なにもしなければその内、なんかの悪魔が宿るっていう目印みたいなものだ。

 

 まぁ、そのストレス源って恐らく受験なんだろうけど……。どうやっても取り除けないなコレ。中学生にとって必須イベントみたいなものだし……。ストレスが溜まるのが普通っていうか、俺ですらストレス溜まるもん。おかげでメッフィーに誘われてやってるPVP系のゲームでいつもメッフィーを優先してキルするぐらいにはストレス溜まってるよ。クソザコめ。

 俺のストレス発散法は置いといて。このまま見ないフリをするのもなぁ? どうするべきか考えつつも隣の席の子と会話をして時間を潰した。

 

 そのまま語ることなく授業も終わって修道院へ帰っている時だ。向かい側の道からシュラさんとばったり出くわした。

 

「あら、シュラさん。今から登校ですか?」

「ちげーよ! 彼氏と出かけんの!」

「まぁ! 殿方とのお付き合い! ……ですが、その下着姿にコートを羽織るだけ、という恰好は寒いのでは?」

「これはもうアタシのアイデンティティみたいなもんだしぃ?」

 

 この頃冷え込んできて風も冷たい。というのに、シュラさんはいつでもコートの下にあのビキニスタイルなんだ……。本人でも寒いって言ってるのにそのスタイルを貫く。まぁ、八郎太郎大神との契約紋? 的な意味合いもあるんだろうけど。

 シュラさんがそそそと近付いてきて、ちらっと俺の後ろを見た。

 

「……んで、一つ聞いていい? 後ろで見てんの誰?」

「同じクラスの方ですわ」

 

 電柱から隠れて(ない)俺を見ているのは平方さんだ。さっきから尾けていることは知っていたけど、何がしたいのか分からない。

 

「うっわ、しかも魍魎(コールタール)もいるじゃん。なんか因縁でも持たれてるんじゃにゃい?」

「そう……なのでしょうか? あまりお話したことはないのですが……」

「面倒だから聞けば? アタシそろそろ待ち合わせ場所行かないといけないから、んじゃ」

 

 シュラさんは言うだけ言って彼氏との待ち合わせ場所へ走っていった。奔放だなぁ。

 でも、言うことには一理ある。もし彼女に魍魎(コールタール)を集めさせているのが俺であればどうにかできるかもしれない。

 じゃあ話しかけに行くか。くるっと回って、さっと平方さんが隠れた電柱に向かう。

 

「平方さん、何か私に御用がありまして?」

「っ!?」

 

 声を掛けたが、平方さんは「あ、わ」と声にならない声を出して後ずさりした。

 

「な、なんでもないっ!」

 

 あらら。そのまま去って行ってしまった。本当に何だったんだろうな?

 追いかける気も起きない。ははは、受験がすぐそこにってなると胃が痛くなって……。きゅっとしてくるんだ。きゅっ、てな。

 

 

 

 

 外国のなんだかすごい名所いいとこどりしたような建築物。正十字町の中心、――正十字学園に俺はいる。

 何故かって?

 

 文化祭を楽しむために!

 

 すまんなガキたち。俺はお前たちが勉強で悩んでいる間に正十字学園の方に行って面接の為の話題を掴みに行く。

 それに、例年ハイレベルな文化祭が開催されることでも有名だ。そりゃ行けば楽しいってもんよ。

 

 は~~~めっちゃ楽しいですわ~~~!

 

 ジャンボフランクフルト食いながら出店を回るのだけでも楽しい。心が若返るよう。

 三年生が企画していたお化け屋敷はガチめで力入ってる感あった。ガチの悪魔がいてビックリしたけど、特に人に危害を加えるようなタイプではなく、お化け屋敷に乗じてモノホン見せつけて胆冷やさせようっていう粋な(ゴースト)だった。

 「えっ、これって本物なんじゃ……」で青褪めるクラスを見てから成仏する予定らしい。良い趣味してんねぇ。

 教室を巡りつつ、出店に行ってはモグリシャスしていると、ぽん、と軽やかな音と共に目の前に見慣れてしまった髭面――メッフィーが現れた。思わず食べていた焼きそばを飲み込んでしまった。喉詰まりそうだった。

 

「び、びっくりしましたわ……」

「それは失礼。これはこれは美しいお嬢さん(フロイライン)。我が学園の文化祭は楽しんでおられるかな?」

「えぇ。ご学友からお話は聞いておりましたが、とても楽しいですわね!」

 

 やや芝居がかった流し目でこちらを見て話す髭面クソザコメッフィー。いい度胸してんねぇ。

 お嬢様演技としてにっこり微笑んで返してやる。後でお前着地狩りしてやるからな……。

 

「それは良かった。では、引き続き学園祭をお楽しみくださいね☆彡」

 

 舌ペロして去っていく良い大人(悪魔)ってどこに需要があるんだろうな。俺は心の中でその理由を探る為、アマゾンの奥地へと向かった……。

 ……分かりやすく圧掛けてきたんだよな。ははーん、今年の正十字学園の試験って過去最高に難易度高くするつもりだな? お前の魂胆は分かっているんだよメッフィー。やる機会があったらだが、本格的に()()()()()必要があるようだな。

 ひとしきり楽しんで歩いていると、なにやら建物の影で話し声が聞こえてくる。

 

「――……だ、……ら。ちゃんと頑張りなさいよ」

「……分かってるよ」

 

 およ、平方さんと……隣にいるのは誰だ。顔は……似てないな。ご兄弟ではなさそうだ。

 

「ねぇ、瑞穂。私たち、()()だもんね」

「うん……」

 

 ほうほうお友達。にしては湿度高そうなんだけど、どうなんですかね。ちょっとボクオトコノコだからオンナノコドウシの友情とか分かんない。

 

「どう思われますか? シュラさん」

「ふにゃっ!?」

 

