もぅマヂ無理……鶴折ろ……   作:一億年間ソロプレイ

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☆祝・出雲ちゃん編アニメ化☆

来年一月から放送するので、見よう!
当作品はイルミナティ撲滅を心から応援しております。

提供は

正 十 字 騎 士 團
謎 の ブ ラ ザ ー

でお送りいたしました。

★前回(約一年近く前の話)のあらすじ★
十三號セクション出身アルくんは前山エミリー(女装)となって正十字学園に入学し、祓魔塾に入塾したよ!
(アクが)強そうなヤツばっかでオラワクワクすっぞ!
おっし、ここはいっちょ元気な挨拶でもすっか! したぜ!←イマココ

※過去話を含めての誤字報告ありがとうございます!



まだまだ訓練生(ペイジ)ですのよ

 

 どこからどう見ても聞いても元気かつ完璧な挨拶をした。それから周囲の反応を窺う。

 まず好意的な反応――手を振ったり、挨拶し返してくれる人数と、無反応・呆気、悪意的な反応とで判断。教卓前の列に座る女子二人はおおむね好印象、手を振り返したり、軽く頭を下げたりしてくれている。

 よく分からないのが教室隅にいる前髪で目元が隠れている男子生徒と、視線を一瞬寄越すだけで終わった男子生徒の二人。驚いてるのは目元隠れ男子生徒の前に座る、ゲームをしている男子生徒。

 ――そしてあからさまに表情を歪めたのが、女子生徒二人より後方の座席に座る男女組。女子生徒の方は男子の制服を着ているが、あれは女だな、うん。この俺の目は誤魔化せんぞ。

 

「まったく、静かに挨拶することも出来ない奴がいるとはね。正十字学園も質が落ちたな」

「元気な挨拶をすることで何かご不満になりましたか? それとも声の大きさでしょうか……」

 

「失礼しましたわ~!」

 

「「!?」」

 

 俺は悪びれることなく大声を出してやる。発声練習は淑女の務めでしてよ。

 会話もほどほどに、――俺は女子二人が座る席の近くに移動した。集団の中で違和感なく馴染むには同性と交流を深めてから、他の異性・同性と輪を広めていくに限る。

 ま、普通に考えて女子より先に男子に話しかける女子をどう思うかだよな。十中八九良い顔はされないので、スタンダードにいくべきだ。

 

「先程はお騒がせしましたが、どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 

 手を差し伸べる先は、女子の内、中々にガタイの良い女子。

 「よろしく~」と握手を返してもらった。忘れずその隣、身長の低い女子にも握手をプレゼンツすると無事に受け取って貰えた。「あの、よろしくです!」だって、あら可愛い。

 ほんわかしていると教室の中に見覚えのある水玉ピンクスカーフをつけたスコティッシュ・テリアが入ってきた。続いて黒のロングコート、胸元に赤と青の――祓魔師(エクソシスト)の証を身につけた男性がやってきて、教卓へ持っていた段ボールを置いた。

 

「あー、人数は揃ってるみたいだね……。はい、初めまして。僕は湯ノ川ススムといいます。これから君達の担任なんで、よろしく」

 

 もっさり頭に顔を覆うぐらい大きなカラーサングラス。背景にいながら存在感を主張するあの――スーパーモブの湯ノ川ススムさんじゃないか!

 

「まずは……、皆自己紹介してもらっていいかな。例年いくらか脱落するとはいえ、これから共に学ぶクラスメイトだからね」

 

 じゃ、そっちの列からと告げるとススム先生は早速教卓の椅子に座った。

 私から見て左側、滅茶苦茶に顔面宝具系男子が立ち上がる。自然な発色の銀髪にあの透き通った紫色の目! モデルでもやってらっしゃる?

 

「ルスラン・エフィモヴィチ・ジェルガーチェフ。よろしくお願いします」

 

 俺にも劣らぬほど美しい九十度のお辞儀をして座った。そっけない態度だが拍手をしておこう。

 名前からしなくてもロシア系だろうか。あっちはあっち……、というか各国に祓魔塾っぽい施設があるのに何故日本にいるのだろうか。

 俺の疑問を他所に彼の後方の椅子に座っているぬぼーっと系男子が立つ。……うーむ、違和感。

 

佐々原(ささはら)龍人(りゅうと)でーす……。よろしくお願いしゃーす」

 

 あからさまにやる気のない自己紹介で終わった……。拍手を忘れない。前山エミリー、イイコダモノ。

 左側の列が終わったので、今度は俺たちの座る真ん中の列。目の前で小柄な少女が立ち上がった。身長は140ぐらいか、黒髪でふわっとしたセミロングなこともあって小動物的な可愛さがある。

 

「私は剣崎(けんざき)晴海(はるみ)って言います! 趣味はお茶や手芸で、この塾に来たのは少しでも悪魔で悩む人たちの助けになりたいと思ったからです! どうぞよろしくお願いします!」

 

 ん~、百点満点。可愛い(確信) 意気込み含めて可愛い。

 知ってる? 俺さっきあの子と握手したんだぜ……? いつもより激しい拍手を送っておこう。

 あそこのキモテリアも「ちゃんわぃ~♡」って言いながら悶えてるようだし。うわキモ……。まだテリアの姿だから見られたな。

 ちょっと照れながら座るところも可愛い。あれもう可愛いしか言ってなくない? カムバック俺の語彙力。

 

「あたしは千頭(ちかみ)万里(まり)。よろしく~」

 

 こっちはゆるふわっとした感じだが、かなり高身長な女子。シュラさんに負けず劣らずのバスト……、ふむ……。あのテリア、座った時に見えた胸の揺れを見て頷いたぞ。ふむ……。

 おっと感想も拍手もそこまでにしておいて、次は俺だ。俺が立ち上がると数名が身構えた。

 

 ふっ……。

 

「先程紹介させていただきましたが、改めて。前山エミリーと申します。私の信念はルシフェル(悪魔)を滅すること! よろしくお願いしますわ」

 

 前二人からの拍手を受けて座る。おい誰だ今「あのクソデカ音声は一体」とか言ったゲームやってる系男子くん。……特定しちゃった。

 なんとなくそっち――、右側を見ているとひぃっと悲鳴を上げられた。陰キャか?

