7s Sprinter   作:マシロタケ

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カラの才能

「みなさん!お疲れ様でした!!」

 

「「「「お疲れ様でしたー!!かんぱーい!!」」」」

 

お世辞にも広いとは言えない部室に、詰められたウマ娘たち。彼女らの中央には人参を中心に彩られた料理がこれでもかと並ぶ。

 

「っぷっは~!!!これよこれ!一着とったあとのニンジンジュース!!!」

「まったく。ドライブはいつものんでるだろそれ?」

「え!?なんで知ってるの!?」

 

そんな彼女らを中心に笑いが起こる。

今日のレースは一般開催といえど、このチームからは4人の走者が出た。

まだデビューして日の浅い新人たちが大健闘を果たしたのだ。彼女らへの労いと激励をも含めた打ち上げだった。

 

「やぁ!今日はほんっとによく頑張ってくれましたね!みなさん!!ベテルギウスに大きな貢献をありがとうございます!!」

そこに結果紙をニコニコしながら眺めるトレーナーがやってくる。

 

彼女らの活躍がよっぽどうれしかったのか、料理そっちのけでデータを眺める。

「いやぁ、スーパードライブさん。今日の逃げは見事でしたね!よく決まってました!」

「トーゼンですよ!逃げなら先輩にだって負けませんよ!!」

「何を!こいつ!」

と生意気な後輩を締め上げる。

 

「ははは。それに、ローズロードさんの差し。トリハダものでしたよ!」

「そうそう!!もう途中ハラハラしちゃったんだけど、最後の最後で決めちゃうんだもん!かっこよすぎだって!」

「別にー。このくらい普通じゃないですか。それと、あたしもうちょい距離長くていいと思うんだけど。」

「そうですね、検討しましょう!」

 

「それと、ジェットスパートさんはすこし惜しかったですね。でも、2着で大健闘でした。」

「ううう…絶対取れたと思ったのにいい。」

「ローズとは真逆で差されちゃうなんてね。ワキが甘い証拠よ。」

「え!?私の脇甘いんですか!?」

「こら!バカ!脱ぐな!」

 

「そして…えっと…その…」

トレーナーが明らかに言葉を詰まらせる。

その理由がなぜか。その場の誰もが知ってはいるのだがそれをはっきりと言える者はいなかった。

 

「…ごめんなさい。」

そのウマ娘はそう言うしかなかった。

「ま..まぁ。前回に比べれば、ほら、9着ぅ、ですし。ね?12人出走で。」

言葉選びに難儀する。

この話題に先ほどまで明るかったチームベテルギウスに沈黙が訪れた。

 

「まぁ、ほら、レッドマーシャルさんが頑張ったことはみんな知ってますから。ほら!次はわかりませんよ?一度基礎を見直して…。」

「トレーナー。前と同じこと言ってるよ。」

「え、ああ。」

そう指摘を投げたのは、第4レースを差しで制したウマ娘ローズだった。

 

「てか、今日のレースって下級生と混走だったんでしょ?それでも下からって、ヤバくないですかぁ?まーしゃーるせんぱーい。」

後輩からの侮辱にも、唇をかみしめるしかなかった。

 

 

「ローズちゃん。駄目よ!マーシャルちゃんだって頑張ってるんだから!」

「頑張ってるのは私もですよ。グッドレコード先輩。」

 

―――――――――――

 

軽い反省会が終わったあと各自が好きなように飲み食いを始める、今日の反省を重ねる者や、他愛のないじゃれあいをするもの、食事に集中するもの、楽しみ方はいろいろだったが、マーシャルにとってそこは居心地がいい場所ではなかった。

 

部室の隅で、独りボソボソと食事をとる。

時折後輩たちがこちらに目をやってクスクス笑っている。自分たちはバレてないと思っているんだろうが、こちらからはまるわかりだ。

 

でも、自分は敗者だ。後輩たちにすでに結果で差をつけられた。今度ローズとドライブは重賞レースへの参加を打診されているらしい。

それに比べて自分はどうだ?