 ――そう、ステルスで近寄ってきていたシュラさんに投げかけた。

 

「な、なにが、かにゃ~……?」

「私、実を言いますと友人関係というものに疎いのです。日本ここへ来てからは実に様々な友人という形を見ましたが、アレは――――友人なのでしょうか?」

「……まっ、本人たちがそれでいいならいいんじゃないの。私たちにゃ関係ない話っしょ」

 

 「友人だよね」で魍魎(コールタール)が増える友人関係って友人? 俺もっかい辞書で友人の意味引き直してくるわ。

 とはいえ、シュラさんの言うことも正しい。他人の関係に逐一言葉を出せるほど、俺と平方さんは親しくないし、彼女の友人とも親しくない。「外野が口出すなァ!」で事態が悪化しても困る。

 

「ところで何故シュラさんはこちらに?」

「学園祭楽しんでんの。彼氏といたんだけど分かれちった……」

「まぁ大変。良ければ一緒にお探ししましょうか?」

「別にいいよ。アンタの近く来たのはたまたま。驚かせてやろうとか考えてにゃいにゃい」

「考えていましたのね……」

 

 しらーっと半目になって視線を逸らすシュラさん。あの肝試しの一件から距離が近くなった気はする。少しでも心を許しているという証拠なのだろうか。そうだったら、嬉しいなぁ。「自分は三十路で死ぬんだから」で他人とは一定の距離を置いて接している様子がある。……いつか、彼女の教え子ともなる魔神の双子たちでその枷が無くなるといいな。いや、八郎太郎には申し訳ないんだけどね!?

 

「お、いたいたシュラ! こんなところにいたのか」

 

 もう平方さんたちはどこかへ行ったようだった。これから移動しようと思った矢先、こちらを見て声を上げて駆け寄る男性の姿が見える。

 

「ごっめ~んダーリン。許してにゃ~」

「HAHAHA! なんてカワイイ子猫なんだ…………」

 

 なんと、彼氏。逞しいマッチョの化身と言わんばかりの筋肉を持った彼は、抱き着いたシュラさんを軽く抱きしめた後、――何故かこちらを見て言葉を無くしている。

 

「ん? どしたのダーリン」

「……どいてくれ」

「……?」

 

 その男性はシュラさんを押しのけ――、あろうことか俺の元へやってきた。焼きそばを持っていない右手に、勝手に触り、口元に寄せた。

 

「こんにちはお嬢さん。よろしければ私と付き合いませんか」

 

 

 ピキッ

 

 

 そんな音がした。俺からも、シュラさんの方からもだ。

 というか、えぇ……。えぇ……? 確かに、学校の男子に何人か告白はされたよ。そしてちっぽけな勇気を振り絞って出してくれた告白を断ったけども……これはそれとはやや内訳が違うんだよな。

 男に触られている手をゆっくりと離す。名残惜し気に見つめられる。

 

「……すみません。私、付き合っている方と誠実にお話合いもせず一方的に別れを告げ、あまつさえその目の前で告白をするような殿方とはお付き合いできません」

「なっ……! それなら、ちゃんと彼女とも話を通す、だから……!」

「いいえ。差し出がましいようですが、貴方には人間にあるべき誠実さが見受けられません。何度言われようがお付き合いも、ご友人として関わりも持ちたくありませんわ」

 

 なおも縋ろうとする男の手を避けて、俺はシュラさんの近くへ寄って、呆然と投げ出された手を取る。

 

「行きましょうシュラさん。まだまだ学園祭は始まったばかりでしてよ」

「……ちょっとっ」

 

 抵抗されている気がするが、俺は気にせず腕を引いて走るぜ!

 

 

 

 

 

「ちょっといつまで手ぇつないでんのさ」

「あら、すみません」

 

 もう男を振り切った所でシュラさんからばっ、と手を離された。しょぼん。

 

「……別に、ああいうことたくさんあるから気にしないで良かったのに」

「いいえ、まだ殿方とお付き合いする予定はありませんし……。なによりお互い、誠実ではありませんわ」

「ふ~ん、エミリーってまだまだ経験無いワケ? 勿体ないにゃ~」

「話を逸らすのは貴方の悪い癖ですわね」

「……チェッ、流されなかったか」

 

 いや流すには無理があるでしょ。どんだけ俺のことウブなご令嬢だと……思って……。

 くっ、俺の演技力が素晴らし過ぎたか……。

 

「ふむ……。そうですわねぇ……、私、先程シュラさんに友人関係とは、と聞きましたでしょう?」

「あぁ聞かれたね」

「今明確に分かったことが一つだけありますわ。――少なくとも、傷付いているのを見捨てる関係ではありませんね」

 

 ――シュラさんの目は、しっかり見ないと分からないレベルではあるが、潤んでいた。

 それは少なくとも、彼女が先程の振られ方にダメージを受けていない訳ではないということの証。

 それはそうだ。まだまだ中学一年生の美少女。原作の二十七歳シュラさんのように大人な気風も無い子供時代だ。どれだけ荒んだ生活を送っていたとしても。

 

「さぁさぁシュラさん。一年生の射的がとても豪華な景品を使っているとのことです。当てに行きましょう!」

「は? あー……、もう、はいはい! 行きますよっと!」

 

 ――シュラさんと学園祭を楽しんだ。めっちゃ楽しかった。

 

 

 

 

 恙なく勉強を済ませ、日々変装がバレないように生活を続けて――。

 孤児院の皆と盛大なクリスマスパーティーをして、年を越して。

 

 とうとうやってきてしまった。出願の日。

 書類の不備はシスターたちにも確認してもらったが無かったから万全。正十字学園までの行き方も実演込みでばっちり予習済み。

 

 そして後は出して学園側に受理してもらうだけなのだが……。

 

 出勤時間帯を過ぎた人の少ない電車の中で、俺は平方さんの隣に座っていた。

 ……どうやら平方さんも正十字学園へ入試を受けるようだ。そして、凄まじい敵視の視線を横から受けている。

 

「あ、あのー……、平方さん。何か御用でも……?」

「ここは電車の中よ。会話は控えてくれるかしら」

「はい……」

 

 理不尽ッ……! あまりの理不尽さに泣きそう。

 早く電車よ着いてくれ、頼むぅ……! 流石にここまで敵視を向ける相手に寛容にはなれんのよ、俺も、前山エミリーもぉ……!