 俺が暫定陰キャくんで遊んでいる内に背後から立つ音が。今度はあの偉そうな男子だ。

 

久見矩度(ひさみくど)草太朗(そうたろう)だ。慣れ合う気はない。精々僕の足を引っ張らないようにしてくれ」

 

 なんでそう初手で見た印象のままのマルフォイムーブをかませるんだ。逆にそこまで王道のマルフォイムーブが出来るのって逸材じゃないか?

 まぁでも拍手はするよ。前山エミリー、イイコダモノ。

 というか久見矩度って確かぁ……、結構な財閥じゃありませんこと? 流石お金持ち学園。

 

五葉(ごよう)(さく)と申します。草太朗様の召使でございます。以後、お見知りおきを」

 

 ふぅ~~~~~~ん?

 おいおい、男子にしちゃぁ喉仏も無くて体付きも華奢じゃあ無いか……。そういう男子もいるっちゃいるが、声帯は確実に女だ。

 この女装男装勝負、俺の勝ちだな。

 

 真ん中の列が終われば右隣の列。そこにはもう先程のゲーム男子しか座っていない。明らかに小柄なゲーム系男子くんは嫌々そうに立ち上がった。

 

「………………九井(ここのい)(けい)です。よろしく……」

 

 声ちっさ。

 目にも隈あるし不健康なことこの上無い。大丈夫? 毎日の食事カロリーメイ○とか十秒○ャージとかで済ませてない?

 

「はい、皆ありがとう。それじゃまず、この中で魔障(ましょう)を受けていない人はいるかな。……あ、魔障っていうのは悪魔に付けられた傷の総称のことね」

 

 基本、素質の無い一般人でも魔障を受ければ見えるようになる。壁一枚隔てた場所で悪魔が存在している、ということがよく分かる世界観だ。

 この中で手を上げたのは二人。前の晴海ちゃんに九井だ。

 

「二人か。魔障の儀式を行うから前に出てきてね」

 

 持ってきた段ボールから取り出されたのは、瓶に入れられた小鬼(ゴブリン)。体の小さい個体でいわゆる雑魚というやつ。だが、外に出たそうにカリカリと瓶を引っ掻いていた。

 ススム先生は蓋を開けると器用に片手で小鬼(ゴブリン)の四肢を纏めて持って、右手だけ自由な形にした。すると、教卓前に出てきた二人へと差し出した。

 

「ちょっとだけ痛いけど大丈夫大丈夫。さ、腕出して」

 

 ちょっと怖気ながら先に出したのは晴海ちゃんだ。おい九井、なに晴海ちゃんに先にやらせてんだオラァン?

 

「っ、ちょっと痛いですね……」

 

 ああ、綺麗な肌に引っ掻き傷が……。これは手痛い損失ですよ、軟膏あったっけ……、と思っている間に九井への儀式を済ませ、湯ノ花先生が二人の手当てを済ませていた。なんてスマートな動きなんだ、オレじゃなくても見逃さないね。

 

「はい、これで儀式は終了です」

 

 言っている間に小鬼(ゴブリン)を瓶の中に戻した。原作のように小鬼(ゴブリン)の暴走なんてこともなく平和に終わった。やっぱ原作主人公たる燐がいないと平和なんだなぁ……。しみじみと思いつつ、湯ノ花先生の言葉の続きを待っていると教卓前から軽やかな音と共に白い煙が!

 

「グーテン……」

 

 そんなメッフィーの眼前に拳が!?

 

 あまりにも早い初速の拳の持ち主はルスランだった。

 しかし、難無くひらりと避けられて目を見開いて体の動きが止まった。

 

「モルゲン☆ んもう、せっかちさんですね。()()()()()()()()()()()()()()?」

「ッ」

 

 なんかそんなことを言われてルスランが身を引いた。お母様の御意向でそんな殺人拳が……?

 俺の疑問を他所に、ルスランは殺気はそのままにして身構えだけは解いたが、次の瞬間には白い煙に包まれて椅子に座らされていた。体が可愛らしいピンクのリボンで縛られていることから、誰がやったのか言わずとも分かるだろう。

 いやぁ……、すっご……。相手が時を操るチートキャラじゃなきゃ潰せてたぞ……。

 俺もあんな初速が欲しい……、だってあれ、メッフィーだから止められただけであって、ルシフェルなら知覚される前にぶん殴れただろ?

 実験施設でルシフェルにぶちかました時のはなんか、火事場の馬鹿力的なもんだったからさ……。

 

「よ、ヨハン・ファウスト五世……!」

「正十字学園の理事長がなんでここに……」

 

 ルシフェル討伐に足りないのはスピード・パワー。

 やはりスピードとパワーこそが正義。その名の元には堕天使なんぞ一刀両断……、あいて。どこからともなく現れた包装されたキャンディーが額に当たった。これも誰がやったのか(以下略)

 

「痛いですわ」

「大丈夫ですか?」

「えぇ、小突かれた程度ですわ」

 

 晴海ちゃんが振り返って心配してくれた。可愛い。

 しょんもりとした顔を作りつつ、包み紙を開いていく。茶色い飴が見えて口に放り投げた。うーん、コーラ味。

 

「食べるんだ……」

「食べた……」

「食べやがった……」

 

 ちょっと小腹が空いてたから! 小腹が空いてただけだから!

 そこのピエロから生み出された物だとしても飴自体に罪は無いんだから!

