7s Sprinter   作:マシロタケ

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3番勝負

それからも、私とスピカチームとの合同合宿練習は続きました。

並走してくれるスピカの皆は、私のことを気遣ってくれながら、練習に励んでいました。

 

スピカの皆はすごいです。こんな砂の中、海の中でさえ、どんどん前へ前へ行ってしまうんだもの。

去年なんて、あそこの向いにある島まで泳いでトライアスロンをしたんだって。

 

でも、私はここの砂浜トレーニングでさえ、とても過酷なトレーニングなんです。

 

海の抵抗に、砂の低反発、熱い空気に包まれたなかのトレーニングはいつもの練習場との比にならないくらい、私を消耗させます。

 

でも、気づくことだって多い。

海の抵抗に押されるなら、どうやって抵抗を受け流していけばいいのか。

砂に足の力を吸収されるのなら、どうやってそれでも前に進んでいけばいいのか。

熱い空気と戯れながらでも、深く息を吸うにはどうしたらいいのか。

 

限られた私の体力の中で、それを余すことなく前へ進むためのチカラに変えていく。その為の糧に、この合宿での練習はなっているんだと思います。

 

…きっとこれを乗り越えたら、私は

 

 

 

秋の天皇賞に、太刀打ちできるのかな。

 

 

―――――――――――――――

 

「よぉ、勝負しようぜ?」

大城は一通りのトレーニングを終えて、日が傾き始めたビーチに、倒れこむメンバーたちをよそ眼に、沖野に向かってそういった。

 

「勝負?」

「ああ…こいつ、前にスズカに負けたろ?…リベンジよ。」

大城はふっふっふと肩を震わせながら、口端を上げる。

 

「…何をなさるっていうんです?」

「そりゃあ、ビーチに来たからにゃ、ビーチフラッグ一択だろうがよ。」

そういって大城はどこから持ってきたのか、一本の赤色フラッグを取り出す。

 

そして、砂浜をベッドにするスピカとマーシャルに対して

「お前らさっさと立て!また、一騎討ちしよーぜ?」

といった。

 

―――――――――――――――

 

「エンリョはいらねーぞ。こいつら纒めてブチのめしてやれ!」

大城は上機嫌にそういった。

100mビーチフラッグ戦…スピカメンバーが誰か一人でもマーシャルに勝てば、大城の奢りで高級ホテルのスイーツ食べ放題なんだそう。

 

その条件に、やる気十分な闘志を練習後だというのに漲らせるスピカたち…だが、そんな大判振る舞い、その条件が甘くないことくらい誰もが理解している。

 

要約すれば、これは超短距離。超スプリント。

そして、マーシャルはそのスプリント界の冠を手にした、本物のスプリンター。

 

無論、距離が長くなれば長くなるほど、マーシャルに勝ち目はないが、短くなればなるほど、その逆。

 

全員が砂浜に伏した状態でも、意識はマーシャルに向く。

 

たった100m、7秒もいらないかもしれない。

だけど、気は抜かない。

マーシャルは全身に酸素を行きわたらせるかのよう、息を深く吸った。

 

「…サイフんなか、ちゃんとはいってんだろーな?」

大城はニヤリと笑いながら沖野に言う。

勝てば大城の奢りということは負ければ…なのだ。

 

「まぁ、まだ決まったワケじゃないでしょう?」

「っは!強気なのはケッコー!」

 

そして大城は声をかける。

 

「行くぞお前ら!仕切り直しはナシだぜ!…3.2.1」

 

 

 

GO!

 

 

全員が一斉に砂浜から体を引き上げて、全力スプリントモード!

無論マーシャルも。

 

姿勢を低く、息を深く吸って、前を見据える!!

 

-7.000-

 

たとえ砂浜だろうと、…7秒は裏切らない!…はずだった。

 

 

勝負のスパートモードに入り込みすぎてしまったマーシャルは、あることを忘れてしまっていた。

彼女のスパートの始まりは、ターフを抉り取ってしまうほどの驚異的な脚力で地面をけり上げることから始まる。

 

だが、ここは砂浜…そんなターフと同じ要領でいけば…

 

(あ…あれ!?)