 

「ふん、()()()()()()に引き取られた没落令嬢のくせに……」

「――今、なんとおっしゃられましたか」

 

 ぶわりと沸き上がった怒りを一瞬、押し込める。ここで、ここで怒るのは……前山エミリーじゃない。

 でもなんつったこの魍魎(コールタール)塗れのガキが……。

 昂る怒りをなんとか抑え、横目で平方さんを見る。頼むから違うと言ってくれ。

 

「いいえ、なにも言ってないわ。もうその年で幻聴が聞こえるのね」

 

 あぁ~↑ 余計な一言ォ!

 言ってないわ、だけで済ませておけばいいものをぉ! お前なぁ!

 クール、ソークールになるんだ俺。

 いやこのクソガキに分からせてやらねば気が済まねぇな……おい……。

 

「そうですか。私、もしかしたら平方さんほどのお綺麗な方から聞くに堪えない言葉が出たかと思いましたわ」

「あらそう。お目出度いお花畑の頭をしているのね、髪の色そっくり」

「ふふふ。そういう平方さんも、なんだかいつもよりお喋りですね。貴方のことを知れたようで嬉しいですわね」

「たった短い言葉で人柄が分かるのね。流石ね、エミリーさん。私にはそんな考え無しの行動は出来ないわぁ」

 

 ――無。無。無。無。無。無。メッフィー滅。

 

 あぁ~……。腹、立つ。すごく、腹立つ。

 何が小汚い孤児院だァ……テメェ……。悪魔の生餌(いきえ)にするぞ……?

 

『――次は正十字学園前、正十字学園前です』

 

 アナウンスが入り、互いに入っていた視線が電光掲示板に向く。行き先を知らせるそこに、油を注ぐかのように腹立つメッフィーの顔があった。こんなとこにまで金入れてんのかオメー。

 一瞬怒りの矛先がズレたせいか、先程よりは感情がマトモになってきた。

 改めて平方さんを見る。……魍魎(コールタール)の数は、乗車前より増えていた。

 

「……さて、行きましょう」

 

 残念だったな、お前の出願届は俺が握っている。俺の一存でお前の出願届に不備を生じさせてそもそも入試資格すら剥奪してもいいけど……やらないよ流石に。

 そんな大人げないことしないよ~。エミリーは正面から叩き潰すのが得意なんだもん。正々堂々、試験を受けてどちらが入学できるかで矛は納めるよ~。

 

 

 

 

 さてさて、出願届を出してから一週間もせずに受験票が送られてきた。

 ――もう、受験の時期なのだ。

 

 一応、滑り止めとして正十字学園以外の学校を受験――してません

 

 再三教師の方にも確認されたけど、受験できなかったら俺は死を選びます。兄弟殺して俺だけ生き残る訳にはいかんでしょ。責任取って自害致します。

 なのですぐ自殺したとか不名誉な噂が学校に入らないよう……、その為の配慮なのだ。

 

 中学校のセーラー服。寒くなってきたのでマフラーやコートを着用してから部屋を出ると、リビングではシュラさんを除いたチビたちが、全員集まっていた。

 

「あら、皆さんおはようございます……。ですが、ややお早いのでは?」

「そうねぇ。この子たち、今日は早起きさんなのよ」

 

 にこにこと笑うシスタージェニに首を傾げると、集まっていたチビたちの中から、――クリスが出てきた。

 その手の中にはやや歪な四葉のクローバーの形をしたネックレスがある。きらり、と窓から差す陽光を反射して緑色が鮮やかに輝いている。

 

「は、はい、これ……。エミリーに……」

「え、いいんですの……?」

 

 もじもじとするクリスに「言えよー」「お前が最初だろー」「恥ずかしがっちゃってー」という言葉が掛けられる。それに対して「うっさい!」と嚙みつくも、俺の方を見ると顔を赤らめてもじもじ態勢に戻る。

 

 

 

 ??????

 

 

 

「あのね、エミリー。この子たちってば、貴方が大事な受験だからって、手作りでそのネックレスを作ったのよ」

「手作り……ですか?」

 

 事態を静観していたジェニは更に微笑みながら近寄り、クリスの背を叩いた。

 

「そう。クリスが『作りたい』って言って、皆が『いいね』って協力したの。毎月のお小遣いをちょこちょこやり繰りしてて、お金なら出すわよって言ったんだけど『自分たちでエミリーお姉ちゃんにネックレスをあげたい』って言って、もう……」

 

 ジェニは溢れた涙を取り出した白いハンカチで拭う。

 

「……なんで、ネックレスを?」

「……だってよう、エミリー姉ちゃ……、エミリーは元々キゾクのムスメだったけど、家が取り壊しになっちゃって日本に来たんだろ? シュラねーちゃんが言ってた」

「元々お姫様なのに、エミリーってば休日にお買い物してもアクセサリーも付けずに出かけるでしょ?」

「今時私たちだってアクセサリーつけるのにねー!」

「だ、だからよう、俺たちでエミリー用に作ろうって……話になったんだ……」

 

 「嫌だった?」と見上げてくる無数の視線。

 

「そりゃ、レジンっつう、本物の宝石じゃないけどよぉ……」

 

 俺は即座に振り向いた。クリスから渡されたネックレスを持ったまま。握りしめる力が増えすぎないよう抑えるのも、……涙を堪えるのも辛い。

 側にあるテーブルにそっと、ネックレスを置いて――俺はすぐさまクリスを抱きしめた。

 

