7s Sprinter   作:マシロタケ

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決別

「…ということです。宮崎トレーナー。我々の意見、如何なものでしょう。」

「ええ。私も概ね同意ですよ。…ふぅ。これも彼女を思うため。仕方のないことです。」

「…では、彼女には、私から。」

「お願いしてもいいですか。」

「これがチームリーダーとしての務めですから。」

「…立派です。フロイドスピリットさん。」

「…レコード。そんなうだつの上がらない顔はやめろ。」

「だって...こんなのあんまりじゃないですか。成果が出せないならクビなんですか!?」

「落ち着いてください!グッドレコードさん!...私は何も、成果が出せないから…などという理由でこのような処置は断じて行いません。…彼女の…身体が心配なんですよ。彼女の肺が弱いことは常々存じてました。しかし彼女は頑張りすぎています。このままレースを続けたらと思うと…。」

「…。」

「御理解…いただけますね…?」

「…はい。」

 

―――――――――――

 

「では、失礼します。」

そういって二人のウマ娘がトレーナー室の戸を閉める。

 

ベテルギウストレーナーの宮崎は、応対用のソファーを離れPCの前の椅子に掛ける。

彼女には、悪いことをした。でも、これもチームのため…。

そのPCを見るわけでもないその目は、何かに苛まれるような、後ろめたいものがあるような、はっきりとしたものではなかった。

 

「これで…これで、いいんです。」

 

背もたれに背を思い切り預ける。

そして自身の手で目を覆った。

 

そこに

 

「よォ、邪魔するぜ。」

と何者かがノックも無しに戸を勢いよく開けた。

「!!」

無防備な姿勢だったからか、急いで状態を起こす。

「…大城さん。」

 

―――――ー――ー

 

「レッドマーシャルさんを!?」

「ああ、そうだ、俺にくれよ」

応対用のソファーをわが物のようにして座るその男の言葉に、宮崎は驚嘆した。

「…なぜなんです?」

「ウチの娘に似てるからさ…なんてな。」

 

そんな大城の冗談に対応する気もない宮崎は続ける。

「レッドマーシャルさんでしたら…どうぞ。もう、彼女は、私たちのチームメンバーではありませんから。」

「クビにしたってのか?成果が出ないお荷物だからか?」

その棘を隠す気もない言葉に宮崎は少しムッとする。

 

「違います!私は彼女の身体を鑑みて…」

「先週の1800、なぜあいつを出した?」

「…え?」

「あいつはただでさえ、肺が弱い。そんな奴がまともに1800を逃げで走れると思ってんのか?」

「…」

「ははは…お前も大層喰えねぇ野郎だよなぁ?」

「…何を。」

宮崎の顔に明らかな動揺が走る。

 

「適正でもないレースに、負けの要素が強いレースに、あえて出走させる理由なんかねぇ。」

「彼女が望んだんです。中距離を走りたいと。」

「それでも止めるのがフツウのトレーナーってもんだ。それでもお前は止めなかった。それはなぜだ。」

 

大城はソファーから立ち上がる。

「”負けさせる為”だ。敗走を続けさせて、あいつの心が折れるのを待った。チームメンバーが業を煮やすを待った。そして、さっきの二人がお前のシナリオ通りに動いた。…違うか?」

「盗み聞きをなされていたと?」

「俺の地獄耳を舐めるな」

 

宮崎の額に汗が走る。

いつも見せる穏やかで朗らかな優しい顔つきは影を潜め始めた。

「たとえ1800でなくとも、彼女は勝てません。地方ならわかりませんが、ここは中央です。怪物級のスプリンターも少なくない。」

「だからあいつを諦めたのか。あんなに必死に、健気に走ってるってのに。ひっでぇモンだな。」

「あなたに何がわかる!!」

宮崎が取り乱す。学園内で必死に守ってきた面が、初めて剥がれた。

 

「チームは、ベテルギウスは…ようやく軌道に乗ったんです!!G1ウマ娘を2人も輩出した!…今年の新入部員だって、一流クラスですよ。ローズさんはG3ドライブさんはオープンへの出場権も得た!ようやく…ようやく…チームリギルやスピカが射程圏内に入ってきたんです!!」

「だからマーシャルが余計に邪魔になった。か?」

「…これ以上、私のチームに余計な黒星は…いりませんから。」

「…いいツラしてんなお前。薄気味悪いニヤケ面より、そっちのほうが似合ってるよ。」

 

宮崎は肩で息をする。

「ま、いらねぇってんならありがたく貰ってくぜ。」

「彼女で何をしようというのです?手を尽くしても…ダメだった彼女を?」

「手を尽くした…ねぇ。だからお前は二流なんだよ。」

「…随分と自信がおありのようだ。…炭を磨いても、ダイアモンドにはならない。」

「プラチナになるかもな?」

 

大城は錠剤を口に運ぶ。

「…大城さん。あなたは、ここを退職なされるはずだったのではないのですか?それに、トレーナー業も辞して、今は教官のはずでしょう。そして、よりによってレッドマーシャルさんを…あなたの行動が、まるで読めない。」

「心変わりってヤツさ。俺の気分はイギリスの天気みてぇにコロコロ変わるからな。」

 

大城は出入口へ向かった。

「お前らが捨てたそれが、特大万舟券だったとしても、恨むなよ?」

「…断じてありえない。」

「じゃあもし、あいつがG1獲ったら、ココ、俺の喫煙所にするからな。」

そういって大城はその場を後にした。

 

 

――――――――――ー

 

「お世話に…なりました。」

少し震える手で、マーシャルは封書をフロイドスピリットに手渡した。

「…」

スピリットは黙ってそれを受け取る。

その封書には大きく『退部届』の文字が記されていた。

 

 

スピリットは焦った。まさか先日の話を聞かれていたのではないかと。

本来ならば、彼女の身体を気遣う体で、彼女に退部勧告をする手はずが大きく狂った。

 

「あ…ああ。新しい、トレーナーがいるんだっけ。ああ。頑張って…くれよ。」

そう必死に言葉をひりだす。

「ごめんね、マーシャルちゃん…力になってあげられなくて。きっと応援してるから…。」

そういってレコードは優しくマーシャルを抱きしめた。

 

そうしてマーシャルが去った後の部室では、何とも言えない微妙な空気がその場を支配した。

 

「結果オーライ…かな。」

「そう…ね。」

なんとも歯切りの悪い結末に終わったが、これでよかったのだ。

 

「あーあ。掃除係がいなくなっちゃった。ドライブ、今日からアンタやってよ。」

「ええ!なんで!」

「よく散らかしてるのあんたじゃん。」

「ええ~ローズだって!」

マーシャルのことをまるで居ないもの扱いしてきた後輩たちにとって、それはどうでもいいことだったらしい。

 

「しっかしまぁ、あんなハズレ玉好んで引くようなトレーナーもいるんだって。驚き。」

「なにすんだろうね?」

「さぁ、おもちゃにして遊ぶんじゃない?それか…キャバウマに育成ってね。」

そんな内輪話で爆笑する後輩たちを、レコードは冷ややかな目で見ていた。

 

 

 

 

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