7s Sprinter   作:マシロタケ

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新たな挑戦

「...また、ここに立てる日が来るとはな。」

大城はポケットに手を入れたまま、その会場の袖口から感慨深くそれを見る。

 

URAのロゴが一面に入ったインタビューバックボード..そして今レースの主役を待ち構える大量の記者たち。

..基本記者嫌いな大城ではあるものの、この時ばかりは、満更でもなさそう。

 

そして...大城(トレーナー)と共に、皆が待望する主役が..姿を現す..。

 

それはGⅠを手中に納め..スプリンターの頂点に輝いたウマ娘...その姿は貫禄ある威風堂々とした...ものとはお世辞にも言えなかった。

 

「カッチカチだなお前...。」

「だ..だって...未だに実感わかなくて..。」

 

まるでゼンマイの切れた機械人形のように、どこかぎこちない動きで、マーシャルはヒーローインタビューの壇上へと一歩踏み出そうとする..が。

 

それを踏み外して..そのまま前のめり。

間一髪大城はマーシャルの襟を引き上げ、なんとか醜態を晒さずに済む。

 

「..しっかりしろ。」

大城は呆れながらも、優しくそういった。

 

しかし記者たちは、その光景もしっかりパシャリ。

..きっと明日の新聞にこの様は載るんだろうな..とマーシャルは顔を赤くした。

 

―――――――――――

『それでは..マーシャルさん!スプリンター界の頂点..スプリンターズステークス優勝おめでとうございます!!..今の率直なご感想を..!』

「え...ええと!あ..ありがとうございます!..その、私..いまだにその...。」

 

なんとも彼女の歯切れの悪い受け答えに、大城はいつもの(余計な)助け舟でも出そうかと企むが..彼女の慌てながらも..明るいその表情にふっとその気は失せる。

 

(ま..今日の主役はこいつだしな..。)

 

そういって大城はそっぽを向く。

 

『はい!ありがとうございます!』

そういって一人の記者が壇上から立ち去る。

 

「わ..私..ちゃんと言えてました?..ヘンなこと言ってないですよね?」

「そりゃあ..明日の記事でも読んでみろよ。」

クスクスと大城は笑う。

「もう!」

 

そして次の記者が壇上へ。

『レッドマーシャルさん!お疲れ様でした!..今回のレース実に感動いたしました!レッドマーシャルさんはスプリント限定の走者だとお聞きしてますが..』

それからは、彼女の今までの軌跡や限定スパートの秘密..あらゆるネタになりそうな内容を、記者たちはこれでもかと聞き出す。

 

内容がどんどん進むにつれ..マーシャルの口は少しづつ軽やかになってくる。

大城はただただ黙って..その様子を見続けていた。

 

(...ああ。どうだ。..お前は見つかったか?..お前の..お前らしく居られる居場所を。..俺は..どうだろうな..。これで死んでも..悔いはねぇと思えるかもしれねぇ。..でも..もっとお前と走り続けていたい..そんな気もする。..ままならねぇよな..。)

そう心で呟いた。

 

「...さん!..トレーナーさん!」

そのマーシャルの言葉に大城は引き戻される。

 

「あ?」

「トレーナーさんのコメントですって!」

「俺の?」

 

目を前に向けると..そこにはまた別の記者が。

 

「いやあ!二人のドラマ..実に心を揺さぶられました!..ターフでのあの抱きしめあったシーンは、とても印象的でした!」

「..ああ、そうかい。」

今振り返ると..ちょっとハデにやりすぎたかと思う大城だった。

 

「それですが、担当ウマ娘とトレーナーの絆..信頼関係についてすこしお話を..。」

「ああ!?やなこった!マーシャル!帰るぞ!」

 

そういって壇上を降りようとする。

 

「ちょ!ちょっと!トレーナーさん!?」

マーシャルは大城の裾を思い切り引っ張って彼を引き留める。

 

マーシャルは慌てふためくが..記者たちは動じるどころか、その様に笑いが飛ぶ。

過去に大城の現役時代を知っている記者たちなら、なおのこと。これこそが大城節なのだ。

 

クスクスと笑いながら、記者は再び大城にマイクを向ける。

『では、担当のレッドマーシャルさんについて..どうお思いですか?』

「どうって...ま、あんたらから見たまんまだろ。..規格外のスパート..並外れたド根性..こんなヤツ..他に誰がいる?...ま、合格点だわな。」

そういって横目で彼女を見る。

 

その言葉にマーシャルは嬉しそうに、耳と尻尾をなびかせる。

 

『そうですか!...では、普段のマーシャルさんについては?』

「普段..か。」

その言葉にマーシャルはギクリとする。

..なんか..ヤな予感。

 

「なんだろうな。こいつすぐ泣くし..燃費は悪いし..文句は多いし..マヌケだし」

「ちょ!トレーナーさん!」

彼の服を引っ張ってそれ以上の言葉を止めようとする。

 

「聞けよ!こいつこの間なんてな!」

「わあああ!!その話はダメです!!!」

「ナンだよいいじゃねぇか!」

「だめです!絶対にダメ!!」

全国ネットで秘密をバラされそうになったマーシャルは大声で制止する。

 

結局は壇上でもいつも通りの二人を、記者たちは暖かく見守る。

 

『では、マーシャルさんに、担当の大城トレーナーについてどうお思いですか?』

「えっと..その..。」

マーシャルはやり返してやろうかと企む。

 