「嫌な筈ありませんわ……。ただ、泣いてしまう顔を見せたくなかったの」

「ほ、本当か?」

「嘘じゃありませんわ。皆さま、ありがとう。私の為に……」

 

 ――この日ほど、俺は義手であったことを恨む日は無いだろう。

 

 咄嗟にクリスを抱きしめてしまったが。……これ以上、したらしたで()()()()()()()()()()の件について、聡い子供は感づいてしまうだろうから。

 名残惜しい温かさを離し、頭を右手で撫でる。クリスはされるがままになっている。

 ――まあるいおでこに口づけを落とした。俺なりに身につけた、西洋スキンシップだ。

 

「わっ、あ……!?」

「本当にありがとう。おかげで、身が引き締まりましたわ。このまま登校したい所ですが、――皆さんのおでこをお貸しくださいな」

 

 くらえ、俺のおでこキッス爆撃。範囲は全員だ。シスタージェニ、そして隠れて様子を見ている他のシスター神父、そしてシュラさん。

 なんとか全員引き摺り出してキッスの刑に処した。一部の男子は顔を赤らめさせてしまったがまぁ……頑張れ。きっと、エミリーより良い女が君の将来に現れるさ。

 

「それでは皆様、行ってまいります。……ふふ、受験なのでアクセサリーを付けて臨めないのが惜しいですわね」

「それで失格になったら困るしね……。でも持っていくんだにゃ~?」

「えぇ。バレなければ良いんでしょう?」

 

 やれやれといったシュラさんに含み笑いを返し、爽やかな気持ちで孤児院を出た。

 今の俺はスーパーハイパーサイキョーにムテキ。どんなクソ問題が出てきてもムキムキのエミリー()が叩き潰せる。

 移動中の電車でこっそり、鞄の中でネックレスを見てはむふふと笑いが零れてしまう。

 

 ――失敗して、自害し詫びるのではない。

 ――無事に合格し、彼らの未来を繋げる。

 

 目指せ百点満点。メッフィーのその尖った鼻、ぶち壊してやんよ。

 

 

 

 

 

(この公式、習いはしましたけど難しすぎて先生に聞きに行ったものですわね……)

(このテスト、楽勝! ですわ!)

(どうして数学で一気にハイレベルにするんですのー!? ですが私は対応出来ましてよ!)

 

「はい、前山エミリーさんですね。こんにちは」

「はい!こんにちはでございます!」

「(こんにちはでございます?)正十字学園にはどの交通手段で――」

 

 

 

 

 

 ――そうして迎えた試験発表当日。

 

「合格! でしてよ!」

 

 届けられた合格届け、それと同時に指定の日時に学校へ来てほしいという連絡も。

 ()()()()()への答辞願いだ。

 

 もう、完璧だな! 最高ッ!

 高校になったら、俺、ネックレスを毎日着けて登校するんだ……。

 急ぎ足で孤児院から出て正十字学園へ向かう。守衛さんには紙を見せて「責任者呼んできますね」と待たされた後――理事長室へ向かわされた。

 

 さてはて、正十字学園の理事長とは誰だろうか。

 それはモチロン、ヨハン・ファウスト5世こと、メフィストフェレスを名乗る悪魔であり、時の王サマエルである。

 

「合格おめでとうございまっす☆彡 前山エミリーさん(フロイライン)

「ありがとうございます」

 

 ベリアルさん仕込みの見事なカテーシーをお送りする。おっと、ここで今、素は出せないな。

 事務机に置かれた本の隙間に……。

 確認したと同時に、メッフィーは指パッチンをして現れた――盗聴器を捻りつぶした。

 

「ふむふむ。残しておいた盗聴器も確認できているようですね、もう素で大丈夫ですよ」

「白々しいお祝いアリガトウゴザイマスヨハン・ファウスト5世様」

「こwwのwww差wwwwwww」

「なにわろてんねん」

 

 宣言したということなら、()()()()()()()()()()()()ということだ。

 一気にお嬢様エミリーのガワが剥がれた俺に対して笑い転げるメッフィー。いい加減にしろ、義手パンチ食らわすぞコラ。

 笑っているメッフィーを眺めていると、どこからともなくこの場にいなかったベリアルさんが現れた。

 

「この度は合格おめでとうございます、アル様」

「これはご丁寧にありがとうございますベリアルさん。貴方の教えが生きましたよ」

「それは良かった」

 

 ニコー! と細い目を更に細くして笑うベリアルさん。

 

「あるぇー、私と対応が違いませんかねぇ~」

「そんなことありませんですことよオホホホ」

 

 だって合格しなきゃ弟全員殺すって圧掛けてくる悪魔より、まだ親切な悪魔の方がいいじゃん。

 

「ベリアル、茶の用意を」

「はっ」

 

 それに……、執事って、カッコよくない?

 いつもスマートに主人を助け、かといって功績をおごらず……。ヒュ~!

