7s Sprinter   作:マシロタケ

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写真判定

会場は確かに大盛況に包まれた。

だがしかし、それは直ぐに不安と心配に満ちたざわめきに変わる。

 

『えー..サクラバクシンオー、レッドマーシャル..共に起き上がることができません。大丈夫なのでしょうか..救護班が駆け付けます。』

 

実況者は淡々と目の前で起こっている状況を伝えていた。

 

互いに全力を出し尽くし、限界を超えた二人はゴール後、地べたに這い蹲ってぴくりとも動かなかった。

 

二人とも大丈夫なのか。..まさか..と思わせるような張り詰めた緊張が、空気となって会場中に漂う。

それはレース中の緊迫感とはまた違ったもの。

 

そしてようやく、サクラバクシンオーが救護班の肩を借りてゆっくりと起き上がる。

そして観客たちに己の無事を伝えるように手を振った。

このあたりのファンに対する配慮を忘れないところは、流石歴戦のGⅠランナーと言ったところだろうか。

 

その様に観客たちは口々に、彼女を労い、称える声を投げかける。

 

バクシンオーはファンに対し一礼をすると、すぐさま『彼女』のもとへよたよたと、千鳥足になりながらも救護班の手を借りずに向かった。

 

「だ...大丈夫...ですか...はぁ...レッドマーシャル..さん?」

「...ふぁい。」

 

マーシャルは酸素吸入器を口に当てられ、薄く目を開ける。

傍目から見れば、かなり重篤に見えなくもないが、彼女にとっては日常茶飯事。もちろん慣れることではないが。

 

「ふ...ふふ!わ...私が先に立ちました..よ!!」

バクシンオーはマーシャルの前で腰に手を当てて、仁王立ちになる。

 

それは、マーシャルに起き上がって来いと言うサインなのだろうか。

だが依然、彼女はクラクラ..。

 

それを見たマーシャルも、救護班の手を借りずにそっと立ち上がる。

一瞬グラっと膝が折れて、その場に倒れそうになる。しかしそれをバクシンオーがマーシャルの肩をとって阻止した。

 

「ありがとう...ございます....。」

「お礼には及びません..!!なんたって私は..!」

「優等生..ですよね..?」

「...はい!」

どんなに疲れていても..その笑顔をバクシンオーは絶やさなかった。

 

その二人の様に、惜しみのない声援が飛び交う。

「私は..100%を..いや..120%を尽くしました。..どちらが勝っても..恨みっこナシですよ!」

「..うん!」

 

マーシャルは笑顔を作って..バクシンオーへ手向ける。

 

『双方..意識があるようですね。』

『いやぁよかった!一時はどうなることかと..!』

 

..そして、運命の瞬間がようやくスクリーンに。

 

『さぁ!写真判定出ました!...スーパースローでご確認いただきましょう!』

 

「...頼む!」

大城は両手を結んだ。

 

「マーシャルちゃん..。」

「大丈夫だ!...きっと...あいつなら..!」

親友二人も身を寄せ合った。

 

そうして、わずか1秒にも満たない世界が、スクリーンに映し出される。

 

そこに、マーシャルとバクシンオーが並んでゴールラインへ飛び込む瞬間が、一コマ一コマ映し出される。

 

『さぁ...これは...』

 

パッと画面が切り替わる度に、彼女らがゴールラインへと近づいてくる。

 

そして、決定打になる一枚が..ようやく。

 

うおおおおお

と観客席から大シケのような、たまった何かが解放されたかのような、声が上がる。

 

『ハナ!..ハナの差!!ほんとに極僅か!!決まりました!!スプリンターステークス!!優勝を飾ったのは...!』

 

バクシンオー、マーシャルもその画面に引き込まれる。

 

マーシャルは..その画面の中の世界が信じられなかった。

 

 

『レッドマーシャル!!!!!見事!!見事にスプリンター界の頂点に輝きました!!!!』

 

実況の叫びが火種となり、観客たちの燃料に一気に火が飛ぶ。

 

 

マーシャル!!!信じてたぞ!!!!

流石!!!!

よく頑張った!!!すごいぞ!!!

 

マーシャル!マーシャル!!マーシャル!!

そう、彼女を称えるコールが飛ぶ。

 

その圧倒的な情景に..言葉が出てこなかった。

マーシャルはただ茫然と..その様子を見ていた。

 

これは..夢ではなかろうか..そうだ、いっつもこんな夢を見ていた。

私がGⅠで勝って..皆が自分を祝福してくれる..そう..目の前に広がるような光景を..いつも枕の上で見ていたんだ。

 

..でも、今日は...この夢から覚めることはない..だって..これが..本当に..自分で勝ち取った、

 

現実なんだから。

 

ボロボロとマーシャルの顔に..崩壊したダムのような涙があふれ出てくる。

この時ようやく彼女は自覚した。..彼女が正真正銘のGⅠランナーになったことを...

 

 

彼女が本物のスプリンターとして、覚醒したことを。

 

 

「あ..あああ。」

言葉を発しようにも..うまくひっかかって出てこない。

 

「..おめでとうございます!!!マーシャルさん!!」

そんな彼女の背中を押すように、バクシンオーは言った。

 

その顔には一切の曇りなどない。すっきりとしたものだった。

「...わ...私...?」

「そうですよ!...あなたが...一着です!」

「夢じゃ..夢じゃないよね?」

「もちろん!!これが現実でしょう!!はっはっは!!」

 

ひとしきり笑ったあとに、バクシンオーは先ほどまでと打って変わって、涼しい顔をした。

 

「今日はマーシャルさん、貴女の日でした。..ですが..今後は譲りません!私は学級委員長なのですから!!」

「..次だって..負けません!」

そうして二人はその場で強く手を結びあった。

 

その時、柵を乗り越えて一人の男が、彼女のもとへ。

 

「...トレーナーさん!」

大城の姿を見たマーシャルはふと彼の言葉を思い出す。

 

そうか、勝ったら..ハイタッチだったんだ。

 

その言葉を元に、マーシャルは空中へ手を出す..が。

 

今度、そのハイタッチを無視したのは大城のほうだった。

 

マーシャルの差し出した手を、すり抜けて..彼女を..強く抱きしめた。

 

「...トレーナーさん?」

「...よっしゃああああああああああああ!!!!!!お前マジで最高だぜ!!!!!..ほんとに..よく頑張った...!!!お前を信じて..よかった!!」

「..トレーナーさん...!」

マーシャルもその言葉に感情が激しく揺れ動く。

 

「...ハイタッチじゃ...なかったんですか?」

顔をグズグズにしながらも、マーシャルはそういった。

 

「...そうだったな!」

 

そして二人は..ハイタッチを交わした

 

その音は..会場のどんな音よりも..高らかに突き抜けた。

 

 




推奨ED:『夢のチカラ'06』
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