7s Sprinter   作:マシロタケ

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チームスピカ

「…ぐぅ!!…あっ!……が…っはぁ!!」

 

男性用トイレにて、大城は洗面台に顔を突っ伏していた。

「…がっ!!…ゲホッ!!!…ゴホッ!!!」

口元を押さえて何度も何度もせき込む。

 

「…はぁ…はぁ…!」

その手にベットリとついた血を見て、大城は苦い顔をする。

 

「…クソっ!…クッソォ…!!」

その手を必死に水で洗い流した。

 

そんな時に、彼の下に一人の男が影を現した。

 

「…沖野か。」

「…大城さん。」

 

その血を彼に見せまいと、必死に洗った。

 

「…。」

「ははっ、いやぁ、参ったもんだ。年甲斐もなく飲んだくれちまってよォ。…あいつが初めて勝って、浮かれちまったんだ。…若くねぇってのによぉ。二日酔いってのもタマランよなぁ。」

「あの…」

「…そういや!あいつ、勝ったんだよ!..まだまだヒラレースだが、ありゃあ磨けばもっとデカくなる!..そうなりゃあ重賞レース…G1だって夢じゃあ…。」

「大城さん!」

彼の発言を切り落とすかのように、沖野は叫んだ。

 

「…大城さん…あなた、癌って話は…本当なんですか?」

「.....」

沖野の詰まった顔に、大城は沈黙する。

 

「…たづなちゃんに聞いたのか?」

「じゃあ…やっぱり…。」

 

大城は錠剤を口に含んだ。

 

「…最近はクスリの効きも悪ぃのよ。…痛みも、日に日に増していく。」

「…どうして、黙ってたんですか…。」

「…言いふらしたら、皆俺に優しくなんだろ?」

クスっと大城は笑った。

 

「…担当の娘は、知ってるんですか…?」

「知らねぇだろうな。」

「そんな…無責任な…。」

「…それが俺なのよ。」

 

大城は鏡で自分の顔のシワをなぞる。

 

「…今までの人生、好き勝手生かせてもらった。…まぁ、潮時ってもんだろ。」

「それでいいんですか?…マーシャルのことは…?」

「…心配すんな。…3年、猶予はあるらしい。…医者の言うことをアテにすりゃあな。」

「…………。」

 

沖野は俯く。

 

「…お前がしょぼくれてどうすんだよ。…ああそうさ。俺には時間がない。だからよ、沖野、ちょいと頼みがある。」

「…なんです?」

 

―――――――――――

 

「れ…れっど…レッドマーシャル…で…です…。きょ、今日は..よろしく…お、お願いします!!」

ブンとマーシャルは頭を下げる。

 

そしておそるおそる..頭を上げる。

 

彼女の目の前には、最強のステイヤーと呼ばれた…メジロマックイーン。

奇跡の復活から、有馬を獲得を果たした…トウカイテイオー。

この界隈知らぬものはいない…狂気のウマ娘、ゴールドシップ。

一度は憧れすらも抱いた。異次元の逃走者…サイレンススズカ。

あのブロワイエすらも下した日本の総大将…スペシャルウイーク。

自分よりも年下なのに...そんな彼女らにも引けを取らない戦績を誇る…ウォッカにダイワスカーレット。

 

正真正銘の超一流たちが、マーシャルの前に並んだ。

 

「…………」

その圧倒的なオーラに、足が思わず竦みそうになる。

 

「お?…なんだこのチビ?」

「ちょっと!ゴールドシップさん!初対面の方に失礼ですわよ!」

「なになにー?もしかして、新しいメンバー?僕テイオーっていうんだ!!君学年は?はちみつ好き?」

「ちょっとぉ!新しいメンバーだなんて聞いてないわよ!」

「別にいいだろ?ちょっとしたことでいつもギャーギャーうるせぇんだよお前は。」

「なによ!」「なんだよ!」

 

勝手に沸騰し始めるスピカを前に..マーシャルは立ち尽くしていた。

「…あ…あわ」

 

そこに沖野が現れる。

「悪いが、そいつは新入部員じゃあない。…別のチームから、合同練習として参加することになった。」

「別のチーム?」

 

スぺシャルウイークがぽかんとする。

 

「俺んトコだよ。」

彼女らの背後から大城が現れる。

 

「…!大城先生!」

「よぉ、久しぶりだなお前ら。」

「はぁ?お前!先生辞めたんじゃねぇのか小島!?」

「教官は辞めた、そんでトレーナーを始めたワケだ。シルバーウイング。」

「ああ!?んだとテメ!ゴルちゃんの名前を間違えるたぁ、許せねぇ!!」

 

そんなこんなをしながら、大城はマーシャルのもとへ向かう。

 

「もぉ!遅刻ですよトレーナーさん!!」

「文句なら、俺の腕時計にいうんだな。気の利いた挨拶は済ませたか?」

「ええ、まぁ」

「なんて言った?」

「よろしくお願いしますって..。」

「んだそれ?それのどこが気の利いた挨拶だ?」

「…え?」

 

そういって大城はスピカメンバーの前に立つ。

 

「よォ!!有象無象のマヌケ面ども!この方を誰と心得る?…あのまじかる☆らぶりん きらきらもーど!杯の一着を勝ち取ったレッドマーシャル様だバ鹿野郎共!…テメェらが対等なクチ利いていい相手じゃねぇんだよ。…頭がたけぇぞ…?」

 

そう切った大城に。マーシャルは目を極限まで開いて、口をわなわなと淀らせる。

「な…なな…何言ってるんですか!?…ちょっと!やめてくださいよ!!」

「オラァ!テメェらなんざ目じゃねぇ!かかってこい便所蠅共…だってよ!!」

 

「やめてってぇ!!」

バシバシと大城を叩く。

「ははは!なにボサっとしてんだ!お前も中指の一本くらい立てろ!」

「黙ってください!!」

 

その時、猛烈な殺気を感じたマーシャルは、そっと彼女らを向く。

 

「ほぉ…随分と威勢のいい方…ですこと…遠慮はしませんで..よろしくってよ?」

「…へぇ…そこまで言われちゃうと..ボクも熱が入っちゃうなぁ…。ねぇ…まずボクと走ろうよ…。」

「このゴールドシップ様に楯突いたこと…後悔させてやんよ…。」

「…なぁ、どっちが先にこいつブっ潰せるか…勝負すっか?」

「上等じゃない…私が勝つにきまってるけど…。」

 

ジリジリと時には指を鳴らして…彼女らが近づいてくる。

 

「ちょ…ちょっとぉ!!どうするんですかぁ!?」

「…ま、今日という日は諦めろ…たっぷり虐められてこい!」

 

そういうと、大城はマーシャルの背中を彼女らに向かって突き飛ばした。

 

どさっと、ターフに手をついたマーシャルは静かに顔を上げる。

 

そこには…般若のような形相で、マーシャルを待ち受ける鬼の姿があった。

 

「よ…よろしく…おねがいします…ぅう。」

 

 

 




「なぁ、お前んとこのチーム..なんて名前なんだ?」
「あー…メビウス、かな。」
大城はタバコの箱を見ながら言った。
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