...ああ...ああ気に入らない。
..なんで...あいつが...!
ふざけるな..!お前なんて...つい最近まで..下っ端だったじゃんか!
このあたしを..出し抜こうだなんて...。
調子に乗るな..いい気になるなよ..。
――――――――――――
「マーシャルさん!あの..私にサインいただけませんか?」
「私も!」
「ねぇ!よかったら今度の練習、私たちに付き合ってくれない?私たちも今度スプリントに挑戦するんだ!」
「私!一緒に写真いいですか?SNSに上げたいんです!」
昼時のトレセンの食堂。
マーシャルの周りには..人だかりが。
それもそのはず。
全くの無名から、スプリントの上位ランカーにまで這い上がった彼女。そのシンデレラストーリーに関心を抱かないものはいない。
マーシャルはちょっとした、学園の注目者にいつの間にかなっていた。
最初こそは戸惑いを見せることもあったが、それも次第に慣れ、どう受け答えをするべきかや、サインを早く書く方法などを身に着けていっていた。
それでも、マーシャルに押し寄せる人波には天手古舞。
昼食時や放課後の彼女は引く手数多。
やれサインだの、やれ一緒に練習だの。やれ個人インタビューだの。
おちおち練習や食事もできない。
でも、それでも嬉しかった。
「おーおー、人気者はツライねぇ。」
とトップギアは冷やかすように言う。
「すごいなーマーシャルちゃん。私もサインもらっちゃおうかな?」
とモモミルクもいう。
「えへへ..ちょっと恥ずかしいけど..やっぱり嬉しいな。皆に興味を持ってもらえるって。」
「...ちぇ!俺より先に雑誌デビューするなんて、ナマイキだぞ!」
「あれ?ギアちゃんも前に雑誌載ったって言ってなかった?」
「...それは..読者投稿の..コメントが載ったんだよ。」
ギアはそっぽを向いてそういった。
少し恥ずかしそうに言うギアに..マーシャルとモモミルクは思わず笑ってしまう。
「わ...わらってんじゃねぇ!」
またそこに..
「マーシャルさーん!」
と初等部生たちの姿が...。
そんなちやほやされ続ける彼女を..面白くないと思う人物もいる。
――――――――――
彼女は肘をついて、マーシャルを目の敵のように見続ける。
貧乏ゆすりが酷い。..それに..眉間には皺が寄る。
そして時折舌打ちをする。
「...ローズ..どうしちゃったの?..ちょっと怖いよ?」
傍らにいたスーパードライブが、ローズをなだめる。
「あんた...あれでいいと思ってんの?..あいつ...調子に乗ってる!」
こつんとテーブルの脚を蹴った。
「ローズってば..。」
「ああ!気に入らない!!..なんであいつが...!」
ローズの怒りは最高潮に達していた。
ローズは..ここのところの成績が芳しくなかった。
やっとの思いで出走したGⅠは...11着という惨敗に終わった。
それからも..GⅠどころか..GⅡ..GⅢ..オープン戦ですら入賞を逃すことが目立った。
あの日からだ...あの日..あいつに負けてから...すべてが狂っていった..。
一番ノれていた..絶対に勝てたと思っていた。だってあいつは格下だったんだ!
それなのに...そのそれなのに...!
