7s Sprinter   作:マシロタケ

24 / 96
景気づけ

1....2....3....4....5....6..........7

 

リミットを迎えたマーシャルは、スパートを抜ける。

その瞬間に、もう一度息を吸って、自らの体に通常走行を受け入れさせる準備をする。

 

シームレスに..ゆっくりクラッチを繋ぐように..。

 

そして最後は..ひたすら前を向いて..腕を振って..泥臭く..ひたむきに走る..!

 

『レッドマーシャル!!先頭へ踊り出ました!!他のウマ娘たち、彼女に追いすがる!!だが!!届かない!!届かない!!レッドマーシャル!!今!先頭を維持したまま...!!!』

 

最近少し自慢できることが増えた。

...レースが終わっても..倒れなくなった。ちゃんと目を開いて..自分の着順を見ることができるようになった。

 

『レッドマーシャル!!第12R見事..勝ち取りました..!スプリント界に彗星の如く現れた異端児!その独特なスタイルを..!見事に魅せてくれました!!』

 

汗まみれで、体全体で呼吸をすることは未だ変わらないけど...。

...私はほんの少し...強くなった。

 

 

マーシャルは..観客席にて変わらずに口端を上げる大城に、ロックサインを送る。

無論..大城もそれを返す。

 

『彼女のスタイル..本当に独特ですね..。わずか数秒の間だけスパートをかけるという...今までに見たことがありません。』

『おそらく、体力..ひいてはスタミナの少なさを、限られた中でフォローするのでしょう..彼女だけができる戦い方なのかもしれません..!』

 

「うおおおお!!!」

「田原、ちょっと落ち着け!!」

その青年も、ロックサインをマーシャルへ投げていた。

 

―――――――――――

 

「どうだった?楽勝だったろ?」

「冗談じゃないですよ!今日もいっぱいいっぱいでしたよ!!」

 

タオルとドリンクを持ったまま、マーシャルは大城と共に地下バ動を歩く。

 

「お前のスパートも、段々サマになってきたな。」

「..そうですか?」

「スズカのスタイル。今のお前によくハマってる。加速の伸びも今までの比じゃねぇ。」

 

大城の表情は上機嫌だった。それはマーシャルが勝ったからなのか、それともこの先になにか楽しみなことでもあるからなのだろうか?

 

「....。」

マーシャルは黙りこくる。

 

「..どうした?」

「..いえ。..憧れの人の..スタイルを受け継ぐなんて..ちょっと..カッコいいな..なんて。」

「..お前がそんなナルシストだとは知らなかった。」

「い..いや、別にそんなんじゃ!!!」

 

急に顔を赤らめてそういう。..レースに勝った余韻が、彼女の気分を良くしたのか。

 

「..ま、別に恥じることでもない。カッコいいことは正義だ。..俺も、カッコよさを求めて奔走してた時期はある。」

「...カッコよさを求めて?」

「バンドやって、見た目を奇抜にして、良いバイク、良いクルマ、いい女、いいアクセサリー。いろんなものを身に着けてみた。..だが、俺はそうはなれなかった。..それに比べれば、今のお前は..確かにカッコいい。」

「え...。」

 

そう改めて言われると...少し....照れくさい。

 

「レースの間だけな...普段のお前は、ただのマヌケだ。」

「はぁ!?なんですかそれ!?」

大城は大笑いしながら歩いていく。

 

そして地下バ道を抜けた瞬間。

複数のフラッシュが彼女たちを襲う。

 

「うわぁ!?」

「..ナンだ。」

 

そこにはカメラを構えた、数人の記者の姿。

 

「レッドマーシャルさんですね!?..私、大日新聞の者なんですが..少しお話を..!」

「え..記者..?」

 

インタビュー?..この私が..?なにか..人違いなのでは..?

..でも、これ..記事になったら..お母さんが..読んでくれるのかな..?

 

「...パスだ!んな気分じゃねぇ!!ほら!どいたどいた!」

そんな記者たちを大城は押しのけて進もうとする。

 

「え!?ちょ、ちょっとトレーナーさん!受けないんですか!?」

「..俺は新聞記者が警察の次に嫌いなんだよ。」

「そんなめちゃくちゃな!..受けましょうよ!」

 

折角のチャンス!トレーナーの勝手でふいにしたくない!

大城のジャケットの裾を引っ張って彼を止める。

 

「..クソ、バ鹿力め。」

そういってしぶしぶ大城はマーシャルの傍らに立つ。

 

「ええと、では、マーシャルさん。今日のレースの感想ですが..。」

「あ..はい..ええと..。」

しかし、インタビューなんて受けなれていないものだから、どう答えていいやら。

 

「ラクショーだったってよ。」

「ちょ!トレーナーさん!..いや、違うんです!そんなことなくて..ほんと今日の人たちも..皆強くて..その..。」

「...でも私のほうが強い!..ってか?」

「ちょっと黙っててください!」

 

そんな二人のやり取りに、記者も少し苦笑い。

 

「ええと、じゃ、話題を変えましょう。...マーシャルさんは来週にGⅢを控えてらっしゃるということですが...その意気込みを..。」

「......はい?」

 

マーシャルは目をぱちくりさせてキョトンとする。

 

「え?..ああ、いえ、ですから..来週GⅢ..出られるんですよね..?」

「....そうなんですか?」

「...え?」

記者も困惑する。確かに手元の資料には..来週のGⅢにレッドマーシャルが出走するという情報があるのだが..。

 

「...ご存じ..ないのですか?」

「..............................................トレーナーさん?」

そっと目を横に向けると。

 

顔を反対側に向け、肩をプルプル震わせ、声を殺して大笑いする大城の姿があった。

 

「....トレーナーさん!!!!!!!」

マイクを使わずとも、会場内にマーシャルの声が轟いた。

 

―――――――――――

 

「もうホント!信じられません!!なんで黙ってるんですか!!」

「お楽しみはとっておいたほうがいいだろ?」

「モノによります!!レースは前もって言ってください!!」

 

大城のレース告知はいつも急。

今日のレースだって一昨日知ったことだし。その前のレースなんて、当日朝に電話で起こされて知った。

 

「ブーブーいってんな。別に一年前に知ろうと、一週間前に知ろうと大して変わらん。」

「変わります!!準備があるでしょ!!」

「お前はいつでも万全だ。..俺はそう思ってる。」

「何を根拠に..!」

「..お前が、俺の担当だからだ..!。」

 

マーシャルと目を合わせると、大城はづかづかと控室に向かう。

 

「ま、初の重賞、決まったからには景気づけだ!」

「景気づけって...なにするんですか?」

 

そういって大城は、控室のドアを開けると..そこには..巨大なケーキが。

 

「.....アストラ..ボンゴレ..。」

アストラボンゴレ..洋菓子界の最高峰...。庶民が手を出せる代物ではない。

その猛々しいケーキの様に..マーシャルは唖然とする。

 

「ケーキづけ..てな?」

「...ちょっと詰まらないですよ...。」

「そうか...ルドルフにはウケたんだけどな。」

「...食べて..いいんですか..?..レース前なのに..。」

「勝つんなら食っていいぞ。ただし..。」

 

大城は一枚の紙きれを出す。..領収書だ。

そこには目が飛び出るほどの..数字が。

 

「...負けたら..自腹な?」

「......上等です!!」

 

 

 

 

 

 

 




「トレーナーさん、食べないんですか?」
「...俺甘いモン嫌いなんだよ。」
「..ずっとお菓子持ってるくせに。」
「あれは餌付け用だからな。」
「....餌付け?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。