7s Sprinter   作:マシロタケ

35 / 96
スパートの分配

『さぁ!今年もやって参りました!スプリント界の祭典、スプリンターズステークス!!』

『今年はどんなドラマが期待できるのでしょう!!』

『やはりここは前回覇者のサクラバクシンオーに大きな期待がかかるか!はたまた彼女に待ったをかける新たなスターがここに生まれるのか!?』

 

――――――――――――

 

ついに...来てしまった。

 

いつもの中山競技場が..まるで違うものに見える。

 

GⅠの世界..そんなの、外野からや、中継や..ドラマや..夢でしか見たことない..。

 

そのターフに..自分は今立っている。

 

..ほんの少し前の自分がこのことを知ったら..どんな顔をするのだろう。

 

お父さんやお母さんは..今頃驚いてるのかな..。

 

不安は大きい。..でも、不思議と怖くはない。

 

だって...私には...7秒の時間と...私だけのトレーナーさんがいるんだもの。

 

...負けない!!

 

――――――――――――

 

『さぁ!!ゲート解放しました!!』

 

18戸のゲートが一気に開く。その音が共鳴しあい、観客席にまで轟き、見るものたちの体の芯を震わす。

 

「バクシーン!!!」

ゲート開放の瞬間、一人のウマ娘が勢いよく先頭を押さえる。

初動から出し切るだけの力を惜しみなく発揮するそれは、まるでレースの0-400(ゼロヨン)

 

そのあまりにも躍動感のある清々しいほどのスタート展開は、見るものたちに非常に大きな刺激を与える。

彼女に感化されて、必要以上の力で追従を試みてしまうウマ娘たちも少なくはない。

 

良く言えば、スタートからいきなり大きな展開がある、非常に面白味のあるレースではあるが、逆を言えば、コース全体へのペース配慮に少し欠けるものという見方もできる。

 

しかし、その後先を考えない、力任せで豪快なレースこそが彼女の最大の魅力でもあるのだから何とも言いきれない。ましてや、それで結果を残しているのだからなおのこと。

 

『サクラバクシンオー!!今回も派手なスタート展開を見せます!!他の追随を許さないその孤高の走りは、今日も彼女を頂点へと導くのか!?....おっと!誰かが彼女に追いすがる...これは...!』

 

「...賭けになるぞ....気ぃ..張れよ...。」

 

サクラバクシンオーに..大きな赤い影が迫る。

 

『レッドマーシャル!!!サクラバクシンオーにここで勝負を挑むのか!?』

『彼女の勝負所にしては早すぎます!!作戦なのでしょうか!?』

 

マーシャルは開始早々から..スパートをかけていた。

 

――――――――――――――

 

レース一週間前...

 

「...はぁ.....はぁああああ...!!」

マーシャルはいつものよう、練習場のターフにぺたりと張り付く。

 

「...ほんとに使えんのか..それ?」

「だ...大丈夫です....私のからだ..私がわかってますから...!」

「確かに..お前のスパートを7秒に設定したのは俺だ。だがそれは、一回に掛けられる最大の出力維持を、分かりやすいように時間に表しただけだ。時間はあくまで指標だ。7秒なら何やってもいいとかいう、屁理屈が通用するワケじゃねぇぞ?」

 

今日の訓練、その練習内容はマーシャルが自ら考案したものだった。

 

「でも...少しづつわかってきました...合計7秒なら...持ちます...!」

「...お前も大層..滅茶苦茶になってきたな..!」

クスッと大城は笑う。

「誰かに似たんじゃないですか..?」

 

マーシャルが考案した対サクラバクシンオーとの作戦..それは。

7秒スパートの分配だった。

 

サクラバクシンオーのゲート解放からの初動と初速。それは他のウマ娘を軽く凌駕してしまうもの。

 

慎重に自分のペース配慮を気にしながら、加速を載せていては、既に手遅れになってしまう。

以前のマーシャルも、それでバクシンオーに敗れたようなもの。

 

ならば、その7秒スパートを分配し、最初のゲート解放時に一気に加速へ使用する。

そして、バクシンオーとの距離を維持できたところで、中断。そして勝負所で残りをすべて出し切る。

 

そういう作戦だった。

 

「お前自身が一番よくわかってるとは思うが、スパートと通常走行の切り替えには、大きな負担がかかる。それを二回続けるってことは...いつも以上にお前を消耗するぞ?それでも..やるんだな?」

「それが...私の勝ち方ですから...!」

「...OK!なら気づいたところを今から言う。...もう少しブラッシュアップしていこうぜ?」

「...はい!!」

 

――――――――――――

 

....1.....2!

 

マーシャルが初動に使ったスパートはわずか2秒。

それでも、バクシンオーを射程圏内へと維持するための時間としては十分だった。

 

『レッドマーシャル!ここで減速!?後続のウマ娘たちが忍び寄ります!!これは...』

『何かの作戦のような気がします!!目が離せません!!』

 

先頭集団の中で、息を潜めるマーシャル...。

スパートを打ち切った瞬間、一人のウマ娘に抜かれるが、それも計算。

その抜いてくれたウマ娘の背後に回り込み、スリップストリーム。

 

そこに迫るコーナー...いつもなら、ここで外側に膨らんで余計なロスが生まれた。

 

しかし、今の彼女にとって、コーナーは不安材料ではない。

 

体の軸を意識し、Rの中心を意識。自分行のくべきところを見て...最小の力で..体を流す。

 

マーシャルのコーナーへのアプローチは最適解だった。

ターフとダートを仕切る柵へ、体をほぼ密着状態にさせ、まるで柵を舐めるかのように、インベタで最小距離を抜けていく。

 

レースの最中、良いポジションをとれたことも幸いした。

 

コーナーのどこを回るか。それだけで、合計で走るべき距離は大きく変わる。

スタミナに不利なマーシャルにとっては、少しでも短く走ることは、何より重要。

 

そして、いつしか苦手だったコーナーは、アドバンテージとして、彼女の背中を押す。

 

(離されない...!それどころか...!少しだけど...詰めれてる...!)

 

あんなに遠かったサクラバクシンオーの背中が..はっきりと見える。

 

この感覚..初めてオオシンハリヤーに勝った時の状況にデジャヴする。とマーシャルは感じた。

 

ただ、今回は初動で2秒のスパートを使った..つまり、最後サクラバクシンオーと勝負できるのは..たったの5秒。

 

(...やっぱり...一回中断を挟むと...幾分苦しい...!)

 

そのマーシャルの陰りは、外からでも分かった。

 

「...頼む...行ってくれ...!お前は...俺の....!」

 

大城は強く柵を掴み、歯を食いしばる。

 

『さぁ!最終コーナー抜けて神の時間!!ここで一斉にウマ娘たち勝負に入る!!』

 

ラストコーナーを抜けて...ようやく巡ってきた勝負の時間。

 

レース運びは..90点と言ったところだろうか。

つまり、残りを攻めきれるかは..彼女次第となる。

 

 

(...ここ...で....!)

 

マーシャルは..大きく..大きく...いつも以上に体に酸素を取り込む。

 

これが終わったら...また気絶してるかもしれない、吐いちゃうかもしれない...でも...知らない!!

 

(サクラバクシンオーさん!!.....勝負!!!)

 

じわりじわりと、彼女の周りを、棘のある薔薇のような赤いオーラが、勝負服を着た彼女をさらに彩るかの如く、包み込む。

そして、彼女のターフを抉るほどの脚力は、彼女を前へと導くための推進力へと形を変える。

 

 

―5.000―

 

マーシャルのスパートが...始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。