その日を思い出す度に..ローズのイライラには余分な燃料が投下されるようだった。
ただでさえ..プライドが高く..人一倍負けず嫌いなローズ。
それが..いつも見下していた格下の相手に負かされたとあっては..感情が治まるわけがなかった。
「クッソ!..あんなやつ..!..あんなやつ!」
ローズの貧乏ゆすりは一層大きくなる。
「ローズってば...。」
ドライブは..どう収拾つけるべきかわからなかった。
「...なんか..ちょっと痛い目にでも合えばいいのに..。...あ..そうだ。」
急にパッと明るい顔をした、しかし..その目は狂気に満ちている。
「ねぇ、ドライブ。..アンタってさ。動画編集とか..昔してたよね?」
「え..うん?まぁ..お父さんに習ったんだけど。」
「..ちょっとさ..いいコト思いついちゃった。..あんたも協力しなさいよ?」
「どういう..?」
ローズはドライブに耳打ちをする。
「..え!..それ..さすがにまずいんじゃ..。」
「ちょっとしたジョークよ!..ふふ..。」
ローズは燻っていた。
..これであいつを..黙らせられる..。
―――――――――――
ベテルギウスの部室..そこに二人はいた。
ドライブが持ってきたタブレットで..ローズはそれを確認する。
「..くく!!上出来!..さ..さっそく..!」
「ねぇ!さすがにまずいんじゃ...」
「作っといて何言ってんのよ!..大丈夫..匿名でやれば..バレないから..。」
そこに、部室の戸が開く。
「何してるんだ?二人とも?」
それは、チームのリーダー、フロイドスピリットだった。
「お疲れです..別に..ただ動画見てただけですよ。」
「..そうか..なぁ、ちょっといいか?二人とも。」
そういってスピリットは椅子に掛ける。
「実は..マーシャルのことなんだが...」
そのセリフにローズの眉が反応した。
「ほら..あいつ..その..お別れ会とか..やらなかったろ?..GⅠも無事に獲れたみたいだし..ちょっと、また皆で集まって..食事会とかどうかなって..。レコードも賛成してくれてるんだが..。」
スピリットは歯切れ悪くそういった。
..要は..今まで彼女に対しての態度を..少し改めたいという場を作りたかったのだろう。
スピリット自身も、マーシャルのことを軽視して、雑な扱いをしたことは確かにあったし、後輩の侮辱行為に対しても..見て見ぬふりをした。
自分勝手であることは自覚しているが..彼女の本当の秘めた力をあの時知ってしまったスピリットは..何かしらの罪滅ぼしをしたいと考えていた。
無論、こんなもので免罪されるとは思ってもいないが..何もしないというのも..彼女自身の後ろめたさが自分に指をさした。
機会があれば..一度彼女に謝りたい..。そんな思いもあった。
だが、そんな弱ったリーダーを..ローズは一蹴した。
「しなくていいんじゃないですか?...別に、マーシャル先輩はもうこのチームじゃないし..。」
「そういわずに..。」
「やるのは勝手ですけど..私は行きません。」
ローズはそうキッパリ言い切った。
「あんたもでしょ?ドライブ。」
「..う..うん。」
ドライブは..ローズの威圧に逆らえなかった。
「..そうか。..わかった。」
―――――――――――――
「どいつもこいつも..口を開けばマーシャル..マーシャル..。」
「ねぇ..私できないよ..こんなこと..」
ドライブの気の弱さにしびれを切らせたローズは..タブレットを取り上げる。
「ああ!もういい!私がやる!」
そういって..ローズは..投稿のボタンを押した。
「..やった..これで..。」
ローズは少し間をおいて、食堂へ。
そこに憎き彼女はいた。
その周りには..また人だかり。
ローズはそれを押しのける。
そして、マーシャルの前へ。
「マーシャル先輩..。」
「ろ..ローズさん?」
ローズの姿に..マーシャルは少し固まる。
「先輩..すごかったですね..まさかGⅠ獲っちゃうなんて。」
「う..うん..ありがとう..。」
「でも..ちょっとヘンじゃないですか?」
「へ..変?」
ローズはにやりと笑う。
「だって..あんな走れなかった先輩が..こんなに急に走れちゃうなんておかしいと思うんですよ。..なんか..ヘンなことしてないのかなって。」
その言葉に、ギアが憤った。
「お前!なんのつもりだ!!..なんだよ、マーシャルに負けたからって腹いせにでもきたってのか?」
「ぎ..ギアちゃん..。」
喧嘩腰のギアをマーシャルはなだめる。
「まさか..私は..ちょっとウワサを確かめにきたんですよ。」
「..噂?」
「...マーシャル先輩..」
「ドーピングしてるって..マジですか..?」
そういってローズは..スマホの..SNSの画面を見せる。
そこには..目を疑う投稿があった。
「..なに..これ..?」
「おい...これ..。」
ひょいと画面をひっこめたローズは言う。
「私は..先輩のこと..信じてるんですよぉ?..まさか..こんなことしてないだろうって。..でも..噂は怖いですよぉ..?」
そういって..ローズは姿を消した。
マーシャルの全身から..一気に血の気が引いた。