 

「んんっ! 少し遅れましたが――。皆さん入塾おめでとうございまっす☆ これから一人として欠けることなく学び、楽しみ、そして成長するよう願っていますよ☆彡」

 

 アウフヴィダーゼーエン! なんてドイツ語のサヨナラを残してメッフィーは退場。残されたのは可愛らしくラッピングされたルスランと、面倒臭げにぽりぽりと頬を搔いている湯ノ花先生。

 

「はい。以上がありがたい学園長からのお話でした。それじゃ……」

 

 何事も無かったように諸々の連絡事項を言い渡されて、本日は終わりらしかった。

 渡されたプリントと言えば年間を通しての祓魔塾のスケジュール。ここから一ヶ月半後に合宿がある。燐の時代じゃ合宿は候補生(エクスワイア)認定試験を兼ねていたが、気を引き締めて臨んだ方がいいか。候補生(エクスワイア)になればより祓魔師(エクソシスト)の道に近付く。

 でも学業と並行してやらなきゃいけないんだが……、明らかに中学の時より忙しないと分かる。

 

「ねーえー、一緒に帰らない?」

「ほわぁ。えっと、分かりましたわ!」

 

 プリントの前にまろやかフェイスの……万里さんがいた。急ぎながら優雅さを忘れない仕草でプリントをしまうとエレガントに離席。万里さんと晴海ちゃんと一緒に教室を出ていった。よーし、順調なリア充生活だぁ。

 

「皆さま女子寮にお住まいですか?」

「そーだよー」

「前山さんは違うのですか?」

「実は私、ある事情から旧女子寮の方に宿を借りておりますの。……それから、前山さんではなく、気軽にエミリーと呼んでくださいまし。折角、志を同じくする同期ですもの。仲良くいたしましょう?」

 

 最早常備品ともなったお嬢様スマイルに二人もつられて笑ってくれた。

 

「うん! それじゃあ、よろしくお願いしますね。エミリー!」

「あたしも万里でいいよ~」

「わ、私も……!」

 

 お喋りしながら二人を綺麗に掃除された女子寮へ送り、渋々俺はそこからかなり離れた場所にある旧女子寮に戻った。

 ここはさぁ……、内部はメッフィーによって掃除業者が入って掃除されて完璧に使えないって訳じゃないけど最新設備の整ったあそこに比べれば……ねぇ?

 自室とした部屋に入って二段ベッドの内、下のベッドへ鞄を放り投げた。体の上半身だけそこへ倒すと溜息が出た。

 

「とうとう入塾かぁ……」

 

 祓魔師(エクソシスト)への一歩。感慨深く思うが、同時に不安もある。このままがむしゃらに力をつけたとしてもルシフェルに適うのかとか、もし全てが終わる前に俺が死んでしまったらとか。

 ……アーサー、今どうしてるだろうかとか。あの胡散臭いスパイ男に洗脳でもされてないか、アルジャーノンとか俺じゃないアルくんがちゃんと人らしく生活を送れているのかとか。

 孤児院にいる兄弟たちは人並みに送れているとして、アーサーたちに関しては本当に情報が分からない。言ってもメッフィーはニヤニヤとして教えてくんないし、俺には聖座庁(グレゴルセデス)のツテとかないし……。いや、あったわ。

 

「頑張るしかない。頑張るしか……!」

 

 まずは近い目標でも立てるか。祓魔師(エクソシスト)認定試験の合格は当たり前として。

 そうだな……、あのルスランの初撃。

 あの目で追うのもやっとなスピードを一年の内に身に付けることを目標にしよう!

 

 

 

 

 午前、授業。お昼、クラスメイツとおランチ。午後、正十字学園の授業が終われば祓魔塾のカリキュラム。

 四月はこのルーティンに慣れる為に早く過ぎていった。五月になるとちょっと慣れが出てきて、あることを思い出した。

 メッフィーの私室へと繋がる鍵の他に、“入学祝”と称されてもらった鍵がある。

 ――祓魔用品店の『祓魔屋』に繋がる鍵だ。

 

 外国の名所いいとこ取りスペシャルな正十字学園から一本細く伸びる橋の先にあるのが『祓魔屋』だが、結界か何かでも張られているのか鍵を使えなければ辿り着くことは無い。この結界の張りようと正十字学園に近いこともあって、メッフィーにとってもかなり重視している場所なのが分かる。

 

 ま、その正体は三賢者(グリゴリ)の一角、シェミハザ一家の経営するお店なんですがね。そもそもメッフィーが青い夜以降にここへ誘致したって話らしいし……。

 

 俺はその鍵を貰ったことを何の予定も無い日曜日に思い出したので、早速使うことにした。シリンダー錠の鍵穴へまったく違う形の鍵を入れるとすんなりと入り、ノブを回して扉を開ける。

 すると、そこに在るのはいつもの女子寮の廊下ではなく、生い茂った緑に埋もれるようにある石段だった。その先にある黒い鉄柵に囲われた広大な農園と、その先にある自然に包まれた家。

 俺の目的はそんな家の前の農園でせっせと土いじりをしている、髪を上に団子状へまとめ上げた着物のおばあさんだ。近付くヒールの音に気が付いたのか、ふらりと顔を上げる。

 目線が合う。誰だ、という目から――俺が誰だか気付いたように瞳の縁が震えた。

 

「久しぶり、()()()()()

「まぁ、随分可愛らしい姿になって」

「でしょう?」

 

 土いじりの手を止めたおばあさんは手に付いた汚れを拭くと藤棚の下にあるベンチを指差した。丁度咲き頃らしく淡い紫色の藤を咲かせていた。

 

「まさかあんな仰々しいおばあさんがこんなちんまりしているとは思いませんでしたわ!」

「そうね……。例え、力があっても私たちの半分は人だもの。今は普通にしてもいいのよ。貴方以外にお客さんはいませんから」

「……それじゃ、お言葉に甘えますか」

 

 ということでお嬢様言葉は一時封印。あの青い夜の日、ルシフェルへ特攻を仕掛けた結果失った俺の左腕の応急処置をしたおばあさん――三賢者(グリゴリ)の一人、シェミハザは俺の左腕を見ていた。

 

「あ、気になる? これ義手。三角さんたちが合同で作ってくれたんだよ」

「そうなの。動きに支障とかは無いのかしら」

「全然ない! だから快適! ネックなのは夏になるとアツアツになること!」

 

 がははとお嬢様らしからぬ笑いを飛ばせばおばあさんもふふっと上品に微笑んだ。今度上品な微笑みをする時に参考にさせてもらうぜ!

