「あっはっはっは!!見た?あいつの顔!もう、ほんとケッサク!」
寮に帰り着くまでの帰路、ローズは上機嫌だった。
「なに...これ...だってさ!!..ああ、ほんといい気味!」
ローズはその昂ぶりを抑えきれなかった。
一杯食わせてやった。..彼女の気分は、何時振りか晴れやかだった。
「..ねぇ、ほんとに大丈夫..なんだよね?」
ドライブは、その動画が気がかりで仕方なかった。
「..はぁ?まだ気にしてんの?..もう消したんでしょ?..大体限定機能付きの捨てアカウントだし、拡散もせいぜい小規模。..気にすることなんてなんもない。..ま、それでもアイツは..しばらく大きいカオできないだろうけど!」
「そ..それなら..いいんだけど。」
ドライブはしきりにアカウントを確認する。
..消した。...ちゃんと消した。
..大丈夫..ばれない..バレない。
そうだ..ちょっとした悪戯なんだ。
こんなの..よくあるじゃないか..。
そう自分に言い聞かせて..ドライブはタブレットを閉じた。
だが..二人は甘く見すぎていた。
..ネット社会の..恐ろしさを。
―――――――――
ねぇ!見た!?
..うん!..これ....ほんとうなの?
..やばいよね..うわ!めっちゃ拡散されてる!
そんな...マーシャルさん..信じてたのに..。
..私!こんなの信じない!!
..でも..さ。..ぶっちゃけ...ありえそうじゃない?
「...由々しき事態..だな。」
「..会長。」
「エアグルーヴ..君は..この騒動..どう見る?」
生徒会室...そこに生徒会のメンバーは集結する。
そして、彼女らはタブレットで..騒動の原因となっている動画に目を落とす。
それは...マーシャルが部室に制服のまま来たところから始まる。
カメラのレンズは、彼女の死角になるところで、彼女を捉えているアングルだ。
バッグを置いて、練習着に着替えようとしたそのとき、誰かから彼女は呼ばれる。
バッグをその場にしたまま、彼女は姿を消す。
そうすると、カメラは急に動き出し、彼女のバッグをカメラ片手のまま、探る..そうすると..彼女のバッグの中から..怪しい小瓶が。
白い錠剤が大量に入ったそれを..正面に向ける..ラベルには..ドーピング剤を臭わすような英文が。
カメラは、急に慌てだす。
彼女が戻ってきた。
急いで、最初にいたポジションに身を潜めて..というところで動画は終わっている。
投稿のコメントには。
「最強のスプリンター、レッドマーシャルの疑惑」とだけ書かれていた。
そして厄介なことに..その動画は数万件の拡散を経て..世界中に流れて行っていた。
エアグルーヴは口を開く。
「この動画..信憑性に欠ける、と言うのが率直な感想です。..不可解な点が多すぎます。..何もかもが都合よく動いてる。誰かが仕組んだ可能性が高い事案..かと。」
「私も、概ね同意見だよ。」
シンボリルドルフは沈着な表情を一切崩さない。
「..ドーピング程度でこの世界の頂点に立てるんなら..今頃全員がダービー覇者だろうな。」
ナリタブライアンも腕を組んで、呆れたようにそう言った。
「..だが、事は大きくなりすぎている。..彼女を疑うわけではないが、話を聞く必要はありそうだ。..エアグルーヴ、ブライアン。レッドマーシャルと..彼女のトレーナー..大城白秋を..招いてくれ。」
二人は、静かに頷いた。
――――――――――――
「トレーナーざん!!わだじ...こんなごと..やっでない..!!」
大城の教官室。
マーシャルは、ソファに掛ける大城の懐に身を埋めて、嗚咽を漏らしていた。
「わかってる!!...ちきしょう...誰が...こんなナメたマネを...!」
大城は強く歯を食いしばっていた。
「クッソ!!」
ガンっ!と対面ソファの間にある、低いテーブルの脚を蹴っ飛ばした。
「どうしよう..もう....私....。」
「心配すんな。...俺がどうにかする。」
そういって大城はマーシャルの頭を優しく撫でた。
「...とりあえずは..身の潔白を証明することが最優先だ。..お前には悪いが..尿検..血液検査..一通り受けてもらう。..無実を証明するんだ。」
「......はい。」
いくらGⅠ覇者とはいえ..精神面では、未だ思春期なマーシャル。
身の潔白の証明とはいえ、そんなことをしなければならないのは..苦痛だった。
そこに、ノック数回。
トレーナー室の戸が開く。
「..失礼する。..会長がお呼びだ。..先生。」
「ああ..俺も今から行くところだった。」
