『さぁ!今年もやって参りました!スプリント界の祭典、スプリンターズステークス!!』
『今年はどんなドラマが期待できるのでしょう!!』
『やはりここは前回覇者のサクラバクシンオーに大きな期待がかかるか!はたまた彼女に待ったをかける新たなスターがここに生まれるのか!?』
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ついに...来てしまった。
いつもの中山競技場が..まるで違うものに見える。
GⅠの世界..そんなの、外野からや、中継や..ドラマや..夢でしか見たことない..。
そのターフに..自分は今立っている。
..ほんの少し前の自分がこのことを知ったら..どんな顔をするのだろう。
お父さんやお母さんは..今頃驚いてるのかな..。
不安は大きい。..でも、不思議と怖くはない。
だって...私には...7秒の時間と...私だけのトレーナーさんがいるんだもの。
...負けない!!
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『さぁ!!ゲート解放しました!!』
18戸のゲートが一気に開く。その音が共鳴しあい、観客席にまで轟き、見るものたちの体の芯を震わす。
「バクシーン!!!」
ゲート開放の瞬間、一人のウマ娘が勢いよく先頭を押さえる。
初動から出し切るだけの力を惜しみなく発揮するそれは、まるでレースの
そのあまりにも躍動感のある清々しいほどのスタート展開は、見るものたちに非常に大きな刺激を与える。
彼女に感化されて、必要以上の力で追従を試みてしまうウマ娘たちも少なくはない。
良く言えば、スタートからいきなり大きな展開がある、非常に面白味のあるレースではあるが、逆を言えば、コース全体へのペース配慮に少し欠けるものという見方もできる。
しかし、その後先を考えない、力任せで豪快なレースこそが彼女の最大の魅力でもあるのだから何とも言いきれない。ましてや、それで結果を残しているのだからなおのこと。
『サクラバクシンオー!!今回も派手なスタート展開を見せます!!他の追随を許さないその孤高の走りは、今日も彼女を頂点へと導くのか!?....おっと!誰かが彼女に追いすがる...これは...!』
「...賭けになるぞ....気ぃ..張れよ...。」
サクラバクシンオーに..大きな赤い影が迫る。
『レッドマーシャル!!!サクラバクシンオーにここで勝負を挑むのか!?』
『彼女の勝負所にしては早すぎます!!作戦なのでしょうか!?』
マーシャルは開始早々から..スパートをかけていた。
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レース一週間前...
「...はぁ.....はぁああああ...!!」
マーシャルはいつものよう、練習場のターフにぺたりと張り付く。
「...ほんとに使えんのか..それ?」
「だ...大丈夫です....私のからだ..私がわかってますから...!」
「確かに..お前のスパートを7秒に設定したのは俺だ。だがそれは、一回に掛けられる最大の出力維持を、分かりやすいように時間に表しただけだ。時間はあくまで指標だ。7秒なら何やってもいいとかいう、屁理屈が通用するワケじゃねぇぞ?」
今日の訓練、その練習内容はマーシャルが自ら考案したものだった。
「でも...少しづつわかってきました...合計7秒なら...持ちます...!」
「...お前も大層..滅茶苦茶になってきたな..!」
クスッと大城は笑う。
「誰かに似たんじゃないですか..?」
マーシャルが考案した対サクラバクシンオーとの作戦..それは。
7秒スパートの分配だった。
サクラバクシンオーのゲート解放からの初動と初速。それは他のウマ娘を軽く凌駕してしまうもの。
慎重に自分のペース配慮を気にしながら、加速を載せていては、既に手遅れになってしまう。
以前のマーシャルも、それでバクシンオーに敗れたようなもの。
ならば、その7秒スパートを分配し、最初のゲート解放時に一気に加速へ使用する。
そして、バクシンオーとの距離を維持できたところで、中断。そして勝負所で残りをすべて出し切る。
そういう作戦だった。
「お前自身が一番よくわかってるとは思うが、スパートと通常走行の切り替えには、大きな負担がかかる。それを二回続けるってことは...いつも以上にお前を消耗するぞ?それでも..やるんだな?」
「それが...私の勝ち方ですから...!」
「...OK!なら気づいたところを今から言う。...もう少しブラッシュアップしていこうぜ?」
「...はい!!」
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....1.....2!
マーシャルが初動に使ったスパートはわずか2秒。
それでも、バクシンオーを射程圏内へと維持するための時間としては十分だった。
『レッドマーシャル!ここで減速!?後続のウマ娘たちが忍び寄ります!!これは...』
『何かの作戦のような気がします!!目が離せません!!』
先頭集団の中で、息を潜めるマーシャル...。
スパートを打ち切った瞬間、一人のウマ娘に抜かれるが、それも計算。
その抜いてくれたウマ娘の背後に回り込み、スリップストリーム。
そこに迫るコーナー...いつもなら、ここで外側に膨らんで余計なロスが生まれた。
しかし、今の彼女にとって、コーナーは不安材料ではない。
体の軸を意識し、Rの中心を意識。自分行のくべきところを見て...最小の力で..体を流す。
マーシャルのコーナーへのアプローチは最適解だった。
ターフとダートを仕切る柵へ、体をほぼ密着状態にさせ、まるで柵を舐めるかのように、インベタで最小距離を抜けていく。
レースの最中、良いポジションをとれたことも幸いした。
コーナーのどこを回るか。それだけで、合計で走るべき距離は大きく変わる。
スタミナに不利なマーシャルにとっては、少しでも短く走ることは、何より重要。
そして、いつしか苦手だったコーナーは、アドバンテージとして、彼女の背中を押す。
(離されない...!それどころか...!少しだけど...詰めれてる...!)
あんなに遠かったサクラバクシンオーの背中が..はっきりと見える。
この感覚..初めてオオシンハリヤーに勝った時の状況にデジャヴする。とマーシャルは感じた。
ただ、今回は初動で2秒のスパートを使った..つまり、最後サクラバクシンオーと勝負できるのは..たったの5秒。
(...やっぱり...一回中断を挟むと...幾分苦しい...!)
そのマーシャルの陰りは、外からでも分かった。
「...頼む...行ってくれ...!お前は...俺の....!」
大城は強く柵を掴み、歯を食いしばる。
『さぁ!最終コーナー抜けて神の時間!!ここで一斉にウマ娘たち勝負に入る!!』
ラストコーナーを抜けて...ようやく巡ってきた勝負の時間。
レース運びは..90点と言ったところだろうか。
つまり、残りを攻めきれるかは..彼女次第となる。
(...ここ...で....!)
マーシャルは..大きく..大きく...いつも以上に体に酸素を取り込む。
これが終わったら...また気絶してるかもしれない、吐いちゃうかもしれない...でも...知らない!!
(サクラバクシンオーさん!!.....勝負!!!)
じわりじわりと、彼女の周りを、棘のある薔薇のような赤いオーラが、勝負服を着た彼女をさらに彩るかの如く、包み込む。
そして、彼女のターフを抉るほどの脚力は、彼女を前へと導くための推進力へと形を変える。
―5.000―
マーシャルのスパートが...始まった!