7s Sprinter   作:マシロタケ

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逆襲

...ああ...ああ気に入らない。

 

..なんで...あいつが...!

 

ふざけるな..!お前なんて...つい最近まで..下っ端だったじゃんか!

 

このあたしを..出し抜こうだなんて...。

 

調子に乗るな..いい気になるなよ..。

 

――――――――――――

 

「マーシャルさん!あの..私にサインいただけませんか?」

「私も!」

「ねぇ!よかったら今度の練習、私たちに付き合ってくれない?私たちも今度スプリントに挑戦するんだ!」

「私!一緒に写真いいですか?SNSに上げたいんです!」

 

昼時のトレセンの食堂。

マーシャルの周りには..人だかりが。

 

それもそのはず。

全くの無名から、スプリントの上位ランカーにまで這い上がった彼女。そのシンデレラストーリーに関心を抱かないものはいない。

 

マーシャルはちょっとした、学園の注目者にいつの間にかなっていた。

 

最初こそは戸惑いを見せることもあったが、それも次第に慣れ、どう受け答えをするべきかや、サインを早く書く方法などを身に着けていっていた。

それでも、マーシャルに押し寄せる人波には天手古舞。

 

昼食時や放課後の彼女は引く手数多。

やれサインだの、やれ一緒に練習だの。やれ個人インタビューだの。

おちおち練習や食事もできない。

 

でも、それでも嬉しかった。

 

「おーおー、人気者はツライねぇ。」

とトップギアは冷やかすように言う。

「すごいなーマーシャルちゃん。私もサインもらっちゃおうかな?」

とモモミルクもいう。

 

「えへへ..ちょっと恥ずかしいけど..やっぱり嬉しいな。皆に興味を持ってもらえるって。」

「...ちぇ!俺より先に雑誌デビューするなんて、ナマイキだぞ!」

「あれ?ギアちゃんも前に雑誌載ったって言ってなかった?」

「...それは..読者投稿の..コメントが載ったんだよ。」

ギアはそっぽを向いてそういった。

 

少し恥ずかしそうに言うギアに..マーシャルとモモミルクは思わず笑ってしまう。

「わ...わらってんじゃねぇ!」

 

またそこに..

「マーシャルさーん!」

と初等部生たちの姿が...。

 

そんなちやほやされ続ける彼女を..面白くないと思う人物もいる。

 

――――――――――

 

彼女は肘をついて、マーシャルを目の敵のように見続ける。

貧乏ゆすりが酷い。..それに..眉間には皺が寄る。

 

そして時折舌打ちをする。

 

「...ローズ..どうしちゃったの?..ちょっと怖いよ?」

傍らにいたスーパードライブが、ローズをなだめる。

 

「あんた...あれでいいと思ってんの?..あいつ...調子に乗ってる!」

こつんとテーブルの脚を蹴った。

 

「ローズってば..。」

「ああ!気に入らない!!..なんであいつが...!」

ローズの怒りは最高潮に達していた。

 

ローズは..ここのところの成績が芳しくなかった。

やっとの思いで出走したGⅠは...11着という惨敗に終わった。

 

それからも..GⅠどころか..GⅡ..GⅢ..オープン戦ですら入賞を逃すことが目立った。

 

あの日からだ...あの日..あいつに負けてから...すべてが狂っていった..。

一番ノれていた..絶対に勝てたと思っていた。だってあいつは格下だったんだ!

 

それなのに...そのそれなのに...!

 

その日を思い出す度に..ローズのイライラには余分な燃料が投下されるようだった。

 

ただでさえ..プライドが高く..人一倍負けず嫌いなローズ。

それが..いつも見下していた格下の相手に負かされたとあっては..感情が治まるわけがなかった。

 

「クッソ!..あんなやつ..!..あんなやつ!」

ローズの貧乏ゆすりは一層大きくなる。

 

「ローズってば...。」

ドライブは..どう収拾つけるべきかわからなかった。

 

「...なんか..ちょっと痛い目にでも合えばいいのに..。...あ..そうだ。」

急にパッと明るい顔をした、しかし..その目は狂気に満ちている。

 

「ねぇ、ドライブ。..アンタってさ。動画編集とか..昔してたよね?」

「え..うん?まぁ..お父さんに習ったんだけど。」

「..ちょっとさ..いいコト思いついちゃった。..あんたも協力しなさいよ?」

「どういう..?」

 

ローズはドライブに耳打ちをする。

 