「トレーナーさんは..いっつもいい加減だし!自分勝手で、タバコばっかり吸ってて、スケベで意地悪で..その..それでも..私のことをいつも一番に考えてくれてて..いざって時に..頼りになって..信頼できる人で...って..あれ?」

彼に仕返しをするつもりが..心の本音が..ついうっかり。

 

記者たちはいい笑顔でうんうんと頷く。

 

「そら..どーも。」

大城はどこか嬉しそうに..そういった。

マーシャルはそれ以上なにも言えず..赤くなって黙り込んだ。

 

『..では、最後に、今後についてお二人はこの先をどうお考えですか?』

 

「今後..?」

「この先...?」

 

大城とマーシャルは何か呆気にとられたような顔で、互いの顔を見合った。

 

...二人の目標は..このGⅠで勝利を飾ること..宿敵サクラバクシンオーを破ること。

...逆を言えば、その目標に力を入れすぎていたため、それ以上のことはあまり考えていなかった。

 

「この先って..私どうなるんですか.?」

「..さぁな..知らん。」

 

『え..ええと?』

まさかの回答に..記者も困惑する。

 

「ま、良いように答えろ。..今日の主役はお前だ。」

「え..ええ?」

そういってマーシャルは背中を押される。

 

「え..ええと今後について..なんですけど...」

ど...どうしよう..なんていえば..。

スプリントの世界は重賞の中では比較的狭い。

 

次に狙うべきところが..わからない。

 

『じゃ、じゃあ、例えばこんな大会に出たいとか..そういったものとかありません?』

記者が助け舟を出す。

記者のその言葉...マーシャルの脳裏にあるものが浮かぶ。

..彼女の母の姿だった。

そうだ..自分の憧れ..ルーツは..いつもそこにあった。

 

彼女はほぼ無意識的に口を開く。

 

「あの..私..一つの夢..というか..目標があって。」

記者たちはその言葉に耳を傾ける。

 

「私の..お母さん..レッドクラウンっていうんですけど..私、初めてレースに出たいって思ったキッカケが..その..お母さんのレースだったんです。G1をとった時の..あの姿に憧れて..。だから私も..あんな風になりたいって、ずっと思ってるんです。..だから。」

今後もいろんなレースでも活躍していきたい。あの日の母みたいに輝けるように。そう無難に締めようと思ったマーシャルだったが、その発言は思いもよらない方向へと飛んだ。

 

 

..レッドクラウン?

それってあれだろ?昔秋の天皇賞とった。

え..じゃあ、これって天皇賞への挑戦ってことか?

..おいおいまじかよ!..スプリンター界の申し子が..天皇賞に挑戦って!

 

ざわざわと沸き立つ記者たちの先走りは..次第に伝染していく。

 

「あれ?..あの...皆さん..?」

いい感じに締められると思ったのに..この騒ぎはなんなのだろう?

 

「あーあ。..これだから記者は嫌いなのヨ。」

大城はふぅとため息をついた。

 

『れ..レッドマーシャルさん!!そのお言葉は、秋の天皇賞への挑戦ということでしょうか!?』

「え...ええ!?」

自分の発言がどう派生したらそうなるのか。..マーシャルは流石に戸惑った。

 

あわてふためくマーシャルは大城のほうを向く。

「ど...どうしよう..トレーナーさん..。」

「どうしようもこうしようもねぇだろ。...お前が決めろ。」

「決めろって...。」

「行くも退くも自由だ。お前が行くってんなら..俺も行く。」

「トレーナーさん..!」

 

大城はまっすぐな瞳をマーシャルへ向けた。

今度は彼が...マーシャルの迷いを断ち切らせた。

 

..あんなに憧れた母の背中..それがやっと見えた。

芝2000m..自分じゃ太刀打ちできないかもしれない。

それでも...挑戦してみたい!

 

ぐっと顔を引き締めたマーシャルは..再び記者たちに顔を向ける。

「...はい!..私...秋の天皇賞に..挑戦します!!」

 

―――――――――――

「ああ....どうしよう....とんでもないこと言っちゃった。」

熱に絆されて、天皇賞への挑戦を誓ってしまったマーシャルは..打ちひしがれていた。

 

「どうしようってヨォ。..お前がヤルっつったんだろォ?」

「そうですけどぉ...。」

熱が冷めて..正気を取り戻した彼女はしどろもどろ。

 

「ちったぁ胸張れよ。..お前は紛いもないGⅠランナーだろうがよ!...ああ、張るほどのムネもないってか?」

大城はマーシャルの..フラットな胸部に目を向ける。

 

「ちょ!それセクハラですよ!?このヘンタイ!スケベオヤジ!」

「はっはっは!お前も大分口が達者になったな!」

 

大城はひとしきり笑った後..急に真剣な表情を作る。

 

「ま..こっから真面目なハナシだ。..芝2000。2000mだ。お前にとっちゃあ、これ以上ないほどの過酷な挑戦になるぞ。..無理強いはしない。..本当にやるか、やらないか。お前が決めろ。」

「....。」

マーシャルは俯く。

 

無理かもしれない。..だって1400でさえも終わったら倒れるような自分だもの。

..それでも。あの時の気持ちは..ただただ熱に絆されただけのもの..というわけではなかった。

 

「...やります!...勝てないかもしれないけど...やってみたい!」

「..OK!..俺らは一蓮托生だ。..地獄の果てまで..行こうぜ!」

 

二人の顔に..再び熱が帯びた。

 




「..高松宮記念ってのもあったんだけどな。」
「....なんでそれ...先に言わないんですか...。」
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