 

「まぁ歓談は後にしましょう。今は合格処理です。いやはや、まったく主席合格とは驚きました。しかも満点での合格……。何か良いことでもありましたかねぇ」

「いんや、身を引き締めただけ。合格出来なかったら死ぬつもりでいたんだけど……、合格出来なかったじゃなくて、必ず合格するって切り替えただけよ」

「末恐ろしい覚悟です。十分十分、……ですが戸籍を用意した時点でアナタに自由に死ねる権利があるとお思いで?」

「だろうなー。どうせ死ぬ間際で時止められるくらいは覚悟してるよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「大アリですよ!? はー、やれやれ。ガチャでSSR引いたと思ったら性能がクソ尖ったキャラだったみたいな感じがしています。メッフィーは頭が痛くなりました」

「どうぞご存分に頭を痛めてくれ」

 

 俺が汎用的に強い訳無いだろ。ただ俺は守るべきものがハッキリしているから物事の優劣に順序を付けられ、判断が早いだけなんだよ。

 兄弟>孤児院>友人>>>(超えられない壁)>>>他人、の順だ。メッフィーはギリ友人枠(内容は共犯者)に入っている。ベリアルさんは問題なくランクインしている。

 

「お茶をお持ちいたしました」

 

 カラカラとティーセットや軽食を乗せたセットを乗せたワゴンを押してベリアルさんが戻ってきた。

 一応気を抜いていいとはいえ、こういうちょっとしたところでの作法はエミリー通りにしている。だって完璧に変装してるのに、こんな所でバレたら俺の苦労が水の泡だ。

 とぽぽぽ、と入れられた紅茶からは良い香りがしてくる。うーん、えっと、確か……。

 

「ニルギリでしたか? この香り」

「ベリアルの教育が行き届いているようで何より。――喜べベリアル。給料をボーナスでアップだ」

「ありがたき幸せ」

 

 良かった。俺の行為一つでベリアルさんの給料が上がった。

 (悪魔)助けはいいな。心が清くなるようだ。

 そう思ったのは一瞬。俺の意識はすぐ、現れたケーキスタンドに向かう。

 

「下段()()()()、中段()()()、上段()()()()でございます」

「ケーキスタンドでポテチ乗せてくる奴初めて見たわ」

「ん~、これがまたオツなんですよ☆ 高級な紅茶を飲み、お茶請けはポテチ。贅沢の極みじゃありませんか」

「嫌な金の使い方だ……」

 

 仕方なくうすしおを食べてみる。これはコ〇ケヤのうすしお、中段はカル〇ーののり塩、下段はヤ〇ザキ……。

 

「会社も違うじゃん」

「旦那様のご意向でして」

 

 パリポリとポテチを貪っていると、唐突に目の前にファイルを渡された。

 

「ふふまひゅくひゅうひゅくほほけ?」

「そう! 念願の祓魔塾の入塾届です。しっかり不備なく記入するように」

「祓魔塾って、アサイラムから名前だけ変えたやつだったけ」

「失礼な。名前以外にもカリキュラムを変更しましたよ。おかげで死亡数も減りましたし☆」

「見直すまで死者が多かったって、非効率的にも程が無くない?」

「ソコを突かれると痛いですネ」

 

 人道的うんぬんを抜きにして、悪魔を祓う祓魔師の卵がポロポロ死んでいくってことは、これから祓魔師業を任せる後任の数が減るっていうことで。組織的に考えても人材ロスは減らすべき場所だったのに、どうしてすぐ死ぬようなカリキュラム組んでたんですかねぇ……。騎士團って二百年も歴史あるのに、対悪魔のノウハウが無いとは言わせんよ。

 

 ……というか、ポテチと紅茶あんまり合わんな? 紅茶だけ飲むか、ポテチだけを食うかで迷ってきた。

 

「祓魔塾に入って塾内の動向を報告する諜報もしなくちゃならんのだろ?」

「これから祓魔師になった際にも続けてもらいますよ。塾での活動は予行演習のようなものです」

 

 俺、ピンクスパイダーこと二重スパイシッマみたいなことしないといけないとは聞いているけども、気はいまいち乗らない。もう女装してる時点で人を騙してるようなものだけど、更に嘘の上塗りするって作業が普通に苦痛だ。

 でもメッフィーの操り人形になっておけば兄弟の安全は保障されるし、俺自身()()()()()()()()()()()だと思わせることが出来れば、少しでも()の生存率が上がるかもしれない。

 なんたってここはダークファンタジー世界。前世の観点抜きにしろ、悪魔という存在によって簡単に人の命が消える世界なのだ。

 

「取り合えず話はこれで終わり……でして?」

「えぇ。また入浴時に会うんですから、細かいことはその時伝えましょう。――今はただ喜ぶといい」

「そうですね。貴方は約束を違えない()()だと信じておりますわ」

「それは光栄ですネ☆」

 

 またもやメッフィーが指パッチンをすると、一瞬でティーセットが片付けられた。身だしなみをようく確認してから、メッフィーへ見事なカテーシーを披露し、部屋を出た。

 学園を出て電車に乗る頃には、しみじみと難関を乗り越えた達成感が再び湧き上がってきていた。

 

 

 

 

 誰かが夢を掴むのなら、また違う誰かはその夢を掴めない。

 誰かが学年主席を取るのなら、――私は学年主席を取れない。

 

 五教科百点満点の試験中、四百九十八点。かつてないほど勉強をして、叩き出せた最高点数。

 でも、私は学年主席では無かった。

 

 一点、あるいは二点の差。

 たかが一、二点の差が、どうしようもなく高い壁だった。

 

 今まで学年主席だったのは私だ。あんな馬鹿たちの上に立っていたのは私だ。

 私は違う。他の奴らみたいに遊んでなんかいない。暇があったら勉強して、努力して、いつだって成績を上げてきた。

 先生からの覚えも良かった。雑事を優先的に引き受ければ内申点も貰えた。

 

 でも、でも、でも!

 

 そんな私を笑うように、()()()はいつも!

