7s Sprinter   作:マシロタケ

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仲間

「ああ…?なんだこいつ…?」

「はっきり申しまして…お相手になりませんわ…。」

「なーんか…ガッカリだなぁ。ちょっと期待したんだけど。」

「あの、もうあまり無理をしすぎないほうが…。」

 

結果など..知るまでもない。

中距離から長距離を得意とするウマ娘たちが揃うこのスピカでマーシャルが相手になれるはずもなかった。

 

ちょっと頑張ってみても、すぐに突き放され…追い抜かれ…なんなら周回遅れにも。

 

「ご…ごめんな…さい…。」

いまにもベソをかいてしまいそうなマーシャルは、ぐっと歯を食いしばる。

 

これがGⅠ常連たちの実力…。

まるで食らいつけない。

 

「トーゼンだろうが…お前とあいつらじゃあ、まるで適性が違う。…勝とうなんざ思ってんじゃねぇぞ?」

「…どういう魂胆なんです?」

マーシャルのヘトヘトになった様子を見て燻る大城に、沖野は尋ねる。

 

「ま、一流の味ってのを、味わわせてやりたかったのさ。舌が肥えることに越したこたねぇ。」

「…それが目的ですか。」

「ホンネを言えば..もう一つある...ちょっとあいつの胸..貸してくれよ。」

 

ターフにあおむけになるマーシャルは、スピカたちの介抱あって、どうにか起き上がる。

 

そこに大城が、ドリンクをもって寄ってくる。

 

「ヨォ、なにコテンパンにされてんだお前。あんな大見栄切っといてそらねぇだろ?」

「大見栄切ったのは…だれですか…!」

 

マーシャルのその目はちょっと怒ってるようにも見えた。

当然だ、あのスピカと友好的に交流ができると今日は望んだはずなのに。こんな恐ろしい目にあわされるとは想像もしなかった。

 

「っくっくく!…まぁ、これが一流どもの走りってこった!得られるもんあったろ?」

大城は無理やりマーシャルの口にドリンクを突っ込む。

 

「…んぐ!!」

 

「しっかり息整えとけよ…このあと、今日の一番のイベントなんだからヨ。」

「…え?」

 

大城は立ち上がって、サイレンススズカの方を見る。

 

「よォ!スズカ!…こいつと一騎打ち、やってくんねぇか?」

「…一騎打ち?」

「俺のカワイイ担当が、こうもボコボコにされちゃあ俺の腹の虫もよくねぇからな…こいつの本気(マジ)ちょっと見せてやるよ。」

 

スズカは少し目を丸くする。対照的に大城は口端を上げる。

 

「何言ってんだお前!?こんな野郎、スズカの相手になるわけねぇだろ?私らの半分もついてこれねぇやつだぞ!?」

「でも、半分はついてきたんだろ?その半分、もっと凝縮させると…すげぇぞ?」

「…何言ってんだ?」

ゴールドシップは眉間に皺を寄せる。

 

大城は再びマーシャルのもとへ向かう。

「てなわけだ。15分後に始める。」

「一騎打ちって…なんですかぁ?」

「お前の7秒で...あのサイレンススズカをぶちのめしてこい!」

「むりです!!!」

「っはっはっは!!バッカヤロー、無理ですじゃねぇんだよ!やるんだよ!!ロックに行け!…てのは冗談だ。」

 

大城は空になったマーシャルのドリンクのボトルを取り上げる。

 

「…へぇ?」

あいも変わらず彼の振り回す発言は先が読めない。

「あいつの走り…お前の7秒で全部盗んでこい。自分と何が違うのか、その体に叩き込むのさ…!」

「…ぬ…盗む?」

「異次元の逃走者…そのスタイル、お前の武器になるぜ?」

 

――――――――――

 

「よぉし!コースは1200、飛ばさなくていい。まずは軽くながせ!そんで、ラストコーナー立ち上がりから、二人ともフルスロットルだ。…先にスズカ、お前が仕掛けろ。マーシャルはそれに追従..いいな?」

「「はい!」」

 

その練習場は二人の貸し切りになる。

まるで模擬レースが始まるときのような、緊張感に包まれる。

 

「まったく読めませんわ。大城先生のお考え…。あのスズカさんに…今のマーシャルさんがついていけるとは、とても思えませんわ。」

「自分の担当、虐めて楽しんでるんじゃないの…?」

「大城先生だけに、それはねぇと思うけどなぁ。」

「大城先生、またキャロットクッキーもってないかな…?」

「よし!ならスズカか勝つ方に人参2本だ!!さぁ張った張った!」

「ちょっとゴルシ!レースを賭け事の対象にするなって、この間会長に怒られたばっかりでしょ!?」

 

ターフの上に立つふたりを、沸き立つメンバーは固唾をのんで見物する。

 

「よ…よろしく…お願い…します。」

「ええ…こちらこそ。」

マーシャルは気弱に手を差し出す。ある時は雑誌で、またある時はテレビで。何度も彼女の姿をみた。

 

何物にもとらわれない。その逃げを追求する孤高のスタイルは、すごくかっこよかった。

そんな人と手合わせできるなんて…。

 

スズカは少し戸惑いながら、マーシャルの差し出す手に応えようとする。

 

先ほどの練習で、スズカは既に見抜いていた。この娘、圧倒的に肺が弱い。

自分が本気で走ることは容易い。だけど、この娘が本当に自分についてくるつもりなのかと懐疑的だった。

 

彼女が何かを得るための練習として、今日はセッティングされたに違いない。…ならば、不本意だけど彼女の為に、少し手心を加えるべきか?

