最近肌寒い季節になったなぁと思っていたら、いつの間にか本格的な冬になって。そして今日は...クリスマスイヴの日だった。
..もう年の瀬かぁ、とマーシャルは駅前の時計台の下で、少し身なりを粧して、とある人を待ち続ける。
時刻は既に...。待ち合わせ時間を20分も過ぎている。
もう、いつものことだからと。期待もせずに、彼のことを待ち続けた。
そこにようやく表れる。..その顔を見た瞬間..ちょっと怒ってやりたくもなる。
「よぉ、お前も今来たところだろ?」
「トレーナーさん!!遅刻です!!私はちゃんと時間通りに来てました!!」
「あん?...おっと、時計が反抗期だったみたいだ。」
そういって秒針の動いていない腕時計を見せる。
しかしその顔に驚きの様子はない。..どうせわかってて遅刻しているんだ。
「だったらちゃんと修理してくださいよ!..まったく。どこで何してたんですか?」
「そりゃあお前..アレだよ。....自分磨き的な..?」
「..どうせパチンコ屋さんでしょ?」
「...お前時々エスパーになるよな。」
「もぉ!!女の子を待たせておいて!最低です!!」
「でもお前は待っててくれる..だろ?」
「...トレーナーさんが奥さんに逃げられた理由..ちょっとわかった気がしました。」
「はっはっは!それだけが理由ならまだいいんだがな!」
そういって二人は街へ歩いていく。
今日は..マーシャルのGⅢ獲得記念を含め..お祝いにと、クリスマスマーケットへ来ていた。
なんでも今日は..大城の奢りでなんでも好きなものを..とのことらしい。
イルミネーションに彩られ、ドイツ風のセットが温かい雰囲気を演出するそこには、見渡す限り家族連れやカップル。
「...お。ドイツビールか。悪くねぇな。」
「ダメですよ!今日は車でしょ?」
「...くぅ。」
「あ!トレーナーさん!あれ!」
マーシャルが指す先には...。大きなクリスマスケーキが。
「...お前、この間あれだけ食っといて..まだケーキ食うつもりか?」
「ケーキならいくらでも大丈夫ですもん!!あ!あとあれと、それと...」
...30後には。
4人掛け用の簡易テーブル席が料理で埋め尽くされる。
ドイツウインナーや..ターキー。ケーキに..ピザ。ラザニアに..ドリア。
「トレーナーさん、食べないんですか?」
「...見てるだけで..胃がもたれる。」
呆れる大城をよそ眼に。それをマーシャルはパクパクパク...。
(..こいつのちっこい体のどこにこのメシたちは消えて行ってんだ?)
そう疑問に思いながら大城はノンアルコールのビールを煽った。
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「トレーナーさん!頑張って!!」
大城は白いラインの手前に佇む。そしてダーツのバレルに指を絡め...得意のスナップでダーツを投げる。
それは軽い放物線を描いて...
「ハラショー!!チャレンジャー大城!!ナイスハットトリック!!」
ガランガランと鳴るベルの音と共に、周りのギャラリーたちからの拍手が彼を称える。
「...2本はアウトブルか...少し鈍ったな。」
「凄いですよトレーナーさん!!やりましたね!」
マーシャルが駆け寄ってくる。
「昔のほうがまだ冴えてた。」
「でもいいじゃないですか!!ほら!5000円分の商品券ですよ!」
そこにマイクを持った小太りのダーツイベントオーナーがやってくる。
「いやぁ!実に素晴らしい!!ダーツご経験が?」
「若いころの溜まり場がダーツバーだったのさ。」
「なるほどぉ!ミスター大城!...なんと暫定二位でございます!」
「...一位じゃねぇのか!?」
「ええ..スリーインザブラックを出された方が午前中にいらして...。」
大城は目を瞑って空を仰ぐ。
「...くぅ...血が騒ぐ..!」
「ですが!お一人様一回ですので!!...景品獲得の方々には記念撮影を行っております!!娘さんと一緒にいかがでしょう?」
「娘ぇ?」
視線の先には...マーシャル..。
「ちょ!娘じゃありません!!」
耳をピコピコさせて否定する。
「そ、娘じゃねぇのよ..こいつは俺の...オンナだ。」
「..ほぅ...随分と年の差がおありのようで...。」
「違いますうううう!!!担当です!!!」
沸いたヤカンのようにマーシャルはピーっと鳴らした。