 私の居場所を奪うみたいにやって来た。あんな馬鹿どもの中で笑いながら、アホみたいな話をして、――なんで私に届くのよ。

 どうして、私は合格出来なかったの。

 

『大丈夫。瑞穂の努力は、私が一番よく知ってる』

「せいら、せいら、せいら……っ!」

『だから私に任せて。あの女を消せばいいんでしょう』

 

 うっとりと見惚れる笑顔で笑うせいらは、ゆっくりと消えていった。

 

 

 

 

 

 もう受験も終わって演技が崩れない程度に気を抜いている。学校も卒業式を待っているだけみたいなものだが、まだ公立の受験を控えている子たちに勉強を教えつつ過ごしている。それから、俺と同じく私立高の受験が終わった友達とカラオケ行ったりとかね。嬉しいプレゼントをしてくれたおチビたちとも遊んだり、充実した日々だ。

 

 ――目の前にいる不気味な平方さんを抜きにすれば、「今日はとっても楽しかったね。明日は、もっと楽しくなるよね、メフィ太郎?」「めふぃっ!」で終わったんだけどな。

 ふらふらと足取りの危ない平方さんを追ったらこのザマだよ。余計なことに首ツッコまなきゃよかった。

 かくくく、と首をゆっくり動かした平方さんと目が合う。目は尋常ではないぐらいに充血している。

 

「貴女が、前山エミリーね」

「……そうですわ。クラスメイトですのに、顔を覚えられていなかったとは……悲しいですわ」

 

 えっ、あんなに睨んでおいて再確認は無いよな? もうボケでも始まったのか。

 ……茶化すのは止めておこう。……もう平方さんには魍魎(コールタール)がいない。

 ――代わりに、嗅ぎ慣れた悪魔の臭いがぷんぷんとしてくる。

 身体的特徴は以前の平方さんとは変わりない。……ふむ、取り合えずこの前みたく食屍鬼(ネクロファージャー)ではなさそうだ。角がある訳でもない……、呪物(フェティシュ)にでも触って、宿っている悪霊(イビルゴースト)にでも乗っ取られたか?

 

「細かいことは抜きにするわ。――死んで、瑞穂の為に」

 

 平方さん(?)は学生鞄からカッターを取り出してすぐに刃を取り出してこちらに振りかぶる。

 

 ――おっそ!?

 

 ベリアルさん直々に護身術やら体術やらを仕込まれた俺にとって、襲い掛かる平方さん(?)の動きはすごく遅かった。スローモーションだ。

 彼女が俺の肌に傷をつける前に、――俺が鞄から聖水を取り出してぶっかけた方が早かった。

 

「へぶっ」

 

 怯んで目を瞑っている隙にカッターを持つ手に衝撃を与えれば簡単に手放した。そして、想定よりも相手の体が鍛えられてない――至って普通の女子中学生なので、力を弱め、平方さんの腕を掴んで背後に回り、腕を拘束しながら地面へ押し付けた。足を動かせない様に体重をかけておくのも忘れない。

 

「……呆気ないですわね」

「は、離してっ! イヤッ! 助けてせいら、せいらっ!」

 

 平方さんは暴れるが、足も腕も動かせない状態なのでミノムシのように暴れ回っている。

 

「せいら……? はて、何方のお名前ですか?」

「せいら、せいら、せいら、せいらせいら、せいらせいらせいら……」

 

 暴れることが無駄だと分かった途端、ぐずぐずと泣いてしまった。

 ううん……、そのう……、もしかしてだけど……。

 

 悪魔案件ではない……?

 

 

 

 

 

「せいらは私が生まれた時からいた」

「でも皆には見えないお友達で、勉強で辛い私をいつだって励ましてくれた」

「なんであなたばっかり良い点を取って合格してるの……」

「どうしてどうしてどうしてどうして」

「あんな馬鹿たちよりいっぱい努力してるのに」

 

 以上が、支離滅裂だった平方さんの発言をまとめた内容だ。

 

 なんとか彼女を宥めて人気のない公園のベンチで座り、話を聞いていたけど……。聞けば聞く程、悪魔から近いようで離れている問題だった。

 彼女のご家庭は成績に厳しいらしく、主席を取れなかったことでガミガミ言われたことも相まって精神的に追い詰められ……、追い打ちをかけるように正十字学園への受験も失敗。

 泣きながら話された受験生の悲哀が、彼女にたっぷりと詰まっていた。

 

「あまり、私から詳しくは言えませんけれども……。そうですね、まずは貴方の意識から変えるところから始めた方がいいですわ」

「意識、から?」

「そう。貴方は皆さんのことを馬鹿だ馬鹿だと申しますが、果たして本当にそうでしょうか」

「……あんな馬鹿みたいに話してる奴らのことを馬鹿だって言って何が悪いの」

「でしたら、貴方は馬鹿みたいな方々と接している私に負けた時点で、お馬鹿さんに入りますわ」

「ぐっ……」

 

 目を赤く腫らした平方さんが恨めし気に見つめてくる。……魍魎(コールタール)は特にない。

 よくたかっていると思いきや、聖水投げただけで散るんだから……、なんだろうな。

 魍魎(コールタール)がたかる程に負の感情が集まるけど、悪魔が憑依する程では無かったっていうこと?

 

「そういえば、イマジナリーフレンドのせいらさんはいずこへ?」

「は? いる訳無いじゃん。私が辛い時に出て慰めてくれるだけの存在がアンタに見える訳無いじゃん」

 

 めっちゃ言われる……。それにイマジナリーフレンド持ちなのに思考がリアリストだ……。

 

「私は割り切ってるの。せいらが出る時は一番辛い時……、アンタがいたせいで、夏から今の時期までせいらがいた。私も錯乱することがあった。それでアンタに迷惑をかけただけ、それだけよ」

「そうですか……」

「だから、アンタに心配される筋合いはないの」

「それは無理な話でしてよ。現に、私は平方さんに襲われそうになったところを護身術で防衛しているのですけど……」

「うぐぐ……」

 

 潔過ぎて逆に不安になってきた。

 いやぁ……、まさかの悪魔外案件とは……。まだまだ精進不足だな。

 それにしても、このまま終わらせていいのだろうか。平方さんは“せいら”というイマジナリーフレンドを付けたまま、このまま勉強だけの秀才ちゃんで大丈夫なのだろうか。そして喋っている言葉は汚く、到底人に好かれる性格ではない。

 一旦落ち着こう。こんな時、前山エミリーならどうするか。

 

 ――ま、もう答えは決まっていたようなものか。

 

「平方さん、今時間がございまして?」

「ん? ……まぁ、あるっちゃあるけど」

「でしたら、今日は一日私と遊びましょう」

 

 幸いにして午後三時。学校から帰宅してすぐの時間だ。

 え? 平方さんにはこの後公立高校の試験が待っている?

