「..そうか、なら君は、本当はマーシャルのことを誘いたかった。だが、ローズの威圧に押されて言えなかった。そういうんだね?」
「はい..。あの..私って」
「まぁ、そうだな。状況を俯瞰し、客観的に見たことを鑑みると、そういう目を向けざるを得ないことは確かだ。..だが、私たちも広い視野で捜査は進めるつもりだよ。」
「......。」
いつもは落ち着けるはずの美浦寮の自室。
だが、今日だけは異様な雰囲気に包まれる。
ここ数日、体調不良として自室に伏すドライブのもとへ、生徒会が出向いていた。
その傍らには、フロイドスピリットの姿も。
本来ならば彼女の回復を待って、聴取すべきではあるはずだが、事は緊急を要している。そのため、ルドルフたちは自らの足で彼女の部屋へと赴いた。
「..なぁ、会長さんよ。もうその辺にしてやってくれよ。..こいつ、具合が悪いんだよ。そんなところで、お前も容疑者だって言われるのは..ちょっとツライんじゃないか?」
「承知の上だ。だが..一人のウマ娘の人生がかかっている。申し訳ないとは思うが、協力は要請したい。」
そういってルドルフは立ち上がる。
「また今度、詳しい話を聞かせてもらおう。失礼する。」
そういって彼女らはその場を後にする。
残された部屋には、スピリットとドライブ。
「..なぁ。ドライブ。俺は..お前を信じてる。..信じてるんだ!..でも..聞いておきたい。..お前、本当に..何も知らないんだよな..?」
「....はい。」
その言葉に、スピリットはふうと息をつく。
「..わかった。具合がよくなるまで練習は休んでいい。」
そういってスピリットも部屋を後にした。
スピリットの胸がざわめく。
本当はもっと聞きたいことがあった。
なぜお前は..俺に黙ってマーシャルを誘いに行った?
俺は..具体的な日にちも何もまだ言っていない。..圧倒的に情報が足りないはずなのに、なぜ彼女を誘いに行った?
そして、なぜマーシャルを誘ったことを俺に秘密にしていた?
考えれば考えるほど...その彼女の整合性の取れない行動に疑念が孕む。
だが、聞けない。..聞いてしまえば..最後に来る言葉は何なのか..。
怖くて聞けなかった。
――――――――――――
ばたんとドアが閉まる。
こつこつ..と足音が遠ざかっていく。
「...はぁあ!!」
ドライブは急に腹を抑えてベッドに倒れこむ。
「うう..うぅ..。」
胃が...ねじれるように痛む。
生まれて今まで感じたことのないほどのハイストレス。
彼女は大汗をかきながら、悶えた。
(...今日は..生き延びた。...もういやだ...こんなの...いつまで..。)
生徒会が来ることはローズから事前に連絡があった。
口を滑らせればすべてが終わる..でも、隠し通しても、いつそれが明るみに出るか..まるで死刑執行を待つような日々..。
どっちに転んでも..救いはない。
(ごめんなさい..神様..もうこんな..悪いこと..しませんから...お願い..許して...ゆる..して)
そういってドライブはそっと瞳を閉じた。
―――――――――――
「..会長よ、ヤツ..相当臭うぞ。」
「私も同意見です..受け答えや、説明に筋が通っているように感じませんでした。..何か知っている。そう見るのが妥当かと。」
ルドルフは足を止める。
「ブライアン、エアグルーヴ。私たち生徒会というのは、どういう存在でなくてはならない?」
「..どういうって。」
ブライアンは、また始まったといわんばかりに腕を組む。
「..中立的立場でしょうか?」
そういったのはエアグルーヴ。
「その通り..確かにスーパードライブ..彼女の不審な点はいくつか考えられる。だがそれは、彼女がクロだと決める証拠には何もなり得ない。..仮に彼女を引っ張ったとしよう。..もしそれが誤認だったら?..私たちは自らの手で、無実のウマ娘を叩き潰すことになる..。どう間違っても、それだけは避けなければならない。軽挙妄動は..悲劇しか生まない。慎重さを失念すれば..私たちは終わりだ。」
「じゃあ、物的証拠がありゃいいワケだな?言い逃れができないほどの。」
「..そうだな。」
――――――――――――
『あ!来た来た!!』
マーシャルが寮を出てすぐだった。
マイクとカメラを持った大人たちが、獲物を捉える。
『レッドマーシャルさんですよね!?ぜひお話を!』
マスコミたちのその目はギラついている。
この娘の発言一つ一つが金になる。
なんてことない言葉一つでも、料理さえすれば、大衆が喜ぶ刺激のあるものとなる。
