強敵..現る
「.....はぁ....はぁ...ああ....。」
地下バ道...。本場から引きあげて帰路に進むマーシャルの顔は暗かった。
「あーあ..リベンジかまされちまうとはな...。」
大城も飄々とはしつつも、どこか締まりのない声を上げる。
「オオシンハリヤーさん..また速くなってる...。」
「だろうな..まだ伸びそうな気配もある。それに...二度も同じ手は食わんって言ったところか。」
今日のレース..マーシャルは三着という結果となった。
今日の相手には..マーシャルのライバル、オオシンハリヤーがいた。彼女の走りは、例のレースの時よりも、さらに洗練され、より力を増していた。
マーシャルは前と同じ手で、彼女に挑んだ..だが、その手の内を知ったオオシンハリヤーは、マーシャルのスリップストリームを引きはがして、ゴールへ飛び込んだ。
「...ま、GⅡでの三着ってのは..大した健闘だろ。あいつが強くなるんだったら、お前だって強くなれる。..だろ?」
「そうかも...知れないですけど...。」
「...本当の相手は..その先か..?」
実はマーシャルが落胆しているのは、オオシンハリヤーに負けたから...だけではない。
このレース、マーシャルは三着..オオシンハリヤーは二着。
つまり..この二人をまとめて下した存在がいた。
「...ま、流石はスプリント界のバケモンと称されるだけのことはある...サクラバクシンオー。」
「...........。」
マーシャルは苦しい表情をする。
彼女の走りは圧巻だった。
ゲートが開いた瞬間から、いきなりスパートを決め込むかのような、圧倒的なスタート展開。
その後も一切の隙を許さない。..マーシャルが7秒のスパートを始めたころには..既に手遅れと呼べるほどの差を開けられていた。
「はーん....スプリントに限れば、トータル的な
「でも...負けました..。」
「...は!..なら次は勝てばいい。」
「..どうやってですか。..7秒をいっぱいに使っても...勝てなかったのに..。」
「どうやったら勝てるかは...俺も金を払ってでも知りたい。...そうか..なら本人に訊けばいいのか。」
大城はマーシャルの顔を見る。
「...え?」
―――――――――――――
「...てなワケで、どうやったらお前をブちのめせるかってのを、こいつと話してたトコだ。」
「..............。」
マーシャルはこの上なく気まずかった。
「ほーう!!なるほど!!この優等生である私のことを研究したいと!!そう仰るのですね!!」
放課後の教室、委員長としての活動のためそこに残っていたバクシンオーに、大城とマーシャルはアポなし押しかけをしていた。
「あの..トレーナーさん...もう少し言葉を..選んで...。」
「お前のことをブっ潰さないと気が治まんねぇんだと。」
「..ですから!!」
「ちょわー!!なんと!研究ではなく挑戦でしたか!!...いいでしょう!!この優等生である私が!マーシャルさんのその挑戦!受けて立って見せましょう!!」
バクシンオーは椅子から立ち上がる。
「おお!話が早くて助かるぜ!」
「なんたって!私は学級委員長ですから!!はっはっは!!」
――――――――――――――
「バックシーン!!!」
ターフの上を...その大声がこだまする。
「..は..はや..!」
先日のレースと同様..マーシャルはとあるポイントでバクシンオーとの差をジリジリ広げられる。
だけど、この前と同じ展開は踏まない。マーシャル少しペースを上げ気味にして、バクシンオーを射程圏内へと維持する。
(...ここ!)
マーシャルは深く息を吸った。
そして、マーシャルの伝家の宝刀、7秒がスタートする。
その時だけのトップスピードは..バクシンオーすらも凌駕する。
「..な!..なんと!!この差を縮めてくるおつもりですか!!!..なるほど!油断なりません!!」
その赤い気配の勢いにバクシンオーも思わず息をのむ。
3.22....
2.95....
2.23....
1.89....
刻一刻と迫るリミット..。
しかし、バクシンオーは未だにマーシャルの前。
(...っく!!.....あああ!!)
声にならない声をマーシャルは上げる...も....。
(む...り.....!)
マーシャルはバクシンオーをとらえることができなかった。
――――――――――――
「......はぁ........ふぅ........ひぃ........。」
最近は倒れなくなったと自負したものの、これだけ詰めた走りをすれば...いまだにターフは彼女のベッド。
「いやぁ!!マーシャルさん!!お疲れ様です!!いやぁ!!あの追い上げ!実にお見事!!あと200あれば私もどうなってたことか..!!」
「バクシンオーさん....。」
また..勝てなかった..。
過去に感じていた、ぶ厚い壁が...再びマーシャルの前に姿を現した。
「...いいや、あと200あったら、余計にお前には勝てねぇよ。」
そういったのは大城。二人分のドリンクを用意して、それぞれに投げる。
「ほう!興味深いお言葉!!」
「こいつの全力は7秒だけだ。..それだけで戦ってきている。」
「7..秒..?」
「こいつは絶望的に肺が弱い...。だから..スタミナ勝負はお前たちに対して圧倒的に分が悪い。そんなお前らに抗うたった一つの方法..それが7秒だ。」
「...ほう!....なるほど!...ですが...その7秒...私も感じました!」
「ああ....その瞬間だけなら..こいつは敵なしだ..!...って、もう少しカッコつくようなサマになんねぇのかお前?」
そこには...死んだセミのように仰向けになって白目を向きかけてる、7秒選手の姿があった。
おまけに体操服がめくれて臍を晒す始末。
「ほーら起きろ!」
「...とれーなー...ひゃん....。」
「しっかりしろ!ただでさえマヌケな面に拍車がかかってんぞ!」
「...まぬけじゃ....ないもん...」
頭に酸素が周ってないのか..はたまた..ショックで打ちひしがれてるのか。
「...だが、ようやくわかった。..お前とバクシンオーとの..違いが。」
「...コーナー..ですよね?」
「なんだ、お前も気づいてたのか..。」
「...バクシンオーさん..コーナーでも..まったくスピードが落ちませんでした..。」
「対するお前は?」
「....追いかけようとして..ちょっと縺れちゃいました...。」
「..なら追試だな。」
大城は立ち上がる。
「サンキュー、バクシンオー。...新しい課題は見つかった。」
「お役に立てたのなら何より!!!」
「それと...一つ...。」
「なんでしょう!」
「次は...
「...いいでしょう!!...私は何度でも..受けて立ちます!!優等生ですから!!」
大城はマーシャルを引き起こす。
「よし、お前の課題..コーナーワークだ。...てなわけで..行くぞ?」
「行くって...どこに..?」
「栃木だ。」
「とちぎぃ....?...どおして。」
「今度は嫌というほど...コーナーを走らせてやる...!」
大城の無茶なトレーニングがまた始まったと、マーシャルは悟った。
「成績も...バクシンだといいんだけどな..。」
「ちょ!ちょわっ!?それは言わない約束ですー!!」