『とどくか!?とどくか!?差した!!!差し切った!!レッドクラウン!!先頭を差し切って今!1着でゴールイン!!見事、見事に秋の天皇賞を獲得しました!!!』
会場中から、ターフを飲み込んでしまうほどの大歓声が上がる。
その声々が、はっきりと振動になり、空気を大きく震わせているのが目に見えてよくわかるほど。
絶対人気の宿敵を抑え..彼女は見事にその勝負を勝ち取った。
彼女は観客らに手を振りながらも、とある人物の下へと急ぐ。
「...上出来だよ...まったく大したクソ根性野郎だな..クラウン!」
「あなたのおかげですよ!...あなたを信じて..よかった。..大城さん!」
「..ははは!..いい加減トレーナーって呼べよ。」
「うーん..大城さんは..やっぱり大城さん..かな?」
「...勝手にしろ。」
二人の顔は、とても晴れやかだった。それもそのはずだろう。
秋の天皇賞..ごく限られた..一握りのウマ娘だけが、その冠を手にすることが許される賞なのだから。
「...ダンナに、いいカッコ見せられたな?」
「..まだ結婚してませんよ!」
彼女はムスっとした顔をトレーナーに向けるも、観客席にいる一人の男性に晴れやかな笑顔で手を振った。
その相手の、少しさえない眼鏡姿の男は、顔中を涙で覆いつくしながらクラウンへと手を振る。
「..長い道のりだったな..まったく..ここまで這い上がってきた根性..恐れ入るよ。」
「当然ですよ!..私のレッドは..」
「クソ根性の赤だっけか?」
「不屈の赤です!!...私のレッドっていう名前は..先祖代々から受け継がれてるんです。..私のお母さんも..おばあちゃんも..。いつか私に娘が生まれたら..きっとその娘にも..その赤の称号を..ってね。」
クラウンは未来を見つめるかのように、遠い視線を空へ向けた。
「..お前の娘..ねぇ..あーやだやだ。とんでもねぇのが来そうだ。担当は御免だな。」
「もう!またそういうことを言う!」
―――――――――――
その瞬間..ターフが異様な空気に包まれる。
何かがこのレース場に舞い降りた。そう錯覚を働かせるほど。
-4.889-
吸った酸素を全身に巡らせる。
血が濁流のように流れ..心拍数はオーバーレブさせてしまうほど。
体の熱もオーバーヒート気味。
そして、低く構える..足いっぱいに力を入れ..キックダウンさせるように..一気に駆け出す!!
-4.659-
彼女の耳にはもう何も届かない..実況の音も..周りのウマ娘たちが音を上げる声すらも。
目指すところは..サクラバクシンオー!!ただ一人!!
『レッドマーシャル!!ここで勝負か!!強い剛脚!!なんだその加速は!?』
『ここまでの強い加速...他のウマ娘でも..なかなか見られるものではありません!!』
赤い光が..ターフを駆け抜けていく。
-3.879-
ようやく..あの背中が..!!
彼女の前を走るサクラバクシンオーにも、その気配は十分すぎるほどに伝わった。
(..なんと!!この追い上げ!!あの時よりも..さらに増しています!!...いいでしょう!!優等生に二言はありません!!レッドマーシャルさん!!その勝負..受けて立ちましょう!!)
バクシンオーも、さらに姿勢を低く..勝負の姿勢をとる。
そして己のギアを更にオーバートップへと放り込み..最後の加速を畳みかける。
-3.112-
(見えた..!!もう..逃がさない!!)
リミットは刻一刻..だが..今度こそは..!!
(バクシンオーさん!!...あなたはとてもすごい人だって..私よく知ってる。だって..去年のスプリンターズステークス..私見てたもん...。すっごく..かっこよかった!!あなたみたいに..カッコよくなりたいって..そのとき本当に思った...!!だから私!..あなたに勝って..!あなたみたいに...カッコよくなりたい!!だから..!!だから!!!)
さらにマーシャルは加速を重ねる。
「マーシャル!!!もう少しだ!!!いけええええ!!!!」
「マーシャルちゃん!!!頑張って!!!」
応援に駆け付けた二人も、まるで自分のレースかのように奮い立ち..惜しみのない声援を親友へと投げる。
「...そうだ...お前は...あいつの娘なんだろ?...見せてやれ..いや...俺に...見せてくれ..そのイカれたクソ根性を!!マーシャル!!!」
大城にも、いつも以上の熱が入る。
ここまで熱くなっている自分が..珍しいというか..懐かしいというか。
-2.545-
(...ぐっ!!!さすが...ですね...!!マーシャルさん!!)
