7s Sprinter   作:マシロタケ

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..何が起きてるのかはわからない。

だけど、事態は思いもよらない方向へ向かっている。

 

あのブロワイエがこの騒動に関心を寄せて、なおかつそれを否定的な目線で見るツイートがかなり話題を生んでいる。

 

それが要因となって、世論はがらりとマーシャル先輩寄りになってきている。

 

つまり..収束しかけている。

 

..やった。このまま丸く収まって..みんなこのことを忘れて..風化してしまえば..私たちは助かるのかもしれない。

 

もちろんすぐに..とは言えないだろうけど。

 

そうだ、これからは普段通りふるまおう。変にビクビクしてたほうがきっと怪しまれる。

 

明日からはきっと練習にも参加して..。何事もなかったように。

 

これは..きっと神様が与えてくれたチャンスなんだ。

もう一度..やり直せるって。

 

もう一回、改めてマーシャル先輩の食事会..今度は本心で誘ってみようかな。

いままで、先輩に酷いことしてきたこと..ちゃんと謝ろう。

 

そんな胸の騒めきを抱えながら、ドライブは校内シューズから、普段の靴へ履き替える。

そして、昇降口を出て正面の門へ向かう。

 

もう..何事もなく..このまますべてが過ぎ去ってほしい。

心で念仏のようにそう唱える。

 

しかし、正門に差し掛かった時だった。

 

彼女はすぐに異変に気付く。

正門の両脇に、二人の人物の影が、まるで何かを待っているかのように、佇んでいる。

 

ドライブに悪寒が走る。

その二人というのが..あの大城と、生徒会長だというのだから。

 

二人が醸し出す雰囲気は、殺伐としたものだった。

それは殺気すらも感じさせるほどのもの。

 

二人の間を潜り抜けて帰路に着く生徒たちは、自分が何かしたのだろうかと、思わずなにか心当たりを探ってしまう。

 

ドライブは顔を下に向けて..一歩正門へ踏み出す..が。

 

急激に彼女を恐怖が包み込む。

..二人の視線が、明らかに自分に向いていることが、見らずとも理解できたからだ。

 

思わず足が止まる。

 

(だ..だめだ。落ち着いて、ふだんどおり..怪しまれないように..。)

と思っても..まるで足が動かない。

自分の本能が、その二人へ近づく方向へ向かうことを、拒否している。

 

その場たち尽くすドライブを見かねた大城が、門に預けていた背中を起こして、彼女にそっと近づいていく。

 

コツ..コツ..

彼の足音が徐々に近くなる。

 

そして、足音が止まった。

ドライブの息は..だんだんと荒くなる。

 

大城はそっと口を開いた。

 

「..よぉ、お前に話がある。」

「は..はな...はなし..?」

「例の動画の件だ。」

「お...お話なら..この間..会長さんに.。」

「無論その件を踏まえた上で..の話だ。」

 

ルドルフは、大城の横に立つ。

 

二人の..強い威圧が、すべてを物語った。

ドライブは..理解した。

 

ああ...そうか...全部...ばれたんだ..。

 

悟ったドライブは..二人と目を合わせることも忘れ、硬直した。

 

「..どうしたんだい?..なにか、よくない心あたりでも..あるのかい?」

ルドルフの、こちらを睨みつける鋭利な刃物のような視線に、ドライブが耐えられるはずもなかった。

 

ドライブは..どさっと荷物を落とし..その場に膝をついた

 

「ご...ごめんな....さい.......。」

 

おわった...なにもかも...。

 

―――――――――――――――

 

ローズは..生徒会室の前にいた。

自分名指しの呼び出し。..悪い予感がよぎる。

 

戸が..重い..。

彼女はそれを..無理やり開ける。

 

その瞬間、彼女を何かかが包み込む。

それは..生徒会室から放たれる..怒りが、熱を帯びたようなものだった。

 

「あ...あの....。」

その、もはや威圧と呼ぶには生ぬるいほどの異空間が..彼女を迎え入れる。

 

「待っていたよ..ローズロード。」

「な..何の用..ですか。」

「ほう...呼び出される心当たりも無いというのかい?」

 

正面の会長席に重く構えるルドルフ、その両脇をエアグルーヴとナリタブライアンが腕を組んで固める。

応対用ソファには..大城とマーシャルの姿。

 

その時ローズははっと気づく。

 

この生徒会室の隅で..蹲って..咽び泣くドライブが..そこにいた。

 

ローズの全身から一気に血の気が引く。

 

「..全て、彼女が話してくれたよ。ローズ、君が..主犯かい?」

「ちょ..ちょっと待ってよ!...そんな...アンタ!」

「もう無理だよ!!!!もう全部..バレてるんだよ..!!」

 