 

「俺さぁ、アンタには色々と聞きたいことがあるんだけど……、答えてくれる?」

「内容に依ります」

「じゃあ早速。ウザイ家に引き取られたアーサー・アルジャーノン・アルの三人について」

 

 『アル』と言葉にしておばあさんはちらりと俺を見た。

 

「貴方は、自分がもう一人いるということには何かしら思わないのですか」

「……何も思わない訳じゃない。でもさぁ……、俺がアルであった頃に一番親交の深かった奴は(アル)に関する記憶が消えてるからさ。だからこそなんとか紙一重で、悪い方向に思わないでいられているだけ」

 

 俺の言葉におばあさんはやや息を詰まらせた。俺もビックリだよ、結構アーサーのことを気にしているんだってね。

 なんだろう、多分なんだけど……、原作キャラとかそういうのを抜きにして、かなり俺の深い位置にアーサーのことを据えて考えている、と思う。

 

「で、どうなの? まさか極秘裏に人体実験の素体とかにしてないよね?」

「貴方が気にする三人はウザイ家で家庭教師を雇って教養やマナーを習っている最中です。人体実験なんてさせませんよ」

「……ならいいけど」

 

 しえみちゃんの記憶操作してたっぽいとことかあるしなぁ~。ほら、エレミヤとかいうスパイ男って上っ面だけは上手に取り繕えるエリートクソボンボンみたいな雰囲気あるから。そもそもルシフェル信仰する人間なんて信用ならないから。

 

「これで最後かな。俺にこの鍵を渡すように言ったのはアンタ?」

 

 ポケットから取り出して指先で回したのはここへ来るのに使った鍵。俺の問いに、おばあさんは頷いた。

 

「えぇ。私がメフィストに渡すよう言いました。私自身、貴方とは個人的に話がしたいと思っていたので」

「へぇ~……。三賢者(グリゴリ)の一人にそう言われるだなんて光栄光栄」

「こうして話してみて、意外に思いました。貴方が私に向ける敵意があまりにも少ないので」

 

 俺のかっるい誉め言葉をスルーして告げられた言葉に、今度は俺が黙った。

 敵意、敵意なぁ?

 じとーっとおばあさんを見つめ、それから家の方を見つめた。

 

「無い訳じゃないよ」

「実験の責任者として向ける視線にしては、という意味です」

「そうだなぁ……。確かにアンタらはあの実験を継続させた。早めに切り上げれば失われる命は少なかった、俺たち()()()()()()()()()()ではな。もし止めていれば、青い夜以上の死人が出たかもしれない」

 

 心を痛める様におばあさんは目を閉じた。

 俯瞰的に見れば、エリクサー実験を続行させなければルシフェルはきっと健常な人間たちに向けてボンバーしていた。

 そうなればどれだけの人間が命を落としただろう。あの光は、サタンが器を求めて結果的に焼いた青い夜よりも――もっと無差別に人の命を殺していっただろう。

 サタンは自分を受け入れられる器を狙っての話だが、ルシフェルはもうあの実験以前から人間に並々ならぬ怒りを抱いていた。

 理性的な様でそういうところが幼稚なルシフェルだからな。

 

三賢者(グリゴリ)とか十三號セクションに従事していた人間よりも、あの悪魔を殺したいと思った」

 

 醜い死骸を延命させて、例え同じ遺伝子を持とうが自分ではない他人の命を食いのさばるあの化物。

 自分たちにのみ都合の良い理想論を吐いて、今もなお多くの人間を誑かして滅びへと向かう手伝いをさせる。

 

 多くの兄弟たちの死骸を喰って踏み躙った、あの悪魔を。

 『生かしてはおけない』と思った。

 

「いや、アイツは()()。例え不死身だろうと何度でも殺す。器に乗り移る前に殺す。そうして、兄弟たちがアイツの手に掛かることなく人生を生きられたのなら……」

 

 そこまで口にして、思わず手で口元を隠した。

 

「……ごめん、ちょっと熱くなった」

「いいえ、……それが貴方の願いなのですね」

「まぁ、そんな感じ」

 

 誤魔化すようにへらっと笑う。これはお嬢様感の無い笑顔だ。

 それに対し、おばあさんは光が眩しくて目を細めている、そんな笑顔を見せていた。

 

「おばあさんは俺が『アル』っていうことを知ってるから口が緩くなってんのかね。意外な弱点を発見しちゃったわ」

「本当の自分を隠したまま生活を送るというのは、きっと貴方が思っている以上に精神をすり減らしているのでしょう。知人にも隠したままの生活だなんて……、それは単なる婆にも口が軽くなるわ」

「えぇ? アンタが単なる婆さん? 冗談は止めてくれよ」

 

 とんだ三賢者(グリゴリ)ジョークだ。ははははと笑っていると、確かに内側に積もっていた物が軽くなっていった。

 前山エミリーがアルだと知っているのは、メッフィーとベリアルさんにシェミハザ、三角さんとネイガウス先生(まだ先生じゃない)。そのたった五人(内三人は悪魔)なのだ。

 

「今日はありがとう。また寄らせてもらうよ」

 

 ベンチから立っておばあさんに手を振って別れを告げた。穏やかな顔でおばあさんが手を振り返していた。

 あの石段が見えた地点に立つと鍵を取り出して宙で回す。それだけで空間が切り取られたように開き、俺の自室を見せていた。

 

 

 

 

 祓魔塾の講義は色々とベリアルさんから教わっている範囲に被っていたが、復習だと思いながら受けていた。周囲より余裕なせいか、授業中に同期になるメンバーの観察を行ってみた。

 

 まず、友人にもなった晴海ちゃんと万里さん。晴海ちゃんは比較的真面目だが、万里さんは聖書の暗唱などでよく寝ている。きっと詠唱士(アリア)称号(マイスター)をハナから取るつもりがないのだろう。

 かなり真面目に受けているのは晴海ちゃんを含め、ルスラン、あの坊ちゃんとその召使。

 起きているがいつでもぬぼーっとしているのは佐々原とかいうやつ。アイツは俺の視線に気付くのかよく目が合い、そして俺は照れ隠しにウィンクをする。てへぺろ。

 やる気があるようでないようなのがあのゲーム男子の九井。一応授業中にゲームはしないが、寝不足からか居眠りしている場面を多々見受ける。

 比較的この塾生はやる気のあるメンバーだと思われる。いやぁ、身が引き締まるね。

 

 四月中は一通りの知識の詰め込みだったが、五月に入るとより実演的な物が入ってきた。

 そう、今週は『体育・実技』と『魔法円・印章術』の実演があるのだ。

 

 体育館というよりは地下に作られた闘技場といった雰囲気のある第四体育館。ここの中央には橋があり、中央には蝦蟇(リーパー)を入れた檻が四つ、円形に並べられている。

 教官は知らない人でした。まーそりゃそうよね。原作軸からまだ十五、六年開きがあるんだから。

 蝦蟇(リーパー)は基本大人しいけど心を読んで動揺したら襲ってくるよ~、なんて説明を受けて蝦蟇(リーパー)を使った体力育成訓練が始まった。

 檻の中から放出されたクソデカカエルから逃げ回るだけの簡単な訓練だ。

 

「はぁっ、はぁっ……。つ、疲れるね……」

「カヒューッ……」

 

 初っ端から指名された晴海ちゃん・九井コンビはぜぇぜぇと息を切らしていた。九井くん大丈夫?