「..え!..それ..さすがにまずいんじゃ..。」

「ちょっとしたジョークよ!..ふふ..。」

 

ローズは燻っていた。

..これであいつを..黙らせられる..。

 

―――――――――――

 

ベテルギウスの部室..そこに二人はいた。

ドライブが持ってきたタブレットで..ローズはそれを確認する。

 

「..くく!!上出来!..さ..さっそく..!」

「ねぇ!さすがにまずいんじゃ...」

「作っといて何言ってんのよ!..大丈夫..匿名でやれば..バレないから..。」

 

そこに、部室の戸が開く。

 

「何してるんだ?二人とも?」

それは、チームのリーダー、フロイドスピリットだった。

「お疲れです..別に..ただ動画見てただけですよ。」

「..そうか..なぁ、ちょっといいか?二人とも。」

 

そういってスピリットは椅子に掛ける。

 

「実は..マーシャルのことなんだが...」

そのセリフにローズの眉が反応した。

 

「ほら..あいつ..その..お別れ会とか..やらなかったろ?..GⅠも無事に獲れたみたいだし..ちょっと、また皆で集まって..食事会とかどうかなって..。レコードも賛成してくれてるんだが..。」

 

スピリットは歯切れ悪くそういった。

..要は..今まで彼女に対しての態度を..少し改めたいという場を作りたかったのだろう。

 

スピリット自身も、マーシャルのことを軽視して、雑な扱いをしたことは確かにあったし、後輩の侮辱行為に対しても..見て見ぬふりをした。

 

自分勝手であることは自覚しているが..彼女の本当の秘めた力をあの時知ってしまったスピリットは..何かしらの罪滅ぼしをしたいと考えていた。

無論、こんなもので免罪されるとは思ってもいないが..何もしないというのも..彼女自身の後ろめたさが自分に指をさした。

 

機会があれば..一度彼女に謝りたい..。そんな思いもあった。

 

だが、そんな弱ったリーダーを..ローズは一蹴した。

「しなくていいんじゃないですか?...別に、マーシャル先輩はもうこのチームじゃないし..。」

「そういわずに..。」

「やるのは勝手ですけど..私は行きません。」

ローズはそうキッパリ言い切った。

 

「あんたもでしょ?ドライブ。」

「..う..うん。」

ドライブは..ローズの威圧に逆らえなかった。

 

「..そうか。..わかった。」

 

―――――――――――――

 

「どいつもこいつも..口を開けばマーシャル..マーシャル..。」

「ねぇ..私できないよ..こんなこと..」

ドライブの気の弱さにしびれを切らせたローズは..タブレットを取り上げる。

 

「ああ!もういい!私がやる!」

そういって..ローズは..投稿のボタンを押した。

 

「..やった..これで..。」

ローズは少し間をおいて、食堂へ。

 

そこに憎き彼女はいた。

 

その周りには..また人だかり。

 

ローズはそれを押しのける。

 

そして、マーシャルの前へ。

 

「マーシャル先輩..。」

「ろ..ローズさん?」

ローズの姿に..マーシャルは少し固まる。

 

「先輩..すごかったですね..まさかGⅠ獲っちゃうなんて。」

「う..うん..ありがとう..。」

「でも..ちょっとヘンじゃないですか?」

「へ..変?」

 

ローズはにやりと笑う。

 

「だって..あんな走れなかった先輩が..こんなに急に走れちゃうなんておかしいと思うんですよ。..なんか..ヘンなことしてないのかなって。」

その言葉に、ギアが憤った。

 

「お前!なんのつもりだ!!..なんだよ、マーシャルに負けたからって腹いせにでもきたってのか?」

「ぎ..ギアちゃん..。」

喧嘩腰のギアをマーシャルはなだめる。

 

「まさか..私は..ちょっとウワサを確かめにきたんですよ。」

「..噂?」

「...マーシャル先輩..」

 

 

 

「ドーピングしてるって..マジですか..?」

 

 

そういってローズは..スマホの..SNSの画面を見せる。

そこには..目を疑う投稿があった。

 

「..なに..これ..?」

「おい...これ..。」

 

ひょいと画面をひっこめたローズは言う。

 

「私は..先輩のこと..信じてるんですよぉ?..まさか..こんなことしてないだろうって。..でも..噂は怖いですよぉ..?」

 

そういって..ローズは姿を消した。

 

マーシャルの全身から..一気に血の気が引いた。

 

 

 

 

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