「あの...話せることなんて」
『お!ということは、ドーピングは本当ってことかな!?』
「ち..ちが!」
彼女がそう言い終える前に、フラッシュがこれでもかと彼女を襲う。
「や..やめ..て..」
彼女はその場に沈みそうになる..そこへ。
「おい!やめろ!なにやってんだお前ら!!」
彼女の親友たちの姿が。
「こんのバ鹿どもめ!!あんなデマ信じてんじゃねぇよ!大人だろ!?」
「..皆さんもうやめて!マーシャルちゃんはそんなことする娘じゃ..絶対にないですから!」
トップギアとモモミルクは身を挺して彼女を守った。
..だが、金の成る木を前にした大人たちは、想像以上に汚かった。
『じゃあ君たちに聞いてみようか!ぶっちゃけ..マーシャル選手のドーピング..見たんじゃないの?』
「お..お前ら..本気で聞いてんのかよ..。」
その狂気にトップギアは目を丸くする。
『じゃあそっちの君はどうかな?..本当は君も..やっちゃあいけないモノとか..やってたりしない..?』
「そんな...そんなわけ..!」
二人しても、この大人たちの妙な圧に顔を歪めた。
『ま。こんなGⅠも出たことない連中に聞いても仕方ないか。ほら、どいたどいた僕たちはマーシャル選手に用があるんだよ!』
記者は二人を押しのけて、マーシャルを引きずりだそうとする。
「やめろ!!」
その手に、必死に抵抗する。
その時..。
「おい...んなトコ屯われてちゃあ..ゴルシちゃん号が通れねぇじゃねぇかよ。なんだ?..レッドカーペットにでもなりてぇのか?」
「まったく..精査もせず..やすやすと情報を鵜呑みにして..恥ずかしくありませんこと?」
「君たちさ..ほどほどにしておかないと..カイチョーが黙ってないんじゃないかな..?」
「おうおう...マーシャル先輩のことそれ以上コケにすんのなら..俺らが相手になってやってもいいんだぜ?」
「まったく...アンタたちホントバ鹿?..あの走りが薬でどうにかなるわけないことくらい..ちょっと考えればわかるでしょ?」
そこに現れる..マスコミや記者すらも凌駕するほどの狂気さを兼ね備えたチーム..スピカ。
「..マーシャルさん、立てる?」
「だ、ダイジョブですよ!私たちが守ってあげますから!」
「..スズカさん..スペさん..。」
マーシャルはスズカの肩を借りてようやく態勢を立て直す。
それを護衛するかのように、スペシャルウイークは人参を構えて記者たちへ向く。
『お、おい!...マジかよ...ゴルシだ..。』
『ゴルシかよ...。』
『おい!カメラ隠せ!!ぶっ壊されるぞ!!』
『ちくしょう!..ゴルシめ!』
そのスピカの覇気を感じた記者たちは、慌てふためくように去っていった。
「..助かったぜ。サンキュー、スピカ。」
「何もしてませんが。」
トップギアはふうと汗を拭う。
「..それにしも、大変なことになってるね。」
テイオーはスマホを開く。
「まったく..誰かを陥れる行為など..卑劣極まりませんわ!」
マックイーンはそう憤った。
「しっかしよぉ、んなスッゲェ薬がマジであったらどうなんだろーなー。」
自慢のゴルシ号の上でゴールドシップはつぶやく。
「おふふひはんへはふへも!ひんひんはへはへば(お薬なんてなくても、ニンジンさえあれば!)」
スペシャルウイークは構えていた人参をほおばりながらそう言った。
「...なぁ、マーシャル、俺、思うんだけどさ。」
そう口を開いたのはトップギア。
「やっぱ、アイツ、ローズってやつが俺怪しいと思うんだよ。..あいつなら動機もあるし、なんたって一番最初に動画見せつけてきたのもあいつだろ?それまで誰も知らなかったような動画を!」
「落ち着いて..ギアちゃん。」
モモミルクは彼女を宥める。
「なぁ!ぶん殴ってでも白状させようぜ!」
「お!いいな!アタシもやるぜ!」
そういってゴルシは腕をまくる。
「ゴールドシップさん!おやめなさい!..あなたもですよ、トップギアさん。あなたの言ったことは全て憶測です。証拠もなく、自分の信じたいように解釈を起こして行動すれば、あなたもこの動画に踊らされる人々と同じですわ。」
マックイーンは冷静にそういった。
「....。」
トップギアは何も言い返せず、口をつぐむ。
「..ですが、このような愚行を犯したものには..必ず報いがあります。個人を..ひいてはレースに携わる全てのウマ娘たちを侮辱したその罪は..決して軽くはありませんことよ..?」
マックイーンのその怒りは..誰よりも深く..熱かった。