 思わず気道を確認した。続いて脈を確認。

 不安げな顔をした万里さんが近寄って来た。

 

「先生、彼の容態はどうなんですか」

 

 俺は無言で頭を振った。

 

「――ご臨終です」

ごろずなぁ……!

「すみません。ですが、毎日散歩するぐらいの外出はして、ある程度の体力の確保をした方がよろしいですわ」

「うぐっ」

 

 生ける屍九井を地面にゆっくり倒すと、それをつんつくと万里さんが突いていた。

 眼下ではお次のペア、久見矩度の坊ちゃんと佐々原。先程のペアよりかは蝦蟇(リーパー)との距離を稼げているが、それでも息が上がっている。でも坊ちゃんの方は早々に落ちると思ったけど、意外と体を鍛えているのかもしれない。努力系マルフォイか……。

 追い回しが一区切りついて二人が上がってきた。汗を流す坊ちゃんにはすかさず五葉ちゃんがタオルとスポーツドリンクを。おうおう、充実したサポート受けてんなコラ。

 

「次! ジェルガーチェフ、前山!」

「呼ばれましたわ」

「エミリー頑張って!」「がんば~」

「頑張りますわ~」

 

 晴海ちゃんたちに見送られて下へと降りる。そんな俺の隣にはかの初速スピード抜群の男、ルスラン。現在俺が目標とする男だ。

 

「ルスランさん。よろしくお願いしますわ」

「……」

 

 あぁ~ガン無視の音ォ~!

 

 俺のコミュニケーション術、握手にすら一瞥もくれないまま教官の「はじめ!」という声が響いた。

 すると先程坊ちゃんペアを追い回した蝦蟇(リーパー)とは別の蝦蟇(リーパー)が出てきて、どっすんどっすん飛び上がって俺たち目掛けてやってきた。

 

「意外と蝦蟇(リーパー)って大きいのですわね~!?」

 

 俺が対峙してきた悪魔、基本人間形態なことを思い出した。ルシフェル、メフィスト、食屍鬼(ネクロファージャー)……。

 こんなビッグな蛙に追いかけ回されるのはなんか新鮮。浮き上がった気持ちのまま、蝦蟇(リーパー)との距離を一定に保つよう調整しながら逃げ回る。

 俺の斜め前を走るのはルスラン。――その走りのフォームは、正に理想的な形をしていた。走りだけではない、捲った袖から見える腕の筋肉からも分かる通り、こいつはとんでもない肉体美を持っていた。

 

「――!」

 

 たまらず俺は速度を上げた。ルスランの横に並んでじっくり観察。……なんだぁこいつ、一体どんな鍛え方をすればこんな風になる!?

 

「あのルスランさん! お話いいですか!」

 

 ちらりと一瞥。そして視線を戻した。

 へーん、いいもん。勝手に喋るから。この後喋るまで追いかけ回してやるからいいもん。

 

「入塾した際、理事長様へ一瞬で距離を詰めたあのスピード……。どうやったら出せますの!!!」

「!?」

 

 今度はルスランが驚いたように俺を見た。心なしか観客の方からも見られている気がする。

 気、じゃない。確実に見られてますわな!

 

「あのスピード、拳の繰り出し方! それから身構えを解いてからのスムーズな切り替え! 惚れ惚れいたしました! 是非師匠になってくださいまし!」

「はぁっ!?」

 

 え? ベリアルさんがいるだろって?

 確かにベリアルさん講義は今でも続いているよ。人間じゃ知り得ない知識の蓄えとかもたっぷりある。

 でも、でもだぞ……!

 

 青春……、したいじゃん!

 

 折角同期になったんだからさぁ!

 ああやって強くて斜めに構えてる奴を師匠役にしてコミュニケーションしてぇよなぁ!?

 ゆくゆくは同期、果ては後輩や先輩共を鍛えて――最終決戦に備えてぇよなぁ!?

 

「……大腿直筋と上腕三頭筋を鍛えろ」

「なぜでしょうか!」

「そこは速筋といって、素早さと力を引き出す筋肉の割合が身体の中でも一番多い部分だ」

「速筋! 勉強になりますわ!」

「スクワットが基本だが、慣れが出たのならバウンディング等に手を出すのもいいだろう」

「バウンディングって、あの飛び回るスポーツのことですか」

「あぁ」

 

 すっげー喋ってくれるんだけど。

 さっとポケットから取り出したメモに言ってくれたことを書き連ねていきながら質問を重ねると、「しゅ、終了!」と声が出た。

 蝦蟇(リーパー)が檻の中へ戻され、上へ登る為の階段前で彼は俺を振り返った。

 

「……それから、師匠にはなれない」

 

 それを言ってさっさと登っていった。それから一人でクールダウンを取っている。ほとんどルスランは話さないことが多い、というかあんな長文喋ったのさっきのが初めてだぞ。

 ……なるほどね。トレーニング関係の話題だと口が軽くなるのかもしれない。

 

「え、エミリーすごいね……。息苦しくない?」

「えぇ……。まさか喋ってくださるとは思いませんでした」

「そっち!?」

「あたしもビックリ。んじゃ行ってきます」

「あ、いってらっしゃい!」「頑張ってくださいまし~!」

「体力には自信あるんだよね~」

 

 いつもより明るい笑顔で万里さんが降りていった。どうやら彼女は座学よりも実技で目が光るタイプらしい。

 中々に実りの多い時間だった……。

 

 

 

 

「本日から始まる魔法円・印章術は私、藤堂三郎太が担任させていただくよ」

 

 三十代のおじさんの風貌をした裏切り系祓魔師(エクソシスト)は人の良い笑みを浮かべていた。

 とんだ出オチかな?