 

未だに初級者が走るようなレースに出て、挙句下級生との混走レースでも惨敗を喫した。

 

もう、私なんて…。

そう思った私に声をかけてくれる人もいた。

 

「マーシャルちゃん!大丈夫?」

先ほど彼女を庇ってくれたグッドレコード。

高学年生であり、G1クラスの常連。桜花賞にオークス賞を1着で通過。秋華賞では3着となりトリプルティアラを逃したものの、その実力は十二分と言って差し支えない。

 

そんな彼女がマーシャルの横に腰を据える。

「まぁ、なんていうのかな。こういうのって成長期、だと思うの。」

「成長..期?」

「そ、成長痛って知ってるでしょ?背が伸びるときにちょっと足が痛くなっちゃったりする。」

「...はい。」

「今は苦しいと思うけど、それも、マーシャルちゃんが成長していっているサインってこと!あんまり気にしすぎちゃだめよ!」

「そう..ですか?」

 

レコード先輩と話していると、いつも心がすぅっと軽くなる。

決して自分を否定しない。そんな彼女に半ば依存してしまいそうだった。

 

 

「私だってね。最初はなかなか勝てなかったんだ。でもね…。」

彼女の甘い言葉がマーシャルの心の患部を優しく癒した。

「…はい。ありがとう、ございます!」

マーシャルの顔には幾分かの生気が戻った。

 

「また、一緒に練習したいのなら声かけてね!応援してるから!」

 

――――――――――――

レコードの優しい言葉になんとか気を取り戻したマーシャルは、後輩たちが帰った後の部室であと片付けをしていた。

こんなの、後輩の仕事のはずだが、なぜ彼女がするかは言うまでもない。

 

「マーシャル先輩、これ、すてといてくださーい。」

と、後輩から投げつけられたペットボトルのラベルをはがして、中身を洗う。

 

ゴミ分別し、袋に入れて、指定の場所に捨てに行った帰り、部室のドアに手をかけようとしたとき。

だれかの話声が聞こえる。

 

そっと耳を澄ます。

 

「レコード。お前いくら何でもマーシャルを甘やかしすぎだ。」

「でも」

「…はぁ。お前、今まで何度あいつを慰めた?両手の指で足りるか?」

「そんなこと言ったって、スピちゃん。」

 

レコード先輩が話しているのは、おそらくフロイドスピリット先輩だ。

レコード先輩に並ぶチームエースで…ダービー覇者。

 

「…お前、正直どう思ってる。マーシャルのこと。」

「え!?」

マーシャルもぎょっとする。

「それは…」

レコードは沈黙した。

「俺は正直、あいつには才能がないと思ってるよ。それも駆け引きとかレース勘とかじゃなく、そもそも身体的な。」

「…。」

 

「どうなんだ?レコード?お前はあいつに何か才能や取柄を感じるか?」

「…ない。」

「なんだって?」

「感じない。」

 

この言葉にマーシャルの呼吸は一瞬止まる。

心臓が破裂しそうなほどに音を立てる。

呼吸の間隔が早まった。

 

「今日のレースを見ても、つくづく思った。ええ。スピちゃんのいう通り。明らかに身体的なものが欠落してる。」

「だろ?」

「でも!私は知ってる。あの娘が懸命に努力してること。いつも日が暮れるまで、ターフで…。」

そこでレコードはハッとする。

 

「おいおい。自分で答え出すか?」

「えっと…。」

「なら俺が代わりに言ってやる。そこまでの努力をして、その程度の実力しか出せないというのなら。そもそもあいつは、レースに向いてない。」

「!!!」

 

「この一年間我慢してあいつのこと見てきたが、この間デビューした後輩にまで見事に負けた。」

「ねぇ、もういいでしょ?こんな話続けたって。」

「こっからが大事なんだ。」

「え?」

 

「俺は、このチームのリーダーとして、マーシャルのことを考えた。だが、どう頑張ってもあいつはチームに貢献はできない。それどころか、敗走を続けて心まで壊しかねない。」

「ちょ…ちょっとまって!それじゃあ、まるで。」

「そうだ、俺はあいつに脱退勧告をしようと思う。」

「そんな…!」

 

だ、脱退…!?

もうマーシャルの頭では処理が追い付かない。

 

「あしたトレーナーに掛け合ってな。」

「…」

「そんな顔するな。俺も考えたなりの結果だ。それに、あいつにはレースをあきらめてもらって、トレセンスタッフや裏方に回ってもらったほうが、あいつなりに幸せになれるんじゃないかと考えている。」

 

――――――――ー

 

マーシャルは部室に戻れなかった。

今まで心の頼りにしていた先輩の本音。そして自身をクビにしようと働きかけるリーダー。

 

「はは…ははは…。」

 

どうしてなんだろう、なんで私だけ、かてないの?

ウマ娘なのに。チームのみんなはどんどん成果をだしてるのに。

私のお母さんは…元G1ウマ娘なのに…。

 

こんなことになるなら…ベテルギウスなんてチームに入るんじゃなかった。

こんなに苦しむんなら…トレセンに来るんじゃなかった。

こんなに辛い思いをするくらいなら…生まれてこなきゃよかった。

 

そんな抉られた心の傷を埋める場所を求めて、マーシャルはさ迷った。

 

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