 

スズカの内なる優しさがそうささやいた。

 

だが、マーシャルの手を握った瞬間に、その考えは吹き飛ぶ。

 

マーシャルに触れてようやく見えた。この娘の…闘争心(オーラ)

 

赤く繊細なそれは、覇気こそは弱いものの、確かに毒を含んでいる。そうスズカは感じた。

 

そして握手を交わした二人は..スタートラインについた。

 

――――――――――

 

これが…かるく流す…?

 

マーシャルはスズカの背中を見て、驚嘆する。

 

指示では50%ほどと聞いていた。

ならばこのスピードが彼女にとっての50%?

 

マーシャルはジリジリと離され始める。

 

「おいおい、まだだろうが。」

大城は鼻で笑った。

 

「やっぱ無理だろ。」

沈黙の中、先に言葉を切ったのはゴールドシップだった。

「ゴールドシップさん…。」

「ほら、だってもう離され始めてんぜ?50%だろ?」

「…まぁ、たとえ、残念だったとしても、頑張ったとは言ってあげようよ。」

テイオーは静かに呟く。

 

「…お前たち、レッドマーシャルの適性って知ってるか?」

そこに沖野が混ざる。

「知らないけど…ていうか今日まで知らなかった人だし。」

「あいつの適性は、スプリントなんだ。」

「スプリントっても…これでスズカに離されるようじゃあなぁ。」

ゴルシは手でひさしを作って、眺める。

 

「この間あいつが出たレース…さっき大城さんが言ったやつだ。」

「ああ、あのまじかる…なんとかってやつだろ?」

「あのレースには…オオシンハリヤーっていうウマ娘も出ていた。」

「オオシンハリヤー…聞いたことある。」

スペシャルウイークが顎に指を添えて、宙を向く。

 

「期待のスーパールーキー。…だよね。最近雑誌でも見かけるよ…どんなコースでも走れるウマ娘だって。スズカとにたような逃げのスタイルで。」

そういったのはトウカイテイオー。

「ああ。GⅠも約束されてる奴だった。でも、マーシャルはそいつに勝ってるんだ…。」

「…ウッソだろ。」

 

 

そしていよいよ…運命の最終コーナー。

 

(遠慮は…いらないわね…!)

そういってスズカは一気に駆け出す。

 

(…来た!)

マーシャルも負けじと…大きく…息を吸う。

そして…ズドンと音を上げる。

 

その光景をみて、スピカメンバーは唖然とする。

 

自分たちの半分もついてこれなかったヤツが…あのスズカの本気のスプリントに食らいついてる!?

 

「…いいぜぇ…もっとだ!」

大城の燻りは止まらない。

 

(食らいつけ!!…よく見て!)

憧れの背中を追いながら..マーシャルは必死に彼女を観察する。

 

時間がない!私と何が違う?

 

腕の振り?ストライドの幅?リズム?姿勢?

わからない…!わからないなら、全部トレースする!

 

マーシャルは少しづつ..スズカの走りを体へ吸収する。

その時、マーシャルの体に大きな負荷がかかるが…気にしてもいられない。

 

そして4.6秒後、マーシャルの走りが変わった。

 

よりストライドを広げ、より前傾姿勢になり、より腕を振った。

それまでとは本当に微妙な変化だが…大城は確かに気付いた。

 

「…いいぜぇ!!いい感じだ!!」

 

(…やはり、ついてきてる!!)

自分が感じたあのオーラは..嘘ではなかった。

 

スパートに入った瞬間だけ..彼女の気配が全くの別人になったようにも感じた。

 

それにこの娘…自分の動きを模している。

…驚異的なコピー..トレース技術。

 

そしてマーシャルは今までよりも、さらにトップスピードを上げ、スズカに並びかける。

 

「嘘だろぉ!?」

「スズカさん!!」

「な..なんなのそれ…めちゃくちゃじゃん…!」

「スパートだけマジって…すっげぇかっけぇ…!」

「なんて…方なの…?」

スピカサイドも驚愕する。

 

 

お母さん。私ね、あのスズカさんと走ったんだよ。

 

やっぱりすごく速かった。でもね、私、ちょっとだけ頑張ったんだ。

 

もうすこしで、スズカさんに並んで、もうちょっと踏ん張れば追い抜けちゃったかもしれない。

 

でも、私は7秒だけだから…。

 

