7s Sprinter   作:マシロタケ

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崩壊と再生

「どのツラ引っ提げて顔出しに来やがった…!」

チームベテルギウスの部室の戸を開けた瞬間、彼女らを迎え入れたのは、あの生徒会室に引けを取らないほどの憎悪と怒りを形にした、業だった。

 

ローズとドライブ、二人の正式な処罰が決まるまで、彼女らは帰郷を命じられた。要は自宅謹慎だ。

そのため二人は、自分のロッカーにしまっていた荷物を引き取りに来ていた。

 

だが、出入り口から自分たちのロッカーまでの道は、はるかに遠く感じた。

 

二人の前立ちはだかるチームリーダフロイドスピリッツ。その表情は鬼の面でもつけたかのよう。

 

「貴様ら…!よくも…よくもやってくれがったなぁ!!」

「スピちゃんダメッ!!」

思い切り拳を振り上げたスピリットを、レコードは必至で止めた。

 

「ふざけたことしてんじゃねぇぞ!!この野郎!!」

「やめて…スピちゃん!お願い!」

暴れるスピリットはレコードを振り払おうとする、だがレコードはそれに必死に抗った。

 

あれだけ冷静さを売りにしていたフロイドスピリットが、ここまで荒れ狂う様を見せたのは初めてだった。

 

「なんてことしたんだ…なんで…こんなこと…!」

その言葉とともに、スピリットは急にバッテリーが切れたかのように止まった。

二人はまるで言葉が出てこなかった。

 

「…お前らがやってくれたおかげでなぁ、ベテルギウスは…無期限の活動停止だぞ。ジェットスパートが控えていたエプソムカップも、レコードが控えていた宝塚記念杯も、全部出走停止になったんだぞ!…レコードに至っては、引退試合になるはずだったのに…。」

「いいの!スピちゃん…私は…大丈夫だから。」

その言葉が二人に重くのしかかった。

 

「すみま…せん…でした。」

必死に考えても、出せる言葉はそれしかなかった。

 

「すみませんで済むかバ鹿野郎!!あのな…今度このチームに関して内部調査と審議が行われることになったんだ…。トレーナーも、連日URAを始めとした関係機関に呼び出されて…。下手したらなぁ、このチーム…終わるかもしれねぇんだぞ。」

 

スピリットはガっとローズの肩をつかんだ。

 

「そうなったらどうするんだ!?お前らは責任とれるのか!?…返せよ。俺たちのチームを…返せよ!!」

スピリットはその場に膝をついた。

 

「返してくれよぉ…。」

そこに少しづつ、涙の声が混ざってくる。

 

スピリットは部室の壁に貼られたチームスローガンに目を向ける。

『一致団結、切磋琢磨』と記されたそれを。

 

「…どこが、一致団結なんだ…バラバラじゃないか…。」

そういって彼女は沈んでいった。

 

彼女が必死に造り上げ、守り抜いてきたそれを、自分たちは一瞬で崩し去った。

その現実が、二人にはあまりにも重すぎた。

 

―――――――――――――――

 

「…本気で言っているのかい?」

「…はい。」

 

マーシャルの言葉を聞いたルドルフはじめ生徒会のメンバーは、意表を突かれたように目を丸くしていた。

 

「差し支えなければ、理由を聞きたいな。…まさか、まだ何か弱みを握られているとか、脅しをかけられているとか、そういうことじゃないんだね?」

マーシャルは強く頷いた。

 

「…横からすまん。なぁ、お前は自分が何をされたかわかってるのか?今回こそはコトが上手く収まったからお前は生き延びれたようなものだ。そうならなったら、お前はもうここに居られなかったのかも知れないんだぞ。」

そう割って入ったのはブライアンだった。

 

「…わかってます。でも、私は生き残れました。…だから。」

 

―――――――――――――――

「失礼します。」

そういってマーシャルは丁寧に生徒会室の戸を閉めた。

そこから出てすぐの壁際に、大城はいた。

 

「終わったか?」

「…はい。」

「まったく、ワカランな。なんたってあんな連中に慈悲をかける。」

大城は腕を組んだままそういった。

 

「…トレーナーさんなら、こういう時って、どうするんですか。」

「問答無用でブン殴りに行くだろうな。」

「やっぱり…そうですよね。」

マーシャルはうつむいたままそういった。

 

「…なぁ、お前に一つ教えてやるよ。…許すってコトだけが、絶対的な正義じゃない。許せない相手がいたっていい。憎む相手がいたっていい。…俺だってそうだ。死んでも許せない野郎ってのはいるし、絶対に俺を許さないヤツだっている。大人の世界は綺麗事だけじゃすまされない。」

「そうかも…しれませんけど。」

 

マーシャルは伏せていた顔を大城に向けた。

 

「私、許すってのとは少し違うかもしれませんけど。…でもやっぱり、あの娘たちにはやり直してほしいとは思うんです。」

「なぜだ?お前は殺されかけたんだぞ。」

「でも、死にませんでした。」

 

マーシャルが間髪入れずに返した言葉に、大城は少し驚いた。

まるで自分のいつもの問答が、彼女に乗り移ったのかと錯覚する。

 

「理由は?」

少しの間を置いた後に大城はそういった。

 