 チェンジで。

 

 ネイガウス先生どこ……、ここ……?

 いや、まだ講師にはなってないんだっけか……。「俺はまだ忙しい」とかいって過去を切り取った十三號セクションもとい工房に籠ってましたわ。

 

 この藤堂三郎太、青エクファンなら印象に深い人物だと思われる。明陀衆(みょうだしゅう)の秘匿してきた迦楼羅(かるら)を食らい、再生能力を身に宿して雪男くんを付け狙う――悪魔堕ちおじさんだ。急に悪魔食ってパワーアップすんだもん……、こわ……。

 しかも祓魔師(エクソシスト)のエリート家系生まれでも兄弟に虐げられて育ち、そのせいでルシフェルとかいうクソボンバーの囁きが効いたのかイルミナティ堕ち。

 挙句の果てに選ばれし者(セイバー)なんてものになって最期はエリクサーの素材。

 

 あー敵ですわ敵ですわ。殺さないと(使命感)

 でも落ち着くのよエミリー、いやアル。ここで手を出せば全て終わりですわ。無難にやり過ごすのですわ!(ヤケクソ)

 

祓魔師(エクソシスト)の中には称号(マイスター)があるのはもう知っていると思う。この授業ではその中の一つ、手騎士(テイマー)に関して知識を深めていくものだよ。手騎士(テイマー)は悪魔を召喚して戦うスタイルなんだけど、悪魔を召喚するのには強靭な精神力と天性の才能が必要だからね。今日は皆にその才能があるのかをテストするよ」

 

 わざわざ一人一人の前にやってきて手渡されたのは針と地面に書かれた魔法円を簡略化したもの。

 

「召喚には自分の血と呼び掛けが必要となります。この呼び掛けは自然と頭に浮かんできた言葉を口に出すので、明確な形はありません。まずは先生がやってみますね」

 

 藤堂が魔法円の中に血を垂らす。

 

我が呼び声に答え、地の底より現れよ

 

 魔法円の中から赤み帯びた鱗の爬虫類がズズズと出てきた。火蜥蜴(サラマンダー)だ。

 サラマンダー より はやーい!

 ……手騎士(テイマー)って希少らしいけど、その希少の一部にこのおじさん入ってるんだよな。

 ――気を引き締めよう、隙は見せない様に。

 いや、返ってそっちのが怪しいか? 自然体か、警戒をするか。迷いどころだ……。

 

「さ、皆さんもやってみましょう」

 

 その言葉で各々が指先に針を刺して紙につけていた。

 

「ダメですね、何も手応えがありません……」

「ちっ、分かってたけど才能無いのか。はぁ……、マジクソゲー」

「……」

 

 五葉ちゃん、九井、ルスランは無かったようでひらひらと紙を動かしていた。

 

毘沙門の力宿りし霊山。つづら折りの道から吹き返る風よ、その姿を現せ

 

 坊ちゃんの声と共に奴の持つ紙から何かが出てきそうな雰囲気を感じた。

 ぽっと目の前に現れたのは、山伏衣装に身を包んだ烏天狗(カラステング)。背中から生える黒い鴉羽と、赤茶色の毛並みを持つ――二足歩行の狐の顔をした悪魔だった。

 

「おぉ、烏天狗(カラステング)ですか! 凄まじい力を感じますね、中級クラスは間違いありません!」

 

 藤堂と召使の五葉ちゃんの拍手に気分を良くしたのか、坊ちゃんは得意げな顔を晒している。

 いっけね、俺もやってみよう。ここで才能があったら戦略の幅が広がっていい感じなんだけどな~……。

 指先を針で指し、出来た血の玉を紙に押し付けた。

 そうして、頭に浮かんだ言葉を言うらしいが……。流石に信者の前で「ルシフェル死ね!」は駄目だろうな。アンチかテメー、で警戒される。

 

「隠れてないで出て来い~」

 

 俺が苦悩している間に、隣にいた万里さんが召喚を成功させていた。

 その姿は、巨岩のようだった。万里さんより遥かに頭上に葉っぱを乗せた頭がある程の巨体。短い手足に太ましい尾。

 ――それは、とてつもなく大きな『狸』だった……。

 

「こ、これは……(ゴブリン)の一種でしょうか……」

「なんかかわい~。ラッキ~」

 

 早速万里さんが狸に抱き着くと、狸も嬉しそうにキュッキュッと鳴き声を出した。これが(ゴブリン)って本当?

 

「か、可愛い……」

 

 隣にいた晴海ちゃんも狸の毛深さにノックアウトされている。いいな俺も埋もれてみた……ハッ!

 万里さんの狸の毛深さに見惚れるのもいいが、なにか召喚する為の言葉を出さなければ。まずそれすらしてなければ適性の有無が分からない。

 

 言葉、言葉、言葉……!

 

 俺は手騎士(テイマー)の才能があるなら欲しい。手数が単純に増えるのは嬉しいからな。だから、だから……!

 

急募! 私の左腕!

 

 

 

 カッ!

 

 

 

「うぉっ!眩し!」「富○フラッシュ!?」「ぐ!」

 

 俺の持っていた紙から白い光が放たれた。あまりの眩しさに目を閉じた――、何故か頭の上が生暖かい。

 

「え、エミリー! 頭の上に子犬がいるよ!」

「子犬ですって?」

 

 紙を折り畳んで胸ポケットに入れ、頭の上を確認する。取り合えず持てる場所を持って下ろしてみると――子犬だった。

 体毛は純黒で夏場はかなり暑そうな……、子犬。だらしなく舌を出している可愛い子犬だった……。

 光で何事かと近寄って来た藤堂は呆然と呟いた。

 

黒妖犬(ブラックドッグ)の、幼体ですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、今年は三人も適性があるなんて良い傾向ですね」

 

 左から烏天狗(カラステング)(ゴブリン)黒妖犬(ブラックドッグ)の幼体。

 この中じゃ一番中二心くすぐられるネーミングなのに、俺のが一番ちんちくりんである。

 

「ですが気をつけてください。悪魔は自信の無い召喚主には従いません。弱りでもすればその隙を狙って……ガブリ、なんてこともあります。襲われそうになった時は召喚した魔法円を崩すと良いです。貴方達の場合は紙を破れば悪魔を強制的に返還することが出来ますが、大変気をつける様に」

