7s Sprinter   作:マシロタケ

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インフルエンサー

「このサクラバクシンオー!学級委員長の威信にかけて、マーシャルさんへの疑惑を真っ向から否定いたします!!」

 

中庭から密度の高い、ハリの効いた声が高らかに突き抜ける。

そこには、学級委員長のタスキをかけ、木箱を踏み台にし、メガフォンを用いて何かを訴えかけるサクラバクシンオーがいた。

 

傍目から見ればそれは、学級委員の座をかけた選挙活動の催しと見れなくもないだろう。

だが、その内容は今のマーシャルに向けられた疑惑に対して反抗を示すものだった。

 

マーシャルと共に全力を尽くして走った間柄である彼女。その力が、足が、偽りのものでないことを、彼女はよく知っていた。

 

バクシンオーの周りに人だかりができる。

あのスプリンター界、知らぬもの無しな上、実際にマーシャルと走った彼女が言うこと。それは人々の関心を大きく集める。

 

バクシンオーだけでない。

 

マーシャルを支持するウマ娘たちは他に少なくはない。

彼女らも、SNSや呼びかけを使い、必死にマーシャルを擁護する活動を行っていた。

 

『ゴルシちゃんの!ぱかちゅーぶ!!..なぁ!!みんな聞いてくれよ!!とんでもねぇ話があるんだ!』

 

ウマ娘だけではない。この世界のどん底から這い上がった彼女をよく知っているファンたちも、それを後押ししていた。

 

そんな彼女らの働きかけがあってか、世論はほんの少しづつだが..マーシャルサイドへ寄ってきている。

 

――――――――――――

 

「..サンキュ、バクシンオー。」

大城は窓からその様子を見ると、その場を離れ、学園奥のまるで隔離でもされたかのような一室に足を踏み入れる。

 

「やぁ、待ってたよ。..例のモノさ。ちゃんと学会の承認入りだよ。」

その部屋にいたアグネスタキオンは、紙の束を大城へ手渡す。

 

ぺらりぺらりと中身を確認する..が、そのあまりにも難解な論文は、大城の読む気を一気にそぎ落とす。

 

その資料の内容は要約すれば、一般的なウマ娘が、現在のマーシャルのような力を手にするためには、どのような薬品が必要で、なおかつそれが実在したとして、服用した場合どのような反応が予測できるかを示したものだ。

 

国内外を問わず、様々な文献を引用し、彼女独自のシミュレーションすらも用いたそれは、本職の研究者すらも唸らせる内容であるに違いないだろう。

 

結論としては、現在の科学・医療の技術において、己の力をここまでに増幅させるような薬は存在しないことを証明した上、仮に服用をさせた場合には、もれなく死が待っているという結果を出し、マーシャルのドーピング行為は理論上不可能であるという結論をたたきだした。

 

「..ああ、確かに。ありがとな。」

大城は資料を閉じる。

 

「..いやぁ、調べれば調べるほど、面白い娘だよ。マーシャルという娘は。薬でも成し遂げられない力を、手にしている。..ぜひ一度彼女を研究してみたいものだねぇ。」

と言って、砂糖をドロドロに溶かした紅茶をひとすすり。

 

「..恩に着るぜ。...生徒会にはいい報告をしておく。」

「お願いするよ。私の学園生命がかかっているからねぇ。」

「それとだ。タキオン。」

 

大城は切り出す。..それはどこか、少し言いにくそうだ。

 

「なんだい?」

「..癌が一瞬で消える薬ってのも、ねぇよな?」

 

その場に、一瞬と永遠、どちらつかずの間が空く。

 

「..まさか。そんなものを私が持っていたら、今頃こんな学園にはいないだろうねぇ。」

「だろうな。」

「..君の入用かい?」

 

大城はタキオンから目をそらした。

 

「いいや..知り合いの..さ。」

「ふぅん..。」

 

