7s Sprinter   作:マシロタケ

44 / 96
裏路地の世界

『大城さん..。』

「クラウンか..。知っての通り、ちょっと面倒なコトになってる。」

『..一体何が?』

「詳しくはまだワカランが、ハメられた..ってとこだな。」

『..そんな。』

「お前のとこは大丈夫か?」

『ええ..ご近所さんも、あんな動画信じないって言ってくれてる。』

「そうか...だが、用心しておけ。そのうち妙な連中が来る可能性もある。..何かあったら、迷わずに警察へ連絡を入れろ。」

『..わかりました。..大城さん..マーシャルは..。』

「大丈夫だ。俺が..絶対に守る。..信じろ。」

『ええ..信じてる。』

「ダンナにもよろしく伝えておいてくれ。..じゃあな。」

『..気を付けて。』

 

そういって車のハンズフリー通話を切る。

そして、ようやく目的地が姿を現す。

 

―――――――――――

 

華やかな都会が輝いて見えるのは、いつも眩い光がさすからなのだろう。そのハイカラさに人は夢を抱き、希望を見出す。

 

しかし、光があるということは、そのどこかで帳尻を合わせるように影が存在するということでもある。

 

そんな影の世界へ、大城は踏み入れていた。

大通りの賑やかな雰囲気とは対をなすほどに、陰湿で不安を形にしたような裏路地。

 

軒並み連なる鉄筋コンクリート製の建物たちが日を拒み、身なりを整えた街行く人々の代わりに、野良ネズミや、完全に目がイってしまっている浮浪者がその場に。

 

そんな場所を大城は臆することなく、迷路のような路地を進んでいく。

 

しばらく進むと、その奥からなにやら人の気配が。

そこへ足を進めようとしたときに、何者かが立ちふさがる。

 

やたらにガタイのいい、褐色肌の男と、少し肥えた体にサングラスとスーツ姿の男。

共に、日本人のようには見えない。

 

大城は二人に言う。

"Mayroon ka bang Taiji?"

(タイジは居るか?)

 

男たちは顔を見合わせる。

"Kilala mo siya?"

(ヤツを知っているのか?)

 

大城はふっと笑いながら。蛇の刻印の入ったメダルを男たちへ弾いて投げる。

"Pinahiram ko siya ng pera"

(金を返してもらいに来たのさ)

 

男たちはクイっと首をふって、彼を招き入れる。

 

―――――――――――――

その路地は、アジア系の人々が住み入る場所だった。

この日本の中で、彼らの一つの小さな集落を作っている。そこには子供たちやアジア系ウマ娘の姿も。

 

ここに集う理由は様々だが、そこが彼らにとっての憩いの場となっている。

大城は彼らに適当な挨拶をしながら、奥の建物へと向かう。

 

"Hakushu! Maglaro tayo!"

(ハクシュー!遊ぼうよ!)

 

と小さな影が彼のもとへ、

"Magkita tayo sa susunod"

(また今度な)

 

と子供ウマ娘の頭をなでながらそう言った。

 

そして、一番奥の建物の、一番奥の部屋の戸を開ける。

その部屋は、薄暗くいろいろな物が乱雑に置かれている。

 

床をコードの類が埋め尽くし、足の踏み場を探す必要がある。

そして部屋の半分を、ラック組みされたPCやモニターを始めとしたハード機器がジャンクショップのように並ぶ。

 

その陰にひっそりと、PCの光を浴びながら息をひそめる男に、大城は声をかける。

 

「..よォ、泰司ィ。」

「...ハク。」

 

そこには年齢こそ若いが、ぼさぼさの髪の毛に手入れを怠っている無精ひげや、ファッションセンスを疑う悪趣味なシャツを着ているせいか、若々しさは殆ど感じない男がそこに。

 

「..まて、必ず金は返す。」

「当たり前のこと言ってんじゃねぇ。」

そういって大城はその変にある大型のハード機器に腰を据える。

 

「門番変わったのか?」

「ああ..新入りだよ。例のメダル見せた奴だけ通すように指示してる。」

「んなくっだらねぇ慣習辞めたらどうだ?」

「..そういうわけには。」

 

そういって飯島泰司はエナジードリンクをグッと飲み込む。

 

「..それで。..まぁ、あと2か月は待ってもらいたい。その、前リリースしたソフトが思ったよりも振るわなくて。..それで、次こそはって。」

「そんな文言、50回は聞いた気がすんな。だが、今日はそうじゃねぇ。今回は..元ハッカーとしてのお前に話をしに来た。」

「..やめてくれよ。もうアシは洗った。」

「でもお前はやる..そうだろ?」

 