「はい」「は~い」「分かりましたわ!」

 

 それで『魔法円・印章術』の講義は終わった。

 あまりのデカさなので早々に万里さんは紙を破っていた。中々サッパリしている。のっそり歩きながらその目は俺が抱いている子犬を見つめていた。

 

「ねー、抱っこしてもいいかな」

「ふむ……。先程からずっと大人しく抱かれていますから、多分大丈夫ですわ。黒妖犬(ブラックドッグ)さん、決して万里さんたちを噛んではなりませんからね」

「私も触ってみていいかな……?」

 

 俺が腕に抱いていた黒妖犬(ブラックドッグ)を万里さんに渡すと、万里さんと晴海ちゃんは黒妖犬(ブラックドッグ)を撫でまわした。……こ、この野郎、万里さんの胸にダイレクトに当たってやがる。うらやま……けしからん!

 

「名前どーするの? あたしはたーちゃんにしといたけど」

「狸だから“たーちゃん”なのでしょうか?」

「あったり~」

 

 なんとも雑なネーミングセンスなんだ……。ゆるゆると黒妖犬(ブラックドッグ)を撫でまわす万里さん、接すれば接していく内にその緩さの限りが無い。

 思わず感心していると俺に近付いてくる坊ちゃんの気配があった。側には褒められた烏天狗(カラステング)を引き連れて。

 

「声の大きさの割にはその使い魔は小さいな」

「私もそれが不思議でして……。声量で出てくる悪魔の大きさが変わる訳ではないようですね!」

「……ッ、なんなんだお前」

 

 思ったより反応が得られなかったのが癪なのか、ばつが悪そうな顔をして坊ちゃんが紙を破り捨てて出ていった。五葉ちゃんが小さく頭を下げ、その背に合流をして部屋を出ていく。

 そして、そんな彼らに手を振って見送る俺、なんて出来た淑女なんだ……(自画自賛)。

 

「さて、私たちも帰りましょうか」

「きゃん!」

「あ、今返事したのかな?」「かわいい~」

 

 ――黒妖犬(ブラックドッグ)の幼体、大人気!

 

 

 

 

 拝啓お元気ですか、から始まる手紙をしたためて紙を折り畳む。これを清楚カワイイ便箋に入れてポストに投函したいところだが、それは明日にする。今は夜中だからね。

 実は、孤児院を出てからというもののガキ共の手紙が送られて来るようになった。完璧で無敵な才女エミリーは毎月丁寧に人数分書いて送ってるってワケ。中にはシュラさんのも……入ってないんだなコレが!

 まぁそう筆まめな性格じゃないのは分かりきっているので割り切りました。悲しくなんてない。

 

 手紙を書き終えたことを察したのか、俺の使い魔となった黒妖犬(ブラックドッグ)の幼体“ラック”(安直な命名)は体を起こしてすり寄ってきた。か、可愛い……。

 未だにオスメスは分からないが、可愛いのでオッケーです。

 

「風呂入ってくるから好きにしてるんだぞ」

 

 抱き上げたラックを地面に下ろす。この旧女子寮は俺以外に使う人間もいないので好き放題に走り回っても飽きないスペースがあるというのに、ラックは俺の後ろをついてくる。可愛い。

 そのまま風呂場までやってきたところでラックはまだついてきている。濡れた瞳が俺を爛々と見上げている。

 俺はそんな目線にダメージを受けながら風呂場の扉を閉めた。止めてくれ、奥から「くぅーん」だなんて切ない声を上げないでくれ。

 少しばかり引っ掻いた後、扉から離れていくのが聞こえた。切ない足音を背にしながらも、俺はウィッグを脱いだ。

 

「あっぢ……」

 

 ストロベリーブロンドの鬘が取れてもまだまだブロンドに緑目の美人。

 そこからコンタクトを外します。化粧を落とします。

 はい、金髪碧眼の男が現れました。憎らしいことにどことなくルシフェルの面影がある。

 遺伝子元だから仕方ないっちゃないが、嫌いな奴が三親等内にいて嫌な顔するキャラクターの気持ちがよく分かったよ。鏡見る度に殺意出てきそうになる。

 

 ビークール。落ち着くんだ俺。ここにいるのは将来美青年になる(予定)の俺の顔だ。

 シャワーで済ませたいところだが、エミリー的観点が「湯船につかって体のマッサージ云々をしなければ美容に悪いですわ!」と言ってきた。たまにはブッチしたいところだが、人間の身体も仕事の失敗も一度起これば確実に人目につくのだ。

 

 エミリーの顔にニキビ一つつけてはいけないし、仕事――俺の変装がバレてもいけないのだ。大人しく俺は毎日顔パック族になることにした。

 洗顔の仕方のあれこれ、髪の洗い方もどれこれと、日々行っている女性たちを称えたくなる程面倒で細かい作業を終わってからようやく湯舟に浸かることが出来る。

 「あ゛ぁ~……」なんて情けない男の地声が出る。今日もお疲れ様、俺の声帯。

 

「……合宿どうすっかな」

 

 刻一刻と迫るのは俺たち訓練生(ペイジ)の強化合宿。原作じゃ候補生(エクスワイア)認定試験も兼ねられていたソレ……、というか合宿関係のイベントをどうこなすか……だ。

 

 無論その手段はメッフィーに与えられているのだ。――口八丁使ってメッフィーにゲーム勝負を取り付け、見事に勝利した俺は契約履行の対価としてメッフィーの私室の鍵を手に入れている。というか孤児院時代も専らそっちで風呂をなんとかしていたから今更なんですけどね。

 

 ほら、あるだろ……。女体同士のあはんうふんなイベントが。

 放映版アニメでは都合の良い湯気が隠し、ディスク版になって全てが取り払われるあの光景だよ。

 あれを目の前にして我慢できるか……?