その大城のはっきりとしない顔から、タキオンは何かを感じ取る。

 

「..じゃあ、その知り合い君に伝えてあげてくれ。力になってあげられなくて申し訳ないが..決して、希望は捨ててはいけないよ..とね。」

「..ああ。伝えとくさ。」

 

そういって大城はその場を後にする。

 

―――――――――――

 

マーシャルの薬物検査の結果証明書。そしてアグネスタキオンが作成したドーピングの存在を否定する論文。

 

この二点がURAに提出された。

 

これを受け、潔白を証明できるエビデンスを手にしたURAとトレセン学園は、公式にレッドマーシャルの薬物使用を否定する声明を公表した。

 

『否定!わがトレセン学園が抱える生徒達に、そのような行為を働くものなど一切おらん!』

『では、あの動画はどう説明を?』

『愚問!あのような動画!創作に決まっておる!』

 

記者側とトレセン側、互いに一歩も引かない会見が、昼のワイドショーで大大と報じられる。

己の生徒を守るため、理事長のその目は本気だった。

 

「..頼みますよ。」

大城はカーオーディオでその様子を耳にする。

 

そして..例の裏路地へ。

 

―――――――――――

 

「よぉ、ハク。」

「泰司、どうだ?」

「もう少し待ってくれ。..俺が離れていた間にファイアウォールも進歩してる。サーバーへのアクセスもラクじゃない。」

「早えトコ頼むぜ。」

 

そういうと大城は煙草を取り出す。

 

「..タバコはNGだ。ハードに良くない。」

「禁煙は俺に良くない。」

 

そういって火をつける。

 

「火消はどうなってる?」

大城は聞いた。

「SNSには、SNS..知り合いのインフルエンサーに協力してもらって、世論をなんとか動かせないかを模索してるところだ。」

「..それで?」

 

泰司は背もたれに身を預ける。

 

「効果がないとは言わないけど、今一つってトコだな。やはり、一度信じた大衆の意見を覆すのは、そうラクじゃない。」

「..そうか。トレセン(うち)でも情報発信はしているんだが、それでも追いつかんか。」

 

大城は煙草の煙を吐く。

一応、ハードに直接かからないように配慮はするらしい。

 

「..インフルエンサーを用いての火消しをするのなら、最低2条件はいるだろうな。」

泰司はいう。

 

「2条件?」

「そう、いくらトレセンやURAという大きな組織が声を上げても、結局彼らはマーシャル側の存在だ。グルで庇ってるだけ、そういう見方をする輩も少なくはない。だから一つには、トレセン関係以外のインフルエンサーに声を上げてもらうこと。」

「ほぉ。もう一つってのは?」

「インフルエンサーの規模だ。..そんじょそこらの1万2万フォロワー程度じゃない。そいつが声を上げれば、だれもが振り向くような存在であること..。その言葉に、絶対的な力を持っていること。」

 

泰司は頭を抱える。

 

「それが難しい。俺の知り合いのヤツでも、そこまでの奴はいない。」

「なるほどなぁ。」

「..その二つを満たす知り合い..いるか?」

 

はぁとため息をつく。

大城は煙草の火を消す。

 

「いなくは..ない。」

そういってスマホを取り出す。

 

「..よぉ、俺だけど。」

 

 

――――――――――

 

とある一室、椅子や照明、ベッドにテーブル。すべてのものが華美に彩られるその空間。

浴室から、一人のウマ娘がバスロープを纏い、出てくる。

 

そして、どかっとソファに身を投げる。

 

その時ふと、あの日がよみがえる。日本での敗北を覚えたあの日を。

..自分にもまだ、悔しさを覚える感情が残っていたのか、と思いながら自分の手を見つめる。

 

そこへ。部屋の主を訪ねるノックが数回。

 

"M. Browier, nous répondons à votre appel."