バクシンオーを追うその影は..次第に肥大化していく。すぐ背後に迫っていることが..目視せずにもわかるほど。
(..ですが!!私とて!!譲るわけにはいかないんです!!!)
バクシンオーはそのいっぱいに振る腕を、軌道から一瞬ずらして、懐に手を当てる。
そこには..大切な人からもらった..彼女の御守り..硬くて..小さいけど..彼女は何度もそれに救われてきた。
(..この香車が..駒が...私自身なのです!!..前だけを見て!!..決して..絶対に振り返らない!!)
..彼女も、この世界に立つまでに..いくつもの厳しい現実を向き合ってきた。キツイ練習に..思うように出ない結果..それが彼女を苦しめた日々もある。
そんな彼女に差し出されたお守りが...香車だった。
今でも忘れない...その人がいった言葉を。
『..香車っていうのはね..前に進むことしかできないんだ。..でもね。一度道を決めたら..絶対に振り返らない駒でもあるんだ。..それでね。進めるところまで進んだら、そこで本当の力を手に入れられる。..今のバクシンオーは..その道を進んでる最中なんだ。きっと行き着いた先に..本当の君が待っている。だから..決してくじけちゃ..振り返っちゃだめだ!..君は..香車だ!』
(私は..わたしはあああ!!!!)
「バックシーーンンン!!!!」
『サクラバクシンオー!!!ここで大きな粘りを見せる!!!』
-1.200-
(もう少しだ!!!もうすこ..し...なのに...!!!)
ここで..オオシンハリヤー戦で仕掛けたように..スリップストリームをと考えたマーシャルだが..ギリギリ届かない。
ここにきて..サクラバクシンオーの想定外の粘り..。あの時のように..甘くはない!!
(だめだ..!!考えちゃあ!!)
「...そうだ、考えるな。感覚派の相手にクレバーな手は通用しねぇ。お前も...意地で行ってやれ!!」
まるで大博打を張るかのようなギャンブリーな展開。全身の血が沸騰するような感覚を大城は覚えた。
そこに、ちょっと酔い気味の老人が..よたよたと大城の下へ。
「な..ななな..あんちゃんさ。これどうだと思うさ?..やっぱここはバクシンオーだろ?な?」
「あ゛あ゛?レッドマーシャルに決まってんだろ!!!」
大城は吐き捨てるように、老人にそういった。
「お...おう..おう...。」
大城にそう凄まれた老人はそそくさと消えていった。
-0.566-
(もう..ゴールも近い...なら!!..いっけえええ!!!)
マーシャルは最後の余力をすべて出し切り..バクシンオーの隣へ無理やり体を放り込む。
そして...
-0.000-
マーシャルはリミットを迎える。
一気に体の力を切り替える。..通常走行へ。
二回体の切り替えを行ったマーシャルの体の負担は..相当なもののはずだ。
だが、マーシャルはそれでも走り続けた。
もはや..気力と..根性のみで。
(苦しい...!..くる...し...い!!)
だが、苦しいのは...マーシャルだけではない。
「バク...し....ー..ん!!!」
スタミナ切れを起こしているのはバクシンオーも同じだった。
ゴールまでは..あと100。
ここからは..正真正銘の...根性勝負。
『さあ!!レッドマーシャル!!!バクシンオーに並んだ!!並んだ!!!これはわからない!!どちらが!!勝利の女神はどちらに微笑むのか!!!』
会場のすべての者たちがそのレースにくぎ付けになった。
まるで..嵐が来る直前のようなざわめきが..会場を支配する。
レッドマーシャルとサクラバクシンオー二つの影が..サイドバイサイドで..短距離の..神が敷いた100Mを駆け抜けていく。
(...まけ..ない....!!根性なら...絶対に....!私の赤は...!!不屈の...赤なんだ....お母さんからもらった...赤なんだ...私は...)
「レッドマーシャルだああああ!!!」
(私は優等生!!..みんなの模範!そして...香車!!...振り返りません!!絶対に!!その名に懸けて!!)
「バクシイイインンンンン!!!!!」
そうして..赤色と桜色の二つの炎が並んで...ゴールラインを切った。