―――――――――
もらった写真は..二人がロックサインを掲げて写っていた。
「...やっぱりこういうのって..ピースとかじゃないんですか?」
「そんなヌルいことやってられっかよ!」
「そういえば、商品券!どうしたんですか?」
「ほらよ。」
大城はそれをマーシャルに投げる。
「これ。」
「やる。なんでも好きなもん買え。」
「...はい!」
そこからは、アーケードで少しの間別行動。
マーシャルは雑貨屋やアパレル屋を転々と。
対する大城は釣具屋や楽器屋..時折未成年が立ち寄れない所をふらりふらり。
そして1時間後に二人は再会する。
「あ!..トレーナーさん!!はいこれ!!」
マーシャルは大城に紙袋を差し出す。
「..あ?なんだこれ?」
「さっきの商品券で買ったんです!」
中からは...綺麗な白いマフラー。
「なんでまた...。」
「だって、トレーナーさん。前に新しいマフラーが欲しいって言ってたじゃないですか!私が選んであげました!」
値札を見ると、良いモノを選んだのだろう...5000円から少し足が出ている。..その分は身銭を切ったのか。
「...ああ..サンキュ。」
...今更ポルシェの
―――――――――――
「..お前、昼あんだけ食っといて..まだ食えるのか?」
「はい!というかもうお腹すいてますから!」
「..バケモンめ。...半人前のくせして30人前は食いやがる。」
「何かいいました!?」
「なーんにも!」
そのやり取りの最中、エレベーターの扉が開く。
「いらっしゃいませ。大城様、お待ちしておりました。」
「ヨ、頼むぜ。」
エレベーターの出先から、すでにボーイが客人を導くべく、構えている。
その並々ならない敷居の高さに..マーシャルはレース前の如く怖気づく。
「あの...。」
「ま、ここじゃバカ食いはできねぇわな。」
タワービル最上階のレストラン。...マーシャルには縁のなかった場所。
マーシャルは大城の裾を握って、彼についていく。
二人は外の景色がよく見える席へ案内される。
すっかり日が落ちて..街の明かりが..大きなイルミネーションの如く街を覆いつくす。
それは地上に落ちた星空と言ってもいいのかもしれない。
「...わぁ。」
その光景に目を奪われる。
「...100万ドルの夜景ってヤツか?」
「100万ドル....。」
そうか..これが100万ドルの価値がある光景...。またはそれを宝石に見立てて..と思っていると。
「電気代のことなんだってな。」
大城は笑いながら言う。
「もぉ!ロマンがないじゃないですか!」
「何がロマンだ。ませやがって。」
その瞬間、パチっと会場の電気が消える。
そこに...パっとスポットライトが..とあるカップルをライトアップする。
『...優香さん。今日は貴女へ伝えたい思いがあります!』
弱弱しくも、芯の通った男性の声が、会場に響く。
『...ずっと、貴女と一緒に..この人生を過ごしたい!...僕と..結婚してください!」
そういうと...男は膝をついて指輪を差し出す。
『....はい!』
女は目に大量の雫を浮かべて..その思いに寄り添った。
その瞬間、一つの明かりが灯ったケーキと..花束が..ロマンあふれるオルゴールと共に、二人のカップルの下へ。
電気が再びついた瞬間。
会場は拍手で包まれる。ここに新しい夫婦が誕生したことを..ここにいる全ての人々が祝った。
「....なんでお前が泣いてんだよ。」
「..だってぇ...こんなロマンあふれること...ないじゃないですかぁ!」
「..満足いただけたようで何よりだ。」
その二人も、拍手を手向けた。
「..トレーナーさんも、ああいう告白..したんですか?」
「..まさか。..そんなキザにはなれねぇよ。..ほら。」
そういうと、大城はマーシャルのグラスに人参ジュースを注いだ。
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「さっさと乗れ!..門限過ぎてフジに怒られんの俺なんだぜ?」
「わかってますよぉ!」
そういってマーシャルは車の助手席に乗り込もうと...すると..そこに一つの包みがあった。
「...これは?」
「大城サンタからのクリスマスプレゼントさ。」
車に乗り込んだマーシャルはその包みをまじまじと見る。
「..開けて..いいんですか?」
