トレセン中庭にて、マーシャルは一人膝を抱え、うずくまっていた。
底の見えない切り株に向かって、何かを叫ぼうとも考えたが、何を叫ぶべきかすらもわからなかった。
よく考えてみれば、至極当然の結果だ。一般レースですらも一度も白星を挙げたこともなく、後輩に背中を見せるどころか、さっそうと抜かれ、自分が後輩の背中を追う始末。
実況からも、名前を呼んでもらえることはほぼなく、パドックに上がっても、自分を期待の目で見る観客はほぼいない。
そんな自分が、ベテルギウスに居残ろうだなんて、希望をもって励まし続けてもらえるだなんて思うこと自体がおこがましかった。
わかってる。わかってるんだ。ずっと前から、自分はチームの、いや、トレセンのお荷物だってことくらい。
…本当はもっと頑張りたい。先頭の景色をずっと眺めていたい。ライバルを追い抜いてみたい。表彰台に登ってみたい。ヒーローインタビューを受けてみたい。ウイニングライブのセンターを飾ってみたい。後輩に背中を見せて、尊敬されたい。
でも、でも、息が続かないんだ。
ほかの娘が涼しい顔をしてこなす程度のランニングでさえも、息が上がってしまう。
昔、お医者さんからはっきり言われたことがある。
「この娘は肺の機能が他の娘よりも著しく劣っています。…もしかしたら、アスリートとして活躍をしていくのは…厳しいかもしれません」
って。
お母さんは、私のことを泣きながら抱きしめた。
「強い娘に産んであげられなくてごめんね」
って。
でもね。私はお母さんに言ったんだ。
「たとえ、息が苦しくっても、私は立派な、お母さんのようなウマ娘になる!きっと私もお母さんと同じトロフィーをもって帰ってくるんだ!」
そう息巻いて出てきたんだけど、現実はあまりにも厳しすぎた。
…もう、ここまでなのかな。
お母さん、ごめんなさい。
私は立派なウマ娘にはなれませんでした。
G1どころか、オープン戦にすらもでれませんでした。
G1トロフィーどころか、賞状一つすらももらえませんでした。
私は…私は…ダメなウマ娘でした。
ごめんなさい…ごめんなさい……。
「…んなさい…ごめんなさい。」
無意識のうちにそれは言葉になっていた。
「私は…うっ…おっ…おかあざんのような…うま…ウマ娘に…なれ…ま…せん…でじだ…う…うう……うわあああああああああああああああああああああ!!!」
彼女の感情のダムが一気に決壊した。
いままで溜まりに溜まったものが、これでもかというほど。
もう顔が涙と鼻水だらけになろうとも、それは止まらなかった。
きっと金メダルやトロフィーをお母さんにみせてあげれば、お母さんは罪の意識からきっと解放される。きっと私に微笑んでくれる。
きっと肺が弱くっても、努力をすれば、きっと。
少女の儚い夢は、初夏の夜に砕け散っていった。