 

-ERROR-

 

「…あ?」

大城は咥えていた煙草をポロリと落とす。

 

地面を殺すほどの勢いで蹴られた砂浜は、その入力に対して適切に反発するどこか、そのままマーシャルの足を包み込んでガッチリホールドしてしまった。

 

…次の足が前に出ない!

自分の足が砂浜に埋まってしまったことを察したマーシャルだが、既に勢いのついた慣性をどうにもすることはできず…そのまま前のめりで砂浜にビタンと倒れた。

 

「よっしゃあ!!俺がイチバンだ!」

フラッグを獲ったのはウオッカだった。獲ったそれをメンバーたちにこれ見よがしに見せつける。

 

「…お前、スタックしてんじゃねぇよ。」

「ご…ごめんなひゃい。」

顔中砂まみれにしながらマーシャルは言った。

 

「あーあ、肝心なトコでカッコつかねぇよなお前って。」

「トレーナーさんに似たんですよ。」

「いいやがらぁ。」

そう笑いながら大城は埋まったマーシャルを引き上げた。

 

「…ま、今日は運がなかったってコトで。」

後ろから沖野が上機嫌そうに言う。

「ああ?…チッ。もうひと勝負いこうぜ?」

「ええ!?」

 

―――――――――――――――――

 

「「おかわり!!」」

二番目の勝負は、スペシャルウイークVSレッドマーシャルの旅館特製スペシャル丼の大食い対決だった。

 

二人が並んで空の丼をツインタワーのように積み上げていく。

 

二人のその異様な完食スピードに、厨房は天手古舞。

 

「大食いなら、うちのスペをなめてもらっちゃあ困りますよ!」

「はっ!ほざけ。うちのマーシャルの燃費の悪さ、お前しらねーな?その辺のアメ車より悪ぃんだぜ?」

 

「「おかわり!!」」

二人がまた空の丼をだした時だった。

 

 

「すみません!!もう食材が…。」

と、女将に打ち切られた。

 

丼の数は…ほぼ互角。

「ふぅ…逃げ切りぃ。」

そういって沖野は汗を拭う。

 

「逃がすワケねーだろ?」

大城は沖野の首根をつかんでそういった。

 

「ま…まだやるんですか?もうこれ以上、担当たちを競わせるのは…。」

「担当がダメなら、俺たち(トレーナー)がいるじゃねぇの?」

「…へぇ?」

 

――――――――――――――

 

「トレーナーさん!頑張って!」

「負けたら承知しないわよ!」

「私たちのトレーナーさんなんですもの、勝って当然ですわよね!?」

「よっしゃあ!!いけいけぇ!」

 

担当たちの声援を背に、いい年した大人の男二人が向き合っていたのは、旅館のゲームコーナーの、アーケード型ドライビングゲーム機だった。

 

市街地を模したコースを、大城はゴツゴツしたハイパワーなアメリカンをイメージした車を、対する沖野は一昔前に流行ったような日本製のスポーツカーをモデルにした車で駆け抜けていく。

 

先行する沖野は、慣れない操作やコースに戸惑いながらも、右に左にハンドルを切っていく。

 

大城はそれを後ろから見物する。

まだ、何もしかける様子はない。

 

「トレーナーさん!もうゴール近いですよ!」

マーシャルが大城の肩に手を置きながらそう彼をせかす。

 

「まぁ、落ち着けよ。お前らのレースだってそうだ。仕掛けるポイントってのは決まってるもんだろ?」

そして、ゴール付近のシケインを抜けたS字カーブ。

 

「よおし!このまま!」

沖野はスローインファストアウトを守るつもりで、他のコーナーと変わらない減速をするが、そこで大城が仕掛けた。

 