 そうだね。――だからどうした。

 

 逆に、今の精神状況のままだと()()()()ことを知ったまま、放置する前山エミリーではなくってよ。

 

「ちなみに拒否権はございません! 襲ったことを警察に報告されたくなければ大人しく従うのですわー!」

「はぁぁぁぁっ!?」

 

 無理にでも平方さんの手を引っ張って駅へゴー。最寄りの遊園地に行って息抜きですわ!

 途中入園前の金属探知機に引っ掛かりましたけど義手のことを証明したら入れた。危なかった。

 

 

 

「さぁジェットコースター乗りますわよ」「うっわ高……きゃあぁぁぁぁぁ」

「次はぐるぐる回りますわ~!」「目、目が回るぅ……」

「ウェーブスインガーに乗りますわよ!」「…………」「あら、気絶してしまいましたわね」

 

 

 

「お次は観覧車に乗りますわ。体を休めつつ絶景を楽しめましてよ」

 

 グロッキーになった平方さんは向かい側でぐったりとしている。

 おかしいな……。なんだか俺が遊園地を使って拷問しているように見えてきた。メッフィーに毒され過ぎたか?

 一応ひっきりなしに動いていた俺の口も休めさせる為、観覧車内は自然と静かになった。ここからでもあの正十字学園が見えてくる。どれだけ高度が高い建物なんだか。

 

「……なんで、アンタは正十字学園を志望したの」

「ハイレベルな教育を受けることが出来て、入る予定の寮の設備もよく整っていたからです」

 

 ――でも、俺が入る寮って、あんなホームページに載ってるようなお綺麗な所じゃないんだよね……。

 燐・雪男らがいたような旧男子寮ではなく、旧女子寮をあてがわれるらしい……。萎える~。

 

「そういう、平方さんは?」

「……私は、親がそう望んでたから。お嬢様学校出の娘が欲しかったんだとさ」

「あら」

 

 確かに正十字学園は私立高校の中でも偏差値高いことはあって、お嬢様・ご令息学校とよく言われる。普通に入れば馬鹿高い入学金を支払うことになるが、試験成績上位になれば奨学金制度が使えるようになる。私はこの制度を使っての入学となる。

 にしても、平方さんの家はとことん子供をトロフィー扱いする家なのか。凄まじいな、これでは平方さんがこんなにも荒むのも納得がいってしまう。

 ぐったりとしていた平方さんはやや体力が回復したらしく、態勢を整えて景色を見つめていた。

 

「……本当なら勉強しなくちゃいけないのに、結局日暮れまで遊んじゃったなぁ」

 

 ぽつり呟かれた言葉はやけに湿っていた。

 

「ですが、楽しめたでしょう?」

「…………まあね。こんなに楽しかったんだね、遊園地って」

「えぇ。皆さんがこぞって休日を使って遊びに行くのも分かります」

「分かりたくないけど、分かっちゃうなぁ……」

 

 ゆっくりと目を伏せる。平方さんの目下にはやや隈があった。連日寝ずに勉強でもしているのだろうか。

 効率悪いよと言ったって、受験前はどうしたって不安になる。これまでの勉強で良いのか、この一心で頭にぎゅっぎゅっと知識を詰めてようやく安心できる。俺もそういう節が無かった訳ではない。

 

「あのさ、……ごめん。孤児院育ちの癖にとか、頭がお花畑とか、他にも僻んでストーカーしたり、襲ったり……」

「改めて述べられますとかなりの事をやっておられますね、エミリーびっくりですわ」

「うぐぅ……」

「……そうですわね。私への罵倒は許して差し上げますが、――いくら寛大な私でも、孤児院の皆さまを貶したことは許しませんわ。皆さま、好きで孤児になった訳ではありませんもの」

「……そっか。うん、別に許さなくていいよ。自分でも酷いこと言った自覚はあるから」

 

 ゆらゆらと潤んでいく平方さんの目には、今までのような色は見えない。どっちかといえば、今の平方さんはふら~っと消えていきそうな雰囲気がある。

 そう、孤児院への罵倒を許しはしない。だからといって、許す機会を与えないのもアレだ。

 俺は囁くように言ってやる。

 

「ですが、一つだけ道はあります」

「え?」

 

 聞き返した平方さんの目を離さないよう、綺麗な微笑みを作った。メッフィーから男女平等即落ちスマイルと評されたほどの完成度だ。

 

「――私と、お友達になりましょう」

 

「それが条件ですわ」

 

 

 

 

 アイツを襲った日からもうすぐに過ぎて、公立高校の試験日がやって来た。

 

「絶対合格しなさいよ」

 

 そんな言葉一つで送り出した母親にうんざりとした。いつだってこの人は()()()()()のだ。

 もういない姉の功績を私に求めるぐらいに、精神科病院で出された薬に頼るくらいに。

 

「言われなくたって合格するよ」

 

 公立で選んだ高校はどこも寮制度のある高校で、母が望むレベルの偏差値がある。

 正十字学園以外で受けた私立高校には寮制度が無く、自宅から通う予定になる。

 この試験に勝たなければ、私はもうこの家から出る手段を失うのだ。

 

 私は家を出たい。

 ……出る為にこれまで頑張ってきたのに、今は――あの時ほど、自分の気持ちの勢いがない。

 中学校に入る前から必死に予習をして、復習をして、成績を上げていった。全て受験の為だ。あの時はがむしゃらに「あんな馬鹿たちには負けない」「私のほうが頭いい」「私はあいつらのように適当に生きたりなんかしない」。この気持ちを燃やしながら勉強してきた日々だった。

