7s Sprinter   作:マシロタケ

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気に入らないヤツ

...ああ、気に入らない。なんで今日はよく晴れてるんだろう。..私は曇っているほうが好きなのに。

 

..ああ気に入らない。..なんでGⅢなんだ。..もう私の実力ならGⅠでいいじゃん。..大丈夫だよ、どうせ私なら勝てるんだし。

 

..ああ、気に入らない。..なんで1400なの?..私、中距離派だって言ってるじゃん。..私をマイラーか何かと勘違いしてるんじゃないの。

 

..ああ、すっごく気に入らない。かなり気に入らない....なんで....マーシャル(こいつ)と一緒のレースなんだ..?

 

―――――――――――

 

..初の重賞レース。

いくらGⅢといえども、その緊張感はいつものレースのそれとは比べ物にならない。

 

ターフに立つだけで、思わず足が竦みそうになる。...周りの娘たちの気迫も...強い。みんな目がギラついている。

 

..でも、ここは..私の憧れに登る為の登竜門。...逃げちゃだめ..負けちゃダメ...そうだ、ロックだ。困ったら...ロックに行かなくちゃ..!

 

マーシャルはハンドサインを自分に向ける。

 

そこに

 

「..マーシャル先輩。」

..かつて聞き覚えのある、気怠さを感じさせる声。

それに反応して、マーシャルはふっと振り向く。

 

そこにいたのは..かつての後輩。ローズロード。

 

「ろ...ローズ..さん。」

「お久ぶりでーす。」

 

こちらを見下して、嘲笑うかのような表情は、かつて彼女がベテルギウスに居たころのままだった。

 

「..どうしちゃったんですかぁ?..チームやめたと思ったら..急に頑張りだして。..そんなにチームの意心地悪かったんですかぁ?」

「いや....そんなこと...。」

 

彼女の顔を見るだけで思い出す。

過去に、彼女らに..されてきた扱いを。

 

..最初こそは、ちゃんと先輩として接してくれていたことも、確かにはあった。

だけど、自分の実力のほうが上だと判るやいなや、彼女の態度は急変した。

 

「先輩いなくなって..ちょっと退屈なんですよ..いいんですよぉ?いつでも戻ってきてくれて。...ちょうど、部室のゴミも溜まってきた頃だし。先輩お掃除大好きですもんね?」

そういってクスクスと嗤う。

 

「.....」

苦い表情を..マーシャルはローズに突き刺す。

 

「...何ですかその目?..それが可愛い後輩に対する仕打ちなんですかぁ?こわあい...」

 

..落ち着け..乱されるな。

マーシャルはそう自分に言い聞かせる。

 

そうすると今度、ローズはおもむろに手を差し伸べてくる。

 

「..ま、ジョーダンですよ。..久しぶり..先輩と走れてちょっと嬉しいんですよ。..ヨロシクお願いします。」

マーシャルは..その手に応えるように、ローズの手を握った..その瞬間。

 

ローズはマーシャルの手を思い切り握りつぶす。

 

「..あ!.....あああ!!...うう...!!」

その痛みに思わずマーシャルは、顔を歪めて、少し蹲る。

 

「.....マーシャル先輩、今日...あんまり頑張んなくて..いいですよ...先輩は..一番後ろで..ひっそりしてるほうが..お似合いですから..。...私の視界に入ってくんなよ?」

そういって、マーシャルの手を投げ捨てる。

 

そんな二人の姿を..ベテルギウスの同期たちは、笑いながら見ている。

「やめなってぇ!ローズ!反則になっちゃうって!!」

「あーあ、先輩かわいそう!」

「マーシャルせんぱーい!がんばれー!!ビリにならないようにねぇ!!」

 

大城は..そんな様子も、黙ってみていた。

 

―――――――――――

 

少し前..地下バ道。

光が差し込むレース場への足取りが、少し重い。

 

ちょっと億劫にでもなっているのか。

それとも、恐怖なのか...それとも。

 

「しっかりしろよ。..どうした?..ビビってんのか?」

「...そうかも...知れないです。」

「バーカ、そうですじゃねぇだろ。..気持ちで負けんな。..いつもそういってる。」

 

大城は壁に背を預けて、不安に駆られるマーシャルを見た。

 

「...だって、重賞なんですよ...ずっと私の手の届かなかった..。」

「..今は届いた。」

そういってマーシャルの言葉を切る。

 

「....」

「..なんだ。また尻を叩かれねぇとダメか?」

「い..いや!」

大城が手を上げる。

それに反射するように、マーシャルは自分の尻を隠す。

 

「俺は..お前のこと、あんまり不安に思ってないんだけどな。」

「...そうですか。」

「..ああ、てかお前...今日勝つよ。」

「...へ?」

 

その言葉にキョトンとする。

 

「...今日のお前のコンディション、ターフの条件、レース相手...てんでお前が負ける理由が見当たらん。」

「...そんなこと。」

「...ああ、一人いるな..面倒な奴が。...お前の後輩だな。」

 

マーシャルの顔はさらに緊張に包まれる。

 

「ローズロード..確かにいいアシを持ってるとは聞く。..だが、お前が勝てねぇ相手じゃねぇだろ?」

「....」

大城の言葉はマーシャルに届いてなかった。

マーシャルは頭の中で、過去の記憶に踊らされていた。

 

「おい」

パチンとマーシャルの額を弾く。

 

「いた!」

「なんだお前、まさかテメェの後輩にビビッてんのか?」

「...だって、ローズさんは..」

「クソ生意気な後輩だろ?お前のことをずっとバカにしていた。」

「...はい。..でも確かに私よりも強かったから。」

「でも今は違う。」

 

大城は煙草を咥える、もちろん火をつけずに。

 

「...クソ生意気な後輩に、思い知らせてやれ。お前が誰かを...後輩に上下関係ってモンを叩き込んでやるのも、先輩の務めだ。..それともなんだ?..お前は..あんなヤロウの..奴隷か?」

「...いえ」

「じゃあ何だ?」

「..先輩です!」

「...OK!勝ってこい!」

 

大城はドスっと膝でマーシャルの背中を押した。

 

 

 

 

 

 

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