※もちろん読まなくていいやつです。
「…」
例に倣って、校舎裏物置そばの人影の少ないスポットに、大城はいた。
なぜ彼がそこにいるかは言うまでもない。生徒たちに教えを説く教官でありながらも、とても褒められたことではない行為をここでひっそりと働いているからだ。
禁忌を冒してまで吸う一服というのは、背徳感も相まってより一層うまみを引き立てる。(らしい)
だが、大城の顔は渋かった。
彼の傍らには、一人のウマ娘。
…また、見られた。前回はスペシャルウイークにそして今度は、ウオッカに。
生徒会の連中でないことは幸いなのだろう。
あの時のように菓子か何かで釣れば…きっと丸く収まってくれるはず。
だが、ウオッカはそういうワケにはいかなかった。…むしろ、彼女は生徒会より厄介かもしれない。
「…ッケェ!」
目を光らせながら、両手で拳を作って前に。鼻息を荒くしながら少し前のめり。
「…なんだ?」
「いや、その…今センセーが、壁にもたれながら煙草吸ってるその恰好、めちゃくちゃ渋くてカッケェって思っちゃって!」
大城の顔は一層渋くなる。
このトレセン、通う生徒はウマ娘たちばかり。身体能力こそ人間の比にならない連中だが、中身はいたってその辺の少女たちなのだ。
ここが荒れ果てた男子校で、相手が野郎共ならまだしも、この少女たちが煙草に興味を抱いてしまうのは…非常にまずい。大城はそう感じた。
「なんていうか…そう!映画で見たんすよ!夕暮れの丘でバイクを降りたライダーが一本火をつけて、夕日を見ながら煙を吐くっていうのがほんとにすっげぇ決まってて!」
「ああ…わかったわかった。」
大城は吸いかけの煙草を無理やり踏みつぶして火を消す。
「俺もいつか、煙草すってみようかなぁ、なんかワルっぽそうでそれもイかすっていうか!」
「ダメだ。」
大城はウオッカの言葉を斬った。
「あのなぁ…お前らはアスリートなんだろ?こんなモン、お前の弊害にしかならん。お前たちに有毒だからって校内でも完全禁煙規制が張られたんだぞ?」
「アレ?じゃあ、なんで先生吸ってんすか?」
「…まぁ、そりゃあ、アレだよ。」
大城はそっぽを向いて、ウオッカと視線をずらした。
「とにかくだ。タバコは有害でしかない。服とか髪にも臭いが残るし、歯にとれねぇヤニもつく。そんで極めつけに…体に悪い。肺がんの元になるとも言うし、癌にならなくとも、肺が汚れてしまうんだよ。そうなっちまったら、ウマ娘はオシマイだろ?」
「うーん…。」
ウオッカは腕をくむ。
「一ついいこと教えといてやる。カッコいいのはタバコじゃあない。…俺自身だ。」
大城は顎に手を添えてそういった。
「…はぁ?」
「なんだその目。いいか?タバコがかっこいいってのは錯覚だ。カッコいい奴がタバコを吸ってるからかっこよく見えるだけだ。本当にカッコイイやつってのは…タバコが無くてもカッコいいんだよ。」
「え?」
「タバコなんてもんはただのアクセサリーさ。タバコがなきゃカッコよくなれないってのは…本物のカッコよさか?」
「あ…なるほど!そっかあ!」
ウオッカは何かを感じたように、その場で奮う。
無事にタバコの興味をずらせた大城はほっと息をつく。
自分がどうなろうが知った話じゃないが、彼女たちはせめてこの有害物から守らなくては。
大城の教官としての使命がそうささやいた。
「お前にはお前だけのカッコよさってもんがある。まずはそれを目指せ。」
「ういっす!」
そういったとき…バラバラバラ!!と張り裂けるようなエグゾーストが轟いてくる。
校外を走るバイクの音が、二人の耳を刺激した。
ウオッカはすぐさま反応する。
「うおっ!!