 連日続く勉強漬けで心が疲弊する時がある。そんな時、――もういない姉の名を持つイマジナリーフレンドが出てくる。そうして私に囁くのだ、「あなたのことは私がよく知っている」と。私に都合の良いことばかり言って、消えるだけの存在が。

 

 ……最近、アレが出ることも無くなってきた。精神が落ち着いているという証だ。

 その要因は、恐らく、桜色の金髪をした一人の同級生。前山エミリーという外国人の少女。

 

 ――あの日、私は前山エミリーと友達になった。

 教室内でよく話しかけられるようになった。……それを皮切りに、クラスメイトとも話すようになった。

 私が、馬鹿だ馬鹿だと言ってきた奴らと話していた。流れで勉強も教えたりもして、感謝されることもあった。

 彼らとの話が、なんらかの変化をもたらしているのは明白だった。

 

 クラスメイトとする話は他愛のないものから、受験に関するものまで。

 最近流行りの音楽が、アイドルが、メイクが、新作が……とか。点Pが分からないとか、産業貿易の年代が分からないとか……。

 私が見下していた彼らは、私が全く知らないことを知っていた。私や母親が「あれは馬鹿の見るもの」として切り捨てていたことを一つ一つ拾って、手渡してくれた。……受験が終わったら一緒にライブに行こう、なんて誘ってくれる子もいた。私は彼女の好きなアイドルのことを全く知らないのに。

 

『きっかけはなんだっていいんです。平方さん、皆さんと話してみましょう』

『彼女たちは気の良い子です。なにか遊びのお誘いをしてくれたらお受けしてみましょう』

『きっと、()のままより世界が広く見える筈です』

 

 今まで生きてきた()は、『あんな勉強量じゃ合格できない』と言うのに対して、今いる()は、『大丈夫』と返している。

 

 ――それが正しかったのかは、今手元にある合格通知書が証明している。

 

 きっとアイツは言いたかったんだろうな。今の私には余裕が無いと。それでは、今のままでは潰れてしまうと。

 もし、合格せずに私立へ行っていればどうなっていたんだろうか。あまり考えたくはないけど……、ひとまず、誘ってくれた子の為にも待ち合わせ場所に行かなければならない。

 合格通知書はしっかりファイルにいれて保存し、手に持った鞄に忘れ物が無いかを確認する。

 

「…………行ってきます」

 

 すやすやと寝ている母がいる家を出た。

 

 

 

 

「前山エミリーです。よろしくお願いいたしますわ」

 

 特徴的なカワイイリボンにピンクのセーラー服とスカートに身を包み、愛らしく微笑めばクラスの大方を掌握する。

 そんな美少女いないだろって? いるんだよ。

 

 俺だよ。

 

 無事に平方さんを短期間でクラスメイトに馴染ませて問題は一旦解決。アレ、俺は単に平方さんは話しやすい人という印象を付けさせただけで、こう、それ以降表立って関与はしていない。平方さんはアイドルが好きになった模様で、そのきっかけとなった女子生徒とよく話しているのを見かける。なんとその子も同じ学校を受験して進学する予定だってね。よかったよかった。

 

 こうして中学での憂いも断って、俺はようやく正十字学園の門をくぐった。

 別にクラスメイトの掌握はいいんだ。問題はこっからでもある。

 

 心の弱いところを悪魔は突く。

 その為、祓魔師となる人物はユニークな人物が多い。原作での祓魔塾生たちだって魅力的かつユニークなキャラクターたちだ。全員が全員、雪男みたいな几帳面な性格のヤツはいないだろうと見込んでいる。

 

 ――すなわち、祓魔塾とは個性の坩堝。

 

 俺がそんな中でもエセお嬢様系キャラを維持できるのか、他のヤツらの個性に押し潰されてしまうのか……。

 今運命を決める祓魔塾として指定されている教室の扉を開いた。

 

 

 

 中にいるのは七人。

 

 

 

 一人は、ゲーム機を持ってピコピコやっている男子生徒。

 一人は、小動物のような愛らしさを持った女子生徒。

 一人は、目をあっと惹くような男子生徒。

 一人は、背の高いぽちゃりめでゆる可愛い女子生徒。

 一人は、机に長い足を乗っけてふんぞり返る男子生徒。

 一人は、その男子生徒の傍で執事の様に控える男子――いや女子生徒。

 一人は、教室の隅からぬぼーっと見つめてくる男子生徒。

 

 

 

 キャラ濃いわ!!!!!

 

 

 しかしここで挫ける訳にはいかない。祓魔塾内人気投票一位は俺の物だ(断定)。

 

「皆さまお初にお目にかかります。私の名を前山エミリーと言いますわ!」

 

「どうぞこれからよろしくお願いしますわ~!!!」

 

 ――なので、俺も負けずに挨拶をした。

 




平方瑞穂
秀才ちゃん。リアリストだけどイマジナリーフレンド持ちで冷静に自分の状態を分析して「まずいな」って思いながらそのままにしてた(対処法を知らない)。
エミリーを襲撃したことをきっかけに短い間ながらもクラスメイトたちと交流を深める。
勉強ばっかしてたので体力はクソザコ。

平方せいら
死んじゃった姉。幼くして亡くなった為、()()()()()()()の姉妹であることを知らない。ので、瑞穂のことを姉妹とは認識せず、自分を見て話してくれる()()だと思ってる。
なお、これまでのせいらの動向は瑞穂が分析した『せいらだったらこうするだろう』というデータに基づいている。全部ひとり芝居だって、はっきり分かんだね。

クラスメイト
聖人の集まり。いじめとかない。

前山エミリー(アル)
自分の事は気にしてないけど孤児院のこと貶すと怒る一般女装お兄ちゃん。
高校デビューしたからいつも四葉のクローバーのネックレスつけて登校する。
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