「...ははは、なんだそりゃ。..バッテバテじゃねぇの。」
本場の喫煙所にて、大城はモニターに目を向けている。
そこには、自身の担当ウマ娘レッドマーシャルがセンターを飾るウイニングライブが行われていた。
しかし、大城の言葉通り体力を使い切っているマーシャルの動きは、どうもキレがない。
だけど、その表情に..一切の曇りはなかった。
「..ったくよぉ、なるようになるもんなんだな。」
大城は満足そうに煙草の火を消して、次の一本に手をかける。
そこで、彼の貸し切り状態だった喫煙所に邪魔が入る。
その男は大城の傍らに立ち、同じくモニターを見た。
「...私にも..一本いただけますか?」
大城はその男に...黙って煙草の箱を差し出す。..男が煙草を咥えると...そのまま火を貸した。
男は..深くそれを吸うと...溜息の如く吐き出した。
「...お前が吸うヤツだったとは知らなかったよ。宮崎。」
太陽のような表情で踊るマーシャルとは対照的に、宮崎の表情は曇っていた。
「...ずっと、止めていたんです。..自分の為..ひいては...彼女たちのために。」
「..ふぅん」
大城は興味なさそうにモニターを見続ける。
「..私もかつては..マーシャルさんに夢を見たことはありました。..圧倒的なハンデを背負いながら..それでもこの娘が輝いたら..と。」
もう一度宮崎は煙草を口にする。
「..でもそれも..結局自分の夢の為でしかなかった。彼女がどんな努力をしても..成果が出ないと..わかってしまった私は..非情だった。」
「トレーナーってのはエゴイストさ。...誰だってそうだ..俺だって。」
「...この煙草の味でようやく思い出しました。...かつて、どんなに成果がでない娘でも..絶対に見捨てない..そう信念を抱いていたことを。」
宮崎の煙草の灰が伸びる。
「..でも私は..いつしか彼女たちでなく..数字を見るようになっていた。...今の私は、彼女たちがどう頑張って..どう苦境を乗り越えて...どう成長したか..説明しろといわれても..できる気がしない。」
何かに苛まれる宮崎..だが大城は黙って煙草を吸い続けた。
「...あなたが言った通り..私は二流だった。」
「バーカヤロー。テメェで二流だって認めてどうすんだよ。」
宮崎は顔を上げる。
「..貴方が言ったことじゃないか。」
「..ああ、確かに俺はお前を二流だと思ってるさ。まだまだケツの青いガキだ。..だが、それは俺の評価だ。..お前の自己評価まで..二流にしてどうすんだって言ってんだよ。」
「....。」
「..俺は、トレーナー1年目のころから自分のことを一流だと思ってやってきた。実際は..テメェの担当をボロッカスにやられちまったが。..それでも俺は自分を一流だと信じた。..信じなきゃいけないと思った。..そいつの人生を..俺は預かったんだから..。」
再び煙草を咥える。
「ま、それでもお前が二流だと名乗るんならそりゃ結構だが。」
「...教えてください。あなたがマーシャルさんを初めて見たとき。..ここまでくると..確信していましたか?」
「...トーゼンだろ。...ま、ちょいと期待以上に膨れ上がっちまったがな。」
「...何を感じたんですか?..彼女に。」
「...感じた..か。..それより思った..だな。..未だに..こんな泥臭くてひたむきなヤツがいるのか..ってな。」
既に吸う場所がなくなりつつある、シケモクのような煙草を、宮崎は離さなかった。
「..私も、貴方のように..なれるのかな。」
「..やめとけ。..マジで碌なモンじゃねぇぞ。それよりも..お前はもっと自分の担当のことを信じろ。先輩として言ってやれるのは..そのくらいだ。」
そういうと大城は煙草の火を消し、喫煙所を後にした。
――――――――――
「あー!!トレーナーさん!!」
待合室で大城を見つけたマーシャルはプンスカと擬音を立てながら彼のもとへ駆け寄る。
「どうしてウイニングライブ見に来てくれなかったんですか....あ!タバコのにおい!!...トレーナーさん!!」
「ちゃんと見てたさ。..モニターでな。..お前動きのキレが悪すぎだ。」
「だってぇ...って!そうじゃなくて!ちゃんと生で見てくださいよ!!最前列でサイリウム振って!」
「冷静に考えろ。50手前のいいオヤジが、若いウマ娘相手に、コールなんてかましてたら..ヤベェだろ?」
「別にいいじゃないですか。そういう人いっぱいいますよ?」
呆れた大城はマーシャルの背中をポンとたたく。
帰るぞという合図だが、それでもマーシャルは文句を止めない。
そうして、会場を出た瞬間....彼女らを..待ち受けていたのは。
「あ!レッドマーシャルさん!!お疲れ様です!!」
「マーシャルさん!!サインください!!」
「お姉ちゃんすっごくかっこよかったよ!!」
「貴女..肺が弱いんですって..?うちの子もそうなの..だからあなたは..娘の励みなの!」
「かっこよかったぞー!!!」
「あの!俺..田原ってモンだけど..その..マーシャルちゃんが初めて、そう4着とったあの日からずっと応援してて!!」
それは..彼女を心待ちにしていた...出待ちだった。
「え..あの..。」
突然の人の波にマーシャルは困惑する。
「トレーナーさん..?」
「なんだよ..お前のファンだろ?」
「ファン..?」
「見てください!売店でマーシャルちゃんのグッズ買っちゃったんです!」
「あ!俺!一緒に写真いいですか!?」
こんな自分に..ファン..。
実感がわかなかった。...スポットライトを浴びる日が...こんなにも急に来るなんて。
「ほら!なにボサっとしてんだ!ファンサくれーやってやれ!!」
そういうとファンの海原に、マーシャルは突き飛ばされた。
(...こいつ、ひっそりサインの練習してやがったな..妙に上手い。)