沖野よりもかなりタイミングを遅らせたレイトブレーキングで沖野のアウト側に車体を放り込む。

ゲームだというのに、シフトダウン時にブレーキを踏みながら踵でアクセルを煽る動作をする。

 

「ぐっ!!」

一気に走行ラインを絞られた沖野は苦い顔をする。

そして二台がコーナーへ飛び込む。大城はわずかに車体を滑らせアウト側から沖野のフロントを牽制する形をとり、わずかに車体を前に。

 

そして、S字コーナー…1つ目のコーナーを抜けたところで、インとアウトが入れ替わる。

 

そのまま大城は沖野の車をパスして、ゴールラインへ一直線。

 

「やったあ!!さすがですトレーナーさん!」

「ま、こんなモンだろ?」

マーシャルはゲーム機を降りた大城に飛びついた。

 

「なにやってんだよ!!お前!」

「信じられませんわ!あんな差され方!」

「トレーナー、ゲーム下手だね!ボクのほうが上手いんじゃないかな?」

とスピカチームは沖野に対して言いたい放題。

 

「…これで、1勝1敗1分けですね。」

「ああ…。なぁ沖野。」

「なんです?」

「…ちょっと疲れた。」

「…俺もです。」

 

かくしてリベンジ戦は、引き分けという形に終わった。

 

――――――――――――――

 

「あいつら、もう寝たのか?」

「おそらく、ずいぶん部屋が静かになってましたからね。」

「流石に一部屋に8人はせまそーだな。」

「でもまぁ、楽しんでるみたいでしたよ。うちの連中も、メンバーが増えたみたいだって。」

そういって沖野はビーチ手前の階段に座り込んで、夜の海を眺める大城にビールを手渡した。

 

「なんだ、気前がいいじゃねぇの。臨時ボーナスでも入ったか?」

「ビール奢るくらいの余裕ならありますよ!」

二人は笑った。

 

「…マーシャル、大変だったみたいですね。例の動画の件。」

「まぁ、なるようにはなったさ。…そういえば、お前らんとこの連中、マーシャルのこと庇ってくれたんだってな。…ありがとな。」

「それは…本人たちに言ってあげてくださいよ。」

「やだね。つけあがるに決まってらぁ。」

 

二人は缶ビールを開けると、コツンと缶をぶつけ合った。

 

「ま、合宿っていう名目だけどよ。本当はあいつの気分のリフレッシュさせることが目的なのよ。」

「その割には、大分ハードなトレーニングでしたけどね。」

「それでいいのよ。あいつ、練習のムシだからな。」

 

大城は再び海を眺める。

 

「…ここに来るのも7年ぶりか。…教官になって一回も来なかったからな。」

「どうです?久々の海は。」

「いい女が増えた。」

 

そういって再び二人は笑った。

 

「…大城さん。マーシャルを、天皇賞へ挑戦させるってのは、本気ですか?」

一呼吸置いた沖野がそういった。

 

「ああ…。無謀かもしれんが、それでもいい。あいつが走り切れるとこまで、俺はついていきたい。あいつの夢を、俺も追いかけてみたい。」

「…やっぱり大城さん。楽しそうですね。彼女のトレーナーやってること。」

「ああ、楽しいヨ。これ以上ないってくらいにな。…どっかのオヤジが言ってた。人生ってのは仕事辞めてからが本番だってな。…んなワケねぇ。今だよ、今が一番最高なのよ。これだからトレーナーなんて辞めらんねぇ。」

 

大城は立ち上がる。

「お前だって見たいだろ?自分の担当の果てってヤツを。」

「…ええ。」

 

沖野も立ち上がる。

「…大城さん、彼女には…。」

そう言いかけたとき、大城は手を沖野へ向けた。

 

「ああ…ちゃんとわかってるさ。」

そういったまま、空になった缶を握りつぶして、大城は旅館のほうへ戻っていった。

 

 

 

 

 




「…おまえら、あんだけ飯食っといて、スイーツまで食うのか?」
「「もちろんです!!」」
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