もちろんマーシャルと会うのはまだ先。
※読まなくていいやつです。
「...あのなぁ、もう少しオヤジにも分かるように言えってんだよ。」
「はぁ!?だからパマちんがバイブステンアゲでゴーな大逃げで、独走ふぉーえばーありよりのありでマジパーマしか勝たんって話じゃん!」
「せめて日本語で話せ。」
「まじありえねーし!大城っちマジ昭和!」
「うるせぇ!まだ48だってんだよ!」
「なーにー?ヘリオス?また大城先生に絡んでんの?」
「おお、ちょうどいいトコに来たなパーマ。こいつに、日本の共通言語ってモンを教えてやってくれ。」
「うえーい!!よろぴっち!!....って!!大城っち!!」
そんなこんなから大城は抜け出す。
「..たくよぉ...マルゼンスキーが言ってることのほうがまだ分かる..。」
教科書を持って次の教室へ向かう道中。
「う゛わ゛わ゛わ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」
と、耳を劈く鳴き声が大城のすぐ近くに、落雷のように落ちる。
「...なんだ?..どうした?」
そこには、泣き上戸でよく知られる..ウイニングチケットの姿が。
「お゛お゛し゛ろ゛せ゛ん゛せ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「なんだチケゾー。..まーたありんこ踏んづけちまったとかワケのわかんねーこといってんなよ?」
「赤゛点゛と゛っ゛ち゛ゃ゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「..わりとヤベーやつか。..なに落としたんだ?」
「数゛学゛と゛世゛界゛史゛い゛い゛」
「..わかったからこれで少し静かにしろ。..俺の耳が持たん。」
そういって大城はチケットに菓子を手渡す。
「うわぁー!お菓子だあぁ!!」
「..ま、数学はともかく、世界史ならどうにかしてやる。..後で俺んトコ来い。」
「先゛生゛あ゛り゛が゛と゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛゛」
片耳を塞ぎながら、大城はその場を離れる。
「..並みのライヴハウスくれーの音量出てんじゃねぇかあいつ..?」
「あ!大城先生!!」
そこに桜色の活力あふれるウマ娘が、彼の元へと飛んでくる。
「よォ、ウララ。お前この間重賞出たんだって?」
「うん!!すごいんだよ!!6着だったんだ!!!」
「ほぉ、そりゃ凄い。じゃ、これは俺からの特別賞だ。」
そういって、チケットに渡したものと同じ菓子を渡す。
「ありがとう!!先生!!ウララもっと頑張るね!!」
「ああ..そうしてくれ。」
皮肉屋な大城ではあるものの、彼女の前では..どこか甘い。
そんなこんなでまた教室を目指す。...寄り道が多すぎた。
遅刻しそうだ。
廊下の門に差し掛かったとき、一人のウマ娘と出合い頭にぶつかる。
大城は一足先にその存在に気付いて、足を止めるが、そのウマ娘はそのまま大城の懐へダイブ..。
「ひゃあああ!ごめんなさい!」
「..おう、前はよく見とけよ。ケガは?」
「だ...大丈夫です..!」
そこに仲間からの声がかかる。
「マーシャル!!いくよー!」
「あ!うん!...あのほんと、すみませんでした!」
「ああ..俺のことはいいから、早く行け。」
そういってそのウマ娘は仲間の下へ向かう。
大城は何となく、その背中を眺めていた。
―――――――――――――
キーンコーンカーンコーン....
始業ベルが鳴り響いて数秒後...