「ああ」
そこから..でてきたのは....。
「....ダンベル。」
グリップ部に"Marshall"の名前入り。
「はっはっは!!...いいだろ!それ!知り合いの旋盤屋に特注で作らせたんだ!世界に一個だけだ!」
「あ...ありがとう..ございます。」
どうして肝心なところでロマンがないのだろうか。..とマーシャルは箱を閉じる。
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「今日は楽しかったです!..ちゃんとマフラー使ってくださいね!」
「ああ...お前も..ダンベル使えよ?」
「はあい!」
そういって大城は寮の前から去っていった。
「急がなきゃ!」
そしてギリギリの時間で寮に滑り込む。
自室で..今日の荷物を下ろす。
..新しい服も買った。..写真ももらった...ダンベルももらった..。
マーシャルはそのダンベルの入った箱に違和感を覚える。
外から見た感じ、そこが深いのに、箱を開けると..底が浅い。
箱の底を探ると...それはパカっと外れた。
そこから出てきたのは...厳格な雰囲気に包まれた..まるでジュエリーボックスのような箱。
その箱には.."Scar Tiara"の文字。
それを開けると...中からは...あの時見た指輪のように白銀に輝く...ウマ娘用ピアス。
箱にはもう一つ...手紙が。
それを開封する。
『俺はお前を信じている。
ロックに生きろ。
お前の超絶イケメントレーナー大城より。』
それを見たマーシャルの目に...一粒の..雫が..。
「もう....直接言ってくださいよ...。」
――――――――――――
「よおし、じゃあ空けるぞ?」
「...うん、...痛くしないでね..?」
「大丈夫だって!あんまり痛くねぇよ!」
マーシャルとモモミルクの部屋に..トップギアが道具を持って来ていた。
そっとピアスニードルをマーシャルの耳に近づける。
「あ!..ちょっと!」
「なんだよ..大丈夫だって!」
すでに4つもピアスを開けているトップギアは、手慣れた様子で施術にかかろうとするが、以前マーシャルは怖気づく。
「にしても、マーシャルちゃん凄いの貰っちゃったね。スカーティアラだって!」
モモミルクは興奮気味にその箱を見る。
「それ..すごいの?」
「なんだお前?スカーティアラ知らねぇのか?..スカーティアラってのはな、そうだな..店舗ではたしか..会員しか買い物できないところ..なんだよな。」
「か..会員制..。」
「しかもドレスコード。ちゃんとしてないと入れないんだよね。」
モモミルクも言う。
「じゃ..じゃあこのピアス...すっごい高い...の?」
「..まぁ..このトレセンの一年分の学費くらいあるんじゃねぇの?」
「い...いちねん...。やっぱ..つけるの..やめようかな..。」
マーシャルは目をぱちくりさせる。
「それはもったいねぇって!..多分先生は..マーシャルにそれだけの価値があるって..言いたいんじゃないのかな?」
「.....。」
「つけてあげなよ。..そのほうが先生も喜ぶって!」
「...うん!」
マーシャルは再び気合を入れる。
「..よぉし!行くぞ!」
プスっと違和感が耳を襲う。
「ひゃ!」
「痛かったか?」
「..ううん。びっくりしただけ...。」
「じゃ、こいつをこうして...。ほら...どうだ?」
マーシャルの左耳に..銀色に光る...新しい...飾り..。
「...わぁ。」
その光景に..思わず見惚れてしまう..。
「なくすなよ?」
そういってトップギアは部屋を出て行った。
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「おはようございます!!」
マーシャルのその日の挨拶は..一段と張っていた。
「よぉ..。」
白いマフラーをラフにかけた大城はすぐに気が付く。マーシャルの左耳に輝くそれに。
「....猿に烏帽子に...なんなよ。」
大城はニヤリと笑う。
「..はい!」
マーシャルの瞳には...ピアスに劣らない輝きが宿った。
「大城様..ピアスの包は..」
「いい感じに頼む。..おっと、時間ねぇから急いでくれるか?待たせると..叱られちまうんだよ。」
「承知いたしました。..喜んでいただけると..いいですね。」
「ああ..。」