その瞬間、マーシャルは失速する。

ついに7秒を迎えたのだ。

 

ゴールまでは、あとすこし届かなかった。

 

スズカがゴールを切り、一刻の差を置いてマーシャルはゴールした。

 

その瞬間、スピカチームが一斉にマーシャルに押し掛ける。

 

「すげぇ!!すげぇよお前!!!感動した!!ゴルちゃんお前に宇宙を感じちまった!!」

「正直…見誤ってましたわ!その追い上げ…是非私の参考に!」

「…や…やるじゃない…でも!中距離なら…私だからね…!」

「なぁ…その走り!俺にも教えてくれ!!あ、そういえば先輩か。お願いしゃっす!」

「すごいよ!マーシャルちゃん!!」

 

そう持て囃される。…が。

 

マーシャルの顔色は喜ぶどころではなかった。

 

あまりにも顔色が悪すぎる。

 

「あの…マーシャル…さん?」

マーシャルは彼女らから避けようとふらふらと歩くが。高負荷を与えられた体が…とうとう限界を迎えた。

 

「う゛…うう…」

マーシャルはとっさに腹と口を押える。

 

そして

 

「う゛…う゛ええぇえ!!」

口から..吐瀉物が、流れ出た。

ビチャビチャと音を立てて..溜まりを形成する。

 

「ちょ!っちょっと!!」

「だ、大丈夫ですの!?」

「おい…!今朝の人参が流れでてっぞ!!」

「言ってる場合ですか!?早く!医療スタッフを!!」

 

「…あーあ。やっちまったか。」

そこに大城も駆けつける。

「お前ら、悪いが保健室まで頼む。」

 

――――――――――――

 

「本当にびっくりしたよ…大丈夫?」

テイオーが顔を覗き込む。

 

「はい…ごめんなさい…。」

マーシャルは掛布団を覆って、顔を隠した。

 

「あなたが無事なら…良かった。」

スズカはやさしく微笑む。

 

「ごめんなさい…スズカさん…。」

「どうして?…あなたは何も悪くないわ…。」

「でも…。」

 

今にも泣きだしそうな顔を..マーシャルは必死に隠した。

 

「でも、お前…本当にすごかったぜ!」

「うん!あのスズカのスプリントについていくなんて..ボクでも厳しいのに!」

「で、さっきの続きスけど、今度俺も短距離出てみようと思ってて!!」

「…あの…これ…体調不良に効く薬だって。タキオンさんが。」

「お腹すいてませんか?これ私のおかあちゃんが大量に送ってくれた人参で..少し食べませんか?」

 

そんな彼女にもスピカは優しかった。

 

マーシャルはいつ振りかに感じた。仲間の存在を…。

 

「みなさん…ありがとう…。」

 

マーシャルはすこし顔を綻ばせた。

 

そしてゴールドシップが手を差し出す。

 

「よぉし!お前なら大歓迎だ!!ようこそ!!チームスピカへ!!」

「…いえ、スピカには..入りませんけど。」

「はぁ!?なんでだよ!?」

 

保健室が少し、賑わった。

 

―――――――――――

 

「ふーう。」

日が暮れたターフで、大城は柵を背に、月を眺めた。そのとき、またあの発作が彼を襲う。

「…っふ、ぐふっ!」

またか…と、大城は患部を抑え、錠剤を含んだ。

 

そこに沖野がやってくる。

 

 

「…大丈夫なんですか。」

「ああ、アレならターフに埋めた。…ゲロだって有機物だ。どうにかなんだろ。」

「いえ、そうではなくて。」

「じゃあ、マーシャルか?別に、練習でゲロかますなんざ、珍しいハナシでもないだろ。…あいつは新しい自分になろうとしてんだ。痛みが伴わないワケがない。」

「…あなたのことですよ。」

 

大城は沈黙する。

 

「かぁ、お前もしつこいねぇ。」

「…入院でも、なされたほうがいいんじゃないですか?」

「やだね。俺はURAのお偉方と病院が大嫌いなのさ。」

「しかし!」

「別にいいさ。病床の上で退屈するよりも…俺は今のほうが楽しい。あいつを育て上げるほうが。」

 

大城は火のつかないタバコを咥える。

 

「どうせ入院しても、くたばることにゃ変わりねぇんだ。だったら俺は…最後まであいつと走りたい…俺の最後の希望なのよ。あいつは。」

「だったら!だったらせめて伝えるべきだ!あなたの…体のことを。」

「お前、いつから先輩に説教できる身になったんだ?」

「関係ない!一人のトレーナーとして…知らない別れを待たせるなんて、あまりにも残酷だ。」

 

大城はタバコを落とした。拾うことなく、その場で踏みつぶす。

 

「いずれは…いうさ。…ただ、俺にもちょいと、心の準備ってもんがある。」

そういって大城は、沖野の横を過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 




「俺も若い頃はバカみてぇにしこたまよく飲んで、毎日吐いてたなぁ。」
「だからトレーナーさんと一緒にしないでください!」
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