7s Sprinter   作:マシロタケ

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スパート

たっぷり走ったあとの睡眠はとても心地がいい。

いつもよりも深く…ゆっくりと眠れる。

 

この疲労感と温かい日差しが、それにより拍車をかける。

 

…ん?

暖かい…日差し…?

 

――――――――――

 

「え!?」

マーシャルはベッドから飛び起きた。

彼女に差し込む光は、時計を見ずともすでに正午であることを伝えている。

 

しかし、状況を整理できない彼女は時計に目をやる。

「12時…19分…。」

こんな大遅刻をしたのは生まれて初めてだ。

 

(そ、そうだ、たしか朝早くにトレーニングして、そのまま寝ちゃったんだ…。)

彼女は急いで学校の支度をしようとする。

(い…急がなきゃ、午後の授業なら…まだ)

 

そう焦る彼女は、一通の手紙が机の上に乗っていることに気が付いた。

「…ん?」

 

その封を開ける。

 

『おはよう、ポニーちゃん。

ゆっくり休めたかい?君のトレーナーさんからの伝言で、今日は学校を休んでゆっくりしろってさ。そしてまた16時に練習場で待ってるとも言ってたよ。頑張ってるのはいいけど、あまり無茶をしすぎないようにね。 

                               フジキセキ』

 

「お…お休み?」

 

急に休みだといわれても、それはそれで調子が狂う。

「…ま、おなかもすいてるし。」

そういって彼女は制服へ着替えた。

 

――――――――

 

練習場で準備運動をする。

体の節々を入念に。ゆっくり寝れたおかげか早朝の疲れはある程度吹き飛んでいた。

 

「よーォ。」

いつもは遅れてくる大城が、今日は珍しく時間どおりに来た。

「お疲れ様です、トレーナーさん。今日は時間通りですね。」

「遅れるとお前がうるせえだろ?」

「えへへ、時間は大事ですから!」

「つーかお前、今日午後からの授業出たらしいじゃねーか。ったくクソ真面目だなぁホント。休めって言われたら休めよ。」

「ごめんなさい。でも、せめて勉強では、みんなに遅れたくないから…。」

 

 

大城は錠剤を飲みながら、続ける。

「ま、とにかく今日は、普通に走ってみろ。」

「普通…に?」

「そ、こいつで、ターフ一周。50%くらいで流してみろ。」

そういって大城は新品のランニングシューズを差し出す。

 

「こ…これ、」

「ターフエンペラー。一流ブランドもんだぞ?」

それは誰もが知る、ウマ娘専用のブランドもののシューズ。

国内外問わず、トップウマ娘が愛用していることで広く知られる。

「い、いいんですか…?」

「お前が勝つことに比べれば安い買い物だ。さ、さっさと履け。」

「あ…ありがとうございます!!」

 

早速履いてみる。

「うわぁ…すっごい…。」

洗礼されたデザインと、徹底された軽量化。ウマ娘工学に基づいて細部まで作りこまれたそれは、履くだけでもその違いを体感できた。

 

「これ…すっごく軽い。」

「というか、いままで履いてたやつが重すぎただけだ。」

「…そうですよね。」

 

その蹄鉄を脱いで初めてわかる、今までの異常な生活。

でも、今の足はまるで、翼が生えたように軽かった。

 

「ターフ一周50%、そして4コーナー抜けて直線で、一気に全力で走れ。」

「…はい!」

 

――――――――

 

すごい…すごい…!いつもならもうバテてるのかもしれないけど、まだ動く、

息ができる。

センニンさんに教えてもらった呼吸が役に立ってるのか。はたまたバイトで鍛えた体が支えてくれているのか。

 

思い切って走ってみたくはなるけど、トレーナーさんの言いつけ通り50%を維持する。

そして、4コーナー。

 

例え50%でも、いつもなら、もう走るのをあきらめてしまうほど、息が上がってたけど…。

「もしかして...走れ...る?」

 

マーシャルは4コーナーを抜けた瞬間、一気に地面を蹴って、前へ飛んだ。

その刹那、まるで車から身を乗り出したかのような、今までに感じることのなかった風の抵抗が、彼女を包み込んだ。

 

すごい…私…今…早いっぽい…。

目の前に流れるのは、今までに見たことないほどのスピードで流れていく景色たち。

 

足が次々に前に出る。

スタートダッシュで培ってきたノウハウと、鍛え抜かれた筋力が、彼女のスパートを全力で支援した。

 

「っは!やっぱりな…。お前はそーゆーヤツなんだよ!マーシャル!!」

 

―――――――

 

「はぁ…はぁ…トレーナーさん!!」

「おう、ご苦労。」

大城はマーシャルにドリンクを投げる。

 

「私…私…!」

「ばーかやろー。お前は並のヤツの3分の1の体力から、3分の2に上がっただけだ。まだ先は長い。」

「それでも…!」

 

マーシャルは興奮を隠せなかった。

 

「ま、そのくらいできりゃあ、まだ伸び代はありそうだわな。」

大城も内心興奮しているが、悟られないように平然を装う。

 

「だが、お前は根本が弱いことを忘れるな。そのスパート。やりようによってはお前を食うぞ?諸刃の剣として扱え。」

「…はい!」

 

大城は荷物を持つ。

 

「じゃ、今日はこれで終わりだ。」

「え!?もうですか?私、もう少し走りこんでみたいんですけど…。」

「殊勝なこったな。でもダメだ。明日に備えて今日は休め。」

「明日…?何かあるんですか?」

 

マーシャルはポカンと口を開ける。

 

「何ってレースに決まってんだろ?」

「レースって..誰の?」

「お前のに決まってんだろ。」

「……………………………………え?」

 

マーシャルは完全にフリーズする。

「…あの、初耳なんですけど。」

「そら、今言ったからな。」

「…もう少し、早く言おうとか、ないんですか!?」

「忘れてたんだよ。俺も1時間前くらいに思い出した。」

 

大城はマーシャルに背中を向ける。

「じゃ、明日中央に8時現地集合な。」

そういって颯爽と消えていった。

 

マーシャルはぽつんとターフに残される。

「…もう…好きにして…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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