―――――――――――――
「私...!私....!」
「無理に喋らなくていい。..大丈夫。」
シンボリルドルフを前に..上手く言葉を出すことができないマーシャルに対し、ルドルフはそっと彼女を介抱するかのような声色で..優しく説いた。
「この動画...おそらくだが..フェイクだろう?我々も..この動画に対して拭い切れないものが多すぎると感じている。ラベルに記される英文も..まるで直訳でもしたかのような半端なものだ。」
「ハナシが早くて助かる。」
生徒会室のソファに我が物顔で掛ける大城は言った。
「..この動画..この日..何か妙な心あたりは..?」
「ええと..ええと..。」
狼狽していて..記憶がすぐにスッと出てこない。
マーシャルはスマホを開く..その日のスケジュールを確認するために..その時
「ひっ!!」
そういってマーシャルはスマホを落とした。
その妙な彼女の動きに、誰もが気を取られる。
「..どうしたんだい?」
ルドルフは..彼女の落としたスマホを拾った...その画面には..SNS「ウマッター」の溜まりに溜まった彼女への通知が数十..数百..。
そこにピックアップされたメッセージ文には...。
ドーピングウマ娘、とっととレースから降りろ。
バクシンオーにドーピングで勝ったのか?恥ずかしくないのか?今すぐトロフィー返納して一生ターフに出てくるな!
やっぱそうだったんだww前からアヤシーとは思ってたケドww
こいつの母親もドーピングやってたんじゃね?
...彼女に対する..山のような誹謗中傷。
そのあまりにも心無い投稿に..ルドルフの顔は思わず歪む。
マーシャルは..胸を押さえて..その場に蹲った。
「大丈夫だ..私たちは、君の味方だ。」
ルドルフは..そっと彼女を抱擁した。
「...このクソ野郎共め。..マーシャル..お前しばらくネットを見るな。」
大城は、ルドルフからマーシャルのスマホを受け取る。
誹謗中傷の中には..大城に対するものもちらほらと。
「言いてぇことがあんなら..直接言いに来やがれってんだ。」
そういって大城はマーシャルのスマホの電源を切った。
――――――――――
「その日は確か..呼ばれたんです。」
「誰にだい?」
しばらくして、落ち着きを取り戻したマーシャルは..思い出せる限りのことをシンボリルドルフへ打ち明けた。
「スーパードライブさん...私がまだ、ベテルギウスにいたころの後輩..です。」
「どういった用件で?」
「..ベテルギウスで..食事会を計画してるっていうお話があったんだそうで..私もどうか..って。」
「ベテルギウス..か。...ブライアン!事実確認を!」
「おうよ。」
そういうと、ブライアンはひょいと腰を上げて、生徒会室を後にする。
「もう少し詳しい話を聞かせてほしい。理事長が、本日不在でな、戻ってこられる前に、できる限りの状況整理を..辛いだろうが..頼めるかい?」
「..はい。」
――――――――――
なんだか今日は妙に校内が騒がしい。
どうやら、あの動画が話題になっているようだ。
..思ったよりも知れ渡ってしまっているな。と彼女は感じた。
ドライブが動画を消すタイミングが遅かったのだろうか。
「ねぇ!ねぇ!ローズ!この動画知ってる?」
「キョーミない。」
そういってクラスメイトを跳ねのけて、ローズは寮に向かう。
今日の練習は気が乗らないからサボリだ。
そして、校舎を出た瞬間。
「ローズ!!」
誰かが彼女を呼び止める。
「..ドライブ?..どうし...」
ドライブはローズの腕を引っ張って、物陰へ。
「や...やばいよ...ローズ。」
息が上がりきって、口をガクガク震わせながら、彼女はそう言った。
「やばいって..あの動画のこと?..あれって消したんじゃ。」
「拡散されてる....転載されたんだ....!」
そういって、ドライブはタブレットを見せる。
そこには..消したはずのあの動画が..10万を超える拡散付きで..。
コメント欄では..論争に次ぐ論争。
要は...大炎上していた。
「は..?..はぁ?...なにこれ...。え?..消したんでしょ?...なんでこんなこと...。」
ローズは状況が理解できず、目を丸くする。
「わからないよ!!...どうしよう...私たち..これバレたら...終わりだよ!」
ローズは一瞬の沈黙の後..頭をくしゃくしゃにかきむしった。
「なん..で...。..し...しらない!!...わたし...知らない!!」
そういってローズは逃げるように去っていった。