(ブロワイエ様、お電話が。)

"répondra plus tard”

(後にしておくれ)

 

彼女はそう不服そうに申し立てた。

 

"Si vous le dites, on vous demande de répondre rapidement au téléphone."

(もし、貴女様がそう仰られたなら、「つべこべ言ってねぇでとっとと出ろ」と言うように、とのことです)

 

彼女は驚いた顔をする。

 

"Pas possible, c'est lui ?"

(まさか..彼かい?)

 

 

大城は相手が電話に出るのを、足をパタパタさせながら待った。

保留音がどうも好みじゃないらしい。

 

そしてようやく。

 

"Moi."

(私だ。)

 

「よぉ、久しぶりだな。」

 

"C'est toi... Savez-vous quelle heure il est ?"

(..やはり君か。今何時だと思ってるんだい?)

 

「まだ午前中だろ?」

 

"Au Japon, je suppose."

(日本ならそうだろうけど..。)

 

「それより、お前に折り入って頼みがある...。」

 

――――――――――

 

「じゃ、頼むぜ。」

そういって大城電話を切った。

 

「..お前どういうことなんだ?..あのブロワイエと..知り合いなのか?」

泰司は目をまん丸に開いて、口を閉じることさえ忘れていた。

 

「ま、トレセン関係以外で、この界隈の最強のインフルエンサーっつったらこいつしかいねぇだろうからな。」

泰司は頭を再び抱える。

 

「..ハク、あんた全部日本語で話してたろ?..通じてんのか?」

「多分な。」

「..めちゃくちゃだ。」

 

その時、泰司のPCがピコンとアラームを鳴らす。

それに二人は飛びつく。

 

「..よし!アクセスできた!サーバーの履歴から..削除済みの動画とアカウントを..あった!こいつだ!」

そこに映し出された。ひとつの削除されたアカウント。

 

『XXX』という捨てアカウント。投稿はあの動画の一つだけ。

 

「..はん。これだけじゃあ、身元まではわからんだろ?」

「古いな、ハク。このアカウントのアクセス端末を探るのさ..そうすれば..同一端末からアクセスされてるSNSアカウントが..ほうら。」

 

そして、そこに映し出されたのは..トレセンの生徒のアカウント。

 

「あーあ。顔も実名もはっきりと載せちゃって。そういう不用心だと、こういう悪い大人に食い物にされんのさ。..スーパードライブちゃん。」

「..やっぱりこいつか。単独犯じゃねぇだろうな。」

「どうする?報復措置として、この画像紐付けて世界中にバラまいてやってもいいんだぜ?いまのホットな状態、すぐに燃え盛るさ。」

 

だが..大城は険しい顔を崩さなかった。

 

「それは..いい。あくまで裁くのは俺たちじゃない。..データだけくれ。」

 

―――――――――――

 

「邪魔するぜ。」

生徒会室、今日は..ルドルフだけしかいなかった。

 

「やぁ..先生。」

ルドルフはタブレットを見て、少し驚いたような表情をしていた。

 

「どうした?」

「..いや、沈静化活動についてなんだが、ブロワイエがこの騒動に関心を寄せている。」

「ほぉ。」

「心慌意乱..というべきかもしれない。まさか..彼女が首を突っ込んでくるとは。...そのせいもあってか、世論はかなり大きく動いている。」

「運がよかったんだな。」

 

そういって、大城はとある紙を彼女に差し出す。

それは..あの動画を投稿したオリジナルアカウントと、この学園の在校生、スーパードライブを結びつける決定的な証拠だった。

 

それを見たルドルフは..さほどの驚きは見せなかった。

言葉にださずとも、やはりか。と聞こえてきそうだ。

 

「..さぁ、キツネ狩りにでも行こうぜ?」

「..ああ。」

 

二人は生徒会室を後にした。

 

 

 

 




「ハク..あんたブロワイエとどこで知り合ったんだ?」
「..場末の飲み屋だ。」
「嘘言ってんじゃねぇ!」
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