その戸は一気に開く。
「...セーフ!!」
「アウトだよ先生!!」
その様に教室で笑いの渦が起きる。
「うるせぇ!俺がセーフっつたらセーフなんだよ!!バ鹿野郎!」
「えー、でも遅刻は遅刻じゃん!センセーが遅刻していーのー?」
「うっせぇ!これやっからおとなしくしろ!」
そういって突っ込んでくる生徒に向かって菓子を投げる。
「やーりぃ!!」
「えー!私はの分は!?」
「ずるーい!!」
ガヤガヤと教室が賑わう。
「あーうっせうっせ!!..あのなぁ..教官ってのも忙しいんだぞ?わかるかお前ら?」
「センセーずっと暇そうだけど?」
「バッ..かやろー!!...チキショウ最近のガキどもときやがったら..!」
「そういえば先生、この間またエアグルーヴ先輩に怒られてたでしょ?」
「あ....いや...それはだな....。」
大城は教卓に突っ伏す。
「...またタバコがバレた。」
その瞬間再び教室が爆笑の渦に飲まれる。
「畜生..エアグルーヴの野郎...まだ買って一本しか吸ってないタバコ..ライターごと没収しやがって...。」
「懲りないねぇ..先生も。」
「....あー!癪だ!テストやるぞテスト!!」
「え!?なにそれ聞いてない!!」
「抜き打ちってのはそういうモンだ!!ほら、ノートでも教科書でもなんでも見ていいから、さっさとやれ!」
――――――――――
時刻は既に20時を回る。...チケットのマンツーマンも終わり..溜まりに溜まった仕事にもひと段落がつく。
「あーあ...残業代..ちゃんと出るんだろーな..?」
そういって大城は帰宅の準備をして、教官室の電気を消す。
コツコツと自分だけの足音が響くトレセン..。この雰囲気はどこか嫌いではない。
そこに、自分のものでないもう一つの足音が..懐中電灯の光と共にやってくる。
「...よォ、張さん。もう見回りの時間だっけか?」
「ああ、ハク先生..お疲れ様です。」
「どうせ俺が最後だろ?」
「いやぁ..そうだと思ってたんだけど..あそこ..まだついてるんだよね。」
そういって警備員はガラス越しに、一つの部屋を指さす。
「...生徒会室か...。わかった俺が見に行くよ。」
「まかせていいかい?ハク先生?」
そうして、大城はその部屋を目指す。
少しだけ戸の開いた生徒会室からは...一筋の光が漏れていた。
「....ふぅ。...こんなところだろうか。」
「..よォ、会長サマは残業かい?」
「大城先生?」
「..ったくご苦労なこったな。」
そういって、自動販売機で買ったコンパクトサイズの人参ジュースをシンボリルドルフに渡す。
「..ありがとう...いつも何か貰ってしまっているな。」
「...気にすんな、生徒の餌付けが趣味なのさ。」
そういってケラケラと笑った。
「なんだお前、そんなに今忙しいのか..?はんはん..始末書..ねぇ..どうせゴールドシップだろ..?」
そういって紙の束をペラリペラリと捲る..と
『大城 白秋(48)世界史・現代社会教官。..校内による喫煙..処分内容..。』
そこまで見たところで紙をそっと伏せる。
「...まったく、最近不届き者が多くてね...困ったものだよ..。」
「..同情するぜ..」
そういってルドルフから目をそらす。
「あ」
そういうときに限って不幸は訪れる。
スマホを懐から取り出そうとした拍子に、タバコの箱とライターが彼女の前にポトリ。
「...ほう。...これは?」
「いや...待てよ..今日は...吸ってないんだ..。」
「今日...『は』?」
ルドルフはそれを拾ってジリジリと近づいてくる。
それに合わせるかのように..大城は後ずさる。
「...後生だ...。まだ未開封なんだよそれ..。」
「.....。まぁ、今日はエアグルーヴも不在だ。それに、現行犯を見たわけではないからな..。赦免しよう..。」
「...恩に着るぜ...ルナちゃん!」
「な!?...なぜ私の幼名を!?」
大城は煙草を取り戻すと、大切そうに懐にしまった。
「さて、張さんが来る前に..帰っちまおうぜ?」