「RSか懐かしいな…まだ乗ってるヤツがいるんだな。」
「え!?先生Z2乗ってたんすか!?」
大城は得意に腕を組む。
「まぁな、スグ手放しちまったがな。」
「スッゲェ!!」
ウオッカの瞳が再び灯る。
尻尾と耳も全開エンジンのように震える。
「ほかにも何か乗ってたんすか!?」
「そうだな…CBの
「すっげぇ名車ばっかり…」
「そんでよ、夜中にオフクロにばれないようにこっそり家を飛び出してな。夜の峠で朝まで過ごしてたな。」
「バトルとかしたんすか?」
「ああ。ナントカ連合とかチームがそのころゴロゴロいてな。勝ったり負けたり、警察が乗り込んでくるまで走ったもんだ。」
大城は遠い目で昔を懐かしんだ。
「いいなぁ…!すっげぇ、時代のロマン!俺もきっと!」
「ウオッカ、お前もう免許取れるトシなのか?」
「いや!…まだなんすよ。もうちょっと我慢しないと。でも免許とったら、父ちゃんのバイク譲ってもらって俺も夜の峠で!」
そう息巻いて奮い立つウオッカを見て、大城はまた少し、不安を顔にする。
「ああ…バイクはいいもんだ。車じゃねぇ、実際に風を浴びて初めて見える景色ってもんは確かにある。俺も随分それに絆されたもんだ。」
ウオッカは強く頷く。
「でもよ、それと同時にキケンな乗り物だってことは忘れるなよ。」
「?」
「確かに楽しい、最高な乗り物だ。だが、一歩間違えば行先はあの世だ。…昔、ツルんで走ってたよしみがいたんだがな。そいつ、バイクで死んだんだよ。コーナーで曲がり切れなかったんだと。」
「え…!」
「かくいう俺も、昔入れ込みすぎたことがあってな。限界超えてやりすぎちまったせいで、ガードレールすり抜けて崖から落ちたことがある。もう少しで左足を無くすところだった。」
そういって足をポンポンと叩く。
すこし残酷な話を聞いてしまったウオッカの耳は少しシュンとしてしまう。
「ま、タバコとは違って乗るなとは言わん。むしろ、若い連中にこそバイクは楽しんでほしい。ただ…いつも周りの連中がお前に言ってる『気を付けて』って言葉…免許を持った日に、意味が変わるぞ。それだけは覚えておけ。…死んじまったら、カッコいいもクソもねぇだろ?」
「…うす!」
身を引き締めたウオッカは、キリっとした表情でそういった。
それを見た大城は満足そうに頷く。
「そうだ、俺の昔使ってたライジャケとかいるか?グローブとかも少し傷んでるがまだまだ使える。」
「え!いいんすか!ほしいっす!」
その時、キンコン…と校内の鐘が鳴り響く。
「おっと時間か。戻るぞ。」
「ハイ!」
そういって二人が校舎へ向かって歩き出そうとしたとき。
「雑談は終わったか?」
そこに腕を組んで二人の前に立ちはだかる…生徒会。
「ブ…ブライアン先輩!」
「なにしてんだ…お前。」
「何してる…それはこっちのセリフだ。その足元に落ちてるのはなんだ?大城。」
それは大城が踏みつぶした吸いかけの煙草の残骸だった。
「あ…!」
証拠隠滅もせずにウオッカと話し込んでしまっていたことが災いした。
「あ…ブライアン先輩!先生はその…。」
ウオッカは自分に大切なことを説いてくれた大城をなんとか庇おうとした。
だが、大城はその申し出を断った。
「いい…負けは潔く認める。これが大人ってもんだ。」
「そもそもルールを犯さないことが大人だ。」
ブライアンが間髪入れずにそういった。
返す言葉もない大城は黙って両手を前に。
「じゃあ、来てもらうぞ。」
そういってブライアンは、大城の襟をつかむと引き摺るように彼を連行した。
「おい…!そこかよ…!」
離れ際、ウオッカに対しロックサインを見せつける。
「じゃあな!ウオッカ!カッコよく…生きろよ!」
そういって大城の影は消えていった。
「先生…今めちゃくちゃダセェっすよ…。」
「なぁブライアン…これなんだと、「いらん!!」