大城の目線に耐え切れない泰司はふぅとため息をつく。

 

「例の..あの動画の件だろ?」

「そうだな。..お前に頼みたいことは二つ。まずは犯人の特定..それと。」

「火消し活動?..まぁ、ちょっと時間は欲しいな。」

 

泰司は大きなモニターで例の動画を開く。

 

「まぁ、フェイクってのは一目瞭然だ。..編集もあまりにお粗末だ。例えばここ。撮影者がバッグに手を伸ばす瞬間。ここでわずかにアングルにズレが出てる。おそらくここで一度動画を切ってるんだ。ここで瓶を仕込んで、動画をつなげたんだろう。素人ならともかく、俺らみたいな連中の目はごまかせん。..俺ならもっと上手くやる。」

「..特定もできるか?」

「炎上元の動画も転載ものだろ?..オリジナルのアカウントを辿るなら、一度サーバーへ忍び込んでみるしかない。それはちょっと時間がかかる。」

 

大城は腰を浮かす。

 

「100%の仕事をしろ。..出来高次第じゃ..お前に貸した金..チャラでもいい。」

「..本当か!?」

泰司は目を見開く。

 

「..新車のGT-Rが来る値段だぞ?」

「できるか?」

「..上等よ。」

 

―――――――――――

 

『大城君?..マーシャルちゃんの検査、終わったわ。』

「ああ..どうだった?」

『聞く必要ある?..もちろんシロよ。』

「だろうな。」

『..この娘、今晩ここに泊めるわ。..カウンセリングをしてあげたい。』

「頼むぜ..ツバキ。」

 

そういって、通話を終えた大城はトレセンの駐車場へ車を泊めて降りる。

 

一度理事長のもとへ..そう思った矢先、正面口が何やら騒がしい。

 

「マーシャル選手のドーピングについて!!」

「トレセン側は事実を認識してるんですか?」

「ぜひお話を!!理事長はどこでしょうか!?」

 

その押し寄せる人並。

..記者やマスコミだった。

 

たづなをはじめとした職員や警備員はその対応に。

 

「現在は調査中としかお話できません!!会見の場は改めますので、お引き取りください!」

そうたづなが声を上げるが..獲物を前にした記者たちには届かない。

 

「お話できないということは認めるということですか!?トレセン側はドーピングを黙認していると!?」

あまりにも滅茶苦茶な解釈といいたい放題の暴言に、たづなはとうとう怒る。

 

「いい加減にしてください!!由緒正しきトレセン学園に、そのような競技を侮辱するような行為は断じてあり得ません!」

「では!なぜ今詳しい話ができないんですか?当のマーシャル選手は?口だけ否定ならなんとでも言えますよ!」

 

失礼な記者は笑いながら言う。揺さぶれば揺さぶるほど、記事は面白く仕上がることを知っているからだ。

 

そこに..彼が現れる。

それは..いつもの気さくな大城とは、まったくの別人のようだった。

 

「お!..あなたは!..マーシャル選手のトレーナー!大城トレーナーですよね!!!」

ターゲットを見つけた失礼な記者は、たづなを押しのけて大城のもとへ。

 

「.....。」

「お話をお聞かせください!!あなたが..マーシャル選手にドーピングを指示したんですか?それはなぜですか?」

マーシャルはドーピングをしている。そう決めてかかる記者の胸倉を..大城は掴み上げた。

 

「あがっ..!」

胸倉をつかんだ大城は、その男を自分の顔の前へと引き寄せる。

男のかかとがわずかに浮く。

 

「好き勝手言ってんじゃねぇぞクソども..俺はな、ここの生徒以外の連中に..アイソ良くねぇぞ?」

「あ..ぼ..暴力行為ですよ!..いいんですか!?明日の記事になっても!」

「そうか..。」

そういって大城は男を突き飛ばす。

 

「なら書けよ..上等だ。後悔すんのはどっちか..徹底的にやり合おうぜ?」

そういって男ににじり寄る。

「どうした..やれよ..。」

大城の並々ならない殺気に、記者は思わず竦む。

「うっ....。」

 

記者の男は、ほかの記者たちを押しのけて..消えていった。

 

「ほかの連中はどうなんだ?...用がねぇなら消えろ。」

大城はほかの記者たちにも、その殺気を向ける。先ほどの失礼な記者のおこぼれをネタにしようと企んでいた他の記者たちはすごすごと引き上げた。

 

「..大城先生。」

「今はなんて言ってもムダだ。..コトを治めるには、それなりのやり方ってもんがある。」

 

そういって、大城は学園の奥へと消えていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。