「ああ..そうしよう。」
「駐車場に来い、寮まで送ってく。」
――――――――――――
夜の国道を、一台のポルシェが特徴的なサウンドを奏で、帰路を目指す。
「これは貴方の車だったんだな..。」
「こーゆークルマは初めてかい?お嬢様?」
「マルゼンのスーパーカーに乗せてもらったことがあるくらいだ。もう彼女の横に乗りたいとは思わないが..。」
「...あいつはマジでやべぇ..。」
カーオディオからは、大城の趣味であろう、日本では認知度の低い海外ロックバンドの荒々しいサウンドが流れる。
「..意外にも、車の中は煙草の臭いがしないんだな。」
「まぁな。...車の中じゃ吸わねぇと決めてんのさ。...お前らを乗せることもあるからな。」
「...っふふ。...意外に紳士的なところがあるんだな。」
「意外は余計だ。」
「..それにしても、他人の嗜好品に口を出すつもりはないが..よく煙草なんて吸うな。...百害あって一利なし。...その言葉に尽きると..私は思うよ。」
「...そうだな。もうかれこれ30年は吸ってるからな..。もはや水を飲むことと一緒だ。」
「..止めようと思ったことは?」
「...両手の指じゃ足りん。」
赤信号で車は止まる。
「...ホントはこんなモンに頼らねぇで生きていけるんなら、それに越したことはねぇ。」
「...だったら、なぜ?」
「.....なんでだろうな...自分が...自分で思ってたよりも、強くないって...わかっちまったから...なのかもな。」
「興味深い考察だね。」
「...ガキの頃は、ロックと仲間さえあれば、俺の人生は充実していた。...でも、それはいつしか、俺の掌から消えていた。...なくした何かを手繰り寄せようと..もがけばもがくほど..より..虚空を感じるようになった。...煙草はその心のスキマを..一瞬だけ埋めてくれるのさ..。」
「...私には..よくわからないな。」
「わからなくていい。...こんなものに頼らずに生きていけることが...本当の幸せだ。」
大城は月に目を向ける。
「今日は十六夜..か。昨日は曇ってたが..今日はよく映えてる。」
「確かにな..美しい..。」
「ルドルフ、少し..寄り道してもいいか?」
「...かまわないよ。」
そうして、車は道路の脇道に停車し、二人は車を降りる。
「どこへ行くんだい?」
「すぐそこだ。」
そこは、道路脇から少し離れたところにある..河川敷だった。
しかしそこは..あまりにも街頭の少ない場所。
そこには...夜空の星たちが、プラネタリウムのように、空を覆いつくしていた。
「...おお。」
「...イかすだろ..?」
その空中に浮かぶ宝石たちに、二人の視線は釘付けになる。
「...こんなにまじまじと星を見るのは...随分と久しい..。」
「...俺もだ。」
大城はその場に寝そべる。
ルドルフはその傍らに座った。
「..昔、なんでチームの名前を星に因んだ名前にしたのかと..先代の理事長に訊ねたことがあった。」
「...先代の?」
「....そしたらなんて言ったと思う?...ここに通うウマ娘たちが..あの星たちのように...光輝いてほしいからだと言った。...なんの捻りもねぇ、クソ詰まらねぇ答えだと思ったよ。...だけど、こうして改めて星を見ると...その思いってのも..バカにはできねぇよな..。」
「...そうだな。」
大城は煙草を取り出す。
そしてビニールをはがすと、一本加えた。
「一本だけ..いいか?」
「...一本だけ..だぞ?」
大城は懐を探る...ライターが見当たらない。
「..これかい?」
ルドルフの右手には...ライターが握られている。
「ちょっと拝借。」
と大城が手を伸ばそうとしたとき、ルドルフはライターの火をつけた。
風で消えないように..手で壁を作り..大城へ手向ける。
「...では、甘んじて。」
そういって大城はその灯に...煙草を近づけた。
「....駐禁て...まじかよ...」
「...なんだか...すまないな....。」