ドライブは蹲ったまま、そう叫んだ。

 

「そんな...ちが...私は....ち...が.....」

体が凍えるようにガタガタと震える。

 

視線がまるで定まらない..目が泳ぎ続ける。

 

動揺という文字を体現した彼女は..必死に取り繕いの言葉を模索する。

「わ...わたしは...そんな...ち..ちがう...。」

息を浅く何度も繰り返す。

 

そこに..彼女の声が..ローズの息の根を止めた。

 

 

 

 

 

 

私の目を見て話せ

 

 

 

 

「あ.......。」

その声の前に、成す術がなかった。

一瞬呼吸のやり方さえも忘れてしまうほどの、その声に...彼女は沈んだ。

 

「..こんな...こんなことになるなんて...思わなかった...。」

瞬きすることさえ忘れ、息を吸うことさえ忘れ、顔中に絶望の文字を刻んだ彼女は、その場にヘタっと座り込み、そういった。

 

「それは..私の問に対して相違がないと..認めるんだね?」

頷くことさえできなかった。

「なぜ..そんなことをした。」

大城やマーシャルは取り乱すことなく、ルドルフの尋問を聞き続けた。

 

「..わからないでしょ。...勝ち続けられる...あんたたちに....!」

ローズの顔が..瞬く間に歪んでいく。

 

「逆上か..。」

ブライアンは腕を組みなおす。

 

「憎かった..もう何もかも...私が..私のほうが..強かったはずなのに..!なのに....それなのに!!!」

顔中に皺が走る。涙をはじめとした体液で、ローズの顔がグシャグシャに..。

 

「もうレースでも勝てなくなって..もう...なにもかも嫌になって..嫌になって..だからより一層..先輩のことが憎くなった..どうしようもないくらい..!」

肩で懸命に息をし、それでも顔を伏せなかった。

 

「..本当は..ちょっと..驚かせてやれば..それでよかった。..でも、本当に..本当にこんなことになるなんて...思わなかった!!!」

 

そこでようやく..ドライブと同じように顔を押さえて..彼女は埋まった。

自分のしたことが..自分の手に負えないほどにまで大きな事件に発展してしまった。

 

彼女もドライブ同様..このような日が来ることに..怯え続けていた。

 

「この...大たわけ者が...!」

「外道め...同情の余地もない。」

 

ルドルフの傍らに立つ二人は、そう言い放った。

 

「ローズ..君がやったことは..紛れもない犯罪行為だよ。無実のウマ娘を陥れるような行為、卑怯千万、暗箭傷人。..極めて卑劣だ。」

ルドルフはそっと立ち上がる。

 

「これに類似した事件を私は知っている。..その被害者は、数えきれないほどの誹謗中傷に耐えかねて..自ら命を絶ったそうだよ。..君も一歩間違えば..人殺しだったんだ。」

 

大城は立ち上がった..そうして蹲るローズとドライブの横をすり抜けて..生徒会室を出た。

後ろ手で..バアン!!と音がなる勢いをつけて戸を閉めた。

 

そして、スマホを取り出し耳に当てる。

「..ヨォ、宮崎か。...今からスゲェこと言うぞ?」

 

マーシャルは依然..沈黙を貫いていた。

哀れんだ目で..かつての後輩たちを見ながら。

 

「私はすべてのウマ娘の幸せを願っている。皆が毎日を不安なく、健やかに過ごせる世界の実現が..私の夢だ。君たちも例には漏れない。..だからこんなことは、本当は言いたくない。..だが、あえて言葉を選ばずに言わせてもらう。ローズ..ドライブ...君たちは...本当に..」

 

 

 

「最低だ。」

 

 

 

蹲ったままの二人は、その言葉に悶え苦しんだ。

 

 

「理事長はじきに戻られる。君たちがしたこと..理事長の前で..自分たちの口から、喋ってもらうぞ。..君たちの今後の処遇については..十分な検討をさせてもらう。場合によっては..最悪の結末も..覚悟してもらうことになる。」

そういってルドルフは彼女らに背を向けた。

 

その時..マーシャルはそっと立ち上がった。

そして、ゆっくり..うずくまるローズの前に来ると、ひざまづいた。

 

「ローズ..さん...。」

「...せん...ぱい.....」

顔中を赤く腫らして..ボロボロになり果てたローズは、必死に言葉を絞り出した。

 

ルドルフはその光景を見なかった。

それは..もしマーシャルが一発ローズへ平手打ちをしたとしても..黙認するといったメッセージの裏返しだった。

 

だが..彼女のとった行動は..生徒会一同の想像を..超えたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

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