「…トレーナーさんは、前に私に言いました。上下関係を教えてやることが先輩としての務めだって。…私、ベテルギウスにいたころ、上下関係どころか、何も大切なことをあの娘たちに教えてあげられなかった。ナメらめっぱなしで、先輩らしいことだなんて何もできなかった。…本当は、私がいろいろ教えてあげなきゃいけなかった。たとえ弱くっても、何がダメで、何が正しいのか。この世界でのルールを。」

大城は黙ってマーシャルの言葉に耳を貸し続けた。

 

「でもそれはできませんでした。…だったら、後輩たちが間違えたときに、今度こそ正してあげなきゃいけない。大事なことをしっかり教えて、もう一度手を差し伸べてあげなきゃいけないと思うんです。…私は、あの娘たちの…先輩だから。導いてあげないといけない立場だから。」

マーシャルの目に迷いがなかった。

 

「それに…レースで勝てなくて不安に、焦ってしまう気持ちはよくわかるんです。周りが見えなくなって、追い詰められて、私もそうでしたから。でも…そんな私だって、やり直せたんです。どん底の底から。だからきっと、あの娘たちだって…やり直せるはずだと…思ってます。」

「…懐が深いのは大いに結構だ。だが、誰かの為にとテメェを差し出すようなマネをしてちゃ、カラダがいくつあっても足んねぇぞ。」

「会長さんにも、同じことを言われました。」

 

大城は壁から背を離す。

 

「本当にいいんだな?…後悔のない選択をしろ。」

マーシャルは頷いた。

「きっとこのまま…あの娘たちを放っておくことのほうが、後悔しそうな気がするんです。…トレーナーさん。私ってやっぱり、バカですか…?」

大城はマーシャルの目の前に立った。

 

「ああ…大バ鹿野郎だよ。…さすが俺の担当だと言ってやれるくれぇのな。」

そういってマーシャルの頭をクシャクシャと撫でた。

 

「今日から練習再開すっか?」

「…はい!今日は、チコクしないでくださいね。」

 

そういうと、マーシャルは大城の横を過ぎて、廊下の奥へと消えていった。

 

「…なんだあいつ。いつの間にか…強くなりやがって。俺の出番なんて…なかったか。」

彼女の背中を目で追いながら、大城はそうつぶやいた。

臆病で小心者だった彼女の背中は、いつの間にか大きくなっていた。

 

「先輩として…か。」

 

その時、真後ろから何者かの気配を感じ取る。

のそっと振り向いた先にいたのは、エアグルーヴだった。

 

「よォ、これはこれは女帝サマ。ご機嫌麗しゅう。」

「麗しくは…ないな。会長がお呼びだ。」

「おいおい…今日は持ってすらいねぇよ?」

 

そういって大城は手のひらをひらひらさせる。

 

「…貴様の教官室を捜索すれば、山のようにそれが出てくるんだろうな?…まぁ、今回は別件だ。」

 

―――――――――――――――

 

「やぁ、先生。」

「よぉ、世話焼かせたな。ルドルフ。」

そういって大城はソファにドカッと腰を据える。

 

「…まさか、意外だったよ。彼女が、あの二人のことを赦免してほしいと願い出るだなんて。温柔敦厚、寛仁大度もいいところだろう。」

「俺に似たんかねぇ。」

「貴方が何かを働きかけたわけでもないんだね?」

「…。まぁ、最悪の結果になった場合、連中に対しては何かしら手を打とうとは考えていた。だが、こればっかりは完全にあいつの意思だ。」

 

大城は足を組みなおす。

「ここまでの仕打ちをした相手にも…再生の機会を恵む、か。…私もそこまで温情になりきれるかは、わからないね。」

「…あいつら、いまのとこどうなってる?」

「自宅謹慎を命じている。正式な処罰については…今後検討。といったところだね。」

「退学の方針か?」

「それも視野には入れている。…だが、可能ならばそれは避けたい。」

 

トレセン学園の生徒の首を切る行為、それは、ルドルフの理念を否定することと同意義である。

彼女にとっても、退学という処罰は気軽に頷けるものではなかった。

 

「まぁ、最も最終的な判断を下すのは理事長だ。私たちができるのは、あくまで稟議さ。」

「だろうな。」

「貴方はどう思ってる?先生。」

「…腐っても、俺の生徒だ。」

 

大城はそれ以上は語らなかった。

 

「マーシャルの願い入れの件もある。議論は慎重に行うよ。だがもちろん無罪放免とはいかないよ。罪には罰が必ず設けられる。でなければ、他の生徒たちへの示しもつかないからね。」

「頼んだ。」

 

そういって大城は腰を浮かした。

 

「…待ってくれ。先生。貴方を呼んだことには、もう一つ別の理由がある。」

大城はすぐに察した。

 

「…この学園には、随分とクチが軽い輩がいるんだな。」

「ではやはり、本当なんだね。貴方が患っている(それ)は。」

「まぁな。あーあ。お先も長くねぇってのに、下らねぇコトに時間割いちまったよ。」

大城は頭をかくしぐさをしながらそう言った。

 

「…そうか。それでも貴方は、トレーナーを続けるという選択をとったんだね。」

「死に際にくらい、いい花火を見たいだろ?…あんまり言いふらすなよ。マーシャルだってまだ知らねぇんだ。」

「なぜ、黙っているんだい?」

「…自分でも知らなかったが、俺って結構臆病なんだよ。」

 

そういって大城は生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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