 男が誰だって心にロマン砲を抱き、それを持っていれば動かざるを……いや動くしかないんだ。

 

「いややっぱ無理だわ」

 

 覗いて得られる一時の快感より、もし俺が男だとバレた時の社会的立ち位置の低下というリスクで立ち止まる。

 俺は目先のロマンより遠くの危険を考えて動くことが出来る男だ。

 さようなら、俺のマロンとロマン砲。キミの 存在は 忘れない……。

 

 

 

 

「二百二十三、二百二十四、二百二十五、二百二十六……!」

 

 初めて素振りを始めた時より重みを増やした――木刀ではなく、鉄で出来た刀を振るう。汗は流れっぱなしで、俺が鉄刀を振る度に数滴は散る。

 剣を持つ際のフォームはもう自然に取れるが、その頃にはもう素振りは毎朝の日課になっていた。

 ちなみに、ラックが辺りの茂みに隠れて素振りが終わる時を待っている。これも日常となった光景だ。

 

「二百三十九、二百四十、二百四十一、二百四十二、二百四十三、二百四十四……!」

 

 ちらりと腕時計の針を見た。汗を流す時間と朝食やらメイクやらの時間に加え、余裕を持って登校することを考えればここらで止めた方が良い。

 

「二百四十五、二百四十六、二百四十七、二百四十八、二百四十九、二百五十! ……はぁっ」

 

 動きを止める。大きく息を吸って呼吸を整え、近寄ってくる人物を見返した。

 近寄る様足取りは正に強者そのものの力強さと自信に満ち溢れ、同じくこちらを見据える紫の目には少しだけ好奇が混ざっている。

 

 その人物とは、片手に竹刀袋を持ったラフなTシャツの恰好をしたルスラン・エフィモヴィチ・ジェルガーチェフ。

 

「なにか御用でして? ルスランさん」

「お前が鍛錬をしているのが見えた」

「すると……、旧男子寮の方で時折見かける人影は貴方でしたの」

「あぁ。突然だが、手合わせを願いたい」

「本当にいきなりですわね……」

 

 返事を聞かずにルスランは竹刀袋から木刀を取り出し、竹刀袋を地面に落とした。まだ形を残したままの竹刀袋からはなにか甲高い音が立っていた。

 

「勝負だ」

「……ちょっと待ってくださいまし。木刀を取りに戻りますわ」

「分かった。ここで待っている」

「ごめんあそばせ」

 

 俺が速攻で戻って私室から木刀を取り出した。無い訳じゃない。

 ――というか本当に俺の返事関係なくやる流れになっている。俺もベリアルさん以外での手合わせはしたかったところだからいいけど、返事くらいする余裕くらいは与えて欲しかったな~!

 

 俺が木刀を取りに戻り、少し休んだところで空気が変わる。

 お互い、やるとなったら周囲に流れる空気が張り詰めていく。俺も、そしてルスランも集中をしている。

 じりじりと適正な距離を測って離れつつ、構えを取る。

 

 ――俺たちは同時に踏み込んでいた。

 

 相手の力量を知る為の一薙ぎ。下から切り上げる俺の攻撃に対し、ルスランが受け止めた。その時の感触はなんて言えばいいんだ?

 木刀なのに鉄を殴っている。硬い、いや、凄まじく力が込められている。しかも、木刀が壊れないよう、効率的で理想的な――そんな力の入れ方と衝撃の躱し方。

 

 思わず眉を顰めて距離を取る俺に対し、ルスランが追撃をしてきた。恐らく奴にとっては軽い一薙ぎ。だが、受け止める俺からすればかなり重たい。というかこれ本気でやられている気がする。

 

 腹を狙った突きを横に振って逸らす。剣筋は少し逸れたのだが軌道修正とばかりに、勢いを殺さず突きから斜め下からの袈裟斬りの形に。

 

 動きは追える。後は体が追いついてくれるか。――一か八か。木刀を逆手に持ってもう一度その攻撃を防いで鍔迫り合う。

 ぐっ、と硬く重い。そして効率的。戦闘に置いてすぐに最適解を導き出せるのは強みだ。

 

「なかなか、やるな……」

「結構、私にも慢心があったようですね」

 

 ベリアル塾生としては少しばかり胸の痛い問題だ。あ、でも問題点の発覚は俺の弱点を克服できる機会でもある。

 まだまだ同級生程度で苦戦するようじゃルシフェルを殺すには遠い。いや、手合わせと殺し合いじゃ心構えもやれる最適解も違うんだけど。

 とにかく反省している俺の前で、常に無表情だったルスランの口元が少し緩んでいた気がする。

 ……もしかして戦闘狂か?

 

「お相手したいところですが……、そろそろ時間ですわ」

「む、ならば仕方ないか……」

 

 お互い力が抜けて離れる。ふーっと、体の力を抜くように息を吐いた。

 それから自然と、俺たちは頭を下げた。手合わせの相手に対する礼だ。

 

「今度はもう少し早く来る。その時はまた手合わせを願う」

「えぇ、分かりました! それではルスランさん、また祓魔塾で」

 

 そうして別れた俺だったが……、かなり時間が経っていた。

 ルスランの野郎めぇ……!

 急ぎかつ丁寧に身支度を整えて登校し、教室に着いた瞬間にチャイムが鳴った。

 

「ま、間に合いましたわ……」

「あら、どうなされたのですか前山さん」

「少し目覚まし時計のセッティングを間違えていたようで……。起きる時間が遅くなってしまいました」

「それは大変でしたね……」

 

 エセな俺とは違ってガチなお嬢様系の生徒たちとお話しつつ、俺はお行儀よく淑女として授業を受けるのだった。

 ……ちなみに、ラックが足元にいたりする。どうすんのコイツ。いつまでも帰る気配がないんだけど。

 あー困りますイッヌ。膝の上は重たい……、ハッ、これも……鍛錬ッてコト……?

 もしかしてラック、俺に協力してくれているのか。ルスランとの手合わせ見てたもんな……。よし、分かったぞ……。

 

 

 

 俺は、これからお前を膝に乗せて空気椅子で授業を受ける……ッ!

 

 

 

 ――三十分後、濡れた瞳で見てくるラックを見ないようにし、空気椅子を止めて普通に椅子に座る俺がいた。

 えぐいわ、これ。足が小鹿みたいにプルプルすっぞ。

 




ちなみに原作に烏天狗なんて悪魔はいません。オリジナル設定ってヤツです!
(今までこの話を投稿していた気になっていたなんて言えない……。これは墓場まで持っていこう……)
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