1....2....3....4....5....6..........7
リミットを迎えたマーシャルは、スパートを抜ける。
その瞬間に、もう一度息を吸って、自らの体に通常走行を受け入れさせる準備をする。
シームレスに..ゆっくりクラッチを繋ぐように..。
そして最後は..ひたすら前を向いて..腕を振って..泥臭く..ひたむきに走る..!
『レッドマーシャル!!先頭へ踊り出ました!!他のウマ娘たち、彼女に追いすがる!!だが!!届かない!!届かない!!レッドマーシャル!!今!先頭を維持したまま...!!!』
最近少し自慢できることが増えた。
...レースが終わっても..倒れなくなった。ちゃんと目を開いて..自分の着順を見ることができるようになった。
『レッドマーシャル!!第12R見事..勝ち取りました..!スプリント界に彗星の如く現れた異端児!その独特なスタイルを..!見事に魅せてくれました!!』
汗まみれで、体全体で呼吸をすることは未だ変わらないけど...。
...私はほんの少し...強くなった。
マーシャルは..観客席にて変わらずに口端を上げる大城に、ロックサインを送る。
無論..大城もそれを返す。
『彼女のスタイル..本当に独特ですね..。わずか数秒の間だけスパートをかけるという...今までに見たことがありません。』
『おそらく、体力..ひいてはスタミナの少なさを、限られた中でフォローするのでしょう..彼女だけができる戦い方なのかもしれません..!』
「うおおおお!!!」
「田原、ちょっと落ち着け!!」
その青年も、ロックサインをマーシャルへ投げていた。
―――――――――――
「どうだった?楽勝だったろ?」
「冗談じゃないですよ!今日もいっぱいいっぱいでしたよ!!」
タオルとドリンクを持ったまま、マーシャルは大城と共に地下バ動を歩く。
「お前のスパートも、段々サマになってきたな。」
「..そうですか?」
「スズカのスタイル。今のお前によくハマってる。加速の伸びも今までの比じゃねぇ。」
大城の表情は上機嫌だった。それはマーシャルが勝ったからなのか、それともこの先になにか楽しみなことでもあるからなのだろうか?
「....。」
マーシャルは黙りこくる。
「..どうした?」
「..いえ。..憧れの人の..スタイルを受け継ぐなんて..ちょっと..カッコいいな..なんて。」
「..お前がそんなナルシストだとは知らなかった。」
「い..いや、別にそんなんじゃ!!!」
急に顔を赤らめてそういう。..レースに勝った余韻が、彼女の気分を良くしたのか。
「..ま、別に恥じることでもない。カッコいいことは正義だ。..俺も、カッコよさを求めて奔走してた時期はある。」
「...カッコよさを求めて?」
「バンドやって、見た目を奇抜にして、良いバイク、良いクルマ、いい女、いいアクセサリー。いろんなものを身に着けてみた。..だが、俺はそうはなれなかった。..それに比べれば、今のお前は..確かにカッコいい。」
「え...。」
そう改めて言われると...少し....照れくさい。
「レースの間だけな...普段のお前は、ただのマヌケだ。」
「はぁ!?なんですかそれ!?」
大城は大笑いしながら歩いていく。
そして地下バ道を抜けた瞬間。
複数のフラッシュが彼女たちを襲う。
「うわぁ!?」
「..ナンだ。」
そこにはカメラを構えた、数人の記者の姿。
「レッドマーシャルさんですね!?..私、大日新聞の者なんですが..少しお話を..!」
「え..記者..?」
インタビュー?..この私が..?なにか..人違いなのでは..?
..でも、これ..記事になったら..お母さんが..読んでくれるのかな..?
「...パスだ!んな気分じゃねぇ!!ほら!どいたどいた!」
そんな記者たちを大城は押しのけて進もうとする。
「え!?ちょ、ちょっとトレーナーさん!受けないんですか!?」
「..俺は新聞記者が警察の次に嫌いなんだよ。」
「そんなめちゃくちゃな!..受けましょうよ!」
折角のチャンス!トレーナーの勝手でふいにしたくない!
大城のジャケットの裾を引っ張って彼を止める。
「..クソ、バ鹿力め。」
そういってしぶしぶ大城はマーシャルの傍らに立つ。
「ええと、では、マーシャルさん。今日のレースの感想ですが..。」
「あ..はい..ええと..。」
しかし、インタビューなんて受けなれていないものだから、どう答えていいやら。
「ラクショーだったってよ。」
「ちょ!トレーナーさん!..いや、違うんです!そんなことなくて..ほんと今日の人たちも..皆強くて..その..。」
「...でも私のほうが強い!..ってか?」
「ちょっと黙っててください!」
そんな二人のやり取りに、記者も少し苦笑い。
「ええと、じゃ、話題を変えましょう。...マーシャルさんは来週にGⅢを控えてらっしゃるということですが...その意気込みを..。」
「......はい?」
マーシャルは目をぱちくりさせてキョトンとする。
「え?..ああ、いえ、ですから..来週GⅢ..出られるんですよね..?」
「....そうなんですか?」
「...え?」
記者も困惑する。確かに手元の資料には..来週のGⅢにレッドマーシャルが出走するという情報があるのだが..。
「...ご存じ..ないのですか?」
「..............................................トレーナーさん?」
そっと目を横に向けると。
顔を反対側に向け、肩をプルプル震わせ、声を殺して大笑いする大城の姿があった。
「....トレーナーさん!!!!!!!」
マイクを使わずとも、会場内にマーシャルの声が轟いた。
―――――――――――
「もうホント!信じられません!!なんで黙ってるんですか!!」
「お楽しみはとっておいたほうがいいだろ?」
「モノによります!!レースは前もって言ってください!!」
大城のレース告知はいつも急。
今日のレースだって一昨日知ったことだし。その前のレースなんて、当日朝に電話で起こされて知った。
「ブーブーいってんな。別に一年前に知ろうと、一週間前に知ろうと大して変わらん。」
「変わります!!準備があるでしょ!!」
「お前はいつでも万全だ。..俺はそう思ってる。」
「何を根拠に..!」
「..お前が、俺の担当だからだ..!。」
マーシャルと目を合わせると、大城はづかづかと控室に向かう。
「ま、初の重賞、決まったからには景気づけだ!」
「景気づけって...なにするんですか?」
そういって大城は、控室のドアを開けると..そこには..巨大なケーキが。
「.....アストラ..ボンゴレ..。」
アストラボンゴレ..洋菓子界の最高峰...。庶民が手を出せる代物ではない。
その猛々しいケーキの様に..マーシャルは唖然とする。
「ケーキづけ..てな?」
「...ちょっと詰まらないですよ...。」
「そうか...ルドルフにはウケたんだけどな。」
「...食べて..いいんですか..?..レース前なのに..。」
「勝つんなら食っていいぞ。ただし..。」
大城は一枚の紙きれを出す。..領収書だ。
そこには目が飛び出るほどの..数字が。
「...負けたら..自腹な?」
「......上等です!!」
「トレーナーさん、食べないんですか?」
「...俺甘いモン嫌いなんだよ。」
「..ずっとお菓子持ってるくせに。」
「あれは餌付け用だからな。」
「....餌付け?」